手綱を握れ!人ちゃん&響ちゃん!   作:エヴォルヴ

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性癖の開示をしてくれる人が多くて助かる。


リーダーってあんまり得意じゃない

 ────────―耳郎響香と心操人使には、大切な思い出がある。幼馴染との、大切な思い出。

 

「俺、ヒーローになりたい」

 

 人見知りな幼馴染だった。

 いつも自分達の背中を追いかけている幼馴染だった。

 正直な話、個性が発現した直後でも頼りがいなんて全くない、困った幼馴染だった。

 

「この力は、人を傷付けるためのものじゃなくて、人を助ける力なんだって証明したい」

 

「イレイザーヘッドの訓練は厳しいけど……二人と一緒にヒーローをやれるなら、どれだけ苦しくてもいい!」

 

「なるんだ! 響ちゃんと人ちゃんと、一緒に! ヒーローに!!」

 

 しかし、やると言ったら止まらない幼馴染でもあった。個性を制御するための訓練をプロヒーローの監修の下で行う幼馴染は、頼りがいのない幼馴染ではなかった。誰よりも輝いていて、強く鮮明な光を放つ一等星のような人となっていた。

 来る日も来る日も、個性を制御して使いこなせるようにする訓練を続ける幼馴染に感化されて、その訓練に混ざった。置いて行かれたくない、お前の隣を走っていきたいんだと心の中で叫びながら、駆け抜けた。

 

「響ちゃんと人ちゃんに、何してる……」

 

 ある日、公園で遊んでいた時、上級生が耳郎と心操をいじめた。耳郎はイヤホンジャックの個性が地味だなんだと、心操は個性がヴィラン向きだと馬鹿にされて。何も言い返せずに震えていた二人の前に立ち塞がったのは、丁度イレイザーヘッドとの訓練が終わった多々良であった。

 

「響ちゃんの耳は、泣いている人に気付いてあげられる。苦しんでいる人を見つけてあげられるんだ」

 

 その言葉は。

 

「人ちゃんの声は、ヴィランも、ヒーローも助けてあげられる。その声一つで、誰も傷付けずに助けられるんだ」

 

 どこまでも純粋で、本気で言っていて。

 

「俺はそれに助けられた。……響ちゃんと人ちゃんは、俺のヒーローだ。オールマイトよりも凄い、俺のヒーローなんだ」

 

 その言葉が、二人の心を包み、癒した。

 

「俺のヒーローを泣かせたな……!!!!」

 

 秋の寒空から放たれる冷たい空気を消し飛ばすような、炉の炎が多々良の中から溢れ、上級生が恥も外聞も気にすることなく腰を抜かし、涙を流しながら逃げていく姿と、炉の炎を燻らせる多々良の姿はオールマイトにも負けないくらい大きく見えて。

 

「ふん……! あ、二人共、大丈夫!? どこも怪我してない!?」

 

「あ、そういえばこういう時ってこう言うべきなんだよね?」

 

 そう言った多々良壱譚は太陽のように輝く笑顔を浮かべて、二人に手を伸ばした。

 

「もう大丈夫! 俺が来た!!」

 

 これが、二人の大切な思い出。ずっと一緒にいようと、もう一度心から決心した、大切な原点(オリジン)。このことを多々良はもう覚えていないかもしれない。だが、それでも耳郎響香と心操人使は覚えている。ずっと忘れることのない、大切な記憶だ。

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 ウチは間違いなく面倒くさい女と区分される側の人間だと思う。

 壱みたいに明け透けにすることはできないし、するつもりもないが……ヒーロー志望の前にウチだって普通に恋愛に興味のある一人の女子だ。ああして純粋な好意を向けられるのは凄く嬉しいし、人使が言う通り、もっと押されたら落ちる自覚もある。ただ、あいつもあいつでこの関係が崩れるのが嫌なのか、あれ以上グイグイ来ることもない。本人は気付いていないみたいだけど、あいつは結構臆病だから、三人の関係が歪んだりするのが潜在意識レベルで嫌がるのだろう。

 そんな壱に向けて人前ではもう少し控えろとは思いつつ、もうちょっとベタベタしてきてもいいくらいには思っているんだけど。あの変態性を出さないと甘えられないくらい不器用なやつに何を言っても無駄な気がするけど。

 

 面倒くさい女に区分されると感じるのは、壱への激重感情が心の中で渦巻いているところだ。これについては人使も同じだろうが、それとは若干違う。壱をずっと見ていたいという想い。壱が笑っているところを一番近くで見ていたいし、壱が向けるあの楽しそうな笑顔も、ハートマークが溢れ出ているような笑顔も、全部自分にだけ向けていてほしいと思ってしまうところがあるから。今後、そういう人は現れないとは思うが、もし現れたとしても声を大にして言うだろう。最初に見初めたのはウチだ。手を繋いで、ずっと一緒にいると、見続けると約束したのはウチと人使だ。今更彼の良さを見出した人が現れたとしても、この場所は絶対に渡さない。誰にも渡してなるものか。

 

「響ちゃん、人ちゃん、屋上あるみたいだから、今日はそこで食べない?」

 

「おー」

 

「中学は屋上禁止だったもんね」

 

 そんなドロドロした感情を表に出すことはなく、壱の声に応じたウチは、壱が作った弁当が入っている大きめの包みを持って廊下に出る。

 オールマイトの授業を終えた翌日の今日。マスコミに囲まれそうになったり、

 

「あ、そういえば友達できたよ!」

 

「友達? A組以外で?」

 

「うん。物間君って人なんだけど、凄い人だよ」

 

 丁度呼ぼうと思ってたんだ、と途中にあるB組の教室のドアを開けてB組の教室に入っていく壱。いつの間に友達を作ったんだか……あ、どうもB組の人達。ウチの壱がお世話になっております。脳破壊されてない? え? ギリギリ耐えられた? 強くない? まぁ、発情顔見せてるわけではないみたいだから、まだ脳破壊される可能性があるから備えな。

 

「物間君、今暇? お昼、一緒に食べない?」

 

「おや、多々良君じゃないか。誘ってくれたのは嬉しいんだけど、今日はもう先約があってね」

 

 壱が声をかけたのは、髪を7:3? 8:2? で分けている清潔感のある金髪の男子だった。

 

「ありゃ、それは残念。じゃあ、また今度ね!」

 

「ああ、また機会があれば」

 

 ……物間という男子は、結構強かな人間なのかも。参謀キャラが似合う男ってやつ? 系統的には人使に少しだけ陽の気を混ぜたような感じの人間と見たね。合同訓練があったら、是非とも組んでみたいかも。どういう個性なのかは……物間……ものま……ものまね? もしかしてコピー系の個性? 強くない? どの程度までコピーできるかによるけど、注目を掻っ攫う主役になれる個性じゃん。

 

「じゃ、B組の皆もまたね!」

 

「陽キャだ……マジもんの陽キャだぞあいつ……」

 

 いや、人見知りを全力でねじ伏せて頑張ってるだけで、どっちかって言うと陰キャの部類だよ壱は。

 

「お前、放っておいたらマジで地平線の更に向こうへ行きそうだな」

 

「褒めてる? 褒めてるよね? ありがとう」

 

「皮肉で言ったつもりだったんだがな?」

 

「知ってるよ♡」

 

 唐突に発情顔を晒すな馬鹿。

 

「にしても学級委員長かぁ……飯田君が適任だと思ったから投票したら案の定だよね」

 

「ドンピシャって感じだったな」

 

「副委員長のヤオモモもいるし、結構円滑に回してくれそうだよね」

 

 A組女子全員が頷いた、発育の暴力こと八百万百。個性は『創造』という壱と若干似ている個性だが、壱と違って原子構造などを理解していれば色んなものを作れる。極論、核爆弾だって作れてしまう扱いの難しい個性だ。そういうところも壱と似ているかも。……いや、本当に? 本当にそう? ヤオモモはあんなふざけた武器は作らないよ? 別系統では? 

 

「ところで壱、今日の弁当は?」

 

「唐揚げと角煮とレバニラとおにぎりとサラダとヒジキ。あとデザートのオレンジ」

 

「茶色茶色してんな」

 

「でもこうでもしないと多分スポーツ貧血起こすよ?」

 

 壱はほぼ一人暮らしのような暮らしをしてきたから、料理が上手い。いや、マジで上手い。ウチや人使が作った料理の方が美味しいと心の底から言ってはくれるが、水分を持っていかれないのにビシャビシャしていないレバニラとか、華やかな肉鍋とか、分厚い卵焼きとか、難しいものから簡単なものまで、凄いクオリティで作れるのだ。……うん、ウチも人使も胃袋を掴まれてしまっている。美味しいのが悪い。

 

「スポーツ貧血なぁ……何だかんだあんまり教えられない話だよな、そういうのって」

 

「そもそもアスリート自体が少なくなってるし、仕方ない感じはある」

 

「でもヒーローは体が資本なんだし、教えてもらえそうだよね」

 

 そんなことを話しながら、屋上に到着したウチらは、超コンパクト収納が可能なレジャーシートを敷いて、弁当の包みを開く。……うん、相変わらず美味しそうじゃん。このビジュアルだけでご飯二杯はいけるね。

 元々あんまり食べる方じゃなかったけど、壱の手綱を握り続ける中で体を鍛えるためにたくさん食べるようになったので、このくらいならぺろりと食べきれる。しかも海苔や高菜を巻いたおにぎりにしているので、手が汚れにくいし、多めに食べられるのがポイント高い。お、梅干し入ってる。

 

「んま」

 

「うめぇなやっぱり」

 

「高菜と明太子の組み合わせ最高」

 

「「分かる」」

 

 モッ、モッ、モッ、とおにぎりを食べながらおかずに手を付ける。うーん、家庭的でホッとする味……ランチラッシュ先生が作る料理も凄く美味しいんだけど、こういう家庭的な────いや、壱の味付けに慣れてしまっていて、こっちの方が好みに感じるのだ。

 

「そういえば壱」

 

「ん?」

 

「感度上昇系は媚主絶天に全部混ぜてるみたいだけど、あれ、混ぜる条件ってあるのか?」

 

 それについては、ウチも気になっていた。ネタと真面目8:2の割合で生まれる武器の中には同じ形状、若干違うけどほぼ同じ能力を持った武器もある。それをずっと壱の中で眠らせるわけにもいかないだろうから、たまに混ぜているのを見ていたけど、確かに条件がありそうなものだ。

 

「ああ、あれ? 同じ武器種、同じ系統の能力じゃないと混ぜられないよ」

 

「となると淫語刀と媚主絶天は混ぜられないわけか」

 

「だね。淫語刀と薔薇陸奥と無明も混ぜられないよ」

 

 意外と条件が厳しいようで、混ぜ合わせる際には色々と考えないといけないみたい。

 

「あと、混ぜ合わせて安定するまでは使えなくなるんだよね。大体一週間から二週間くらい」

 

「ふーん……結構条件あるもんなんだな」

 

「少し前に、別系統の武器を混ぜ合わせようとしたらやっぱり反発しあって怪我しちゃったんだよね……あれは痛か────」

 

 瞬時に体が動いた。ワイシャツを無理矢理脱がせ、細い体をまじまじと見て、治りかけている切り傷を見つけて触れる。

 

「響ちゃんってば大胆♡」

 

「黙って」

 

「はい」

 

「やはりパワーバランスは響香が上なんだよな」

 

 触れてもくすぐったそうに笑うだけで、気にしている素振りはない。けど、やっぱり怪我をしていたことを隠していたというのはちょっと腹立つ。それで無理して倒れたことがあるのをウチも人使も忘れてないから。

 

「いつ怪我したの?」

 

「夜中も夜中。皆が寝静まった時だよ」

 

「心臓に悪いから、ちゃんと報告して。あの時みたいに倒れたら困るから」

 

「はーい」

 

「伸ばすな。夜中縛り付けるよ」

 

「緊縛プレ────」

 

「ぶっ飛ばすよ」

 

「ごめんなさい」

 

 過保護と笑われようとどうでもいい。壱はちゃんと見ていないとこうして気付いた時に怪我をしていることが多いから、私達がちゃんと見ていないといけない。その事実を再確認しながら、昼休みの時間は過ぎていった。

 ────────―そういえばマスコミが侵入してきたとか何とかいう話もあったけど、ウチらは屋上にいたからよく分からないんだよね。誰が侵入の手引きをしたのやら。

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