連絡が完了してすぐに、俺はスロットに入れていた弓を構え、矢を番えて弦を引き絞る。弓の名前は【
「『USJ!! 俺の友達を、先生を! 助けて!!』」
鯨の鳴き声のようにどこまでも声を届ける矢を放ち、情報を拡散させること!! 学校の、誰でもいい!! 根津校長先生がアナウンスを行うまでに時間がかかる。その間に、誰かが傷付くかもしれない。誰かが死んじゃうかもしれない。そんな思いを込めた矢を放つと、音速と言える速度で学校に飛んでいく矢。その数秒後、USJから飛び出してきたのは飯田君。とんでもない速度で走っている彼は俺のことを見て驚いた顔をしたが、すぐに前を向いた。
「飯田君! 伝えた! お願い! 任せたよ!!」
「ああ! 任された!!!!」
エンジンが焼け付くのではないかと思う速度で走り去っていく飯田君を見送った俺は、くるりと旋回。弓をスロットに放り込んだ後、無明を取り出して駆け出す。
「無明、行くよ……絶対に誰も殺させない!」
アドレナリンとかがドバドバ出るし、あの反応速度にかまけるのは良くないので、使用頻度を控えろと相澤先生から説明されている媚主絶天は使えない。無明を含めたいくつかの武器を組み合わせながらシナジーを生み出していかなければ、俺は相澤先生を援護できない。ただの足手纏いになる。
「イレイザーヘッドォ!!」
「多々良か!」
「お元気そうで何よりです!」
「ああ、お陰様でな!」
おお、なんか目が艶々してる。潤いに満ちているということは、目薬短剣使ったんだ。
「生徒かよ。黒霧のやつ……ワープ持ちじゃなかったら壊してるところだ……まぁいいか……生徒の一人でも殺せば、平和の象徴の尊厳を傷つけることはできるだろ……」
やかましい。ガサガサ声で話すなよ。のど飴食べろよ、風邪気味か? はちみつ生姜レモンがいいぞ。
「相澤先生! 今の最善はあんたが元気であることです! 分かってますよね!?」
「遺憾なことにな! 守りは!」
「盾は寝てます!」
「なら他で何とか凌げ!」
「了解────愚瀉ツ刀ォ!!」
「ぶっ!!?」
近付いてきた手まみれ男に愚瀉ツ刀を叩き付けてぶっ飛ばす。全身余すことなく打ち身状態になっているはずだが……手応えがそこまで無かった。受け身を取られてしまったらしい。しかも、愚瀉ツ刀の刀身の一部が
「先生、あいつの個性……壊すことに特化してますね」
「ああ、みたいだな」
「いってぇな……本当にヒーロー志望かよ?」
「死なない程度に殴りはしたよ」
やっぱり無明で斬った方が簡単に攻略できそうかな……凌ぐのは、結構得意だ。響ちゃんと人ちゃんの連携に比べたら、どんなものも怖くない。
「けど、分かった。30秒……動き回るから分かりづらいけど、髪が下がった時、個性が解除される……」
「俺を忘れるなよ、手まみれ男!!」
鞘に納めた無明で殴ろうとするが、手加減し過ぎたせいで鞘を掴まれてしまった。力加減が難しくて参るね、本当に。徹底的に時間を稼いで稼いで、救援が来るのを待つのが最善手。その条件を達成するには、やはり相澤先生の存在が不可欠だ。
「生徒と言ってもやっぱりヒーロー志望……良い動きするなぁ」
「やらせねぇよ!」
「チッ、ドライアイって聞いてたのに、個性じゃんじゃん使うじゃんか……」
「厄介な教え子がいるもんでな!」
厄介って……お世話になっております相澤先生。本当にマジでお世話になってます。
というかもしかしてこのヴィラン……個性の発動条件が割と厳しいタイプの個性を持っているのか? あの崩されたのが個性なのだろうが、手で────いや、五指で触れたものを崩すって感じの個性?
「射程が短い代わりに破壊力はダンチなわけか……」
「多々良、油断せず行け。俺が見てる。ヤバくなったら下がれ」
いやぁ、下がるのは無理でしょ。他にもヴィランがいるし、仮に俺が下がってもまた鼬ごっこが再開されるだけだと思う。時間稼ぎが目的ならそれでも構わないのかもしれないけど、俺が下がった結果、あのヴィランが相澤先生の目を狙ってあの個性を使ったとしたら、なんて想像したくない話だ。あのヴィラン、相澤先生の個性が解除されるタイミングも理解していたし、結構厄介だぞ……
とりあえずあいつの手に捕まれないように鞘有りは無しの方向で行こう。さすがに怪我をするとなれば、あのヴィランも────
「やるなぁ、ヒーロー。けど、残念だなぁ……本命は、俺じゃない」
「は────」
「多々良ァ!!!」
相澤先生の声が嫌に響いた時には、俺の体が宙に飛ばされていた。何を、された? 何が、突っ込んできた!?
「鎧が無かったら即死だった……!!」
「へぇ、不意討ちを耐えたのか……でも、一撃でボロボロだなぁ、ヒーロー志望……」
グワングワンと頭が揺れる中、いきなり現れた黒い巨人……気味が悪い見た目をしたそれは、生きているようには見えず、ただひたすらに動いているだけの肉人形に見えた。異形型……じゃない。脳味噌が剥き出しになっているなんて、人間として────いや、生物として欠陥もいいところだよ。そんなやつに目にも止まらない速さでぶん殴られた俺の体は、痛みで悲鳴を上げていた。マジで鎧が無かったら即死していたかもしれない。ダイラタンシーが入っている装備でもお願いするべきかなぁ……
「対平和の象徴改人『脳無』。圧倒的な力を持った化け物さ」
「オールマイト対策……?」
「あのパワーは個性じゃないってのか……?」
ああ、くそ、動け俺の体。立ち上がれ、立って戦え、立って守れ。今、この状況で相澤先生がダウンすることが一番の最悪だ。俺の体は二の次で問題なし……! リカバリーガールもいる! 腕が千切れたとしても生やし丸がいる! 立て! 死ぬ気で立って戦え!!
「悲しいなぁ、ヒーロー。生徒を守れずに何が先生なんだ?」
「多々良ァ!! 死ぬ気で逃げろぉ!!!」
「冗、談……ッ!!」
あ、ヤバイあばら逝ったかも。息を吸うのが痛くて仕方がない。けど……立っていられないくらいの痛みじゃない! 相澤先生との訓練の方がきつかった気がしなくもない!!
「健気なことだ……脳無、殺れ」
心臓がバクバクと煩いが、精神的にはどういうわけか落ち着いている。走馬灯も見えていない。なら、問題なし。
脳無と呼ばれた化け物が、俺に向かって拳を振るう。兜兼仮面は無事だが、顔面にでも喰らったら首が無くなる。そんな拳を前にして、俺は無明を構え────全力で受け流した。
「……は?」
「はは……! 死ぬかと思ったわ馬ァ鹿!!」
「どうなってんだよ、お前……オールマイト並のパワーを受け流すとか……」
「余所見してんじゃねぇよ!」
「ごぁ!?」
あの手だらけ男は相澤先生に任せるしかない。
一撃でも喰らったら即死の攻撃、その一撃を何度も、何度も、何度も受け流す。こいつが野放しになったら、俺も、相澤先生も、皆も────響ちゃんも人ちゃんも殺される!! 耐えろ! 凌げ! 守れ! あの二人の隣にいたいなら、誰も泣かせないように守り切れ!!!!
「いい加減止まれ黒光り野郎!!!!」
「チート野郎共が……! クソゲーかよ……!!」
「────死柄木弔」
相澤先生と手だらけ男の間に割って入った黒い靄────黒霧って言ったか、あの手だらけ男。そいつと手だらけ男が話し始める。ワープ系個性が割り込んでくるのは聞いてない……!!
「……黒霧。13号はやったのか?」
「13号は行動不能ですが……生徒一名を逃しました」
「は? はぁ……黒霧お前さぁ……ワープゲートがお前じゃなかったら、粉々にしてたよ……」
何? 仲間割れ? 仲間割れしてるならさっさといなくなってくれるか? 俺は受け流し続けるので精一杯なんだよ。今はちょっとだけ慣れてきたから斬り付けたりもしてるけど、全く効いてない。効いてないというか、斬った瞬間再生してるんだけど!?
「チッ、流石に何十人もプロが来るなら無理か……ゲームオーバーだ。帰るぞ、黒霧」
帰る? 帰るって言ったか、今? 凌いだのか、俺は。……いや、待て。まだだ。まだ油断するな俺。ワープとあの手だらけ男の攻撃が組み合わさったら最悪の一言に尽きる。しかも、この脳無とやらが俺を無視して暴れ始めたら、もう終わりだ。
最後の手段は
「けど、その前に、平和の象徴としての矜持を────へし折ってから帰ろう」
その瞬間、手だらけ男────死柄木弔が、俺や相澤先生を無視して別の方向を向いたのが、脳無と応戦している俺の視界に映った。そこには、緑谷君、峰田君、蛙吹さんの三人がいて──────
「やらせる────」
「脳無」
「がぁッ!!?」
俺に攻撃を続けていた脳無が消え、相澤先生を殴り飛ばした。最悪のパターンを引いてしまった。相澤先生が、このタイミングで脱落するなんて……!!
「逃げて三人共!!!」
大剣を使っても、この距離じゃ、間に合わない……!!
蛙吹さんの顔に死柄木の手が触れようとした、その時だった。
「
「は────オブァアアアアア!!?」
死柄木を、誰かが、殴り飛ばして水場に叩き付けた。その背中は昔、テレビで見たオールマイトや、響ちゃんと人ちゃんの背中にそっくりで。唖然とする中で、金髪と赤いマントが特徴的な彼は、凄い勢いで三人を抱えて離脱したと思ったら、俺の隣に現れていた。
「オールマイトを含めたプロが向かってるって聞いたけどさ、やっぱり体が勝手に動いちゃったんだよね! 教室に弓矢が飛び込んできた時は何事かと思ったけど、助けを求められてるとなれば先輩として、ヒーローとして動いちゃうよね!! でもちょっとだけ焦ったよね! 色んな場所を巡って一年生を助けて回って、イヤホンの女の子とイレイザーと同じ装備をした男の子にこっちに向かえって言われて、到着したと思ったらイレイザーは倒れてるし、ヴィランっぽいやつは一年生に攻撃しようとしていたし! いやぁ、危なかった! でも間に合ってよかったよ本当に!!」
「え、あ、あの……?」
「その声! 君が助けを呼んだんだね! 見たところ弓矢っぽいのは見えないけど、そういう個性かな!? っと、その前にもう大丈夫! 俺が来たからね!」
「援、軍……?」
「ああ! 俺は通形ミリオ! 君の先輩だよ!」
ああ、良かった……援軍が、やっと来たよ……相澤先生は重症だけど、間に合った……誰も、多分死んでいない……良かったぁ……彼────通形先輩曰く、響ちゃんと人ちゃんも無事みたいだし……
「ごめんなさい、先輩……ちょっと、もう限界です」
「うん、任せて」
あ、ヤバイ。マジで緊張が解けて──────
というわけでいらっしゃいました、我らがルミリオン。これが原作との相違点じゃ。