手綱を握れ!人ちゃん&響ちゃん!   作:エヴォルヴ

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感想への返信は少し控えさせていただきます。生憎と体調不良気味なもんで。確認はしています。ありがとうございます。


職場体験に行く前の準備が大変なやつ

「飯田君、飯田君、ちょっと話でもしようぜ」

 

「むっ、多々良君か。どうかしたのかい?」

 

 放課後、人ちゃんと響ちゃんに少し待っていてほしいと伝えた後で、俺は校門をくぐる直前の飯田君に声をかけていた。今日は帰り道にキッチンカーが来ていて、四人以上でクレープを買うと200円引きになるんだ……! 物間君と障子君にも声をかけようと思ったら、もういないでやんの。

 

「ちょっとクレープ食べに行かない? 三人だと割引にならないんだ」

 

「放課後の買い食いは良くないぞ多々良君! 間食も程々にしなくては身体に影響が────」

 

「まぁまぁ。今日は特別だから」

 

 グイグイと飯田君の背中を押して、人ちゃんと響ちゃんが待っていてくれている桜並木に向かう。

 

「お、飯田じゃん」

 

「飯田を言いくるめるとはやるじゃん壱」

 

「僕は行くとは行ってないぞ!?」

 

「「「では行こう」」」

 

「待ちたまえ!?」

 

 諦めるんだな飯田君。俺達に捕まったが最後、最後まで付き合ってもらうことになる。クレープ、何食べようかなぁ。チョコ、いちご、バナナ、いや敢えてここは総菜系というのも……ううん、悩むねぇ。

 

「皆は何食べる?」

 

「俺はエビアボカド」

 

「ウチはチョコ」

 

「じゃあ俺はいちごで! 飯田君はどうする?」

 

「う、ううん……くっ……今回だけだからな!」

 

 よしよし、共犯者が三人。放課後にクレープを食べてから帰るなんて、中々学生っぽいことしてるなぁ。

 

「……いらっしゃい」

 

「エビアボカド」

 

「チョコレートアイス」

 

「いちごクリーム!」

 

「バナナキャラメルを……」

 

「……八百円だ」

 

 あら安い。

 四人でクレープを販売するキッチンカーに到着して、注文を済ませると、凄い強面の店主が魅せる超絶技巧に感嘆の声を上げる。店主は異形型なのか、四本の腕を操り、ほぼ同時にクレープを焼いていく。具材も違うというのに、よくできるなぁ……俺だったら混乱しそう。

 

「……ごゆっくり」

 

「来た来た! いただきます!」

 

 ガブリと大きな一口でクレープを頬張る。いちごと生クリーム、奥に入っていたカスタードも相まって口の中が凄く甘い。悪魔的な味に頬を緩ませていると、響ちゃんがチョコアイスクレープを差し出してきた。

 

「食べる?」

 

「食べる! 響ちゃんもいちご食べていいよ!」

 

「ん。………………甘っ」

 

「チョコは大人っぽい味! ビターベースなのかな?」

 

 遠くにスパイスの味も感じるし、凄く大人っぽい味わいのチョコアイスクレープだ。これも悪くないなぁ……

 

「人ちゃんも食べる?」

 

「いや、俺はいい。昨日甘いのは食べたしな」

 

「ああ、キャラメル食べてたもんね、昨日」

 

 夕飯のデザートにキャラメルを食べてたし、今日は遠慮しておくって感じか。今度来る時は総菜系にしよう。……あれ? 飯田君、食べる速度遅いね。甘いのあんまり得意じゃなかったのかな……

 

「飯田君、何かあった?」

 

「! いや、大丈夫さ」

 

「嘘だ」

 

 飯田君の言葉の端に迷いとか、悩みとかが滲んでいる。何か悩みがあるとしか思えないね! 

 

「何かあったでしょ、絶対。何? 職場体験で悩み事? どこだっけ? マニュアルってヒーローのところに行くんだっけ?」

 

「ああ。誠実な仕事をするヒーローとして評価が高いヒーローのところで、学びを得ようと考えてる」

 

「マニュアル……保須市に事務所があるヒーローだっけか」

 

「そうなの? 俺はよく知らないや」

 

「ヒーローについては全く知らないもんね、壱」

 

 マニュアルさんとやらから学びを得るために、とは言っているけど、それ以外にも何かありそうな感じがする。体育祭で感じたあの覇気も、今は感じない。自棄になって消えてしまいそうな────轟君120%みたいな感じになっている。

 

「何かあるなら話をしようぜ、飯田君。迷ってること、困ってること。何でもいいから」

 

「……いや、大丈夫だ、本当に」

 

「……保須市か。ヒーロー殺しの出没が相次いでいる場所だな」

 

 突然、クレープ屋の店主がこちらに向かって声をかけてきた。ヒーロー、殺し? 

 

「誰か、あの人を止めて……! もう、これ以上、人殺しをさせないで……!!」

 

「……ッ、また耳鳴りが」

 

「大丈夫か? コーラルキメるか?」

 

「大丈夫、コジマコーラキメる」

 

 緑色なのにコーラの味がする飲料、コジマコーラ。ついに見つけてしまって、箱買いしてしまったのだ。ちなみにちゃんとエナジードリンクです。飲むのは月に三回までって決めてます。コーラルサイダーっていうのも箱買いしちゃってるけど、まだ手を付けてないです。楽しみ。

 

「……インゲニウムも被害に遭ったと聞く。兄ちゃん、保須に行くなら気を付けな」

 

 それだけ言って、店主はまた作業に戻ってしまった。お、このクレープキッチンカー、SNSのフォロワー数二万超えてるじゃん。しかも写真が一々可愛い! これ全部店主さんが撮ってるの!? 凄くない!? 

 って、クレープ屋さんのことは一度置いとかないといけない。まずは飯田君との会話に集中しなくちゃ。

 

「インゲニウムって、飯田君のお兄さん、だよね? 大丈夫だったの?」

 

「……兄の件なら、大丈夫だ。心配させてすまない」

 

「飯田、脈拍変だよ。嘘苦手過ぎでしょ」

 

「嘘を吐くなら真実と嘘を混ぜろよ」

 

 やっぱり嘘だったのか……飯田君、どうしたんだ。凄い苦しそうだよ、君。自覚があるのか無いのか知らないけど、凄く苦しそうにしている飯田君を放っておけるほど、俺は人間性ができていない。

 

「飯田君、本当はどうなの? 全部話して、とは言わないけど……心配だよ、俺達」

 

「これで何も言ってくれなかったら俺達職場体験で色々ミスしそうだぜ」

 

「心労って結構パフォーマンスに影響あるからね」

 

 ほらほら、話してくれないと俺達が職場体験先で粗相をするかもしれないよ? それでいいのかい、学級委員長。ダメだよね? ならば事情の一つや二つ、話してくれてもいいんじゃないかい、委員長。

 

「………………………………兄さんは、ヒーロー殺しにやられて、下半身不随になるだろうと、医者に言われた」

 

「……下半身不随……きついなぁ、それ」

 

「立派にヒーローとして活動していた兄が、そうなった。そうなった元凶を僕は、許せないんだ……!!」

 

 苦しそうに声を上げた飯田君の目尻には涙が滲んでいる。それはそうだろう。だって、尊敬する人が、家族が傷付けられて、人生を大きく変えてしまう程の重大な後遺症を与えられて、ヒーロー殺しは何も報いを受けることなく生きている。俺だって大切な人達にそんなことをされたら、そいつが生まれてきたことを後悔するくらいの報復を誓うと思う。

 だけど、そんなことはヒーローとしてやってはいけないことだ。だから、ヒーローを目指している大事な友達に何か相談するなんてことはできなかったと、飯田君は苦々しい表情を浮かべながら話をしてくれた。

 

「飯田君、ヒーローってさ、結局は人なんだよ」

 

「多々良君?」

 

「家族を傷付けられたら、怒りに呑まれる。傷付けた相手が許せない。当たり前だ。誰だってそうだよ」

 

 そこにヒーロー、ヴィラン、ヴィジランテ、一般人の括りはきっと存在しない。家族を傷付けられて怒りを抱かないやつがいたらきっと、その人は余裕が無いか、人間として大事な部分が欠けている存在だ。

 

「けど、怒りに呑まれたり、自分の思いが正しくないんじゃないかって思い詰めちゃうと、視界を狭くしちゃう。飯田君も、ちょっとは自覚があるんじゃないかな」

 

「……!」

 

「俺がそうだった。個性が発現してすぐに、自分の個性で自分を傷付けて、誰かを傷付けるんじゃないかって塞ぎ込みそうになった」

 

 でも、と言葉を区切ってから飯田君に笑顔を向けて言葉を紡ぐ。

 

「人ちゃんと響ちゃんがいた。俺の手を掴んで引っ張り出してくれた二人がいた」

 

「気付いたらこういう暴走人間になってたけどな、こいつ」

 

「教育を間違ったかもしれない」

 

 酷くない? 

 

「だから、そういう経験をした俺だからこそ言いたい。飯田君、君のその思いは絶対に間違いじゃない」

 

「ッ……!」

 

「もちろん、ちゃんとヒーロー活動はしなくちゃダメだけどね! 殺すとかダメだよ!?」

 

「それは当たり前だろう!?」

 

「いや、自分にも言い聞かせておかないといけない気がして。ほら、俺結構過激派だから」

 

「自覚あったのか変態」

 

「自覚しておきながらそれか変態」

 

「罵倒のキレがいつも通り素敵だね♡」

 

 いつも通りの会話を織り交ぜながら、飯田君に君の思いが間違いじゃないことを伝える。だけどそれで間違いを犯してほしくはないから、ちゃんとヒーローとして活躍をしようと話をする。

 しばらくして、飯田君はクレープを頬張り、飲み込んでから迷いのない笑みを浮かべてくれた。

 

「すまない、三人共! 僕は本当に馬鹿なことをしようとしていた!」

 

「お、調子戻ってきたな委員長」

 

「クリーム口に付いてるよ委員長」

 

「む、これは失礼した!」

 

 ううむ、迷いは吹っ切れたように見えるが、ちょっとそれだけだと怖いので、何かあと一押し……………………あ、そうだ。

 

「飯田君、これを君に預ける」

 

「ん? ……これは……?」

 

「淫語刀。鞘に入れてるけど、気を付けてね。刃が刺さったら淫語しか話せなくなって、感度1000倍アンポンタンになるから」

 

「なんてものを預けようとしてるんだい!?」

 

 淫語刀を俺に突き返そうとしてくる飯田君に、いいから、と握らせる。

 

「これでヒーロー殺しをコンプライアンス違反にしてくるのです……」

 

「最低すぎるけどいい提案でもあるな……」

 

「最低すぎるけどそれは“アリ”だ」

 

 想像してみるのです、飯田君。君がもしヒーロー活動中にヒーロー殺しと出くわして、戦闘を避けられない状態になった時。ヒーロー殺しと戦った際にこれで斬っただけで無力化成功だ。そして捕まったヒーロー殺しが何かを喚き立てるとしよう……そうしたらどうなると思う? 

 

「……まさか!」

 

「そう、ヒーロー殺しは淫語を喚きながらビクンビクンする変態として世に認知される……!!」

 

「「「あはっはははっはははは!!!??」」」

 

 飯田君もその光景を想像してしまったのか、ゲラゲラと笑い始めてしまった。まぁ、正直笑っちゃうよね。凶悪犯として世の中を騒がせているヴィランが変態として世に認知されると想像しちゃうと。誰だって笑う。俺だって笑う。何か矜持があってやっている犯行なのかもしれないが、悪いなヒーロー殺し。貴様の尊厳は今、崩壊することが決定された。震えて眠れ、一年A組────否、雄英最速の男、飯田天哉が貴様の尊厳を崩壊させに行くぞ。刑務所の中でも『淫語を話しながらビクンビクンしていた変態』という風評を与えられるようになるぞ、良かったな。

 

「というわけでその刀、預けるよ、飯田君」

 

「ああ、預かった。これでやつを倒せば、犠牲になった方のご遺族もきっと溜飲が下がるだろう」

 

「下がるってもんじゃなく下がると思うよ!」

 

「ネットミームになるな」

 

「コンプライアンス違反過ぎてミーム化は無理でしょ」

 

 楽しみになってきたなぁ、そのニュースをネットとかで見るのがさ……!! 

 

「三人共、ありがとう。俺は正しくヒーローを遂行してくる!」

 

「おう、やってこい委員長。海外まで響き渡るレベルでやってくれ」

 

「ウチら海外に行くから、土産話楽しみにしててよ」

 

「海外!? 凄いな三人共!」

 

 ふふふ……英語はな、お父さんとお母さん含めて死ぬほど叩き込まれたんだよね。ロックとか英語が多いから、英語が分からないと歌詞が理解できなくて面白さが半減してしまうということで響ちゃんの家で英語の授業もよくやってたし。響ちゃんのご両親の英語レッスンは歌を使ったもので中々面白かった。海外、楽しみだよね。スターアンドストライプ……どんなヒーローなのかな。色々と楽しみで仕方がない。




ヒーロー殺しステイン、貴様はコンプライアンス違反でネットミームにされることが決定した。震えて眠れ。
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