シドがアレクシア王女に告白し、なぜだか成功した日の翌日の昼に私達四人は昨日の一連の流れについて話あっていた。そして四人全員の見解は一致。どう考えてもおかしいという結論になった。絶対におかしいと思う。
ここに来るまでにも、“ほら、あれが……。”とか“嘘ー! 普通すぎ。”とか“何かの間違いじゃ……”とか“マジ殺す! てか誰?”とか言われていた。どうやら噂は一日もせずに学園中に広がっていたみたいだけど、今まで誰の告白も断ってきた高嶺の花が交際を始めたとなれば当然だろう。それだけシドがやらかしたことが大きいのだ。
「はぁ……。おかしくない……?」
「おかしいな。」
「絶対おかしいですね。」
「おかしいね。」
「正直言って、お前にアレクシア王女と付きあえるだけのスペックは、ない。俺ですら怪しいレベルだぜ?」
…………うん。ヒョロの自己評価が異様なまでに高いのはもういつものことだし無視することにして、ヒョロの言う通りわざわざシドを選ぶだけの理由はない。シドの評価は冴えない貧乏男爵家の子どもという評価なのだし、なにか接点があるわけではない。
ちなみに、こんなことを言っているヒョロのスペックだが、個人的にはシドより低い。外見は細長くてオシャレに気を使ってはいるみたいだけどセンスはあまり良くない。というか悪い。頑張って遠目から見ればギリギリ雰囲気イケメンに見え―――うん、見えないわ。ヒョロにそんなスペックはない。
「シドくんでオッケーなら、自分もいけたと思います。告白すればよかったぁ。」
ジャガもこんなことを言っているが、もちろんジャガにも王女と付き合えるだけのスペックはない。小柄で少しゴツい。なんだかイモっぽい雰囲気だ。ヒョロとは違い、どこからどう見ようとも雰囲気イケメンどころかそれに掠りもしない。
こんな風に三人の外見やらスペックやらについて勝手に評価をしたわけだけど、私の外見も地味だ。スペックも当然低い。メガネをかけて、わざわざ毎日朝から化粧をして地味な顔にしている。薄紫色の髪はヘアゴムを使って後ろで一房にまとめている。ポニーテールというやつだ。
メガネもかけず、化粧もしていないときの顔であればそれなりに整っているという自信はある。だって前にそれで街を歩いていたら何度もナンパされたし、他の人の顔と鏡に映る自分の顔を比べると私の方が整っていると思う。それになにより! 師匠にもツクラは美人だから気をつけなよと言われたことだってある! 師匠に言われたという事実がなければただの自画自賛になってしまうけど、師匠が言ってくれたんだ! なら間違いない!
「いや実際いいもんじゃないよ。なんか裏がありそうで怖いし、そもそも住む世界が違うわけだし。」
「だろーな。お前に俺みたいな器量はないし、もって一週間ってとこか。」
「私は案外二週間ぐらいもつんじゃないかと思うけどね。」
あの腹黒王女様のことだ、シドの言う通り何か裏があることは確定だろう。シドと付き合ったのだからそれ相応の理由があるはず。なら、二週間ぐらいは付き合うんじゃないだろうか。シドは別れたそうだけど多分そう上手くはいかない。
「3日くらいでしょう周りをみてください。」
ジャガに言われて食堂全体を見渡してみると、殆どの人間がシドの方を見てヒソヒソと話をしていた。まあ、どれだけ小声で喋ろうとも私の耳なら聞き取れるのだけど。
「嘘ー! なんか普通……。」「何かの間違いじゃ……。」「あ、私ありかも……。」「えー。」「弱み握って脅したらしいぜ……。ヒョロ・ガリって奴が言ってた。」「マジかよあいつ絶対殺す……。」「演習で事故に見せかけて……。」「ここでやらなきゃ男が廃る……。」
などなど、色々と好き勝手言われているのが聞こえた。………なんか途中でヒョロがとんでもない嘘ついてなかった? え、私達友達だよね? 普通そんな嘘つく?
そう思った私はヒョロに何やってんだお前と視線を向けた。
「ん、どうした?」
「なんでもないよ。」
「なんでもないね。」
残念ながらヒョロには視線に込めた意味が届かなかったみたいなので、そう言っておいた。
「でも本気でどうしよう。告白してすぐ僕のほうから別れ話切り出すのっておかしいし。」
「まあ、十中八九嘘告白だったと感づかれるだろうね。多分だけど、そうなると面倒くさいことになるだろうね。」
付き合ってすぐに別れを切り出すとかそれはもう自分は貴方に恋心など抱いていませんでしたと言ってるようなものだ。それに下級貴族が王族をフるとなるとか色々と面倒くさいことになりそうだ。となるとあちら側から別れ話をしてくれるのが最善なのだけど、わざわざシドと付き合ったってことはそれなりの理由があるだろうし、間違いなくうまくいかないだろう。
「いいじゃん、付き合えば。あわよくば、いい思いができるかもしれないし、嘘告白だったともバレねえよ。」
「ですね。たとえ間違いでも王女と付き合えるんですから、多少の障害で怯んではもったいない。なんなら自分が代わってあげても……。」
下心丸見えの二人がそんなことを言うが、ここには女子の一人いることを忘れていやしないだろうか。そんな会話を聞かされて不快に思わない女子がいないはずもないだろう。私は二人を殴りたくなる衝動に襲われたが、ここは食堂だからと今は耐えた。
「そういうわけにもいかないんだよぁ。」
「しかしこういう結果になったのであれば罰ゲームのことは隠さなければなりませんね。」
「だね。バレたらツクラの言う通り面倒なことになりそうだ。だから頼むよ、特にヒョロ。」
「そうだね。私たちにも何かあるかもしれないし、みんな頼むね。特にヒョロ。」
「俺? 俺は漏らさねーよ?」
「もちろん自分も漏らしませんよ。」
私とシドが二人してこの中で一番話を漏らしそうなヒョロに注意をするが、平然と漏らさね―よと言い、何を当たり前のことをみたいな顔をしていた。……心配だ。
「マジ頼むからな。」
そう言うとシドは980ゼニーの日替わり定食に手をつける。私もこの視線が集中しているこの食堂にいるのは居心地が悪いしさっと食べてさっさと出よう。
と、私も箸を持った時、ジャガ驚いたような声を上げた。ジャガの視線の先には、先程まで私達が話をしていたアレクシア王女だ。まさに話をすればなんとやら、だ。
「ご一緒しても、いいかしら?」
え、大丈夫かな。さっきまでの会話聞かれてたら不味くない? いや、距離的に聞かれる場所にはいなかったしきっと大丈夫。
「ど、どどどどどどうじょ!」
「こ、こここここ、こんな席でよろしければ、じぇひ! じぇひぃ!!」
……君たち、さっきまでの威勢の良さは何処へいったのさ。シドが付き合えるなら自分も付き合える、なんて言ってたくせに本人を目の前にするとこれか。………なさけない。
「座ればいいと思うよ。」
「アレクシア王女とシドは付き合い始めたんですものね。私が席を移るのでアレクシア王女、シドの隣へどうぞ。」
「あら、気を使ってくれてありがとうツクラさん。では。」
私はシドの隣の通路側の席から移動し、2つ横にズレて反対側の席に座った。移動のときにシドの後ろを通ったけど、何も問題なし。
そして私が移動した後、王女がその席に座る。
するとこちらの様子、というより王女の様子を見ていた周りから驚きの声が上がる。
「下級貴族の席に……!?」「やっぱりホントに付き合ってるみたい……!?」「しかも近い!」「それにもう一人女の子が隣にいる!」
などという言葉が聞こえてきたが、シドはさして気にした様子はなかった。
「天気いいよね。」
「そうね。」
え、なに今のゴミみたいな会話。
そんな私の困惑をよそに、アレクシア王女の前に10万ゼニーの日替わり定食が並べられた。しかもメイドさんたちが料理をもってきてくれているから本人はとても楽そうだ。
アレクシア王女は正しく美しい所作で昼食を食べ始めた。さすが王族だ。やっぱりマナーがいい。潜入のためにもそういった勉強はしている私から見ても見事だし、前にベガルタ帝国で国王だか皇帝だかがお忍びで街にいるときに見た所作と並ぶほどだ。料理は――あのとき食べたものの方が豪華かな?
「ああ、マナーとか気にしなくていいよ。所詮下級貴族の席だしここ。」
「……………。」
「へぇー。さすが王族、やたら多いねぇ。」
確かにそれは私も思った。私であればどれだけ食べようが問題はないが、女性一人でこの料理は多いのではないかと思う。
「アレクシア王女はいつもこの量をお一人で?」
「いつも食べきれないの。」
「もったいないね。」
まあ、私もそう思うけど、王族には見栄も必要だろう。王族が下級貴族と同じものを食べるわけにもいかないし。
「本当はもう少し下のコースでいいんだけど、私がこのコースを頼まないと皆が頼みづらくなるから。」
とても失礼だけど絶対そんなこと思ってないでしょ。あ、いやでも意外とそういうところはしっかりしてたか。
なんて、そんなことを考えていたのだけどシドが突然の暴挙に出た。
「ならもらっていい?」
なんと王女の皿からメインディッシュの肉をもらおうとしたのだ。
「ええ、いいけれど……。」
アレクシア王女がそう言った途端、待ってましたと言わんばかりに素早く肉を口に運んだ。私が注意をするよりも速く行われたあっという間の早業だった。
「うん、うまい。」
「「なッッッ……!?」」
その一連の流れに対面のヒョロとジャガが悲鳴をのような声をだした。顔は驚愕の表情だ。周りも似たような顔になっている。
「じゃあ魚ももらうね。」
「ちょっとシド。」
なんとシドが肉を奪うに飽き足らず魚にも手をのばそうとしたので、私はこれ以上の暴挙は許すまいと慌てて止めに入る。
「なに?」
「なに? じゃないよ。いくらなんでもそれはダメでしょう。」
「えー、でも本人が許可してるんだし、構わないでしょ。」
「いや、だといっても………。」
そこまで言って私はシドの考えに気付いた。シドはアレクシアの心証を悪くしてあっちから振ってもらおうとしているのだ。多分昨日からこんな感じで適当だったり雑な対応なんだろうな。だけど可哀想に。この王女は中々に性格が悪いんだ。かなり陰湿な嫌がらせをされること間違いなしだ。
「デザートはどうかな?」
「……………。」
「うん、これもなかなかぁー!」
いやでも、さすがにこれはないと思うよシド。
「あなたたち、午後の実技はブシン流だったわね?」
シドが強奪したデザートを食べ終わったタイミングで、無言を貫いていたアレクシア王女がそんなことを聞いてきた。
「あ……はい。」
「一緒に受けようと思って。」
「い、いやぁ、無理でしょ。僕は一番下の9部だし―――。」
この学園は午前は基礎科目をクラスごとに受け、午後は選択式の実技科目となっている。実技科目はクラスも学年も関係ない。数多くある武器流派から自分に合った授業を選択する。私とシドが選択しているブシン流はかなり人気で、1部50人で9部まである。実力ごとに1部から9部に分けられていて、1部が一番上だ。私は5部でシドは9部だ。
ちなみに、私が師匠に教わった剣術と使う武器が違う授業を選んだ理由だけど、カモフラージュのためだ。あまりなれていない武器なら実力が露呈するリスクがそれだけ減る。それに私の兄もこの授業を選択しているので、丁度いいやとなった。あとこれが一番重要な理由なんだけど、この流派がどんなものか見極めるためだ。
だって、師匠を差し置いて武神流なんて名乗ってるのだ。ならばそれだけの剣を見せてもらわねばいけない。私が師匠よりも上だと認めるだけの使い手がいないのであればすぐに名前を変えてもらいたいと思いながら参加した。まあ、結果はお察しの通り。師匠の剣と比べるとあまりにお粗末だった。一周回って笑ってしまうレベルだ。だからそんなことどうでもいいやとなった。
とまあ、長々と説明したわけだけど、実力で分けられている以上1部のアレクシア王女と9部のシドが一緒に授業を受けられるわけがないのだ。
「大丈夫よ? 私の推薦で1部に席を
「……それは大丈夫じゃないやつだ。僕は知っているからな。」
……そうきたか。確かにシドにとってはこれ以上ないほど最悪な嫌がらせだろう。顔も引きつっているしこれはヤバそうだ。まあ、うん、ドンマイ。
「……頑張れシド。私は応援しておくから―――ん? 二人?」
「人ごとみたいな顔しているけど、あなたもよ?」
「え。」
「あら。いやなら私が9部か5部に行こうかしら?」
「やめてくれ、僕の立場がなくなる。」
いや、待て待て待て。なぜ私も巻き込まれなければいけないんだ。シドはともかく私は何もしていないだろう。せめてシドだけにしてくれ。そう思ってアレクシア王女に目で訴えかけるのだけどこの腹黒性悪王女は気づいているのか気づいていないのかは分からないが、こう言ってきた。
「2つに1つよ、選びなさい。」
「いや。」「いやです。」
「王女命令よ。」
「「……はい。」」
私とシドは頷くほかなかった。