「おい」
「ん? おお、爆豪君! やっぱり爆破は強力な個性だねぇ。まぁ、それを使ってる君も凄いんだろうけどさ」
ガチガチに硬度を上げて短期決戦を挑んだ切島君を、空中からの強襲爆破連打で倒した爆豪君が、水分補給と鉄分とビタミンと食物繊維補給をしていた俺を探して声をかけてきた。うーん……荒っぽいところがあったり、こういう静かな時もあったり、色んな顔があるなこの人。
「たりめぇだ。……眼鏡に使ったあの技、俺と戦う時、絶対に使え」
「?
「前者だ」
「それは、いいんだけど……あれ、そこまで安定した強さを持ってるわけじゃないんだよね」
「あ?」
凄むなよ。ほら、四川麻婆豆腐食べながらお話ししようぜ? あ、食わない? もう栄養補給は済ませてる? ……まぁ、それはそうか。
「結局は思い付き。洗練されてるわけじゃないし、無理矢理混ぜてるから制限時間付き。しかも体への負担も大きい。反発を無理矢理抑えてるだけだから、能力を単純に倍化させてるわけでもないんだよ」
結構甘めに見積もった計算式に当てはめると……(武器+武器)×1.25=生まれた武器の性能って感じ。スルトとアグニの火が混ざったら普通もっと凄い火力が出るはずなのに、あの武器はそうじゃなかった。やっぱり同系統、同武器種じゃないとちゃんとした強さにならないみたい。
「まぁ、あれだよ。ちゃんとしたジェネレーターを積んでないのに、無理矢理カラサヴァ持ってる感じ」
「分かりづらい例えすんなや」
「おや、爆豪君もACやってるんだ」
「動画で流れてきただけだわ」
そっか。まぁ、無理矢理布教するというのもあまりよろしくはないからね。ちなみに響ちゃんは立派なパルスガールになってしまいました。どこで間違えたかな……まぁ、アセンは人それぞれなんだけどね? パルスミサイル、パルス投擲、ヨーヨー、そして四脚。しかもコーラルジェネ。中々に引き撃ちACだよね。
「まぁ、とにかく、姿は変わるけど響ちゃんや人ちゃんの武器みたいな火力は今のところ出せないかな」
「チッ、そうかよ」
「うん。悪いね、期待に応えられず。というか何で俺が勝ち上がってくると思ってるの? 人ちゃんも強いよ?」
「てめぇの武器があったとしても、隈がてめぇに勝てる確率は0に近いだろうが。訓練中に使ってたあの刀とか、短剣とかで斬られた時点で終わりだろ」
「あら結構鋭い」
男性相手ならあの武器達を気兼ねなく使える。女性に向けては中々……いや、響ちゃんには使ったな。まぁ、誰も見てない時に組手をした際だけど。その後滅茶苦茶怒られたよね。
「あと人の名前はちゃんと言わないとダメだよ、爆豪君。名前覚えられない人だって認識されるよ? あと蔑称も良くないよ。何を怖がってるのかは知らないけど」
「誰が誰を怖がってるってんだァ!?」
「爆豪君が緑谷君を。君、緑谷君を見る目、なんか薄気味悪いものを見る目だもん」
人は未知に恐怖する生き物だから、自分の知らないものに対して警戒するし、恐怖心を持って接する。爆豪君が緑谷君を見ている時、どこか怖がっているように見えた。まるで得体に知れない何かを緑谷君に見ているかのような、そんな目を向けていた。
「幼馴染なんだよね? こう……本音で話し合ったり、本気で喧嘩したりとかしたことないの?」
「誰がやるかそんなこと! 俺はクソデクよりも強ぇ!」
……なんだろう、副音声で強くないといけないんだって声が聞えた気がした。どこか、心配? 迷い? 困惑? 嫉妬、焦り……うーん……何か、色々混ざっている気がする。でもこれはきっと、爆豪君と緑谷君が互いに向き合わないと解決しないことなんだろうなということは分かる。
そんなことを思っていると、爆豪君が踵を返していなくなってしまった。怒らせてしまったみたいだが、向き合わない限り、きっと爆豪君はあのままなんだろうなぁ……
「他の幼馴染ってこんなもんなのかね?」
「どうだろ。あ、棒棒鶏もらうね。あ、プーアル茶もあるじゃん」
「さてな。お、水晶鶏あるじゃん。もらうわ」
「お腹空いてるの?」
「「誰かさんのせいで喉も乾いてるよ」」
ああ、うん、察したよね。
「何あれ」
「
「技名を聞いてるんじゃねえよ?」
「知ってる。でもそうとしか言えないし……」
間違いなく響ちゃんとの試合だって全力で戦った。その後でようやく形になったばかりの融合技だし、しかも工房で集中して混ぜているわけでもない即興融合のせいで出力が安定しないしで、正直現状だと使えるかどうかも怪しい代物。スルトとアグニという炎関連の神話がモデルだったからこそのあの出力だったけど、無明と跳躍丸を混ぜたとして、使い物にならない武器になるのは目に見えている。生まれるとしたら……両刃剣かな。
「……まぁそれはいいか。ところでお前、体力は大丈夫なのか? リカバリーガールに治してもらい続けてるんだろ?」
「うん。全然かな。軽く疲れたかなーくらい?」
「無尽蔵過ぎない?」
確かに疲れてはいるんだよ? それ以上にアドレナリンが出ているからなのか疲れはそこまで感じてない。お、山椒じゃこ美味しい。
「ま、とにかく人ちゃんと戦う時に疲れで動けないってことはないよ」
「そか。ならいいや」
「感度5000倍にしてあげるからね♡」
「棄権していいか?」
「棄権したらウチが主導でデスマッチ開催するよ。連戦ね」
「よぉし、やる気出てきちゃったなぁ!!」
やる気をバリバリ漲らせている人ちゃんと、今後どんな方向性で強化していくかを考える響ちゃんを眺めながら頼んでいた鉄分、ビタミン、食物繊維たっぷりの料理達を全て平らげていく。ランチラッシュ先生、まさか玄米も美味しく炊けるとは……家で作ると美味しくないんですが……? 聞いてみるか。
「ランチラッシュ先生! 玄米を美味しく炊く方法は何ですか!?」
「表面を少し傷つけるくらい研いで、半日以上浸水させることだね! あと、炊く前に塩を入れるといいよ!」
「ありがとうございます!」
「壱の家事力がどんどん上がっている」
「ウチらも負けてられないね」
大災害などが起こった際、ヒーローは炊き出しを作ったりすることもある。ランチラッシュ先生なんかはそういった際の炊き出しを単独で行えるようなヒーローだ。ヴィランだけではなく、天災だって起こる。日本は地震大国なんて呼ばれてるから、大地震で大きな被害が出たりする。そこにヴィランの犯罪が来たら笑えないよね。
「そういえばあの金髪のスーツの人、八木さんっていうらしいよ。用務員として働いてるんだって」
「用務員?」
「元々はオールマイトの事務所で働いてたらしいんだけど、怪我でそこまでたくさん活動できなくなっちゃったから用務員なんだと」
へー……怪我で。でも普通に動いていたような……もしかしてそう見えているだけで、内臓に傷があったり、目には見えない後遺症があったりするのかな。……あ。
「生やし丸で治せないかな?」
「生やし丸って、あの変な形してる刀? 治療系なんだっけ」
「うん。まぁ、次の日滅茶苦茶笑い上戸になるんだけどね」
響ちゃん達には言えないけど、一応自分で試している。小指を切り落としてすぐさま生やし丸で体を貫いたら、ニョキニョキと小指が生えてきたのだ。次の日が休日で助かったよね。
「というか効果を何で知ってるの?」
「鱗を取った魚で試した。生えてきたよ、鱗」
「魚も笑い上戸になるのか……」
「笑い上戸は自分で刺して気付いたやつ。ほら、俺前に肩壊したじゃん? あの時に使ってみたんだ」
「「ああ……そういえば」」
よし、誤魔化し成功。
「そういうわけで、体育祭が終わったらちょっと話をしてみようかなって」
「というか今から行かねぇか? 爆豪のやつがステージぶっ壊したから復旧に時間かかってんだよ」
「いいね! あ、ランチラッシュ先生、ご馳走様でした!」
「お粗末様! 頑張って!」
サムズアップを返して食堂を後にする。歯磨きもしっかりして、その件を話すために根津校長先生を探していると──────数分もしないうちにブラドキング先生と見回りをしていた根津校長先生を発見した。
「根津校長先生! ブラドキング先生! ちょっといいですか!」
「む? 多々良と心操と耳郎じゃないか。どうした?」
「何かあったのかい?」
「えーと……八木さんっているじゃないですか。用務員さんの。あの人の怪我、ちょっとだけでも良くできないかなと……」
そう言うと、根津校長先生が話の続きを促してくれたので、胸に手を突っ込んでいかにも生きていそうな蛇の触手が鍔から刀身にかけて巻き付いてグジュ、グジュ……と蠢いている刀を取り出す。刀身に巻き付く蛇の触手は鎌首をもたげるように蠢いており、SAN値を削りそうな見た目をしている。
「この刀、殺傷力は全くない治療系の刀で……まぁ、簡単に言うと欠損した部位を生やします。死ぬほど笑い上戸になりますけど」
「イレイザーに提出していた武器のリストに載っていた刀か! 確かにそれならば……」
「ただ、内臓が生えてくるかは分かりません。鱗を取った魚の鱗が生えてきたのは確認したんですけど……」
「ふむ……それなら一度リカバリーガールに話を通してからにした方がいいかもね」
色々試してみて、それから八木さんに使ってみようという話になった。予定については体育祭が終わってから色々と詰めていくそうだ。休日返上してでもやってやりますよ。怪我してる人を放っておけるほど、人間性が出来ているわけじゃない。
「とりあえずこの話は一旦ここで終わり! さ、多々良君と心操君はそろそろ始まる試合に向けて準備しておいで」
「分かりました。……そういえば根津校長先生は三年生の方にいたと思うんですけど……」
「毎年一年生、二年生、三年生の様子を見に来ているのさ! 校長として当然のことなのさ!」
凄いなこの人。……人? 人なのか? 異形型の個性? でも『ハイスペック』って書いていたような……え? もしかして小動物に個性が発現したの? 個性って、人間にしか発現しないと思っていたけど、動物にも発現したりするのかな……異形型の個性を持っている人は人間の遺伝子の他に動物の遺伝子を持っていることが多い、なんて説もあるらしいけど、だとしたらどうして動物っぽい発動型みたいな個性の人は動物の遺伝子を持ってないんだよって話だよね。
「とりあえず行くか、壱」
「うん。じゃ、響ちゃんまた後でね!」
「はいはい。恥ずかしい戦いはしないでよ、二人共」
「「誰に言ってんだ」」
人ちゃん相手に手加減など無用。そもそもできるわけがないんだよね。だって人ちゃんは響ちゃんと同じように、俺の生み出す武器の一つが、彼の力になりたいと生まれるくらいなんだから。
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『さぁて始まるぜAブロック準決勝!! あれこれ何か言う必要はもう無いよなァ!! 心操人使VS多々良壱譚!!! 幼馴染トリオの二人が幼馴染最強を決める!!!!』
『この試合も間違いなく面白いものが見れるだろうな』
『イレイザーから耳寄りな情報も出たところで行くぜリスナー諸君!! ドライアイになってでもこの勝負は見逃すな!! テンション上げてけ準決勝!!!』
相澤先生とプレゼントマイク先生のアナウンスを聞きながら俺は人ちゃん相手に使う武器を取り出す。媚主絶天は試合開始前の審議で使用禁止にされたので、取り出したのは、金と赤で彩られた錫杖────というか、如意棒みたいなもの。世間一般で言えば多分棍という武器に含まれるものだ。
「じゃあやろっか、人ちゃん」
「ああ。……それ使うんなら、いつも以上にマジで行かないとな」
「うん。じゃ、はい喝采」
「おう。……行くぜ」
「いつでもどうぞー」
『準・決・勝!!! スタァアアアアアアアアアアアアトォォォ!!!!!!』
プレゼントマイク先生の叫びが聞こえた直後、人ちゃんが刀を抜いた。
薄緑色の刀身が太陽の光を浴びて美しくも妖しく輝く。鍔に刻まれているのは、歌う合唱隊の姿。刀身、鍔、柄、鞘。どれを取っても間違いなく芸術品と言っていいだろう刀を前に、俺は思わず笑みを深めた。やっぱり君達は響ちゃんや人ちゃんの手の中にいた方が、よく映えるし綺麗だね。
「行くぜ、喝采!!」
人ちゃんに呼ばれたことへの歓喜を謳うかのように、それは姿を現した。
喝采とは、魂にまで響く歌声。響ちゃんの万雷がオーケストラの音楽隊だとすれば、喝采はその音楽に歌声を乗せる合唱隊やコーラス隊。その歌声は刀身から鍔へ、鍔から柄へ、柄から人ちゃんの腕を通過し、彼の腕から左頬にまで楽譜のような刺青が刻まれ……人ちゃんの後ろに楽譜と歌詞が綴られているであろう本を手に持った男性の人狼が現れた。
「行くぜ、壱!! なます切りになるんじゃねぇぞ!!!」
「来いよ人ちゃん!! そっちこそミンチにならないでね!!!」
喝采
心操人使専用武器。一応多々良と耳郎も使えるが、100%の性能を引き出せるのは心操のみ。
能力は嵐のコーラス隊。ほぼ万雷と同じ能力だが、万雷とは違い、喝采は心操の個性を強化する方向で生まれていない。なお、耳郎と同じく心操はまだ一人しか呼び出せない。精進が足りない。
赤と金で彩られた棍。