呪術廻戦『檻の中に佇むモノ』獲得RTA   作:ほほほのほ

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一部小説版の要素が含まれます。皆も「逝く夏と還る秋」を読もう!


おまけ5-2「伏黒と釘崎の場合」

 八十八橋の任務が終わってすぐ。呪霊による傷跡がまだ残っており、額にガーゼを付けたままの伏黒は星塚にこっそりと声を掛ける。

 

「……ちょっといいか?」

「どうしました?」

 

 伏黒は辺りを見回し、釘崎や虎杖がこの場にいないことを確かめる。どうも内密にしてほしい話だと言うことを察し、星塚も声を潜める。

 

「あの二人には聞かれない方がいいのですか?」

「ああ……少し、着いてきてほしい場所がある。お前の力を貸してほしい」

「そういうことでしたら、どこへなりとでも」

 

 普段から神経質そうな面構えだが、その日いつにも増して伏黒の顔には緊張のようなものが張り詰めているように見えた。

 星塚は疑問に思いながらも、普段から世話になっている彼の背中をついていった。

 高専を出て、埼玉の方へと向かう電車に揺られながら、ポツポツと伏黒は呟く。

 

「任務のときに、俺には姉がいるって言ったよな」

「津美紀さん……でしたか?」

「ああ。姉っつっても、コブ付き同士でくっついた結果だから血の繋がりはねえけど」

「でも大切な人なんですよね」

 

 伏黒は難しい顔をしてしばらく押し黙ったあと、小さな声で「ああ」とだけ言った。

 津美紀が八十八橋に行ったと聞いたあとの彼の青ざめた顔。星塚は、彼にとっての姉は自分にとっての虎杖なんだろうと勝手に思っている。

 

 窓から覗く風景の中に、この間4人で向かった八十八橋の姿が見えた。

 伏黒は高専の寮住まいだが、津美紀は今も地元に留まったままなのだろうか。星塚は柔らかな座面に座りながら彼の姉のことを考えていた。

 

「次で降りるぞ」

「はい」

 

 電車に乗って小一時間ほど経って、東京と埼玉の県境などゆうに越えた頃、ようやく電車から降りる。

 2人は駅のホームに降り立って、改札を抜けた。駅の周りこそ店が並んでいるが、少し離れると住宅地が並ぶ、一般的なベッドタウンだ。

 昼間ということもあってか人通りはまばらで、見かけても老人ばかり。星塚は伏黒の案内に従いながら見慣れない町を見渡しながら進んでいく。

 

 駅からそう遠くない場所に位置する一際大きな建物。

 その中へと伏黒は向かう。入口近くの塀には大きく「埼玉〇‪✕‬‪‪病院」の文字があった。

 受付を済ませ、2人は『伏黒津美紀』のネームプレートが下げられた部屋へと入る。他の病床は空いており、今はひとつのベッドしか埋められていなかった。

 

「この方が……」

「ああ、俺の姉貴」

 

 清潔に保たれたベッドに横たわる女性。一瞬息をしていないかと見紛うほどに小さな呼吸で、身動ぎもない。

 伏黒が津美紀の前髪を優しく手でずらすと、そこには呪力を放つ印が刻まれていた。

 

「俺が中3にあがった頃、津美紀は呪われた。こういう風に寝たきりになった連中は沢山いるが、今もその原因は掴めないままだ」

「そこで私の術式……ですか?」

「ああ、何か手がかりの1つでも掴めたら良い。頼む……!」

 

 そう言うと伏黒は勢い良く頭を下げる。星塚はぎょっとして、彼の頭を上げさせた。

 

「や、やめてください! 伏黒君にはいつもお世話になってますから、そこまでしなくてもお手伝いさせていただきますから……!」

「……ありがとう、助かる」

 

 星塚は1歩寝たきりの津美紀に近付いて、ゆっくりと糸を侵入させていく。呪われているといっても元は非術師の肉体。容易に奥底へと入っていく。

 眼を瞑り、慎重に術式を使う星塚を眺めながら、伏黒は握りしめた手に力を込めた。

 

 星塚は暗闇の中を彷徨っていた。辺りには粘つくような呪力が立ち込めており、慎重な足取りで進む。

 どんな人間でも心の原風景、生得領域というものを持っている。これは術師だろうが非術師であろうが変わりはない。

 津美紀自身の意識が封じられているからか、彼女の生得領域の中は闇に包まれていた。1歩先に何があるかも見えない中、呪いの元凶の手がかりはないか、神経を尖らせて周りを探る。

 

 被呪の原因は様々だ。呪霊の攻撃や術式、もしくは呪物の効果。普通の呪いなら五条の手によって正体はある程度判明している筈だ。

 つまり、津美紀を呪った輩は自らの痕跡を隠すことに長けた者の可能性が高い。五条の六眼から逃れられるほどに。

 自分よりも遥かに実力も狡猾さも上の輩が相手かもしれない。星塚は緊張で口内に溢れる生唾を呑み込んだ。

 

 周囲に立ち込める呪力を頼りに進み続ける。

 筋骨隆々の男のような、嫋やかな女のような、幼い子どものような、歳を召した老人のような、正体が微塵も掴めない曖昧模糊な気配にずっと纏わりつかれている。

 だが、少しずつだがその根本へと近付いていることは分かった。

 

 あれからどれだけだったのだろうか。たった数分だった気もするし、もう何日も経った気もする。

 他人の意識へ大きく干渉するのは諸刃の剣だ。自らの存在がここにあると強く意識しなければ、呑み込まれてしまいそうになる。

 

「悠仁君……」

 

 星塚はぽつりと呟く。その存在が、彼女の輪郭を鮮明にさせる。自我を保つ大きな要因を胸に刻み、星塚は進む。

 

 ようやく、だろうか。星塚の目の前には大きな隔たりのようなものが広がっている。この先に、津美紀を昏睡させる原因になったものがあるのだろう。

 罠などは仕掛けられていないか、手探り状態ながらも調べ上げ、星塚は慎重にその壁を壊そうとした。

 だが、その直前で、まろやかな声が彼女の耳朶を打つ。

 

『駄目だよ』

「──!」

 

 その言葉と共に溢れ出した呪力の圧に負け、星塚は動けなくなる。

 身体が石になったようだ。息は吸えているのか? 吐いているのか? 自分でも分からなくなっていく。

 

『ああ、君は……そうか。中々良い術式だね。だけど、まだ時期じゃない。もう少しだけ待っててくれるかな』

 

 耳元で囁かれるような声は、何重にも重なって聞こえた。この領域に蔓延る気配と同じで老若男女、様々な種類の人間の声音をしている。

 何か──誰かにトン、と胸を押されるような感覚がして、星塚は領域から弾き出された。

 

「星塚!?」

 

 1度だけ身体を大きく痙攣させて、星塚は自らの身体に意識を戻す。

 手を握りしめ、今ここは現実世界だと確認し、大きく息を着く。首筋に滲む冷や汗を拭い、身体を起こして伏黒の方を向いた。

 

「すみません、何も……分かりませんでした」

「そうか……」

 

 星塚の言葉に伏黒は一瞬苦々しい顔をしたが、すぐにいつもの表情へ戻った。五条ですら正体の一片も掴めぬ呪いだ、仕方がない。

 だが、星塚はそうは思わなかったようで病室に座り込んで頭を抱える。

 

「うう……ごめんなさい……せっかく伏黒君が頼ってくれたのに……!」

「おい、そんな気負うなよ……」

 

 あそこであの呪力に屈しなければ。あの壁の向こうに何かあるか分かれば。あの声の主に繋がる手がかりを少しでも得られていたら。後悔は尽きない。

 伏黒はぎこちない仕草で星塚の背中を慰めるように軽く叩く。ここまで真剣に向き合ってくれるとは思わなかったのだ。

 

「……星塚」

「何ですかぁ……」

「礼だ、何か奢る。街に出よう」

「はい……」

 

 病院を出て、二人は町へ向かう。まだ昼を少し過ぎたばかりで、太陽の日差しでコンクリートが熱を持っていた。それでもあまり暑いと思わないのは、冬が近づいてきているのを感じさせる。

 歩いているうちに、下がっていた気分も多少マシになってきた。

 伏黒の方が無念だろうに、感情を剥き出しにして彼に慰められたのが星塚は少し恥ずかしくなった。誤魔化すように少し早足で歩く。

 

「どこか行きたいところとかあるか?」

「え? うーん……」

 

 しばらく考え込んだ後、星塚は照れ臭そうに「ゲームセンターとかですかね」と言った。

 

「ゲームセンター? 地元にはなかったのか?」

「いや、流石にありましたよ! 駅の近くとか! 一応政令指定都市ですので」

「じゃあわざわざ行く場所でもねえだろ」

「……地元のゲームセンター行ったことないんです。不良が屯してるし、私も部活や用事でそんな暇ありませんでしたし」

 

 あの辺りではしょっちゅう不良が騒ぎを起こしていた。虎杖がそれに巻き込まれた数といえば……両手の指を超えたときから星塚は数えるのをやめた。

 

「折角こっちに出てきたので行ってみたいです。伏黒君たちもこの間行ってたでしょう?」

「……ああ」

 

 虎杖についていく形で不本意ながら行った秋葉原は、伏黒にとってあまり思い出したくない記憶の一つだ。伏黒の眉間にぐっと皺が寄る。

 ゲーセンで面白くもない格ゲーをさせられるわ、メイドカフェで辱めを受けるわ、ロクなことがなかった。あれなら任務をしてる方が数倍気は楽である。

 だが、星塚は既に行く気満々のようで、スマホを操作して秋葉原の娯楽施設の場所を意気揚々と調べていた。

 楽しそうな彼女に嫌だということもできず、伏黒は仕方なしに秋葉原までの電車へ乗った。

 

「都会って相変わらず人がすごいですね。高専は人里からは離れてますから、街に出てくるたび未だにびっくりしちゃいます」

「こんなもんだろ」

「すごい余裕……!」

 

 釘崎が伏黒の発言を聞いていたら、「これだから都会育ちのヤツは」とわざとらしくため息をついただろう。

 改札を抜け、ビルへと入る。中にはUFOキャッチャーが敷き詰められていて、様々な商品が並べられていた。

 アクリル板越しの景品たちに目を輝かせながら星塚はぐるぐると店内を回る。

 

 時折目玉商品を手に入れた際に鳴るベルの音が聞こえた。上の階はゲームコーナーであり、エスカレーターの近くではその騒音も耳をつく。

 長居すれば耳がおかしくなってしまいそうなほどの騒がしさだが、たまにならこういうのも乙なものである。伏黒の方はこういった場所は苦手であり、顔を顰めていた。

 

「あ!」

「……なんだ」

「これ、伏黒君の玉犬にそっくりじゃないですか? かわいい!」

 

 星塚が指差した先には白黒の犬のぬいぐるみが仲良く連結された状態で置かれていた。

 伏黒の目には色と犬であることしか共通点が見出されなかったが、彼女にとっては似ているらしい。

 財布から百円玉を出し、星塚はアームを操作するボタンを押した。だが、するりとぬいぐるみを撫でるだけに終わった。

 悔しそうにしながら、星塚は追加で硬貨を何枚も入れるが、犬たちは取り出し口からは程遠い場所に居座っている。

 

「な、なんですかこれは……! ちっとも動きませんよ!?」

「これ結構でかいぬいぐるみだしな。そんなもんじゃねえか?」

「こんなんじゃお金がいくらあっても足りません。かくなる上はこっそり糸を!」

「馬鹿か。ちょっと貸せ」

 

 平日の昼過ぎとはいえど人の往来はある。そんな中で術式を使おうとした星塚を小突くと、伏黒は機械に小銭を突っ込んだ。

 アームのパワーが弱いなら、他にやりようがある。狙うのは連結部分。何度か試せば、アームの先がぬいぐるみとぬいぐるみの間にうまく引っかかった。

 星塚の歓喜の声と、鳴り響くベルの音。伏黒はさほど喜びもせず、耳を塞いだ。

 

「す、すごいです! クレーンゲーム得意なんですか!?」

「別に……動画で見たことあったから」

「それでもすごいですよー! 伏黒君、手先が器用なんですね」

 

 オマエの方が器用だろ、と思いながらも、伏黒は取り出し口に落ちた綿の塊を掴む。それを星塚につきつけると、彼女は眼を丸くした。

 

「え?」

「いや、欲しがってたのはオマエだろ」

「……いいんですか!?」

「今日の礼っつうことで……」

「ありがとうございます! 大事にしますね!」

 

 大袈裟だろうと思いながらも、そこまで喜ばれれば悪い気はしない。さて帰ろうと踵を返す伏黒の腕を、星塚はぐっと掴む。妙な胸騒ぎがした。

 

「おい、なんだ」

「折角ですから、ゲームコーナーも回りませんか?」

 

 好奇心に塗れた顔の星塚に嫌な予感がしたが、意外と流されやすい伏黒は断り切れない。エスカレーターが二人をゲームコーナーへ運ぶ。

「悠仁君から聞いて、一度やってみたかったんです」という言葉と共にレトロゲー筐体に小銭を入れる星塚。やはり秋葉原にはろくな思い出ができなさそうな伏黒であった。

 


 

 中学の頃の思い出で一番印象深いものは何だろうと考えた時、星塚の頭に思い浮かぶのは一見何でもない日のことだった。

 年頃の中学生が集まって話すことといえば当然異性のこと。そしてその中に、虎杖も混じっていたのだ。

 

『じゃあさ、虎杖はクラスの女子で誰が好き?』

 

 星塚は糸で伝わる会話を一言一句聞き逃さないよう注意した。

 虎杖がクラスの中で一番好感が持てるのは──好きなのは誰かというのは星塚にとって非常に、非常に重要なことだったのだ。ちなみに当時の彼女は虎杖とは別クラスである。

 

『別に誰も』

 

 ──じゃあその範囲を学年まで広げたらどうなるんですか!? 

 星塚は隣の教室へ飛び込みそうになる自分を必死に律していた。

 

『強いて!! 強いて!!』

『……強いて言うなら、小沢』

 

 その瞬間、星塚の脳は粉々に破壊された。

 小沢という子について、彼女は何も知らない。それはつまり、虎杖とはあまり関わらないただのクラスメートであるはずだ。

 虎杖が彼女の名を出した理由を聞けば、彼の秀でた人間性に基づいた理由であったので脳の損傷は回復された。だが、これ以上傷を負うわけにもいかないと星塚は接続を切った。

 その後の会話で虎杖のタイプが明かされていたが、当時の彼女には知る由もない。

 

 そういうわけで星塚は小沢優子という人物に対して強い関心を持っていた。

 廊下ですれ違えばその一挙一動を観察したり、たまたま学年合同の催しがあれば積極的に同じ班になれるようにしたり。

 だから、その姿形が変わっていても一瞬で分かった。

 

「あのっ、スミマセン……。さっき、虎杖君と一緒にいませんでしたか……って、星塚さん?」

「……小沢、さん?」

「えっ?」

「なに、アンタら知り合い?」

 

 中学時代の知り合いなら積もる話もあんでしょ、ということでファミレスへ。

 ドリンクバーのオレンジジュースを啜りながら、星塚は茫然としていた。

 釘崎は彼女の様子が気がかりであったものの、小沢の話を聞いているうちに真顔になった。

 そして、隣で固まったままの星塚の脇腹を肘でつつく。

 正気を取り戻した星塚は、しどろもどろになりながら言った。

 

「あ、それは、その……そ、()()()()()()、なんでしょうか!?」

「はい! そういうことです!」

 

 釘崎は星塚の気持ちを知っている以上大手を振って小沢に協力するのは気が引ける。だが、星塚がこぼした言葉は「きょ、協力します」だった。

 

「はぁ!?」

「いや、私、幼馴染ナノデ、悠仁君のこといっぱい知ってる、思いマス。ハイ。あ、でも男の子同士じゃないと分からないこともあるしもう一人呼びマスネ」

 

 素っ頓狂な声をあげた釘崎を華麗にスルーした星塚は手元のスマホで伊地知に連絡し、伏黒をこっちに向かわせるように言った。相変わらず挙動不審なままだった。

 電話の後、小沢はお手洗いだと席を外す。今しかない、と釘崎は星塚の肩を掴んで揺さぶった。

 

「ちょっとアンタ何やってんのよ!? 虎杖のこと好きなんでしょうが!! 断りなさいよ!!」

「あっ野薔薇ちゃん揺れてます! あっあぁ……」

「揺らしてんのよ!!」

「何やってんだオマエら」

「伏黒! 椛ったら虎杖のこと──」

「すみません、戻りました」

 

 釘崎が言葉を続けようとしたところで、小沢がトイレから帰ってくる。

 

「……なんでもないわ」

 

 僅かに眉を寄せてそう言った釘崎に、伏黒は苛立ち混じりに「なんなんだよ」と吐き捨てた。

 いつもならフォローに入る星塚は役立たずのまま固まっている。

 

 その後は小沢の体格と虎杖のタイプが一致していたり、虎杖が中学時代から随分変わった小沢のことを一瞬で看破して釘崎と伏黒、死に体の星塚が無言で10点の札をあげたりと色々あった。

 そして釘崎は女子寮に戻ってくるや否や、星塚を自分の部屋へと連行する。

 

「で、どういうことよ」

「あ、う……だって、私はただの幼馴染でしかないんです。悠仁君のことを想う子の邪魔なんてできません」

「アホね」

「アホですか……」

 

 テーブルの上の焼き菓子を一口分加え、釘崎は星塚に迫る。

 

「じゃあ虎杖がどこぞの馬の骨に取られてもいいわけ?」

「うまのほね」

「他の女と付き合った虎杖を想像してみなさいよ! ちなみに私は死ぬほどムカつくわ」

「ほかのおんな……」

 

 星塚は小沢と永遠の愛を誓う虎杖の姿を妄想した。付き合うを通り越し、結婚まで至った姿を想像しているのは生来の想像力豊かさのせいだろうか。

 真っ白なドレスとタキシード姿の二人。

 泣きそうになるのをこらえながらお祝いのメッセージを述べる己。

 小沢が投げたブーケを受け取ってしまい、虎杖から「次はオマエだな! 結婚式、絶対に出るからさ!」と告げられる己。

 

「い、いやですううう!!」

 

 目やら鼻から体液を垂れ流す星塚の姿に、釘崎は黙ってタオルを投げる。さながらボクシングのセコンドであった。

 

「でしょ? てかさっさと告白でもなんでもしちゃいなさいよ」

「それは……」

 

 星塚はぐっと苦しそうに言葉を呑み込んだ。

 幼馴染という関係は心地が良い。付き合ってなくても彼の家にどうどうと入り込めるし、一緒に肉親の見舞いだって行ける。

 だが、もしも彼に断られたなら。元の関係に戻るのは難しいだろう。

 さらに言えば今は数少ないクラスメートなのだ。その後の高校生活の気まずさは一入である。

 

「臆病者ね、アンタ」

「うっ」

 

 痛いところを突かれたように呻いた星塚。

 釘崎の強い意志を感じさせる瞳に射抜かれるとどうも後ろめたい気持ちになる。

 

「このままじゃ駄目だとは、分かってるんです。だから……」

「だから?」

「悠仁君から宿儺が消えたら、告白しようと思います」

「椛、アンタ……」

 

 釘崎は五条から星塚の思惑は聞いていた。術式を用いて虎杖と両面宿儺を分離させようとしていると。

 無理だとは言わない。だが、厳しいとは思った。

 技術的な面もそうだが、総監部がそれを許すか? 許したとして、その後の虎杖の扱いはあまり良い方向には向かうまい。

 

 だが、釘崎は自分が自分であることを何より重視する。

 同じように自らのすべきことを貫き通す意志を持つ星塚を尊重しないわけもなかった。

 

「応援してるわよ」

「野薔薇ちゃんにそう言っていただけると、こちらとしても心強いです」

 

 彼女が微笑む姿はどこかか弱く見える。だが、それだけの人間ではないことはとうに知っていた。

 

 

「野薔薇ちゃん、コレ……」

「……お守り?」

 

 その数日後、釘崎は星塚から手渡されたものを見る。一見ただのお守りだが、呪力が封じ込められているのはすぐに分かった。

 

「この間のお礼です。冥々さんに協力してもらっていい素材を使ったから、多分効果もあるはず……」

「別に良いのに。ま、せっかくだしもらっとくわね」

「肌身離さず持っててくださいよ」

「仕方ないわねえ……あ、この後時間ある?」

「はい!」

「じゃ、ちょっと銀座でもいくわよ」

「ええ!?」

 

 お守りは良い素材を使った、の簡単な一言で片づけられるような代物ではなかった。外側から内側まで曰く付きの素材で出来たとんだ高級品である。守銭奴の冥々を仲介しているなら尚更だ。

 

 それをただ享受するのみでは終われないのが釘崎という女である。ちょっとエルメスのスカーフでも買ってやろうと思い、星塚の手を引いた。

 そうだ、ついでにディオールのチークをタッチアップしてもらおう。ついでにシュウウエムラのクレンジングも欲しい。

 教室から出ようとする間際、虎杖が2人に話し掛ける。

 

「あ、釘崎達出掛けんの? 俺もついていっていいー?」

「駄目に決まってんでしょ。空気読みなさい」

「ごめんなさい、また今度出掛けましょう」

 

 女子たち仲いいなー、と教室に一人残された虎杖はぼやく。自室で課題でこなしているであろう伏黒のもとにでもいくかと彼も教室を出た。

 この後、静かに寛いでいた伏黒は突然の来訪者に顔を顰めることになるのであった。




気付いたら一ヶ月経ってました。遅くなってすみません!許してください!
あと遅ればせながら呪術廻戦完結おめでとうございます。FB2、待ってるよ……
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