手綱を握れ!人ちゃん&響ちゃん!   作:エヴォルヴ

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とりあえず投降しとけの精神。


飛行機に乗ってアメリカに向かう変態

 飯田君との話を終えた数日後。職場体験の日の二日前から公欠で俺達は中部国際空港に訪れていた。荷物を詰め込んだキャリーケースはとても重いが、これもまた遠征の醍醐味というものなのだろう。

 

「海外かぁ……初めてだね」

 

「お前の両親はよく行ってるけどな」

 

「今はエジプトだっけ?」

 

「うん。その後はオセオンに行くらしいよ。文化祭の時期には帰ってくるって言ってたかな?」

 

 時差ぼけを治す能力を持った武器とか生まれないかなぁ何て思いつつ、麦茶を口に含む。早朝に炒って作った麦茶だからとても美味しい。ちなみに緑茶、紅茶、ウーロン茶もボトル(武器)に詰めているので、気分によって飲み比べもできる。

 

「スターアンドストライプ……アメリカのトップかぁ」

 

「フィジカル強者か? フィジカル強者なのか?」

 

 写真を見る限り、間違いなくフィジカル強者であろうスターアンドストライプ。やはり筋肉が物を言う世界というのはどの業界にも存在しているらしい。もっと鍛えなくてはいけないかもしれない。筋肉付かないけど! 

 

「やはり筋肉か……」

 

「恐らく筋肉」

 

 さて……そろそろ飛行機のフライト時刻なので、移動しなくてはと思った直後。響ちゃんが俺と人ちゃんの襟を掴んで動きを止めた。

 

「喉が詰まるっ」

 

「もうちょっとハードでもいいよ♡」

 

「静かすぎる」

 

「「……」」

 

 言われてみれば、静かすぎる。空港に立ち寄ることが少ない俺達だけど、北海道とかのライブを見に行ったりする際には利用していた。その時と比べると、確かに滅茶苦茶静かだ。お客さんはちらほらと見えるし、従業員の方もちゃんといる。だけど、何だろう、この感じ……何かを試されているかのような、不思議な感覚。

 

「この空港に入ってからずっと、ウチらの近くに心音があった」

 

「……誰かつけて来てるってこと? 雄英から?」

 

「壱が反応しないってことは害意がないのは確定だろ?」

 

 問題はどうしてそんなことをして俺達の近くに誰かが潜んでいるか、なのだが……害意がないともなるとなぁ……下手に攻撃することもできない。そもそも、俺達はまだ仮免も取得してないから向こうが攻撃してこないならやれることがないのだ。

 

「俺達がいつそれに気付くかを試している可能性が高いか」

 

「まぁ、だろうね。となると────これで合格ってことでいいんですかね?」

 

「うん、及第点ってとこかな!」

 

 パンッ、と隔絶されていたような空気が消えて、それは現れた。

 

「下手に動かず、最低限の声量での情報伝達。やるじゃないか」

 

 凄い背丈────オールマイトよりかは低いかもだけど────で、鍛え上げられた筋肉が特徴的な金髪の女性。Theプライベートですという感じのラフな格好に身を包んだ女性から放たれる覇気は、間違いなくトップヒーローのそれであった。間違いなくこの人が、俺達にオファーを出してくれたアメリカのナンバーワンヒーロー、スターアンドストライプ! 

 

「「「アメリカは自由ですね」」」

 

「HAHAHA! 一応許可は取ってるよ!」

 

 それ事後報告とかじゃないですよね? え? 違う? それならよかった。

 

「というかナンバーワンが離れて大丈夫なんですか?」

 

「その程度で墜ちるほど、アメリカは軟弱じゃないんだぜ、ボーイ」

 

 まぁ、そりゃそうですよね。日本がオールマイト一強ってわけじゃないように、アメリカもあなた一強ではないんですよね。それはそうだ。

 

「雄英に連絡したら、エコノミークラスで行くつもりって聞いたからね。最初に休憩なんて勿体ないことはさせないさ。さぁ、こっちだ三人共」

 

 雄英に取ってもらったチケットは払い戻されると口にしたスターアンドストライプの後を追う俺達は速足だ。彼女は背丈があるし、足も長い。そのせいで歩幅が全然違うのだから、こうしてついて行くのが中々大変である。

 

「そういえば自己紹介がまだだったな。三人共、名前は?」

 

「ペルソナコード」

 

「イヤホン=ジャック」

 

「煉武」

 

「即答! いいね、アメリカでもやっていけそうなノリだ!」

 

 あ、これが正解だったんですね。指名してるんだから名前を聞いているわけじゃないなとは思っていたけど、やっぱりそういう感じだった。お父さんとお母さんが向こうのヒーローが名前を聞いてきたら、コードネームで答えるのが基本だと言っていたのは事実だったのか。

 

「ヒーロー志望ならコードネームをしっかり売り込んでいかないといけないからね。その点三人は合格だ」

 

 そう言いながら突き進んでいくスターアンドストライプの後を追っていくと……よく見る飛行機よりも大きい飛行機が俺達を出迎えた。

 

「さ、乗った乗った! 私のホームに到着するまで、英気を養ってくれよ!」

 

「わぁ、これ俺でも知ってる。旅客機の最高クラスの飛行機だ」

 

「サプライズが過ぎるぜ、ナンバーワン」

 

「規格外すぎる……」

 

 わぁ、内装も凄く綺麗なのはもちろんのこと、ベッドも付いてるー……しかも個室だぁ……凄くない? え、この飛行機個室完備なの? 昔特集組まれてたのは知ってるけど、ヤバくない? あ、ご飯も出るんですね、自動ロボット……ええ……凄いな本当に。

 

「ああ、ちなみに私は外にいるから何かあったら通信機にかけてくれ」

 

「外って……え? 何? あなた飛べるんですか?」

 

「いや? まぁ、やろうと思えばやれるかもだけど、うちの優秀なお兄ちゃん(ブロス)達がいるからね」

 

 そう言って指差す方向には、超音速機と謳われる機体が二機待機していた。……え、もしかして……

 

『キャシー、そろそろフライト時刻だ』

 

『OK、さあ行こうか新しい弟君(ブロス)妹ちゃん(シス)!』

 

「わぁ、マジであれに乗ったよあの人」

 

 飛行機のアナウンスが聞えるスピーカーから聞こえた通信と外の光景を見て、口元が引き攣りそうになる。規格外すぎないかアメリカのナンバーワンヒーロー。オールマイトでももっと謙虚だと思う! 

 

 わぁ、動き出したぞ。しかもこれ、最新のオートパイロット技術を使っているらしく、無人での飛行を可能としている。普通ならビビるところだけど、スターアンドストライプと戦闘機という凄い護衛が付いているので何かに怯える事はない。しかも確かこの飛行機、凄い速度で巡航できるとか何とか言ってたような────

 

「さぁ、出発だ!」

 

 えーと、アナウンスによると……六時間で着くらしい。とんでもない速度では? 

 

「壱、食欲は?」

 

「無い。眠い」

 

「んじゃ着くまで寝るか」

 

「だね。ウチも何か眠いし」

 

 それぞれ個室に入って、とんでもなく柔らかいベッドにダイブする。エンジン音がほぼ聞えず、代わりに心を穏やかにさせるクラシック音楽が微かに流れる下手なホテルよりも豪華な場所で、眠れるのだろうかと思いつつ、六時間────いや、五時間半くらい眠ろうとアラームをセットして目を閉じた。……が、眠れない。さてどうしよう。ボーっとしているのも良くないよなぁ……

 

「壱、寝てないよね?」

 

「あ、響ちゃん。人ちゃんは?」

 

「一番寝つきがいいのは人使なのは知ってるでしょ」

 

 意外と図太いよね人ちゃんって。

 個室に入ってきた響ちゃんが起き上がった俺の隣に座る。……何かこうして二人きりになるのも久しぶりな気がする。俺、人ちゃん、響ちゃんの三人でいることが多いから当然なんだけど。

 

「こうやって二人っきりなのっていつ振りだっけ」

 

「多分幼稚園以来?」

 

「そっか、人使はその頃に引っ越してきたんだっけ」

 

 小学校に入る直前で俺の個性が発現して……そのちょっと前に人ちゃんが引っ越してきたはずだから、こうして二人だけっていうのは本当に久しぶりのはずだ。ううん、何を話そうかな。響ちゃんのことが好きだっていうのは毎日のように言ってるからなぁ……

 

「壱、無理とかしてない?」

 

「え? うん、多分してないよ。してたとしても、二人と一緒にいるためなら全然苦にならないよ」

 

「それは絶対ダメなやつ」

 

 ジトっとした目を向けられながら背中を叩かれた。

 

「無理して走り続けて転んで大怪我したらウチらの心臓が持たないから」

 

「転ばないよ? 転んでも回転しながら走るだけで」

 

「それを止めろって言ってるんだよ馬鹿」

 

 次は頭を撫でられた。え、何? 嬉しいけど何? どうしたの? 響ちゃんってば熱でもある? 体調不良? 

 

「ウチも人使もさ、ちょっとは気にしてんだよ?」

 

「何を?」

 

「壱をヒーローの道に進ませちゃったこと」

 

 ……それは、別にいいことじゃない? 

 

「サポート科だってあったし、経営科でも良かった。三人で一緒にいる方法はいくらでもあったのに」

 

「俺が望んだことだよ、響ちゃん」

 

「あんた本当は怖がりだったじゃんか。いつの間にかそんな性格になってたけど」

 

 弾けちゃったよね。こう……引っ込み思案だったのが個性が発現したことではっちゃけちゃったと言いますか……そうでもしないと個性が怖くて仕方が無かった、という思いが無かったかと言えば嘘になるけど、響ちゃんと人ちゃんの隣にいる人間として相応しい人間になろうって思ったら、こんな性格になっちゃった。

 

「怖いとか、苦しいとか、ちゃんと言ってよ?」

 

「言ってるよ?」

 

「今以上にだってば。あんたが辛い時、ウチと人使が助けるから」

 

 だから、辛い時は必ず口に出して。

 そう言った響ちゃんの目は、凄く心配そうに俺を見ていて。その心配を消す方法を考えた末に、俺は響ちゃんを体育祭の時と同じように抱きしめてしまった。

 

「大丈夫だよ、響ちゃん。俺は大丈夫だから」

 

「その大丈夫が信用できないんだってば、馬鹿」

 

「ううん、この信頼の無さよ」

 

 あ、いい匂いがする! 思いっきり吸い込みたいけど、そんなことしたら絶対殴られるからやらない。

 

「ごめん、響ちゃん。このまま昼寝していい?」

 

「……はぁ、こういう甘えん坊なところは全然変わらないのに、変なところばっかり変わっちゃってさ」

 

 でも拒絶しないんだよね、響ちゃんは。昔からずっと、俺が甘えるとそれに呆れはしつつも拒絶はしない。本当に優しい人だよ、響ちゃんは。

 

「包容力のある響ちゃん大好き」

 

「はいはい、さっさと寝な」

 

 こういうやり取りも、昔から全然変わってないなぁ。

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 飛行機での移動を行うこと六時間。明らかに普通の空港じゃない場所────軍事施設に着陸した飛行機から降りると、戦闘機を操縦していた坊主頭の男性が気持ちのいい笑顔で俺達を迎えてくれた。

 

「ようこそアメリカへ! これ、来賓用IDな」

 

「「「ありがとうございます」」」

 

 入国手続きを済ませるのと同時に渡されたIDを失くさないように首に下げた後、周囲を見渡してみる。うーん、当たり前ではあるが、日本とは全く違う空気を感じる。こう、広大な感じというか何というか……うん、新鮮な感じがする。

 

「キャシー、早速始めていいのか?」

 

「ああ、もちろん! 時間は有限だからね! ガンガン扱き倒してやってくれ!」

 

 おおっと、いきなり訓練って感じですか? 職場体験の最初のステップがそれとは中々……うん、とてもいいんじゃないかな。相澤先生のサバイバル鬼ごっこよりはきつくないでしょ。……ないよね? 

 

「現場に出て死なないようにみっちり鍛えてもらうぜ、三人共!」

 

「日本と違って平和じゃねぇからな。街はヴィランが歩いてるし、強盗だって普通にいる!」

 

「コーヒーを飲んでたらいきなりヴィランが突っ込んできた、なんてことは日常茶飯事だ!」

 

「「「控えめに言って治安がゴミ過ぎる」」」

 

「「「違いない!」」」

 

 ははは、笑えねぇ冗談でございますわよ。

 

「ところでヴィランに出くわしたら感度3000倍にしてもいいんですか?」

 

「いきなりアクセル全開は止めろ変態」

 

「欠片でもいいから謙虚さを見せろ変態」

 

 やだなあ響ちゃん、人ちゃん。こんなの軽いジャブじゃないか。ジャブがジャブじゃない? 何をおっしゃる。イヤホンジャックが俺に突き刺さって響ちゃんのハートビートが直に来るッ! 

 

「ぉ゛お゛ッ♡」

 

「選択ミスったかもしれない」

 

「スタートがこれとか泣けてくるぜ」

 

 そう言いながら蹴ってくるあたり染まってるよね、人ちゃんも。これが自分色に染めるってこと……♡!? 

 

「思ってた以上にぶっ飛んでるな、弟君(ブロス)妹ちゃん(シス)

 

「まぁ、愛の形は人それぞれだからな」

 

 わぁ、流石自由の国。スルースキルも高いんですね。

 

「とりあえず向こうで訓練を終えたら自己紹介をしてもらう。とびきりのスピーチを考えておくように」

 

 そこは自己紹介が先じゃないんだと思いつつ、トレーニングエリアらしき場所について行く。おや、メニューも貼ってあるんだ。………………中々ハードだけど、せっかくの機会なんだからしっかりとやっていかないと損だよね。

 

「この訓練を突破すれば更なる地平線が……!」

 

「不味いぞ響香。こいつさらに暴走するつもりだ」

 

「これはこっちも気合入れないとね」

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