オラ死ね!魔法少女!俺の子を孕めッ!   作:八幡寺

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2:銀のタマゴ

 目覚めると、俺は自室で寝転んでいた。

 寝惚けた頭でまず思い至ったのは、魔法少女のこと……。

 

 ――あれから三日が経った。

 俺が中途半端に魔法少女化して、天使を名乗るタコのバケモノにそそのかされ、ガチの魔法少女と戦ったあの日以降、生活が著しく変化した。

 まず、妊婦と同棲することとなった。

 

「ヒトミさん、起きてる?」

 

 自室のドアをノックする音とともに、可愛らしい少女の声が俺を呼ぶ。

 噂をすれば影だ。

 同棲三日目の妊婦がやってきた。

 ドアを開けてやれば、青いフリフリのドレスを着た少女がちょこんと佇んでいた。アイドル級に可愛い青髪ポニーテールの少女。

 

 魔法少女。

 人類を破滅へ導く悪魔の化身。

 

 だが、そいつは今、スイカのようにお腹を丸くして、聖母と見紛うばかりの慈愛の表情をうかべているのだった。

 

 悪魔の化身を聖母などとのたまうのは、天使と契約している手前、なんだかバチ当たりな感じがするが、口に出していないのでセーフとさせてほしい。個人的な意見論評ですので。

 

「今起きたとこだよ」

 

 愛くるしい顔面に見惚れながらも、返答する。すると魔法少女は、何も面白いことを言っていないにも関わらず、ニコリと微笑んだ。

 彼女の名前は、立花 竹道(タケミチ)という。

 

「よかった。寝ているところを起こしちゃったなら、なんだか悪いから」

 

「かわっっっっ!!!」

 

 いや可愛すぎだろ叫んじゃったわ。

 ビックリして目を丸くするタケミチちゃん。まじごめん。いやでも破滅的にカワイイ。心臓が爆発するかと思った……。

 気を取り直して、ドキドキ鳴り響く心臓を押さえながら、用件を尋ねる。

 

「ごめんごめん、で、なんだっけ?」

 

「あ、えっとね。ルシフェル様が呼んでたよっ」

 

「わかった。着替えてから行くよ」

 

「はーい」

 

 タケミチちゃんの青髪ポニーテールを見送ってから、よしとベッドから腰を上げる。

 姿鏡の前に立つと、そこにいたのは、魔法少女の恰好をする気持ち悪いおっさんだった。

 

 俺は黒いドレスを着ていた。

 白いサテンの手袋に、メイドみたいなフリフリのカチューシャ。

 スカートも膝上かなりあって、それもフリフリ。しゃがむと中身見えそう。……なのだが、そこが魔法少女の摩訶不思議。絶対に、どんな格好をしても、パンツが見えない構造となっている。

 

 ……まあ、試したよ。自分で自分のパンツが見えないか。興味本位で。

 感心すると共に、とても虚しい気持ちになったよ……。

 

 そしてこのドレスは、脱げない。手袋すら、いくら引っ張ったって微動だにしなくて、まるで皮膚の一部のように感じてゾっとした。

 ドラ〇エの呪いの装備ってこんな感じなんだろうな……。

 

 なので、着替えると言っても、別に全裸になることもなく、ただこのドレスの上から服を着てしまえばいいだけだ。

 一般男性的な普段着に、サテンの手袋をしているのは気持ち悪いが、この際、仕方がない。ジーパンに黒のTシャツ。中に着ているドレスのせいでモコモコしてしまうのも、仕方がない。

 なんだか着太りしまくりだが、外に出ないしいいか……。

 

 朝から少しげんなりしつつも、上司からの呼び出しなのだからすぐに一階に降りた。

 いつもの見慣れた部屋の景色は、週に一回の買い物に利用する階段に移り、そしてここ数年、ほとんど立ち入ることのなかったリビングのドアの前。

 魔法少女に両親を殺されて以降、入ることが億劫になってしまった。

 

 もしかしたら、ここを開けたら、実は両親はまだ生きていて、俺を出迎えてくれるかもしれない。

 そんな希望を持ってしまう。絶対にありえない妄想なのに、ついつい、そんな思いが頭をよぎる。

 

「はあ……」

 

 ため息と同時に、意を決して、ドアを開けた。

 待っていたのは、当然に両親ではなく、タコの化け物……天使ルシフェル様だ。隣にタケミチちゃん。

 

「待ってたっピよ! 佐藤ヒトミ! これから作戦会議を始めるっピ!」

 

 ルシフェル様は明るい声で意気揚々と言葉を発した。なんだか上機嫌だなと思ったけど、最初に会った頃から割とこんな口調だった。これがルシフェル様の素なのだ。

 

「作戦会議……ということは、また現れたんですね。魔法少女が……」

 

「お、相変わらず察しが良いっピね。その通り! だけど今回は、この立花タケミチのように簡単にはいかないっピ。なぜなら覚醒してから既に何回も世界を滅ぼさんと暴れ回った熟練魔法少女! 綿密な作戦と、武器が必要だっピ!」

 

 タケミチちゃんは俺が魔法少女になり損ねた反動で急遽生まれた新米魔法少女だったらしい。

 それに比べて、今回の熟練魔法少女は戦闘経験や【破滅の力】の扱いに長け、一筋縄ではいかないというのだ。

 

「俺だって、まだ【魔法少女撲滅委員会】に所属してから日が浅いペーペーなんですけど……絶対にそんなやつと戦えませんよ? 殺されるんじゃ……」

 

「弱気になるなっピ! そのための作戦だっピ! そしてその作戦には……アレが必要なんだっピ! 立花タケミチ! こっちに来るっピ!」

 

「あ、はいっ!」

 

 ルシフェル様の触手にぐいと引っ張られて、タケミチちゃんは大きなお腹を揺らしながら、俺の元へとやってきた。

 乱暴だなあ。とルシフェル様の妊婦の扱いに不満をいだいていると、このタコのバケモノは何を血迷ったのか、俺にとんでもない命令をしてきた。

 

「さあ、こいつの腹を殴るっピ」

 

「……は?」

 

 とんでもないブラックジョークかと思い、全く笑えないながらも一応の上司なので、苦笑い。

 だけどこのタコは本気だった。

 

「笑い事じゃないっピよ。早く腹パンするっピ。こうしている間にも魔法少女は暴れまわっているんだっピよ!」

 

 ええ、怒られた……。

 でも本気? 嘘だろ。妊婦の腹を殴れなんて正気じゃない。俺の魔法少女の力で殴れば、なおのこと母体も赤ちゃんも一大事だ。

 それにお腹の子は……ルシフェル様自分自身の子供じゃないのか? 意味がわからない!

 

「でっ、できません!」

 

「まったく! わからず屋っピね! オマエが殴らないと意味がないんだっピ! 魔法少女の力を克服したオマエの力で殴ることで、立花タケミチの本当の役割が果たされるんだっピよ! さあ! 殴れーっ! 佐藤ヒトミー!」

 

「いやだからっ! 無理です! ふたりとも死んじゃいますよ!?」

 

 何を言われたって身ごもった女性の腹を殴るなんてできない! 人間として! 倫理観がそれを許さない!

 それをしたら俺は狂ってしまう!

 

「ヒトミさん……」

 

 泣き崩れる俺の手を取って、海のように優しい言葉をかけるのは、タケミチちゃんだ……。

 見上げると、困ったように笑っていた。

 

「私は大丈夫。だから……殴って。これがきっと、魔法少女になった私が許される手段だと思うの。この試練を乗り越えることで、私は魔法少女になってしまった重責から開放されるって、信じてる。だから……お願い」

 

 魔法少女の重責。許されるため。

 考えたこともなかった。魔法少女となった彼らは、破滅の化身と成り果てた彼らは……許されたがっていたのか。

 

「これでわかったっピか。魔法少女にとっておいたんの言葉は地獄から這い上がる道しるべ。それに従わせないなんて、オマエのエゴでしかないんだっピ。オマエのそれは優しさではなく、本質を見誤った愚行でしかないっピー!」

 

「ぐっ! く、くそ……っ! くっそー! タケミチちゃん、ごめん! オラァ!!!」

 

「うぎゃっ! お、おごぉぉ……おおおおっ!」

 

 二人の人外にそそのかされて、俺は殴った。

 妊婦の腹を、渾身の力を込めて殴った。

 聞きたくない。痛みに悶える声にならない悲鳴。涙とよだれと嗚咽が漏れている。

 

 そして──。

 タケミチちゃんのスカートの中から……何からボトリと落ちた。

 

 …………タマゴ?

 それも大きい。ダチョウのタマゴよりも大きく思える。

 

「あ〜! 銀のタマゴっピか〜! まあまあっピね! さあさあ、何がでるかな〜?」

 

 タコは触手を伸ばしてそれを掴むと、ぎゅっと力を込めてあっという間に割ってしまった。

 バリンバリンと音を立ててタマゴの殻が崩れると、その中から現れたのは……木槌……?

 

 木槌?

 人がタマゴ産んで、その中身が木槌?

 

 え、なにこれ?

 

「よーし! これで準備万端だっピ! おいオマエ! いつまでもボケっとしているんじゃないっピよ! さあさあこれ持って! いざ魔法少女をぶっ倒しに行くっピー! 『おいたんテレポート』っピ!」

 

「え!? うわっ!」

 

 ルシフェル様が号令をかけると、なんか立ち眩みのように、視界がブレた。

 しかし次の瞬間、俺はいつの間にか、暗雲が立ち込める屋外に佇んでいて、そして目の前には……!

 魔法少女!!!

 

 い、いや……だけど、え!?

 なんか様子がおかしい……?

 

「むぐー! むぐぐー!」

 

「さあ大人しくするっピよ、魔法少女! ふはははは! どうだ、身動き取れんだろうっピ!」

 

 魔法少女は既に、ルシフェル様が捉えていた!? え!? また!? てかルシフェル様強っ!?

 俺何もしてないけど!?

 

 赤いフリフリのドレスを着た少女。身長は俺の胸元よりも低い。

 ドレスと同じ色の燃えるような赤髪が小顔に可愛らしく似合っている。アイドル級に可愛い。

 

 そして、辺り一面、瓦礫の山……。

 人の気配が一切しない荒野だ……。

 その中に一人だけいる彼女。それを押さえ付けるルシフェル様。

 

 やはり彼女は、魔法少女なのだ。

 人類に仇なす敵。

 俺の両親を殺した奴らの仲間……っ!

 

 目の前で囚われている少女を見て、一瞬だけ可哀想なんて思いもしたが、すぐに、それよりも強大な憎しみの感情で塗りつぶされた。

 魔法少女!

 生かしちゃおけない!

 俺の気持ちを察してか、ルシフェル様も後押しする。

 

「さあオマエ! やるっピ! オマエが持つその木槌は『Bランク神器』【地裁のガベル】だっピ! 魔法少女が産み落とした神の武器! 抗える者などいないっピ! さあ!……ぶん殴れっピー!!!」

 

 言われるまでもないっ!

 

「オラあああああっ!」

 

 全力で振りかぶったガベルは、吸い込まれるように、魔法少女の脳天へと導かれた。

 

「ぐぎゃあーっ!!!」

 

 魔法少女の口から嗚咽が漏れる。その目にはみるみる涙が溜まり、粘度の高いよだれが口の端から垂れてきた。

 おい、待て。待て待て待て。

 

 ――なんでこいつが、こんなにも被害者ヅラしてんだ?

 ますます込み上げてくる怒り……!

 被害者は俺だろっ! 俺たち人類だろうがっ!

 ふざけるな! 許せねぇ! 絶対にぶっ殺す!

 

 顔が熱く燃え滾り、下腹部がじんじんと痺れる。ここが丹田ってやつか。なんて、怒り心頭ながらも僅かにある冷静な部分が解釈した。

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 俺は抑えきれない感情のまま、手にした凶器拳を固く握りしめて、奴のどてっ腹にぶち込む――!

 何度も!!! 何度も!!!

 

「オラッ! オラァ! オラ死ね! くたばれ! 死ねよクソが! 魔法少女がァ!」

 

「アギッおごぇっ! ブギィ! いだ、いだぁ! いだいよぉ! やめてっ、タスケデェ!」

 

 助けて欲しかったのは俺のほうだ!!!

 被害者ヅラしてんじゃねえ!!!

 

「ふざっけんな! ボケ! オラァ! 死ね! 死ね! ぶち殺すぞゴラァ! 死ねぇ!」

 

「ぎゃあっ! ごべ、んだ、ざい! ごべんなじゃい! ゆりゅひて……っ! ひぃ!」

 

 魔法少女の顔面がボコボコに腫れ上がる。かわいらしい小顔が青あざに染まり、出血の赤に染まり、涙も赤かった。

 露出した腹部ももはや内出血が黒く見えるほどのひどい痣だらけ。俺のパンチの狙いも大味で、太ももや二の腕なんかも殴っていたようで、そこらへんも赤く青く黒く、小学生のパレットのようだと思った。

 

 タコに締め上げられているからガードもできないし、痛む箇所を押さえることさえできない。

 ははは、ざまあみろ。

 

「よしよし。……頃合いっピね」

 

 満足そうにタコは唸ると、自身の触手を一本、にゅーっと伸ばした。

 先細りした先端を、まるで拳のようにぷくーっと膨らませて、そしてすかさず、殴るように魔法少女へブチ込んだ。

 

「オラァ! おいたんの子を孕めッ!」

 

「ひぎぃいいいっ!?」

 

 タコは魔法少女へと突き刺した触手を何度かドクンドクンと脈打たせた後、満足そうに、それを抜いた。

 タコの触手には生々しい鮮血が付着していて、気色悪かった。やっぱりタケミチちゃんの時も、この時に孕ませたのか。

 

「ふうー! これにて一件落着っピ! またもや魔法少女の【浄化】に成功したっピよ! 二連続成功! イエイっピ!」

 

「はあ……はあ……。よかったですね……」

 

 宙に浮かぶ赤髪の魔法少女を見る。もはや髪色で赤いのか血で染まっておるのかわからない。

 そして、お腹が風船のように膨らんでいた。

 

「これで……タケミチちゃんの贖罪は……果たされたんですよね……」

 

「もちろんだっピ! 立花タケミチの罪は、ドブ川に真水を一滴垂らしたくらいには薄まったんじゃないっピかね〜? ま、これからも罪を償う意識を忘れなければ、いずれ神は完全に許してくれるっピよ! ふはははは!」

 

 ……そうか。それにしても疲れた。

 今日はもう、寝よう……。

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