オラ死ね!魔法少女!俺の子を孕めッ!   作:八幡寺

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1:進撃の魔法少女

 31歳。無職。今日も日がな一日、惰眠を貪っていた。

 そして目が覚めると──俺は、魔法少女になっていた。

 

「うぎゃああああっ!? なんじゃこりゃあ!」

 

 まず寝起きに目を擦ると、その手はサテンの手袋に覆われていた。

 意味がわからず身体を起こしてみれば、視界に映る俺の肉体は、黒を基調としたフリフリのドレスを身にまとっていたのだった。

 

 慌てて鏡の前に向かう。

 その姿はやはり、黒のフリフリドレスをピチピチに着こなし、太ももの半ばよりも丈の短いスカートまで履いている……!

 

 おっさんの俺がいた!

 

 「は!? えっ……ま、魔法少女じゃ……ない!?」

 

 いや、衣類だけを見れば魔法少女そのものだ。

 だが、男らしくゴツい見た目の、無精髭すら生えたまんまおっさんがそこにいた。

 え、キモ……。

 背中にちっちゃい羽が生えてるのもまたキモい……。

 

 

 

 魔法少女化現象。

 

 昨今、この猟奇的な現象は、世界各地で頻発している。

 まず、この現象で魔法少女化するのは、100%男性である。

 そして魔法少女になった者は、理性を失い、魔法少女たる【破滅の力】で人類を滅ぼさんと牙を剥くのだ。

 

 なぜそのような事態が、魔法少女化現象と言われているのかと問われれば、答えは至ってシンプル。

 現象が発現した者はフリル付きの可愛らしいドレスを身に纏い、身長も100cmほどまで縮んで、それ相応に華奢な体つきに変貌してしまう。

 

 そしてなにより、イチモツを失う。

 その肉体は、完全に、女性のモノとなってしまうのだ。

 どこからどう見ても魔法少女としか形容できないから、そのように呼ばれていた。

 

 

 

 だが、その点、俺はどうだ。

 フリルのついた可愛らしい衣装を着ている。無論、趣味で着ているわけじゃない。寝る前はちゃんと一般的な男性用パジャマを愛用したいた。なのに起きたらこれなんだ。あと、ピチピチすぎて脱げない。

 身長は180cmある。少し筋肉質で肉厚な身体はそのままだ。

 

 なにより、イチモツがある――!

 触って確認したらあった!

 だから俺のこれは……なんなんだ。魔法少女化現象じゃないのか!? なんか中途半端に発現しちゃった!? 自意識も理性もあるしね!

 でもこのままじゃただのコスプレ変態クソ野郎なんだけど!?

 

『ついに現れたっピね……魔法少女の【破滅の力】を克服する者よ!』

 

 混乱の最中、頭の中に声が響く。

 優しくて温かで、心地よい声色だった。

 余計に意味が分からない状況にパニックを引き起こしそうなものだが、この声を聞いた途端、不思議と、心が穏やかになった。

 

「あの、誰ですか」

 

 まずは気軽にレスポンス。まさか狂った俺の脳みそが幻聴を聞かせているのかもしれないと思いながら……。

 

『おいたんの名はルシフェルっピ! 天界より設立された【魔法少女撲滅委員会】の会長を務る偉い天使っピ!』

 

「天界? 魔法少女撲滅?」

 

 頭の中の声を、口に出してリピートしてその意味を反芻する。

 天界って、ようは神の国だろ。

 それに、魔法少女撲滅委員会だと……? しかも会長……。

 

 まあ今は声の主の役職は重要じゃない。問題は、俺のことを『魔法少女の力を克服した者』としていることだ。

 このピチピチ美少女コスプレおっさんにしか見えない俺に対して、魔法少女撲滅委員会を名乗る天界よりの使者が現れた……。

 

 まさかとは思うが……。

 

「……もしかして、俺に『魔法少女を倒せ』とか言いません?」

 

『驚いたっピ……おいたんが名乗るだけでそこまで察するのはもはや気味が悪いっピが、まさしくその通りだっピ! 【破滅の力】を克服したオマエには、どうか魔法少女を根絶やしにして欲しいんだっピ!』

 

 ええ……嫌だけど!?

 普通に怖い。魔法少女は、人知を超越した大魔法を扱うバケモノだ。

 

 俺も……小さい頃、魔法少女に両親を殺された。その時のトラウマは、一生忘れることなんてできない。今だって、怖くて怖くてチビリそうだ。

 

「無理だ。俺にはできない……。すみませんが、他を当たって下さい……」

 

『無理じゃないッピ! オマエには既に魔法少女としての【破滅の力】が宿っているんだッピ! 魔法少女に対抗するには、同じく人知を超越した存在をぶつけるしかないんだッピよ! そしてそれができるのは……オマエだけだッピ!』

 

「無理だって言ってるじゃないですか! しつこいですよっ!」

 

 全然引き下がってくれないルシフェルさんに憤ってしまい、思わず、地団駄を踏んだ。

 瞬間、俺の足は部屋の床を簡単にぶち抜き、発生した衝撃波で家中の窓ガラスが弾け飛んだ!

 轟音。ガラガラと瓦解する床と、階下に雪崩落ちる瓦礫達……。

 

「は……?」

 

 断言するが、俺は臆病者だ。

 いくら怒りの感情に突き動かされた行動だからといって、会話の相手は天界の天使様。人間なんぞよりも完全な上位種。お気を悪くさせるほどの音や衝撃を出してはならないと、力加減を考えて足踏みしたんだ。

 本当に、そっと気を付けて足を下ろしたんだ。

 

 なのに……なんだこの力は!?

 これはもう、一人の人間が持つべきパワーを遥かに凌駕している。

 俺はやはり、魔法少女の力を手にしてしまっているようだった……!

 

『これでわかったッピか? 【破滅の力】を克服したとはいえ、オマエは既に魔法少女と同等の力を持つ危険因子。おいたんに協力しないということは、オマエは我々の撲滅対象だっピよ?』

 

「そ、そんな! だけど俺、どうしたらいいのか……」

 

『大丈夫だっピ! おいたんと契約すれば、魔法少女の【破滅の力】に加えて、天使の【神力】も扱えるようになるっピ! この二つを自在に扱えるようになれば、魔法少女など恐るるに足らんっピよ! さあ! おいたんと契約するっピ!』

 

 天使との契約……。

 本来ならこんな申し出、二つ返事で頭を垂れてお受けするのが人としての誉れだ。

 だけどやっぱり……怖い。魔法少女と戦うなんて……!

 で、でも……契約しなければ俺は天界にマークされる。魔法少女として撲滅されてしまう……!

 

 ダメだ。どうしても一歩を踏み出しきれない。

 このまま沈黙を貫いていても、状況は悪くなれど、よくなることはない。そんなのはわかってる。だけど……!

 

『むうっ!?』

 

「うわあ! ごめんなさい!」

 

 黙っていると、突然にルシフェル様が怖い声を上げた。反射的に謝ってしまったが、どうも、様子がおかしい。

 

『……どうやら、他の街に新たな魔法少女が誕生してしまったようだっピね。このままじゃ街は壊滅。人類はさらに追い込まれることになりそうだっピ』

 

「そんな……そ、そうだ、ルシフェル様はまずそちらに向かわれては? 俺はその間に、じっくりと答えを考えておきますので……」

 

『は? オマエ、もしかしておいたんに【魔法少女を倒してこい】と命令してるっピか? 人間の分際で天使を顎で使う気だっピか?』

 

 あっやべっ、扱いミスった!

 でも確かに、俺は今、気が動転しすぎていた。いまのは無礼としか言いようがない。

 

「ご、ごめんなさい! そんなつもりではなかったのですが!」

 

『いーや。今のは体よくおいたんをコキ使おうって考えがミエミエだったっピ。さすがに傲慢が過ぎるっピよ、オマエ。よし決めた。オマエにはバツを与えるっピ』

 

「ええーっ!?」

 

『そうだっピ。おいたんと契約しないなら、もう天界はオマエら人間を助けてやらんっピ。これまでおいたん達が頑張って食い止めていた魔法少女の被害も全部ノータッチ。勝手に滅ぼされてしまえっピよ、人間共』

 

 バツ!? 謝ってるのにヒドイ!

 しかもあまりにも罪の重さと見合ってなくない!? 俺の判断に人類の存続がかかってる!?

 いやそんなの……! もう逃げ場がない! あんまりだ!

 

「……け、契約……します」

 

『よおーし! よく決断してくれたっピ! オマエの勇気はきっと後世まで語られるっピよ!』

 

 勇気じゃない。脅しに屈しただけだ……。

 で、でも……! これが背水の陣って奴なのか、こうも無理矢理にでも腹をくくってしまえば、おのずと前向きな気持ちになってくるものだな。

 

 俺は天使に選ばれた、魔法少女を撲滅する使徒なのだ。

 それに魔法少女は、俺の親の肩にでもある。許せない存在だ……!

 俺がこの手で、すべてを駆逐してやる!

 よーし! やってやる! やってやるぞ!

 

『オマエ、泣くほど嬉しかったっピか? でも感傷に浸ってるヒマはないっピよ! さあ手始めに、今現れたばかりの魔法少女を蹴散らすっピ!』

 

 あれ? 俺、泣いてたのか……? でも確かに息苦しい。鼻水が出てるんだ。サテンの手袋で目と鼻を擦る。肌触りがいいのが、なぜかイラッとした。嬉しいわけないだろう、チクショウ……。

 というか、契約ってどうするんだ?

 

『でもちょっと待ってろっピ。おいたんの【神力】を、オマエにも扱いやすいように顕現させるっピから……はあああああっ!』

 

 ルシフェル様が気合を込めると、なんだか俺の周囲が発光してきた。

 光はみるみる強まり、やがて視界が真っ白に染まった。目を閉じても白い……。

 そして、発光の収まりを感じて、目を開けてみると……!

 

「うわあ! 触手のバケモノ!!!」

 

 紫色をしたヌメヌメと光沢のある……まるでタコような触手! というかタコだ!

 紫色の巨大タコが何本もの触手ウネウネとうごめいている!

 触手の一本一本が俺の腕を同じくらいの太さ。そして異様なのは、目玉が一つしかなくて、それがまるで人間の目のように、まつ毛もある……。

 

「失敬な! おいたんはルシフェルだっピ!」

 

 そんなタコのバケモノが俺をギロリと睨むと、その見た目からはあまりにも似つかわしくない可愛らしい声で怒ってきた。

 いやウソだろ……こんなバケモノが、天使様!?

 どっちかって言うと悪魔じゃねえか!!!

 

「え? ほ、本当に、ルシフェル様ですか……?」

 

「だからそう言ってるっピ! それにこの姿はオマエとの契約によってこの世界に適応した仮の姿っピ。安心しろっピ。本体はもっとイケメンっピよ!」

 

「はあ……」

 

 目の前のタコがふんぞり返るのを、引き気味に眺めた。

 不安になってきた。俺はこれから、このタコを引き連れて魔法少女を倒しに行かないといけないのか……。

 

「さあ、それじゃあ、魔法少女を征伐しに行くっピよ! なあに、おいたんは無敵だっピ。大船に乗ったつもりで――行くっピ! 『おいたんテレポート』っピ!」

 

「え!? うわっ!」

 

 ルシフェル様が号令をかけると、なんか立ち眩みのように、視界がブレた。

 しかし次の瞬間、俺はいつの間にか、暗雲が立ち込める屋外に佇んでいて、そして目の前には……!

 魔法少女!!!

 恐ろしいバケモノ!!!

 

 い、いや……だけど、え!?

 なんか様子がおかしい……?

 

「むぐー! むぐぐー!」

 

「さあ大人しくするっピよ、魔法少女! ふはははは! どうだ、身動き取れんだろうっピ!」

 

 魔法少女は既に、ルシフェル様が捉えていた!? え!? 弱っ! てかルシフェル様強っ!?

 俺何もしてないけど!?

 

 青いフリフリのドレスを着た少女。身長は俺の胸元よりも低い。

 ドレスと同じ色の青髪ポニーテールが小顔に可愛らしく似合っている。アイドル級に可愛い。

 

 そして、辺り一面、瓦礫の山……。

 人の気配が一切しない荒野だ……。

 その中に一人だけいる彼女。それを押さえ付けるルシフェル様。

 

 やはり彼女は、魔法少女なのだ。

 人類に仇なす敵。

 俺の両親を殺した奴らの仲間……っ!

 

 目の前で囚われている少女を見て、一瞬だけ可哀想なんて思いもしたが、すぐに、それよりも強大な憎しみの感情で塗りつぶされた。

 魔法少女!

 生かしちゃおけない!

 俺の気持ちを察してか、ルシフェル様も後押しする。

 

「さあオマエ! やるっピ! その怒り! 憎しみ! 全てを込めて……ぶん殴れっピー!!!」

 

 言われるまでもないっ!

 

「オラあああああっ!」

 

 全力で振りかぶった大ぶりパンチは、吸い込まれるように、魔法少女の腹部へと導かれた。

 

「ぐぅえーっ!!!」

 

 魔法少女の口から嗚咽が漏れる。その目にはみるみる涙が溜まり、粘度の高いよだれが口の端から垂れてきた。

 おい、待て。待て待て待て。

 

 ――なんでこいつが、こんなにも被害者ヅラしてんだ?

 ますます込み上げてくる怒り……!

 被害者は俺だろっ! 俺たち人類だろうがっ!

 ふざけるな! 許せねぇ! 絶対にぶっ殺す!

 

 こんなにも、泣き叫びたくなるほどの憤怒を覚えたのは、生まれて初めてだ。

 顔が熱く燃え滾り、下腹部がじんじんと痺れる。ここが丹田ってやつか。なんて、怒り心頭ながらも僅かにある冷静な部分が解釈した。

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 俺は抑えきれない感情のまま、拳を岩のように固く握りしめて、奴のどてっ腹にぶち込む――!

 何度も!!! 何度も!!!

 

「オラッ! オラァ! オラ死ね! くたばれ! 死ねよクソが! 魔法少女がァ!」

 

「アギッおごぇっ! ブギィ! いだ、いだぁ! いだいよぉ! やめてっ、タスケデェ!」

 

 助けて欲しかったのは俺のほうだ!!!

 被害者ヅラしてんじゃねえ!!!

 

「ふざっけんな! ボケ! オラァ! 死ね! 死ね! ぶち殺すぞゴラァ! 死ねぇ!」

 

「ぎゃあっ! ごべ、んだ、ざい! ごべんなじゃい! ゆりゅひて……っ! ひぃ!」

 

 魔法少女の顔面がボコボコに腫れ上がる。かわいらしい小顔が青あざに染まり、出血の赤に染まり、涙も赤かった。

 露出した腹部ももはや内出血が黒く見えるほどのひどい痣だらけ。俺のパンチの狙いも大味で、太ももや二の腕なんかも殴っていたようで、そこらへんも赤く青く黒く、小学生のパレットのようだと思った。

 

 タコに締め上げられているからガードもできないし、痛む箇所を押さえることさえできない。

 ははは、ざまあみろ。

 

「よしよし。……頃合いっピね」

 

 満足そうにタコは唸ると、自身の触手を一本、にゅーっと伸ばした。

 先細りした先端を、まるで拳のようにぷくーっと膨らませて、そしてすかさず、殴るように魔法少女へブチ込んだ。

 

「オラァ! おいたんの子を孕めッ!」

 

「ひぎぃいいいっ!?」

 

 タコは魔法少女へと突き刺した触手を何度かドクンドクンと脈打たせた後、満足そうに、それを抜いた。

 タコの触手には生々しい鮮血が付着していて、気色悪かった。え? 「孕め」って言ってなかった?

 

「ふうー! これにて一件落着っピ! 魔法少女の【浄化】に成功したっピよ!」

 

「【浄化】……ですか……」

 

 どうやら魔法少女を倒すのに必要な手段だったらしい。言動の意味が気になるところだが、天使様がやることだ。きっと正しいことなのだろう……。

 

「オマエ、初めてにしてはなかなか見どころのある奴だっピね! そういえば、まだ名前を聞いてなかったっピ! ぜひ教えてくれっピ!」

 

 暗雲が晴れて、そろそろ正午を回りそうな太陽が、瓦礫の街を明るく照らし出す。

 みるみるお腹が膨らんで気絶する魔法少女も、一つ目タコのバケモノも、そして、変な恰好をしたおっさんの俺も、皆等しく、太陽の光を一身に浴びた。

 

「ヒトミ。……佐藤 瞳です」

 

 ふう、疲れた……。

 帰って寝よう……。

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