手綱を握れ!人ちゃん&響ちゃん!   作:エヴォルヴ

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サックサック行きます。それがうちの持ち味。まず味。


世界が違えばドミナント

 明朝、まだ誰もが寝静まっている時間帯に、俺達は担当を割り振られた地点で作戦開始の宣言を待っていた。

 今日に至るまで、俺達はスターアンドストライプ直々に組手をしてもらって調整を行っていたが、ナンバーワンヒーローは本当に強かった。個性も規格外というか、反則レベルの個性を持っていたし。でもああいうのって使えるようになるまでがとても長かったりするし、使い手によっては腐らせるだけなような気がする。通形先輩みたいに強い個性を持っていたではなく、強い個性にしたっていうのが正しいのかな。

 

 それはそうと作戦開始時刻になるまで少しだけ時間がある。テロ組織の根城となっているであろうそこを双眼鏡越しにジッと見ていると、配置についていたプロヒーローに肩を叩かれた。

 

「ヘイ、ニュービー。もっと肩の力抜きな。ほら、クリームサンドでも食えよ」

 

「コーヒー飲むかい? うちのはガッツリ濃いぜ!」

 

「あ……すみません。ブルショット、ブルズアイ。いただきます」

 

 角の生えたヒーロー、ブルショットとブルズアイ。カウボーイみたいなヒーローコスチュームに身を包んだ彼らは双子らしく、そのコンビネーションはスターアンドストライプが一目置いている程……らしい。ブルショットもブルズアイも猛牛という異形型の個性を持っているが、もう一つ銃腕(ガンズアーム)という個性を持っている複合個性という珍しいヒーローだ。轟君みたいな感じ。

 

「スターが連れてきたニュービーだし、期待してるぜ」

 

「喜べよひよっこ。お前の背中は今日一日は絶対安全だぜ。何たって、俺達が守るからな!」

 

 心強いことを言ってくれるヒーローだ。こういうヒーローを見てると心に余裕ができるし、元気を貰える気がする。

 二人から貰ったクリームサンドとコーヒーを胃に流し込み、作戦開始の合図を待つ。腰に佩いているのは無明。そして背中には改修した結果なぜか大槍並みのリーチを獲得してしまった愚瀉ツ刀弐式を背負っている。君もそのうち進化しそうで俺は誇らしいよ……

 

『聞こえてるな、ヒーロー。これから我々はテロリストの根城を叩く。それと並行して下水に蔓延る鼠共も一気に駆除する』

 

 作戦のオペレーターを務めるFBIの方の声だ。自己紹介をする前に配置が行われたから名前は知らないが、スターズとも何度か作戦を共にしている歴戦の猛者らしい。

 

『作戦はそこまで難しいことではない。確実に潰せ。自分の命を最優先にして、(ヴィラン)に何もさせるな』

 

「過激……でもないか。死んだら元も子もないし」

 

『正解だ、煉武。今回の作戦において要救助者がいるであろうポイントは限られているし、そこには機動隊も配置されている。お前達はヴィランの制圧に集中しろ』

 

 なるほど、こういったシビア? な考え方もプロヒーローには必要ということか……命あっての物種、という言葉もあるくらいだし、ここで命を落としたら、明日以降で救えたかもしれない誰かを取りこぼす可能性がある。だから自分の命を大事にして確実に生きて帰ってくる……それが一流のプロヒーローに求められる要素の一つなのかも。

 

『間もなく作戦を開始する。カウント────』

 

 そろそろだ。まさかこんなにも大きなことに参加してしまうとは思っていなかったけど、俺達のデビュー戦、しっかり結果を出してスターアンドストライプとスターズの皆さんの目に狂いが無かったと証明してやろうじゃないか。

 

 無明を握る手に力が入る中、カウントが進んでいき……遂にその時が訪れた。

 

『作戦開始! 各員、生きて帰ってこい! 安心しろ! 優秀な衛生班が来てる! 腕が千切れようが内臓が飛び散ろうが治してやれる!』

 

「「まぁ、お世話になることはないだろうさ! 行け、ニュービー!!」」

 

「了解!!」

 

 高台から飛び降り、相澤先生直伝の受け身と着地を行ってアジトとされる場所に飛び込んでいく。俺がブルショットとブルズアイ、そして機動隊の皆さんとで攻めるように指示された場所は寂れた廃虚の街のような場所。なるほど、ヴィランの潜伏場所としては間違いなく最適な場所だ。しかもここは昼間が寂れているだけで、夜は違法ギリギリの歓楽街として機能しているらしい。グレーゾーンがゆえに手をこまねいていた場所を何とかするため、遂にヒーローと警察が動いたのだ。

 

 炉心の火が悪意に反応して燻り始める中、俺は街の中でも若干大きく、妙に修繕が施されている建物に移動系個性を持っている機動隊の皆さんと共に突入した。

 

「な、何だ!?」

 

「……ぇ」

 

 ドゴンッ!! と音を立ててぶっ飛ばされた扉に驚いたいかにもヴィランといった風貌の男の近くには、ボロボロになった女性がいた。服も破かれて、所々に傷が見えるそれを見て、俺も、機動隊の皆さんも────スコープ越しに状況を見ていたであろうブルショットとブルズアイも、火が付いた。

 

「逃がすな! 徹底的に潰せ! 保護対象を確実に保護するんだ!!」

 

「煉武! お前は指示通り────」

 

「────模倣必殺……【大津波】ッッ!!」

 

「ゲベェッ!!?」

 

 女性の近くにいた裸同然の男に急接近した後、首を掴み、遠心力と地面に叩き付ける。ベギッ、と変な音が聞えた気がしたが、気のせいだろう。玉を潰されなかっただけマシと思え。

 

「何があった────って、何やってんだてめぇらは……!?」

 

「誰だテメェらは!!?」

 

「俺は煉武ッ! 日本からお前らを潰すために来たヒーローだ!!」

 

「そして俺達はアメリカのヒーローと機動隊だ!!」

 

「貴様らは確実に潰せとのお達しだ! 逃げられると思うな!!」

 

 物音を聞きつけてやってきたテロリスト? マフィア? まぁ、どっちでもいいや。とにかくこいつらを叩き潰すことは確定しているんだ。全力で────っと、その前に。

 

「お姉さん、もう大丈夫!」

 

 仮面を取って、憔悴しきっている女性に笑顔を見せる。それだけで、瞳に光が無かった女性にうっすらと光が灯った。

 

「ぁ……」

 

「俺達が、来た!!」

 

 俺の言葉に女性は安心したのか、気を失った。

 俺の後ろに待機していた機動隊の一人に女性を預けて、俺は無明を抜き放つ。いつも以上に、無明の刃が妖しく煌めいているような気がしながら、仮面を被り直して犯罪者共を睨む。

 

「来いよ犯罪者共。全員ぶった切ってやる」

 

「「「ほざけッ!!」」」

 

 あーあー、挑発に乗っちゃってまぁ……気付いてないのかなぁ? 俺の後ろって、ガラス窓が結構あるのに。自分達で建てたくせに知らないの? 

 

『『がら空きだぜ』』

 

「ぎゃっ!?」

 

「そ、狙撃だ!!」

 

「クソが! 身を隠────!?」

 

「させるか」

 

 頑丈そうな異形型の男を無明でぶった切る。血が噴き出るが、勢い良く出ているだけで、そこまでの量出血してはいないだろう。

 それにしても……無明、君、よく切れる刀だと思ってたけどさ、もしかして人なら強度を無視して切れる感じ? 今斬ったヴィラン、岩みたいな体してたよ? なのに豆腐を切るかのように軽々と切れちゃったよ。力加減ミスったら間違いなく人を殺してしまうであろう力。怖いとは思う。だけど、どう使うかは俺次第。俺は君のことをヒーローとして使えるように頑張るよ。

 

「煉武ばかりにいい恰好させるな! 俺達も続け!」

 

『ヘイ煉武! 騒動に乗じてドローンを飛ばしたが、この建物には地下室がある!』

 

『金庫みたいになってるそこに、レディ達が閉じ込められてる!』

 

「ぶち抜きます!!」

 

『『やっちまえ!!』』

 

「ぶち抜けッ! 【愚瀉ツ刀】ッッ!!」

 

「「「ギャアアアアアアアアアアアア!!!!???」」」

 

 ドゴンッ!! ガゴンッ!! と床に叩き付けられた愚瀉ツ刀の刀身を中心に、衝撃が満遍なく伝播する。ブルショットとブルズアイ、機動隊の皆さんには武器の能力を説明してあるので、移動系個性の中でも飛行や滑空といった個性を持っている機動隊メンバーが飛べない人達を掴んで落下に備えてくれた。

 粉々になった床の下────地下室の見張りは落下して来た俺達に反応できずに潰されて気絶した。うん、好都合。ちなみに機動隊が取り押さえていた犯罪者達は、受け身を取れないまま落下したせいで顎を打ったり頭を打ったりして気絶した。ざまぁないぜ。それより、問題はこっちだ。

 

「煉武! 金庫は壊せるか!?」

 

「行けるかもですけど、中の人達がどうなるか……」

 

 金庫の中から────金庫とは言うが透明な強化ガラスか何かで出来てる箱? ────俺達を見ている女性達の表情は不安げだったり、怖がっていたりと様々だ。間違いなく憔悴しきっている人もいる。愚瀉ツ刀じゃこの人達に被害が及ぶ。ならば……

 

「切り裂くだけだ! 行けるよね、無明!」

 

 無明を鞘に納めたまま、構える。0ポイントロボットを切り裂いた時と同じだ。この壁を切り裂き、中に閉じ込められている女性を救い出す。世界の色が消えるほどの集中と、脱力から一気に肉体を緊張させることで放つ居合は、あらゆる障害を切り裂く!! 

 

「模倣必殺────断空ッ!!」

 

 抜き放たれた刃が妖しく煌めき、金庫の壁を切り裂き、風穴を開けた。

 

「あと、お願いします機動隊の皆さん!」

 

「ああ! 煉武はどうする!?」

 

「俺は────」

 

『煉武! 仕事のおかわりだ! こっちに向かって飛んでくるやつがいる!』

 

 ブルズアイの通信を聞いてすぐに理解した。脳無がこっちに来ている。どこにいたのかは分からないが、恐らくマークできていなかった場所から出てきたのだろう。

 

『速いな! こっちで迎撃するが、前衛が欲しい!』

 

『オイオイ! 何だあの鞭! その程度で俺達を抜けると思ってるなら大間違いだぜ!!』

 

 鞭? タコみたいな感じに触手でも出す脳無なのか? 

 ……って、そんなことを考えるのは後だ。二人が前衛を求めている。ならば俺が行かなくてはいけない。

 

「行ってきます!」

 

「ああ、行ってこい! 死ぬなよ! 俺の娘、あんたのファンなんだ! 雄英体育祭見て、ファンになったんだとさ!」

 

「俺の弟もそうだ! あとでサイン書いてくれよな!」

 

「機会があったら是非!!」

 

 機動隊の皆さんからの激励を背中で受けながら、個性によって作られていた元瓦礫の階段を上って外に飛び出す。

 

『煉武! ブルズアイから聞いているだろうがすぐに急行してくれ! 脳無とやらが出現した!』

 

「他のところは!?」

 

『君の担当の他にはスターがいるエリアに二体! だがすぐに制圧されるだろう!』

 

 スターアンドストライプがいる場所ということは、響ちゃんと人ちゃんがいる場所だ。スターアンドストライプだけじゃなくて、あの二人もいるなら脳無の二体程度恐れることはないだろう。万雷と喝采の二人目を解放してみせた響ちゃんと人ちゃんなら問題ない。

 そう結論付けた数分後、ブルショットとブルズアイが待機している狙撃ポイント付近に到着すると────それがいた。

 

「……」

 

 ボディビルダーのような肉体と、黒い肌。そして剥き出しになった脳味噌が特徴的な改人、脳無の腕からは黒い鞭のようなものがユラユラと伸びている。

 

「いつ見ても気持ち悪いデザインしてるなぁ、お前」

 

「日本にはあんなヴィランがわんさかいるのかい、煉武?」

 

「いや、こいつが例外かと……」

 

「だろうな。────来るぞ!」

 

 ブルショットとブルズアイの二人と睨み合っていた脳無が動き出し、腕から伸びていた鞭のようなものがこちらに飛んできた。こんなもの切り裂いて────!? 

 

「斬れない!?」

 

「ゴムみてぇな鞭だなぁおい!」

 

「なら鉛玉を喰らいな!!」

 

 ドドウゥッ!! 

 ブルショットの腕から放たれた銃弾が脳無の体に直撃するが、痛みを感じていないかのように動きが止まらず……しかも貫通して風穴が空いていたはずの左肩が勝手に治っていく。USJの時に現れたやつと同じ……!! 

 

「二人共! こいつ複数持ちだ!!」

 

「「俺達のスマートさには劣るなぁ!!」」

 

「────ッ!!?」

 

 二人の姿が掻き消えたと思ったら、脳無の体が宙に浮かんでいた。……は? ま、まさか……

 

()()()()()()()()……!?」

 

猛牛(レイジングブル)はどんなやつだろうとぶっ飛ばすんだぜ!!」

 

「その程度の重さ、俺達の前じゃ卵以下だ!!」

 

 そう言って笑う彼らの角が分厚く、そして鋭くなっていることに気付く。異形型猛牛(レイジングブル)……!! 何て勇ましい個性なんだ!! 

 

「──────―!!」

 

「奴さんお怒りらしいぜ!」

 

「おいおい、その程度でお怒りとは情けねぇなあ!」

 

 銃撃と猛牛のインファイトが交錯する。鞭すら意に介さない攻撃の数々は、脳無の手札を確実に潰していた。……だが、攻め切れていない。どれだけ攻撃しても、すぐに再生されてしまっている。このまま戦えば、間違いなく二人がガス欠を起こして脳無の勝ちだ。どうするか、なんて考えなくても分かるだろう。再生することが不可能なレベルまで細切れにする……!! 

 しかし脳無の体があり得ないくらい強靭だ。あの時、無明で斬っても全く傷が付かなかったあの肉体を切り裂くにはどうすればいいか。自問自答などしなくても分かっている。ここで、プルスウルトラだ。この土壇場で無明を進化させるんだ!! 

 

「……」

 

 無明、力を貸してほしい。響ちゃんと人ちゃんが万雷と喝采の二人目を使えるようになったんだ。俺が予想していたよりも早くだよ。幼馴染三人組の中で、今置いていかれているのは俺だ。それじゃあ俺は、二人の親友じゃなくなってしまう。そんなのは嫌だ!! 

 

「俺が、あの二人に追いついて、二人の隣を進むために、力を貸してくれ!!」

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ドクンッ、と多々良の心臓が強く鼓動した。

 直後、無明から妖しげな靄が滲み、多々良の体に纏わりついた。

 

『ええ、言われずとも、お力をお貸しいたします』

 

 戦場には似合わぬ、桜の香りがこの場を包む。この場にいる全員が戦闘を止めて、多々良の方を見る。

 

『だから、契約です、父上』

 

 多々良の体に纏わりつく靄が、形を成していく。多々良の心臓から溢れ出る炎が、無明を包んでいく。

 

『あなたが目指す夢、美しい光景。その景色に辿り着くまで、足を止めぬと誓えますか?』

 

「……ああ、誓うよ」

 

『この先に、どのような地獄が待っていようと、誓えますか?』

 

「ああ」

 

 ぞわり。

 

 死体であるはずの脳無の体が、あるはずのない本能が、訴えかける。

 止めなくてはいけない。

 止めなくては、己の命はない。

 あの男が行う何かを止めなくては!! 

 

 その一心で飛び出し、その剛力と鞭によって多々良の脳髄をぶちまけようと拳を振るった脳無は、自分の右側がとても軽いことに疑問が浮かんだ。

 

「誓うよ、無明。俺は、そのためにヒーローの道を選んだんだ」

 

 腕が、無くなっている。再生が、行われない!! 

 

『ならば万物悉くを切り裂きましょう。死狂い、血狂い、屍山血河を晒し、血化粧で己を染めましょう。あなたのために、我が身はあるのだから』

 

 失われていた本能が警鐘を鳴らした。だが、もう遅い。それはもう、完了している。

 

『あなたの望みを叶えるため、私は全てを切り裂きましょう!! 私の名前は────!!』

 

「……行くよ、無明紅姫(むみょうべにひめ)

 

 名を呼ばれた刀、無明改め────無明紅姫が、炎の中から姿を現した。

 見惚れるほどの美しい刀身、桜の意匠が施された鍔、木の幹のように無骨ながら、落ち着きを感じさせる柄。万雷と喝采とは違い、刀身の色が特徴的というわけでもない、ただ斬るための刃は妖しく煌めき、その刀を握る多々良の右腕────否背中には美しい着物を纏う凛々しい女性が、寄り添うように顕現していた。

 

 多々良壱譚の個性によって生み出された武器の意志が強く宿り、同調────厳密には共鳴、共感、契約を果たすことで可能とする進化。名が変わり、能力が強化されるそれは、もはや個性の深化とも言えるかもしれない。

 そんな無明紅姫の能力は────【絶断】。使い手の前に立ちはだかる障害の悉くを切り裂く力。ありとあらゆるものを断ち切る力によって斬られたものは、繋がりを断たれる。まさに絶対破壊の一撃。まごうことなき究極の一太刀。

 

「…………………………終わりだ」

 

 脳無が己の状況を理解できず困惑している中、振り下ろされる刃が、脳無の体を二つに分け、生命活動を停止させる。

 死体すら残らず、灰となったそれを眺めていた多々良は無明紅姫を鞘に納め、小さく笑みを浮かべてから大の字に倒れた。

 

「煉武!?」

 

「衛生班! そっちに患者を連れてく! 丁重に扱えよ! このエリア制圧のMVPだ!」

 

 慌てふためく二人のプロヒーローの声を聞きながら、多々良の意識は深い水底へと沈んでいった。




ブルショット&ブルズアイ
本作品オリジナルヒーロー。牛と銃の複合個性。面倒見がいい性格。


無明紅姫
無明の進化系。鎧を脱いで華やかな着物を着た。儚さよりも先に凛々しさを感じる雰囲気を纏うようになりました。


多々良
気絶。


最初に助けられた女性
光を見た。
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