手綱を握れ!人ちゃん&響ちゃん!   作:エヴォルヴ

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ステイン(いっしょうネットのさらしもののすがた)
あくタイプ
特性:負けん気
覚える技
いやなおと
バークアウト
ハイパーボイス
にらみつける
いあいぎり
きりさく
ふいうち
イカサマ
ねこだまし
かなしばり
まるくなる
はねる


一方日本では。

 保須市の路地裏に、火花が散る。

 相対するは、よく手入れが施された刀と、ボロボロになった刀。握るのは鎧を纏う少年と血に染まった服を着た男。飯田天哉とヒーロー殺しが何度も武器をぶつけ合っていた。

 

「チィッ……!!?」

 

「どうしたヒーロー殺し! 僕はお前に傷一つ付けられていないぞ!!」

 

 飯田の鎧に刃が届くことは何度もあった。しかし、その全てが飯田の体を傷付けることはなかった。

 

『飯田君、俺なりにヒーロー殺しの得物について調べたけどね、あれはダメだ』

 

『ボロボロ。あれでどうして折れてないのか知りたいくらいだよ』

 

『まぁ、技量は確かなんだろうさ。でも道具がクソ。だから傷が重症化するってのもありそうだけど』

 

『というわけで、飯田君には鎖帷子をコスチュームの下に仕込んでもらいます!』

 

『舐めちゃいけない。重いけど、君の鎧に合わせてこれを装備したらヒーロー殺しは間違いなく君を傷付けられないさ』

 

『素材? チタン合金と炭素繊維の複合。一応、防具だって作れるんだよ、俺。武器は個性で作るけど、こっちは自前の技術さ!』

 

 理由は復讐鬼に堕ちようとしていた自分を見かねて止めてくれた友人の一人、多々良の用意した防具だ。飯田用に調整を施した鎖帷子を渡したことで、今の飯田は高機動型でありながら刃を通さない鉄壁の鎧を持ったヒーローとなっている。狙われやすい関節部分も鎖帷子が防御するため、鎧を突破したとしても刃が飯田を傷付けることはない。

 

 さらに、ヒーロー殺しステインが上手く動けない理由がもう一つ────飯田が握るその刀だ。ヒーロー殺しは最初、その刀を全く警戒していなかった。しかし、警戒せざるを得なくなってしまった。

 

「飯田君! 一発でもそれが当たれば僕らの勝ちだ!」

 

「それ、多々良が使ってたやつだよな。確か……下ネタしか話せなくなるとか、そういう効果の……」

 

「ああ! しかも感度1000倍になるらしい!」

 

 救援に駆け付けた二人、緑谷と轟の発言によって、嫌でも警戒せざるを得ない。ふざけた能力ではあるが、それが恐ろしい。淫語しか話せなくなり、感度1000倍になって動けなくなるという無様を晒すことになるのは、ヒーロー殺しとして、一人の人間としてどうしても避けたいことであった。

 

「氷に炎、そしてオールマイトを彷彿とさせる力と、速度……加減できる状況じゃないな」

 

「カッコつけてるとこ悪ぃが、多々良の刀に視線が行ってるぞ」

 

「……」

 

(図星か!)

 

(まぁ、嫌だよね、そりゃあ……)

 

 悪評はすぐに広がるように、ネットミームも凄まじい速度で広がる。ヒーロー殺しステインが、あの凶悪犯が淫語を叫びながら感度1000倍アンポンタンになっていると世界が知れば、瞬く間にネットの晒し者となって己の掲げた大義など見向きもされなくなるだろう。

 ゆえにここはどうにかして、三人を退け撤退することに注力しよう。ならば、まずは遠距離から攻撃してくる轟を────そう思ったのが、ヒーロー殺しの失策であった。

 

「【蒼零拳(そうれいけん)】……!!」

 

「ッ!!?」

 

 撤退を選ぼうとしたヒーロー殺しの懐に飛び込んできたのは緑谷でも飯田でもなく、轟。中、遠距離での支援を行っていた彼が近付いてくるとは思っておらず、反応が遅れる。

 

「『氷晶猩(ひょうしょうじょう)』ッッ!!」

 

「ご、ぁ……ッ!!?」

 

 反応が遅れ、がら空きになった横腹に、氷を纏った轟の左拳が突き刺さる。

 

蒼零拳(そうれいけん)】。轟が心操人使との殴り合いと職場体験、そして己の父母との対話を経て、己の氷をどう生かすかを考えた末に至ったスタイル。エンデヴァーが扱う【赫灼熱拳】は、自身の熱を極限まで高め、溜め込み、放出するものである。エンデヴァーが到達した炎の極致であるそれを見て、轟は己の肌を炎で薄く覆い、その上に何層にも重ねて強度を上げた氷を纏うという考えに至った。エンデヴァーにはない、轟焦凍だけのオリジナル技。今はまだ氷を拳に纏うのみに留まっているが、ゆくゆくは全身を氷の鎧で覆ったり、巨大な拳を生成したりと、自由に形を変えて扱えるようにもなるだろう。

 

 未だ付け焼刃であり、片腕にしか纏えない、未完成も甚だしい技だが、それでもその一撃はヒーロー殺しの内臓を揺らすには十分すぎた!! 

 

「やれッ!!」

 

「【フルカウル】……1()9()()……!!」

 

「エンジン最大出力……!!」

 

 轟の声に呼応する二人のヒーローが、己が出せる全力を出し、ヒーロー殺しに迫る。

 

(拳と脚が来る!!)

 

 今までの攻撃を分析すれば、緑谷と飯田の攻撃は拳と脚。淫語刀という厄介な武器もあるが、一番使っていたのはやはり拳と脚であった。

 内臓を揺らされたとはいえ、体はまだ動く。どうにか攻撃の芯をずらそうとヒーロー殺しが体を揺らめかせるが────

 

(……来ない!? 待て、そもそもやつらはどこに────ッッッ!!?)

 

 後方から迫るエンジン音と、残像が見えるのではないかと思えるような緑色の稲妻が凄まじい低姿勢で迫る緑谷に気付いた時には、もう遅かった。

 

(間に合わな……ッッ!!?)

 

「『デトロイトスマァアアアアアアアアアッッッシュ』!!!」

 

「『レシプロバースト』ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

「ガッ……ァァァッッッ!!!??」

 

 ベキベキベキィッッ!! とヒーロー殺しの体が両方から叩き込まれた全力に悲鳴を上げる。轟と緑谷のレバーブローと、飯田の後頭部を巻き込むように放たれた回し蹴りがヒーロー殺しの顔面を捉え、その衝撃によって壁を何度も跳ね返りながら飛んでいき────ゴミ捨て場に突っ込んだところでピクリとも動かなくなった。

 

「……油断するなよお前ら……ああいう手合いは執念とかそういうので動く可能性がある……」

 

「ネイティブさん! 大丈夫なんですか!?」

 

「ああ、お陰様でな……」

 

「今のうちに武装解除と……これをやつに刺しておこう」

 

「オーバーキルじゃないかな飯田君!? ………………あ、でもその方がいいのか……」

 

「緑谷、どういうことだ?」

 

 衝撃を受けたものの、自慢の思考速度で飯田の意図を把握してみせる緑谷に首をかしげる轟。ネイティブもまた首をかしげる中、飯田は緑谷に代わって意図を説明する。

 

「こいつは色んな人達を悲しみに沈めた。残された遺族だっている」

 

「ああ、そうだな」

 

「この刀は殺傷力が全く無い代わりに、淫語しか喋れなくして、感度1000倍にする効果がある」

 

「………………ああ、そういうことか」

 

 轟が納得し、ヒーロー殺しを拘束していたネイティブが口元を引き攣らせた。

 

「こいつはきっと、何かの拍子に己の思想を口にする可能性がある。その声を淫語にしてやれば……遺族の方々も、少しは溜飲が下がるだろう」

 

 そう言って飯田は容赦なく淫語刀を気絶したヒーロー殺しに突き立てる。……すると、気絶しているはずのヒーロー殺しの体がビクンッ! ビクンッ! とまるで打ち上げられた魚のように跳ね始めた。

 

「────ッ!?」

 

「感度が上がったせいで痛みを感じて起きたのか!?」

 

「■■■!!?」

 

「「「「ええ……」」」」

 

 目覚めた瞬間、えげつない淫語を口走ったヒーロー殺しに四人はドン引きを隠せない。淫語刀。その効果は刃によって斬られた者を淫語しか話せなくさせ、感度1000倍アンポンタンにするというものだが、その淫語は汚い言葉、荒い言葉であればあるほどえげつない淫語に変換される。

 

 痛みでビクンビクンと体を跳ねさせて気絶、痛みでビクンビクンと跳ねながら覚醒、淫語を喚き散らしてビクンビクンしながら気絶、というどこまでも凶悪犯の姿とは思えない醜態を晒し続けるヒーロー殺しの姿は、遺族の方々や関係者が見れば少しは溜飲が下がる姿であった。さっきまで凶悪犯、カリスマ性を持った思想ヴィラン然としていたヒーロー殺しが今、凄まじい醜態を晒している。その事実が、ギャップが────爆笑を呼び起こそうとしているが、四人全員がそれを何とか耐えていた。

 

 

 

 

 やがて、他のヒーロー達が到着し、ヒーロー殺しステインの身柄が引き渡された。もちろんその近くには淫語刀で効果を更新している飯田の姿と、ビクンビクンと体を跳ねながら凄まじい形相で淫語を喚き散らすヒーロー殺しの姿があった。連行しているヒーロー達がドン引きしていることは描写せずとも分かるだろう。

 

「それにしても……よく無事だったね飯田君」

 

「ああ、多々良君に鎖帷子を用意してもらってな。刃が届かなかったんだ」

 

「それに合わせてその刀……ヒーロー殺しはやりずらかっただろうな」

 

「というか坊主、その武器は誰から────伏せろっ!!?」

 

 ヒーロー殺しを連行しながら話をしていた矢先、油断が生み出した安寧を引き裂く翼が緑谷を鷲掴みして飛び立つ。

 負傷した頭から血を滴らせる脳無は、緑谷をどこかへと連れ去ろうとする。誰もがそれを止めようとした瞬間。

 

「────■■■■■■■■」

 

「■■■■■■■■■」

 

「■■■■……」

 

「■■■■■■■■■■■……!!」

 

 淫語と共に、思想犯が脳無を仕留めた。感度1000倍になった体を抑え込みながら血を舐め取るというシリアルキラーのような行為をする彼だが、とてもシュールである。とてもえげつない淫語を口走るヒーロー殺しの姿を見たその場の誰もがドン引きを隠せない。

 

「なぜ一塊になって突っ立っている!? そっちに一匹逃げただろう!」

 

「ッ! エンデヴァー……!!」

 

「どうした焦凍!? 今にも笑いそうな声で叫んで────待て、あの男はまさか……ッ!」

 

 ヒーロー殺しか。そう言おうとしたエンデヴァーだったが、言葉が飲み込まれた。

 瀕死とは思えない、感度1000倍アンポンタンになっている人間とは思えないプレッシャーと形相が、その場を支配した。

 

「■■■■……!!」

 

 だが。

 

「■■■■■!!」

 

 その口から放たれる言葉は。

 

「■■■■■■■■■■……!!」

 

 とてもじゃないがコンプライアンスに反する、えげつない淫語で。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

 

 ヒーロー殺しはもう自分が何を叫んでいるのか分かっていないのか、淫語を喚き散らしていることすら気付いていない。そしてビクンビクンと体を跳ねさせているのだ。これを醜態と言わずして何と言おうか。

 

 ヒーロー殺しステイン、本名赤黒血染。SNSで史上最悪のコンプライアンス違反ド変態ヴィランとして騒がれ、一生ネットの晒し者となった瞬間であった。

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 その後、病院にて緑谷たちは一日入院となった。三人の体に目立った傷は無かったものの、精密検査を行うとして入院させられたのである。

 病室で暇をしている彼らの話題はもちろん、ヒーロー殺しステイン(いっしょうネットのさらしもののすがた)の騒動についてだ。

 

「誰かが撮ってたみたい。あの時のステインの姿を」

 

「すまない緑谷君、真面目な顔をしながらその動画を流さないでくれるかい……!」

 

「悪ぃ、緑谷。さすがに俺もキツイ」

 

「僕だってキツイよ……!?」

 

 インターネットには、ステインがえげつない淫語を喚き散らしている動画が大量にアップロードされており、削除、アップロードを繰り返し続けている。

 ニュースでも中々取り上げにくいのか、動画ではなく画像と卑猥な言葉を叫び続けていた云々と解説されていた。

 

『ステインって英雄回帰とかを叫ぶ思想犯だと思ってたけど……うん、ね?』

 

『心があれなんだよ、きっと……』

 

『亡くなった家族が帰ってくることはないけど……少しだけ、スッキリしました』

 

『ほんの少しだけ溜飲が下がる思いだった』

 

 淫語刀によってステインのカリスマ性はどん底に落ち、粉々に砕け散った。これによって、ステインの意志が日本に広がることはなかった。

 

 警察署長、面構犬嗣はそう言った。そりゃそうだと病室で話を聞いていた三人は深く頷き、多々良壱譚のことを尊敬すると共に畏怖することとなった。武器の効果を自分で使って試してみる、と話していた多々良は、こんな凄まじいものを試していたのかと。

 

「僕、多々良君のこと尊敬するよ……色んな意味で」

 

「いいやつではあるんだが……ぶっ飛んでるとこあるよな」

 

「尊敬するが、それ以上に畏怖してしまうな……」

 

 いいやつだけど、やべーやつ。そんな評価を多々良に付けた三人は、ループ再生されているそれを見聞きして、耐え切れずに噴き出した。笑い声が大きすぎて看護師に怒られるのはまた別の話である。




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淫語刀
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