(強がったのはいいが、マジで相性最悪なんだよな!)
心操は心の中で悪態を吐いて多々良の攻撃を凌いでは反撃を繰り返していた。結局のところ、心操は拳や足を使ったフィジカルをメインに押し付けるような戦いや、中距離での殴り合いが最も強い。
対する多々良の得意距離は近距離────ではあるが、ある程度なんでもできるオールラウンダータイプ。多くの武器を扱うからこそ、どの距離でも対応できる成長を遂げていた。得意を伸ばすという方向性ではなく、全部得意になるという方向性への成長。指導していた相澤もこれにはびっくりである。どんな結論に至ればそのような成長を遂げるのだろう。
「そらそらそら!!」
「マジで鬱陶しいなその武器は────ぐえっ!?」
ブォンッ! と風切り音と共に心操へと直撃した錫杖は、その風切り音とは裏腹に、スパァンッ!! という平手打ちが炸裂したような音を鳴らして心操を吹き飛ばした。
『おおっと心操がここで吹っ飛ばされたぁ! 何が起こったぁ!?』
『雲海赤藤。あの錫杖の能力もまた癖が強い。回せば回すほど、棒が重くなり長くなる。何かに当てれば当てるほど、棒の部分が軽くなり、石突きと遊環が重くなるが棒が短くなる』
『でもどこにもぶつかってないぜ、イレイザー』
『概念系の個性は解釈次第。多々良は概念系じゃないが、あいつの解釈じゃ、大気もまたぶつけている対象なわけだ。遊環の部分でぶん殴ったのは、棒の部分よりも威力が高くなっていたからだな』
(これだ! これなんだよ壱の強みは! マジで強いよなぁ、お前!!)
「ありがと。でも人ちゃんも────」
「馬鹿がよォ!!」
「あぼぇ!? …………そっか、そうだった。喝采はそういう力もあったね!」
どうだ、と言わんばかりに口元を歪める人狼を見ながら多々良は喝采の力について今一度思い出していた。
喝采は耳郎の万雷と違い、どちらかと言えば身体能力強化に注力している。しかし、喝采もまた万雷と同じく音の力を宿した刀。その身体能力の向上はどうやって行っているのか。音とは、物体の振動が空気に伝わる。つまるところ、一種のエネルギーだ。喝采は、その膨大なエネルギーを体に流し込むことで、心操の肉体を強化しているのである。もちろん、その強化は肉体への負担が凄まじい。心操がここまでフィジカル面を鍛えていなければ、間違いなく三分も持たずに撃沈しているだろう。
そんな身体強化に目が行きがちだが、喝采の本来の能力は万雷と同じように音を届けることにある。音、声、思い、言葉。心操の言葉を誰かに届ける。それこそが喝采の力。今の心操は────声を発さずとも、相手に言葉を送り、個性を発動できるのだ。
「まぁ、声を届ける場合、身体強化は解ける。見極めはとっても難しいけど……それを加味しても攻略はやれないこともない」
「なら、試してみろ!!」
心操が斬りかかり、多々良が錫杖をポールのように使い、まるでポールダンスのように回り、カウンター気味に蹴り飛ばす。しかし多々良は体重が軽いために、有効打とは言えず牽制が精々と言ったところだ。だが、その牽制を差し込んだからこそ、心操との距離が開く。その距離を詰めながら、錫杖を回す。重さと長さが増し、彼の背丈を優に超えた錫杖の一撃は、心操が喝采と鋼の肉体で受け止めたものの、体の芯から痺れる衝撃が突き刺さる。
(踏み込みが上手い!!)
(ん? 直前で飛ばれたかな? 何だか軽いや。とりあえず長さ戻そ)
心操はどちらかと言えば技よりも力を以って肉弾戦を制する。捕縛布を利用した戦闘は技術を要するためにそれなりに磨いているが、肉弾戦においては恵まれたフィジカルによる攻撃が多い。もちろん、ボクシングの動きやムエタイなどの動きを参考にしていたりはするが、やはり剛を以って柔を断つというのが心操の近接戦。
対する多々良や耳郎は体格に恵まれなかったがゆえに、技を磨いた。無い力をどう補うのか。そして辿り着いたのが、地面を蹴り上げるように踏み込み、遠心力を味方に付ける動きをするという選択肢。武術に精通している者が見れば、その踏み込みにどれだけの時間を費やしてきたのかが分かるだろう。
さらに多々良は、多くの武器を使うために力が無くとも武器を振り回せる戦い方を学んだ。自身の中にある数多くの手札をどう使うのか、どう使い、勝ち筋を手にするのか。その勝ち筋までの道のりをどうやって構築するのか。一試合一本のみで戦っているが、手札を増やせばもっと勝ち筋が増えていく。言ってしまえば、多々良は個性を複数持っているようなものなのだ。癖が強いものが八割以上を占めているが。
「洗脳で命令できねぇってのは厄介だなぁ、おい!!」
「……!!」
「何言ってんのか分かんねぇけど分かるなぁ!!」
本来であれば洗脳してしまえば命令をすることができる。しかし、心操は多々良と戦う際、それをしない。それをした場合、何が起こるのかを理解しているためだ。『あれ』をやられたら、勝ち筋が見えなくなる。ゆえに洗脳は攻撃を挟むための隙を生み出すスタンスキルとして割り切っているのだ。
剣戟が響く中、プレゼントマイクが残り時間五分を告げる。殴る、蹴る、斬る、踏む、投げる。様々な攻防が繰り広げられ、会場が熱狂に包まれる。会場が熱狂に包まれるのと比例するように、二人の攻防も激しく変化していく。洗脳で動きが止まり、殴られたらそれ以上に殴り返す。殴り返されたら刀や蹴りが襲いかかり、その攻撃を錫杖で防ぐ。受け止めるのではなく、受け流す。脳無戦を経て、フィジカル強者への対応に磨きがかかった多々良を崩すことは難しいが、心操も成長していないわけがない。
「最後の一撃なんだ!! 上げろ、喝采!! んでもって喰らえ!!」
人狼が叫び、心操の体を嵐が包む。それは、耳郎が行った必殺技の再現であり、似て非なる必殺技。耳郎の
「
「ガッグボェッ……!!?」
『ここで多々良が吐血ぅううう!! 大丈夫かこれぇ!?』
『問題ない。そもそもヤバかったら止めてる』
『さすがの多々良も崩れ落ちる! ここから10カウントで立ち上がらなかった場合、心操の勝利になるぜ!!』
外側から内部へ浸透していく攻撃は、着実に多々良の体を蝕む。皮膚を突き破り、血飛沫が多々良の体から飛び散り、多々良の口からは大量の血が吐き出される。多々良や異形型の個性を持った頑丈な人間でなければ、間違いなく死んでいるであろう攻撃。恵まれた肉体と、フィジカルがあるとはいえ、渾身の一撃を放った心操は立っているだけでやっとの状態。喝采の解放を止め、どうにか意識を保ち、油断なく構えていると、血を吐いてのたうち回っていた多々良の体に変化が起こる。傷口を保護するかのように炎が噴き出て、いくつもの武器が勝手に出てくる。まるで武器が使い手を生かし、戦いを終わらせようとしているかのような……耳郎との戦いでは見せなかったそれを見て、心操は小さく息を吐いた。
「はぁ……それ、何年振りだよ。久しぶりに見たぞ」
「多分、あの変なヴィランに襲われた時以来。一応戦えないこともないけど……無理だね。動けないや」
「ミッドナイト先生! こいつもう限界!! これ以上やると多分貧血と栄養失調で死ぬ!! 俺も限界! 悪いけど無理!!」
観客席から爆発するバチンウニからの怒号が聞えている気がするが、二人はそんなことよりも自分の体を休ませたい一心である。勝敗と、これ以降の試合をどうするかは教師陣で審議が入るだろうが、その前に目の前の生徒を助けるのが最優先。ミッドナイトとセメントスの思考は一致していた。
「両者戦闘不能!! 引き分け!!」
「すぐに担架を。どちらも切り傷、打撲傷、裂傷まみれだ」
「「衛生兵ェエエエエエエエエ!!」」
「「騒がない」」
「「さーせん」」
その言葉を最後に、二人は泥濘に沈むかのように意識を手放した。
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「そういえばビーフシチューって米? パン?」
「ナンで行こうぜ。それかチャパティ」
「目覚めて早々にそれはマジで笑うから止めて?」
ばっちり目が覚めたよね。で、今は何時? ………………ほう、午後六時ですか……
「表彰式終わった?」
「とっくの昔に終わったよ」
響ちゃんのサポートを受けながら起き上がり、時刻を確認してから表彰式が終わっていることを伝えられた。ホームルームも終わって、響ちゃんは俺達が起きるのを待っていたみたい。ありがたいよね。
「爆豪が凄い顔してたよ。あと物間も」
「何だろう、ベクトルが真逆なのが分かる」
「残念ながら、どっちも同じ顔してたよ。釈然としないというか、あんまり喜べないみたいな」
物間君はちょっと前に顔を出してくれたらしい。あ、これがメダルかぁ。誰が表彰式でメダル授与したのかは……うん、なんとなく分かる。オールマイト先生でしょきっと。そんなことよりも、とりあえず俺は響ちゃんに謝らなくてはいけない。
「ごめんね、響ちゃん。待ってもらって。お腹減ったでしょ?」
「大丈夫。壱と人使が起きるまでにちょっと飴玉食べたし。あと相澤先生から伝言」
「「拝聴させていただきます」」
「プルスウルトラ、悔しさも全部乗り越えていけ。期待してる……だってさ」
「「っす」」
褒められちゃった。やったね。
そう思いながら、響ちゃんが持ってきてくれていた制服に着替えつつ、包帯一つない体を眺めてから人ちゃんを見る。結構殴ったと思ったんだけど、傷がないね。疲れてはいそうだけど、とんでもなく疲れているって感じはしないかな。
「っし、じゃあ帰るか!」
「うん。帰って準備しなくちゃ」
「楽器持って帰るのは雄英がやってくれるって。あと、明日明後日は休校だってさ」
やった、ゴロゴロできるぞ!!
というわけでこういう終わり方となりました雄英体育祭。職場体験の時間……の前に閑話とかがやれたらいいかな。