呪術廻戦『檻の中に佇むモノ』獲得RTA   作:ほほほのほ

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おまけ2⁻2

 あれから早くも一週間が過ぎた。星塚は今、新幹線を降りて東京駅にいる。友人から持たされた餞別のお菓子を食べながら、彼女は都会の人の多さに慄いていた。

 なんたる人混み。なんたる高層ビルの多さ。宮城から殆ど出たことのない星塚は目が回りそうになる。

 

「星塚さん……ですか?」

「え? あ、はい」

 

 声をかけられ、振り返るとスーツの男が一人。細身でどこか疲れたような顔をしている。くたびれた社会人とはこういう人のことを言うのだろうか、と星塚は目の前の男を眺めていた。

 

「私、高専の補助監督の伊地知と申します」

「高専の……補助、監督?」

「そちらについてはまた説明します。高専までは遠いので先に車に乗りましょう。案内しますのでついてきてください」

「は、はい!」

 

 車に乗り込むと、運転席に乗り込んだ伊地知がエンジンをかけ、すぐに出発する。人とコンクリートばかりの街を抜け、窓から見える風景が徐々に緑色に変わっていく。

 

「遠いんですね、高専って」

「山の中にありますからね……東京っぽくなくて申し訳ないです」

「いえ、人混みは少し落ち着かないので安心しました」

「ああ、虎杖君と同じ仙台から来たんでしたね。……そういえば、高専に着いてまず何があるか五条さんから聞きましたか?」

「え? いえ、何も聞いてませんが……」

「五条さん……」

 

 前から伊地知の嘆きが聞こえた。初対面の印象通り、五条は少し頼りにならない大人なのかもしれない。星塚は眉を寄せた。

 

「何があるんです?」

「学長による面談です。一応形式的なものですが……心の準備は必要でしょう」

「う、面談ですか……教えていただいてありがとうございます」

 

 面談なんてしたことがない。

 少しずつ近付く神社仏閣や大きな校舎。星塚は緊張感に襲われて、自分を落ち着かせるように深呼吸をした。

 

「夜蛾学長は顔は少し怖いかもしれませんが、優しい方ですよ。大丈夫です」

「は、はい!」

 

 伊地知の慰めもあり、落ち着きを取り戻していく星塚。車が止まり、外へ出る。伊地知は駐車場へ向かっていった。

 高専の玄関には大きな人影が立っており、こちらに気付くと軽く手を振る。

 

「やあ、一週間ぶり。元気だった?」

「見ての通り元気です。お久しぶりですね、五条さん」

「もう君も高専生。もっと気軽に五条先生って呼んでもいいよ!」

「はい、五条先生」

 

 素直なのはいいことだね! と五条は親指を星塚に向ける。

 

「さあ、伊地知から聞いたかな? 今から嬉し恥ずかし面談タイムだよ!」

「先に言ってくれたら良かったじゃないですか……」

「それじゃあサプライズにならないじゃん?」

「はあ」

 

 五条の後ろを歩きながら、適当な彼の答えに呆れた声を上げる星塚。

 数分ほどすれば大きな扉の前で五条は立ち止まる。この先に学長がいるのだろう。

 ゆっくりと扉が開いていく。先に進む五条に続き、星塚も扉をくぐった。

 

「悟……この間も言ったが、いい加減に責めるほどでもない遅刻をする癖を直せ。7分遅刻だ」

「はいはーい、すみませんね」

「反省の色が微塵も見えんな」

「まー僕のことはいいでしょ。さ、椛も前出て」

「はい!」

 

 蝋燭の頼りない灯りで照らされた室内には大柄の男が1人、座っていた。刈り上げた頭、サングラス、綺麗に整えられた髭──どれも雄々しい印象を与える。

 だが、手のひらには小さなぬいぐるみが握られていた。もしや同好の士なのではないかと星塚の瞳が微かに煌めく。

 ソワソワする彼女に、男は小さく咳払いをした。星塚はハッとしたように姿勢を正し、頭を下げる。

 

「ほ、星塚椛です。よろしくお願いいたします……!」

「私は夜蛾正道。ここの学長を務めている。星塚、改めて入学おめでとう」

「ありがとうございます」

 

 僅かに口角を上げる夜蛾。星塚も緊張が少しほどけた。

 彼は無数のぬいぐるみの中でもすこし大きなものを手に掴む。やはり少し抜けた顔で、かわいらしいものだ。

 

「本題に移ろうか。君は、何のためにここに来た?」

「悠仁君を、助けるためです」

「……呪いを扱い、呪いを祓うというのは生半可な覚悟で勤まるものではない。任務の中で惨い仕打ちを受けた死体を見たり、生存者から罵られたりなんてこともある。君は虎杖悠仁の存在1つでこの世界に飛び込むつもりか?」

 

 夜蛾の元にいた河童と哺乳類の間の子のような人形──キャシィがひとりでに動き、星塚へ殴り掛かる。

 星塚は冷静にその腕に糸を掛け、攻撃を阻止する。直ぐに千切れてしまい、キャシィは再び攻撃態勢に入る。

 

「あの、どういうことです!?」

「私の術式だ。さあ、先程の答えを聞かせてもらおう」

「う、わっ!」

 

 縦横無尽に動き、隙あらば拳を振るう人形に翻弄される星塚。攻撃を避けながら、ゆっくりと糸を編みこんでいく。慎重に、呪力を込めて。

 

「私にとって、悠仁君は特別な存在なんです。彼のためなら地獄に落ちても構いません」

「虎杖悠仁のせいで自分が死んでも納得できるのか?」

「できますよ」

 

 糸同士は絡まり、やがて網のようなものが形作られる。キャシィに向かって投げ、かわいらしい人形は藻掻けば藻掻くほどに糸がその身に食い込んでいく。

 しばらくすればキャシィの身動きが止まった。

 

「だって私の世界の優先順位はとっくに決まってるんです」

 

 最初に虎杖悠仁、その次に彼の大切な人、そしてその他。

 彼女の天秤は既に不平等。片側に虎杖が乗ればもう片方が全人類だとしても、虎杖側に傾くだろう。もはや瞬時に秤が地に着く勢いかもしれない。

 

「なら、もし虎杖悠仁が死んだらどうする」

「え? 後を追います」

 

 全く逡巡もせず繰り出された答えに、夜蛾は思わず怪訝そうな面持ちになる。

 

「何?」

「あ」

 

 星塚は気まずそうに目を逸らす。部屋の隅で見学していた五条は嬉しそうに口を歪ませるばかり。

 夜蛾は教え子が彼女を連れてきた意味を理解し、大きく息を着いた。

 

「即答とは……イかれているな」

「……彼に救われた命ですし……意味ないんです、彼がいなくなったら」

「だが、呪術師なんて頭のネジが何本か抜けているぐらいが丁度いいだろう。悟が言っていたように、君にはこちら側の適性があるんだろう。合格だ」

「!」

 

 星塚の顔が緩む。年相応の表情で五条の方へ駆け寄る姿はどこにでもいる少女のようだ。

 だが、あまりにも危うい。夜蛾は一歩踏み外せば人の道を外れそうな彼女の将来を危惧していた。

 五条の力添えでも死刑が延期されただけで、虎杖悠仁は未だ術師として認められた訳ではない。上層部も保守派も宿儺の器という爆弾を始末する算段を立てているだろう。

 

 そのとき、彼女は一体どうなるのか。その危険性こそあれど、呪術界は慢性的な人手不足。

 五条が連れてきたということは恐らく才能も十分、採用しない訳にもいかなかった。

 

 

「さあ、今から教室に向かってクラスメイトに会ってもらうよ」

「悠仁君と、この間の男の子は分かります。他に何人いるんですか?」

「君も合わせて4人だね」

「少ない……」

「才能ある人間って少ないんだよね。代々続く術師家系の人間はあんまり高専なんて来ずに家で教えるし」

 

 廊下を歩きながら、残りの1人はどんな人なんだろうと星塚は想像を膨らませる。女の子だったらいいな。男の子ばかりだと少し気まずい。

 やがて五条が立ち止まった。目の前の教室からはちらほら話し声が聞こえてくる。中には人がいるようだ。

 

「ここが1年生の教室だよ。僕が呼んだら入っておいで」

「はい」

 

 先に五条が教室へ入っていく。星塚はポケットから手鏡を取り出して、髪や化粧が乱れていないかを確認する。1週間ぶりに彼に会う。みっともない姿を晒すのは御免だ。

 

 

「はい、皆さんおはようございます!」

 

 教壇に立った五条が無駄に元気な挨拶をすれば、虎杖からハキハキとした声、伏黒と釘崎からはだるそうな声で挨拶が上がる。

 

「あれ? 恵と野薔薇は元気ないね」

「アンタらが元気すぎるのよ。まだ1時間目よ? 眠いわ」

「そんな君たちの目を覚ますグッドニュースをお伝えしよう! なんと、1年生がもう1人来てくれました!」

「お、前言ってた4人目?」

「そうそう。実はその子は、この中の誰かの顔見知りでーす! さ、入っといで!」

 

 釘崎は頬杖を着きながらクラスメイトを見る。虎杖は術師の家系でもない、元は呪力も持たない一般人。恐らくは伏黒の知り合いだろう。

 アホと無愛想な2人とは別のタイプの人間が来れば助かるのに。あまり期待せずに教室へ入ってくる生徒を待った。

 

「ど、どうも……」

「星塚!?」

 

 扉を引いて入ってきたのは釘崎よりも少し小柄な少女。隣の虎杖が勢いよく立ち上がった。釘崎の予想に反し、どうやら彼の知り合いだったらしい。

 

「もうちょっとこっち! ほら、自己紹介して!」

「はい、星塚椛です。仙台から来ました、悠仁君とは……その、幼馴染です」

 

 控えめに笑う星塚。釘崎は小動物のような彼女の姿に、地元に置いてきた幼馴染を思い出した。気弱そうに見えるが、本当に呪霊を倒せるのだろうか。

 

「じゃあこっちも自己紹介ね、悠仁からどーぞ」

「今更必要ある!? ……虎杖悠仁! 星塚も呪霊見えんの!?」

「うん。ごめんなさい、言えなくて……」

「別にいいよ。言いづらいよな、こういうこと」

「はーい、積もる話もあるかもしんないけどサクサクいこう。次は恵ね」

 

 指を指された伏黒は相変わらずの仏頂面のまま口を開く。

 

「伏黒恵」

「名前だけって、本当アンタ無愛想よね」

「うるせえ」

 

 釘崎の言葉をぶっきらぼうに切り捨てる伏黒。愛想とか愛嬌の概念を母親の腹に置いてきたのではないかと釘崎は疑っている。

 2人の様子に苦笑いを浮かべながら、星塚は伏黒に対し頭を下げた。

 

「この間はすみませんでした。誤解とはいえ……」

「謝んな。誤解されても仕方ねえし」

「え? 伏黒って星塚と知り合いなの?」

「高専にスカウトされるときに、色々ありまして……」

「なによ、初対面なのは私だけってこと?」

「はい、次は野薔薇ね!」

 

 話の流れを強引に変える五条に、不満そうな顔をしながらも釘崎は星塚の方へ身体を向けた。

 紅一点ではなくなったが、元より同級生の男子には興味などない。むしろ女の子が増えればこちらとしてもやりやすい。大歓迎だ。

 

「釘崎野薔薇。東北のクソ田舎出身よ」

「よろしくお願いします! 女の子がいて嬉しいです」

「私もよ! ようやく腐った青春からはおさらばね」

 

 釘崎の棘のある言葉に違和感を覚えたのか、虎杖が首を傾げる。

 

「……それって俺らのこと?」

「うっさいわねバカ1号」

「おい、2号は俺のことじゃないだろうな」

「仲が深まりそうでいいね! じゃあ椛も来たことだし、午後の実習は皆でいっちょ任務でもしようか」

 

 ピクニックみたいなノリで呪霊討伐をさせるな。釘崎や伏黒は目隠しをした不審者をじっとりとした目つきで見るが、彼は何処吹く風。

 

 午前の座学を終えたあと、補助監督の運転で辿り着いた場所は立派な廃校だった。昼だというのに仄暗く、薄汚れた木製の建物は不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「ここが例の場所ね」

「当たり前なんだけど雰囲気あんなあ」

 

 移動の間に4人は任務の簡単な概要を聞いた。この見た目からも分かるように若者の肝試しスポットとして有名らしい。

 最近呪霊が住み着いたのか、非術師の被害が報告されるようになった。そのため、星塚の力試しも兼ねて1年生で任務に当たるように、とのことだ。

 

「折角四人いるから……そうだね、悠仁と野薔薇、恵と椛でペアになろうか」

「またアンタと?」

「俺も思った!」

 

 釘崎と虎杖が楽しそうに……楽しそうに? している中、伏黒と星塚は顔を見合わせる。

 以前誤解で攻撃を仕掛けてしまった星塚としては大変やりにくい。相手は虎杖なんて贅沢は言えないが、せめて釘崎が良かった。

 

「……行くか」

「は、はい」

「行ってらっしゃーい!」

 

 背後から飛んでくる五条の声。学校に行く子どもを見送るような気軽さだ。

 

「あの人は相変わらず適当だな」

「あはは……でも、緊張はほぐれました」

「緊張してたのか?」

「人と呪霊退治なんて初めてなので」

「……気は抜くなよ」

 

 虎杖たちは一階を散策するようなので、二人は二階へと向かう。

 階段を上がった先の廊下には埃が積もっていた。ところどころ足跡があり、今まで肝試しに来た非術師のものだろう。

 窓は当然閉まっていて、黴臭い空気が溜まっている。心地が良いとは言えない空間だ。

 廊下を半分ほど進んだところで、星塚は赤黒い染みが床にこびりついているのを見つけた。血痕のような跡は点々と続いており、ある教室の中へと続いていく。

 伏黒に目配せをすると、当然気付いていたようで軽く頷いた。

 

「伏黒君、これって」

「ああ、この先にいるだろうな」

 

 扉の奥からは不気味な気配が漂っている。これが呪力、というやつなのだろうか。

 伏黒の「いけるか?」という声に首を縦に振り、星塚は覚悟を決める。

 いつもと変わりない。そう、ただ化け物──呪霊を殺せばいいだけだ。

 

 伏黒が扉を乱暴に開け、奥へと進む。薄暗い室内には粘液のようなもので塗れていた。

 その中央にいるのは円口類のような呪霊。輪状に並んだ鋭い歯は血や肉片に塗れており、こちらに気が付くと体を捩じって襲い掛かってくる。

 

「来るぞ! 『玉犬』!」

「……はい!」

 

 周囲の壁を破壊しながら這いずる呪霊。

 口から吐き出される粘液が木の床に触れると白煙を上げながら溶けていく。あきらかに人体にとって有害だ。

 呪霊の大振りな体当たりを避け、星塚は口を縛り上げる。

 その隙に玉犬の爪がぶよぶよとした呪霊の皮膚を抉った。濁った悲鳴が耳を劈く。だが、致命傷には程遠い。

 

 少しは頭が回るようで、呪霊は弱そうな星塚を重点的に狙う。玉犬の爪をでかい図体からは想像できない機敏さで躱し、執拗に攻撃を仕掛けてくる。ひたすらそれをいなし続け、星塚は反撃のときを待った。

 

「しつこいんですよ……!」

 

 呪霊が勢い余って顔から校舎の壁に突っ込んだ。今が好機、星塚は呪力を込め、拳を振り下ろす。肉の生々しい感触が伝わって、渋い顔をしてしまった。

 まだ息絶えてはいないようで、呪霊の身体の端が動く。太い胴体で星塚を締め上げようとするが──

 

「『大蛇』」

 

 伏黒の影から飛び出た白蛇が呪霊を食い千切る。上下に分かたれた身体はビクリと一度大きく痙攣した後、塵になって消えていった。

 床に座り込んていた星塚は慌てて立ち上がる。スカートについた埃を叩き落とし、伏黒に頭を下げた。

 

「あ、ありがとうございます」

「いや、いい。あの呪霊、明らかに二級以上だ。オマエ今何級だ?」

「入りたてなのでとりあえず四級って言われました」

「じゃあ勝てなくて当たり前だ。逆によく動けた方だろ」

 

 あくまで素っ気ない態度だが、助けてくれたのは事実。少し不器用な優しさに、星塚はもう一度感謝の言葉を告げてから再度二階の散策を続けた。

 

 すべての教室を見て回ったが、呪霊はあの一体しかいなかった。伏黒がいうには「あの呪霊が共食いでもしてたんじゃないか」とのこと。同時に一階の虎杖たちからも終わったという知らせが届いたので、階段を降りて二人と合流した。

 

「最悪よ、ひたすら雑魚が群がってて面倒くさかったわ」

「俺たちは逆だ。そこそこ強いのが一体」

「そっちもそっちで大変だったわけね」

 

 こんだけ苦労したんだから飯の一つや二つ奢って貰わないと割に合わないわ、と釘崎は腹に手を当てる。それを虎杖や星塚が宥めながら外へ出ると、待機していた五条が軽く手を振った。

 お疲れサマンサっていったいどういう意味なんだろう。虎杖とは違ってあまりテレビっ子ではない星塚にはよく分からなかった。

 

 釘崎の猛抗議により、五条の奢りで夕食へ行くことが決まった。彼女や虎杖は寿司や焼き肉などを所望していたが、辿り着いたのはファミレス。

 文句を言いながらもメニューを見て次々に注文していく二人に、伏黒は呆れ果てていた。

 星塚もその様子に忍び笑いしていると、向かいの席の五条が話しかけてくる。

 

「どうだった? 初任務は」

「ううん、自分はまだまだ力不足だと感じました。こんなんじゃだめですね」

「真面目だねぇ。君たちはまだこれからなんだし、一歩一歩着実にこなしていけばいいよ」

「はい。……あ! 悠仁君!」

 

 ドリンクバーで組んだお茶を一口飲んで、思い出したように星塚は声を上げる。好奇心のままにジュースを混ぜすぎて、濁り切った液体に悪戦苦闘していた虎杖は突然話題の矛先を向けられて目を丸くした。

 

「ん?」

「じゅ、術式の練習台になってくれませんか?」

「別にいいけど、なんで俺?」

「よく知っている人の方がやりやすいので……」

 

 星塚の術式は未だ未成熟だ。動物に糸を繋ぐことで視覚や聴覚を共有することができても、呪霊には通用しない。恐らくは術師も同様だろう。

 だが、今までこっそり接続していた虎杖は今や一端の呪術師。彼ならば他の者よりも簡単に干渉できるはずだ、と彼女は考えていた。

 虎杖でまず呪力を持つ者への接続を学び、そこから少しずつ何の縁もない者へとステップアップしていけば、呪霊にもこの力が使えるようになれるかもしれない。

 所々都合の悪いことは飛ばしながら、星塚は説明を終えた。グラスを持ち上げて、喉を潤す。

 

「なるほどねぇ。でもその言い方だと偵察にしか使えなさそうに聞こえるけど、どうなの?」

「相手の情報を受け取るだけじゃなくて、私側から送ることもできるはずです。突然別の人間の視界を共有されたら錯乱しませんか?」

「確かにそうね。急に知らない情報が入ってきたら正直戦闘どころじゃなくなるわ」

 

 届いたパスタをフォークで絡めながら釘崎も同意する。術師である彼女からも賛同を得られて星塚は心強くなった。

 

「それなら、ついでに悠仁の呪力探知も鍛えようか。椛は悠仁に何も言わずに、好きなタイミングで術式使ってみて。悠仁はそれに気付けるように警戒しておくこと」

「分かりました」

「突然の無茶ぶり!?」

「相手がどんな手を使ってくるかなんて、僕でもなきゃそう簡単には分かんないからね。何かされたってだけでも察知できるようになった方がいいでしょ?」

「ぐぬぬ……んなことできっかなー」

 

 難しい顔をする虎杖に、今更ながら星塚にも罪悪感のようなものが湧いてくる。

 表情に出ていたのか、彼は「気にすんな!」といつもの明るい笑顔で言ってくれた。星塚の心臓は悲鳴をあげた。

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