重箱三つを綺麗に食べきった俺達は、事前にプレゼントマイク先生やミッドナイト先生に言っていたレクリエーションの準備を行っていた。うーん、やはり馴染むぞベースとピック。そして衣装も完璧よ……夏の制服だけど。
「あれ? 耳郎ちゃんチアやらないの?」
楽器のチューニングも終わったので、いざ会場へ────という時にチアガールの衣装を着た葉隠さんが現れた。……あれ? A組女子の皆がチアガールの衣装だ。
「そもチアって何……? 相澤先生に何も聞いてないんだけど」
「午後の部は確かにアメリカからチアガール呼んでるらしいけど、そんなの聞いてるか? 壱」
「知らない。そもそも興味無いし……」
というかそのチアガールの衣装、八百万さん作? 創造に使うエネルギー大丈夫?
「というかそろそろ時間だし」
「そういえば、その楽器どうしたの?」
「事前に話を通して持ってきてたんだよ、これら。キーボードが無いのがネック」
ドラムを運ぶのがちょっと時間かかるから、さっさと運び出したいんだけど。……いや、ギリギリまで日陰に置いていた方がいいかも。
人ちゃんと響ちゃんが女子の皆にレクのことを話していると、芦戸さんが思い付いたように手を叩いた。
「曲に合わせて私達が踊るってどう!?」
「いいんじゃない?」
「多分行ける……かも?」
「まぁ、踊れる曲は入れてあるしな」
「結局チアはやるのね」
「楽しい方がいいよー! やったろ!」
「ケロ。透ちゃん好きね」
それについては同意する。何事も楽しんでやった方が楽しいに決まってるからね。
「とりあえずチューニングはまたやるとして、一旦集合かな?」
「本戦の抽選もあるみたいだしな」
「ところで何演奏するの?」
「まぁ、色々。曲は全部皆がよく知ってるやつばっかりだよ」
曲のリストを女子の皆に見せながら、会場に向かう。なんかプレゼントマイク先生が驚いているんだけど……これは、あれだな? 女子の皆さん騙されたな? やりそうなのは……峰田君と上鳴君かなぁ。ダメだよ二人共、そういうのは同意の下でやるものなんだよ? これでクラスの雰囲気がギスギスしたらどうするのさ。というか響ちゃんもチアガールの衣装着させられそうだったってこと?
「………………」
「葛藤している! 淫語刀か媚主絶天か薔薇陸奥かで葛藤している!!」
「上鳴、あんた尊厳崩壊すること覚悟しときな」
「あれ? もしかして俺詰んだ……?」
峰田君は戦わないから合法的に斬れないしなぁ……まぁ、次回の戦闘訓練の時とかに斬ればいいか。震えて眠れ。
「多々良ァ……お前は見たくねぇのかよぉ……耳郎の生足のチアダンスを……!!」
「いや、特には。響ちゃんの魅力を露出だけで語らないで」
「峰田、こいつは響香のことになるとこうだから止めとけ? あと俺も黙ってないから止めとけ?」
「男には退いちゃならねえ時が──────―」
お、洗脳が入った。これでしばらくは安心だ。
「そういえば去年はスポーツチャンバラだったけど、今年はどんな本戦が────」
『今年の本戦はガチバトル! ガチンコバトルで雌雄を決せ!!』
緑谷君が去年の競技について話した直後、プレゼントマイク先生が本戦の内容を説明する。一対一のタイマン勝負によって世代の王様が決定するらしい。クソみたいな戦い方はご法度だそうだけど、どこからどこまでがクソな戦いなのだろうか。
────あ、ちなみに抽選の結果は以下の通り。
緑谷VS心操
轟VS瀬呂
物間VS上鳴
多々良VS耳郎
飯田VS発目
芦戸VS切島
常闇VS八百万
爆豪VS麗日
なるほど?
俺が勝ち進めたら、緑谷君か人ちゃんか轟君か瀬呂君と戦うことになるのか。というか初手から響ちゃんと戦うことになるのか……マジですか。強敵じゃないか……
「よろしくね、響ちゃん」
「手加減したらぶっ殺すよ」
「しないしない! そんなことしてる暇ないよ」
「緑谷か……あいつも中々強いからなぁ」
「勝ち抜いたら俺が相手だね♡または響ちゃん♡」
「今からでも棄権していいか?」
「したら夜に壱を差し向けるよ」
「オーケー、落ち着けよ」
さぁて、レクリエーションもあるし、全部楽しんでいこうじゃないか。誰よりも楽しんだ者がこの体育祭を制したと言えると思うんだ。だって、しかめっ面してるヒーローを見て頼りがいのあるヒーローだとは思わないじゃん? オールマイトはよく笑ってるし。
『さぁて! 抽選も終わったところで現在トップを独走中の三人組のレクリエーションだ! 生演奏だってよイレイザー!!』
『俺に振るな』
『曲は────随分と懐かしい曲が多いな! この特撮のOPなんて懐かしくて泣けてくるぜ!!』
『リマスター来てたの見て大興奮してたな、お前』
おや、プレゼントマイク先生も特撮見てたんだ。しかもドンピシャでしたか。じゃあ、しっかり演奏していかないとね!
「で、ボーカルは俺でいいの? マジで?」
「どう考えても俺じゃねぇだろ」
「言い出しっぺが歌いな」
「ハスキーボイスとテノールボイスで幸せを届けてよ」
「いや、ドラムに専念させてくれ」
「文化祭で機会あったら歌うからさ」
ふうむ、それなら仕方がない……今回は退こう。だが、文化祭では人ちゃんと響ちゃんに歌ってもらうからね……! よし、切り替えていこう。
楽器の運び込みを行い、セメントス先生が準備してくれたステージに立った俺達は、たくさんの視線を一気に浴びながらもチューニングを終え、マイクの電源を付ける。
「じゃ、本戦の前の前座としてできるだけ盛り上げられるように頑張ります!」
拍手やら口笛やら野次やらが聞えた直後に、人ちゃんのドラムスティックが音を鳴らした。────―行くよ。
──────────────────────────────────────
『Hey Guys!! Are you ready!!?』
『最高のオープニングを経てのガチンコ勝負!!』
『頼れるものは己のみ! 心・技・体!! 知恵!! 知識!! 五感を通り越して第六感!! 全部を総動員して栄光の金メダルを掴み取れ!!』
いい汗かいたので汗ケアをやってすぐ。ついに最終種目が始まった。A組のチアガールのお蔭で大盛り上がりしてくれて良かったよ。
さて、そんな最終種目のルールは至ってシンプル。相手をステージから落とす、あるいは戦闘不能にする。それと、参ったなどの降参を示す言葉を言わせることで勝利。うーん、脳筋なルールだ。こういうルールだと、搦め手を得意とする人は勝ち抜きにくい気がするけど、どうだろう? 可能な限り体を鍛えるか、個性の使い方を考えろというのが雄英の主張なのかな。フィジカルの権化みたいな人が結構いるもんね、雄英。
『第一回戦! 見た目は平凡! 力はNot平凡!! 緑谷出久!!』
『バーサス! 細身と思いきや引き締まったガタイのいいフィジカルモンスター!! 心操人使!!』
うーむ、中々酷い組み合わせだ。緑谷君、申し訳ないが人ちゃんに挑むにはまだ筋肉が足りない。筋肉が足りなくてもテクニックで戦えばいいんだけど、人ちゃんに生半可なテクニックは通用しない。個性が攻撃系ではないので、人ちゃんは全力で体を鍛えてきた。その結果、人ちゃんの腹筋は六つに割れ、少し細いが、しかしがっちりとした筋肉が敷き詰められた肉体へと進化を遂げているのだ。フルカウルとやらがあったとしても、人ちゃんは高速で動くサンドバッグに乱打とラリアットを叩き込むという荒業を行っている。たまに俺がスパーリングに付き合うけど、ガントレット付けてないと手が痺れることが多い。
「正直緑谷には同情する……」
「うん……」
「実際心操ってどれくらい強いんだ?」
「うーん……体の使い方を完全に理解しているゴリラ……?」
「豪鬼二分の一……? あ、いや四分の一くらい?」
あ、始まった瞬間に緑谷君が突っ込んだけど……うん、しゃがんで首目掛けてラリアット喰らわせましたね人ちゃんが。あれマジで痛いんだよなぁ……媚主絶天で感度上げてなかったら痛みで気絶してるよ。
「緑谷君も強くはなってるんだけどね……いかんせん時間が足りなかったという……」
「うん、いかんせん時間がね……」
『心操がァ! 捕まえてェ!! 心操がァ! 画面端ィ!! カウンター読んでェ!! 心操がァ!! まだ入るゥ!! 回し蹴りと! 拳がぶつかり拳が弾かれる!! 拳というか腕を弾かれた緑谷の顎に蹴りが突き刺さり撃沈ンンンンンンンンンンンン!!!!!』
『緑谷も成長しているが、心操はその先を走っている。速攻を狙おうという選択があいつの敗北を決定したな』
あ、終わった。超早いというわけではないけど、例えるならレベル20で進化したてのポケモンが努力値を上げているレベル50のポケモンに勝てるわけがなく……でもあれだね。相澤先生の言う通り、人ちゃんに速攻を仕掛けなければもしかしたら勝っていたかも。でも自滅覚悟の攻撃じゃあ、次の試合が難しいよなぁ……でもワンチャンあったと思う。人ちゃんもそれに気付いていただろうから、速攻を仕掛けてきてくれてちょっとホッとしてそう。個性を使わずとも、戦う方法はいくらでも────人ちゃんはゴリラだからちょっと色々例外かもだけど────存在している。個性を補助道具としか見ていないプロも結構いそうじゃない? 相澤先生自身も個性を使うけど、フィジカル&捕縛布を使った戦闘スタイルだし。
「緑谷君の見舞い行ってくるよ。轟君、瀬呂君、上鳴君、物間君! 頑張ってね!」
「じゃ、ウチも行こうかな。時間、結構ありそうだし」
よし、いざ医務室へ。
廊下を歩きながら、響ちゃんがどんな戦法で挑んでくるのか考えていると、耳鳴りがした。
『誰か、止めてあげて……』
「……?」
「壱?」
『あの人に、これ以上人を殺させないで……』
んんー? 耳鳴りなんて初めての経験だ。不可解な耳鳴りだが、頭が痛くなるとか、そういうことはない。どこぞの野良犬に憧れたやつとは違うのだよ、お前は盾じゃなくてミサイルを詰めよ。それかソングバード。
「……ん、耳鳴り消えた」
「大丈夫なの、それ?」
「大丈夫だと思う。でも何だろう、あの耳鳴り……人の声に似てたような……」
「今度病院行っとく?」
「いや、大丈夫。ヤバかったらリカバリーガールにも見てもらうよ」
何だったんだろう、あの耳鳴り。
何を歌ったのかは、皆さんの想像にお任せします。