リカバリーガール曰く、俺は緊張の糸が途切れた時点で疲れが一気に襲いかかり、気絶していたそうだ。
あの時────USJに襲撃かましてきたヴィラン達は通形先輩によってほぼ完全制圧、その後やってきたオールマイトを含めたプロヒーローによって抑えられ、しかし搬送中に逃げられたと聞く。逃走手段を残していた、というよりもあのヴィランの後ろに頭の回るヴィランがいたということだろう。ここまでは相澤先生に説明されたし、俺と一緒に根津校長先生から説教をいただいていた通形先輩と……あと、通形先輩の後に続いてやってきたという天喰環先輩? と波動ねじれ先輩? からも説明された。通形先輩を含めた三人はBIG3と呼ばれており、雄英の中で最もプロに近い実力をお持ちの先輩らしい。
さて、気絶したまま運ばれた俺はというと、目覚めた後すぐに警察の方々の前でお話をすることになりました。まぁ、話すことなんてそこまで無かったので、すぐに解放されたけど。まぁ、そんなことより。
「今日はカレーよー」
「「どれだ……?」」
「猪」
「「よっしゃ、当たりぃ!」」
最近ジビエにハマっております我々とんちき三人組。地元のマタギさんから安く購入できた肉を冷凍庫にぶち込んでいるので、最近の食卓は専らジビエです。
「つうかよく生きてたよなお前」
「死ぬかと思ったよね、マジで。通形先輩もだけど、三年生ってめっちゃ強いのね」
「知ってる。一瞬で制圧していったし。天喰先輩だっけ……やばかったよ、マジで」
「波動先輩の遠距離攻撃もヤバかったな。何だあれ……捻じれて放たれる波動って何だよ……」
「やっぱり筋肉か……? 筋肉なのか……?」
「やはり筋肉……! フィジカルが全てを解決する……!!」
フィジカルモンスターの到達点を見た人ちゃんがカレーを頬張りながらそんなことを呟く。いいよね、人ちゃんは。筋肉が付く体質で。
「真面目な話、運が良かっただけだろ、俺達」
「だろうね。もっと鍛えなきゃ」
「うん。……そういえば先輩方に個別指導していただけるように土下座したんだけど結果聞く?」
「何やってんだお前。結果は?」
「何やってんのあんた。結果は?」
「OKだって! ご指導いただけることになりました!」
「「馬鹿だがよくやった壱」」
んひひひ。いやぁ、言ってみるもんだねぇ。通形先輩は即断即決だったし、それに付随して残り二人の先輩も指導してくれることになった。うーん、我ながらラッキーマン。
「ただし、条件付きだって」
「条件?」
「うん。雄英体育祭とインターンもあるから毎日は無理だって!」
「雄英体育祭……ああ、そういえばそろそろだったね。……やっていいの?」
まぁ、それは質問したよね。そしたら返された答えが「ヴィランに襲撃されたからこそ、雄英のセキュリティの強さを強調する」とか何とか。他にも色々言われた気がするけど、覚えてないや。今年のセキュリティは例年の五倍らしい。
「それはそれとして。明日は休校らしいよ。どっか行かない?」
「いやぁ、不要不急の外出は避けるべきだろ」
「やっぱり?」
「そりゃそうでしょ」
やっぱりダメかぁ。まぁ、そうだよね。
ならば家でゴロゴロするしかないか……二人と一緒にゴロゴロするならどこでゴロゴロしても最高の時間になるので問題なし。壊れかけの武器の整備もしないといけないし、時間があるというのは善いことだ。グループチャットには安否確認のメールも送ってあるし、今日は武器の整備をして、明日は全力でゴロゴロするぞー。
「つうか壱、体はもう平気なのか?」
「ん? うん。どこも痛くないよ。リカバリーガール先生の治療もあったし」
「本当に?」
「本当、本当! 傷一つないよ!」
愛されてるなぁ、俺。好きな人に向けられている愛が重いって素敵。
代わりに俺のコスチュームは再起不能レベルに壊れちゃったけど。直って返ってくるまでに少々時間がかかるらしいけど、どれだけ時間がかかるんだろう。
「にしても雄英体育祭か……負けねぇぞ、壱」
「ウチも負けないよ、壱」
「んひひひ……そう簡単には負けないよ、俺も」
そもそも、勝ち抜けるかどうかも怪しいけどね。俺よりも強い人はやっぱりいるだろうし、負けるつもりはなくても体調不良で棄権なんかもあり得るし。
「そもそも武器使っていいのかなぁ」
「んなこと言ったら切島とか爆豪とかも個性使用禁止だろ」
「そっか」
殺傷力のある個性でも、使いようなわけだ。何ができるのか、どんな相手にどう対処するのかをプロにアピールすることができる場、それが雄英体育祭。これについてはヒーロー科がメインとなるイベントだと聞くけど、下剋上だってあり得るイベントだろう。かつてのオリンピック並みに注目される日本の祭典たるこのイベントで、スカウト目的で見るプロヒーローも存在する。だから、たった三回のチャンスを見逃すことはできない。
「武器の選別もしないとなぁ」
「何を使うつもりだ貴様」
「とりあえず媚主絶天は確定でしょ」
自分に使ってもいいし、相手に使って動けなくしてもいい。正直万能すぎると思うんだ、感度上昇系短剣。響ちゃんに使っても人ちゃんに使っても最高の表情を見せてくれるし。思い出しただけで胸が熱くなるよね♡
「なぜ発情顔を晒しているのかは聞かないでおく」
「二人の感度を上げた時のこと思い出しぁ゛お゛ッ♡!?」
「食事中に喘ぐな」
「無理♡」
「もう一発行っとく?」
「いいよ♡ん゛お゛ッ♡!?」
響ちゃんの心拍音に合わせてビクンビクンしちゃう俺の体は、それでもカレーを食べ進める手を止めない。これも響ちゃんと人ちゃんの調教あってこその成果だ。最近は響ちゃんが睨みつけてくるだけで興奮するようになったよ♡……それはそれとして。
「響ちゃん、何だか心拍いつもより早くない?」
「なんで分かるの……ちょっと気持ち悪いよ」
「酷くない? まぁ、いっつも刺されてるからね。心音の感じも分かるようになっちゃった」
まぁ、あんなことがあった後だし、仕方がないだろうけど……いくら二人が強いとはいえ、いきなりヴィランとの戦闘を経験してしまったんだから、仕方のないことではある。ヴィランと出会ったのは、小さい頃以来かなぁ。あのヴィランは相澤先生の活躍で捕まったけど、脱獄したらしいし……何だっけ、あのヴィランの名前……シーラカンス……シーラ……グッピー……とにかく魚みたいな名前だった気がするけど、忘れちゃった。あの時も響ちゃんと人ちゃんと相澤先生がいたっけ。
「ウチらが言える義理じゃないけどさ、あんまり無茶し過ぎないでよ、壱」
「俺達もお前を一人にしちまったからとやかく言えないけどよ、やっぱ心配したぞ。あと、とんでもないやつと斬り合ってたって聞いた時は心臓止まるかと思ったわ」
「それはごめん」
鼓動が早いのは、俺のせいだったか……嫌なドキドキを与えてしまったことを申し訳なく思いながらも、この先も無茶をしなくてはいけない機会があるんだろうな、と思う自分がいる。心配させないように、もっと強くならなくちゃいけない。
「もっと全力で走っていくからさ、付いてきてよ」
そんなことを考えながら口にした言葉で、二人は呆れたような笑みを浮かべた後、力強い笑顔を見せて頷いた。
「当たり前だ」
「あんたこそ、ウチらに置いていかれないでよ?」
「────うん!」
そうと決まれば、もっと頑張らないと。カレーを三人で食べきり、洗い物をしている最中、俺はちょっとした出来心で提案を口にする。
「今日皆で寝ない?」(どう足掻いても快眠であることが確定している馬鹿)
「お? 怖い夢でも見そうか? しゃあねぇなぁ……」(悪夢を見そうな予感がしている男)
「甘えん坊だもんね、壱。仕方ないか」(悪夢を見る予感がしている女)
やった、通ったぞ。今日はいつも以上に快眠だ!!
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雄英体育祭が迫っていると説明された今日この頃、俺は響ちゃんと人ちゃんを連れてトレーニングルームに訪れていた。ああ、二人だけじゃないよ。三年生の皆さんはちょっと用事があるってことでいないけど、代わりに相澤先生と緑谷君がいる。
「というわけで、本日は緑谷君の個性制御案を出していきたいと思います!」
「「「わー」」」
「テンション低い声と拍手!?」
雄英体育祭が迫っているというのに、個性が制御できていないなんてナンセンスもいいところだよって話を相澤先生に伝えたら、緑谷君の個性を使い物になるようにするぞってお話がやってきました。思い出しただけで心が震える個性訓練の始まりですね、イレイザーヘッド……!!
「とりあえず緑谷君に質問です。個性を使う時にどんなイメージで使ってる?」
「どんなイメージ……一応ある人と相談して、一応頭にはあるんだけど……」
「どんなイメージ?」
「電子レンジの中で卵が割れないようなイメージ……」
「「「「んんんんんんんんんんん???????」」」」
相澤先生までもが俺達と同じ反応をした……だと……!? いや、その前に緑谷君、そのイメージを聞いて一番最初に思ったのは何言ってるんだろうこの人ってフレーズだよ緑谷君。
「え、えっと、ほら、電子レンジで卵を温めると────」
「イメージがゴミ。-100点」
「悪いがイメージがクソ。-130点」
「ごめん緑谷君、マジでイメージがゴミ。-140点」
「点数も付けられねぇ」
「心が死んでいく!!?」
ドストレートな意見を話すと、緑谷君の心にダメージが。ごめんよ緑谷君。でもマジでイメージがゴミ過ぎるよ。
「卵って電子レンジで温めると確かに爆発するけど……何ワットで温めると爆発するの? どのサイズが爆発するの? 何秒以上温めると爆発するの? 俺はそれを知らないんだけど……緑谷君は知ってる?」
「!! ……分かってないや……!」
「うん、そりゃあ暴発するわ……」
「100か0かでしか制御できないのはイメージの問題か。緑谷、一度イメージをまっさらにして新しくイメージを構築してみろ」
「一からイメージを……」
ちなみに俺のイメージは本当にシンプルなものだ。火。薪に火が燻っている状態からスタートして、強く燃え上がったり、弱くなったりするイメージ。バイクのアイドリング状態を維持し続けるイメージも併用している。個性を完全に抑え付けると昔のテンションが低い人見知り状態になってしまうので、この状態を常に維持し続けているのだ。
「というか緑谷、お前、どうして個性を『部位ごとに』使ってるんだ?」
「あ、確かに。個性って身体機能の一部なんだから、部位ごとに使う必要なくない?」
「え?」
「なんで100%を腕や指のみに使うなんてことしてるのかって話だよ、緑谷君」
「なんでって、そりゃ、この力が強すぎるから────」
「ここで問題です。俺達の体に流れているものはなんでしょう?」
「え!? そりゃ血液だけど……」
「じゃあ、その血液を循環させているのは?」
「し、心臓……?」
「うん。じゃあ、緑谷君は心臓を考えて動かして血液を循環させてる?」
「いや、それは体が勝手に────!!!!」
お、なんかひらめきがあったようだ。
「そうだ、僕は今まで個性を部位ごとに選択して100%を使えるようにスイッチを切り替えていた! 必要な時、必要な箇所に使っていた!! でも違うんだ、個性は身体機能の一部! どうして一か所に一極集中することしか考えていなかったんだろう……! 使うってことに固執する必要は全くなかったんだ……!! 体の一部に意識を向けるんじゃなくて……もっと自然な感じでいい! 100%の力を一部ではなく、中心から末端に至るまで満遍なく……
緑谷君の体に緑色の電気のようなものが弱く帯電し始めた。何か掴んだね、緑谷君。
「100%を末端にまで満遍なく分配することで────常時身体許容上限2%……!!」
「掴んだな、緑谷」
「はい! でも、これ維持するのに凄く集中力が……!!」
「ブレたら止める。そのための俺だ。それに、心操もいる」
俺と響ちゃんはあんまり止めることには貢献できないからなぁ……あ、でも出力維持のために感度を上げて感覚を覚えるっていうのはアリかもしれない。リスクはあるから、そのうちになっちゃうけど。
「その状態でどこまで動けるか試してみろ。サンドバッグとして最適なやつもいる」
「あの、俺のこと言ってます?」
「他に誰がいる」
「うっす……じゃ、やろっか、緑谷君」
「お願い、します!!」
「よろしく。んじゃ……淫語刀でいい?」
「全力で回避させてもらうよ……!!!!」
危機感を煽ると人は成功したりしなかったりする。緑谷君は恐らく前者。頑張ろうね。