「快眠」
「てめえだけぐっすり寝やがって」
「もう一回寝とく?」
「一緒に寝てくれる♡?」
「「絞め殺されたいということでいいな?」」
「んぎゅっ……♡♡♡!!?」
職場体験も大詰め……まぁ、最初から最後まで大詰めなレベルだったんですけどね。俺達は大物取りを終えての祝勝会────お世話になりましたという意味を込めてのプレゼントを作っていた。職場体験最終日の朝には飛行機に乗って日本へ帰ってしまうから、帰国前日の今日が皆さんにお礼を言う最後のチャンスなのだ。
「壱、これはこれくらいでいいのか?」
「もっと叩いて! 不純物がまだまだあるよ」
「壱、ウチのは?」
「響ちゃんのももっと叩く!」
響ちゃんと人ちゃんはとんでもない量の汗をかきながら鉄を打っている。手に握っているのは俺が使っている金槌の予備である【
「見てることはあったけど、マジできついな……!!」
「筋肉痛待ったなしだよね、これ……壱、あんたそんな細腕のくせによくできるよね……!」
「慣れだよ慣れ。────────よし、そろそろいいよ! 形を整えていこうか!」
俺の個性を使った鍛造は結構簡易化されている。炉心の火を使って材料になる鉄を溶かし、そこに血を流し込み、完全に混ざり合ったところで鍛造を開始するのだ。赤熱した鉄を打って不純物を削ぎ落とし、何層にも重ねる。本当ならたたら吹き、水減しとか、色んな工程を踏むんだけど、俺の個性はそれをスキップして鍛造を行える。
何千層にも重ねられた鉄を叩く音が聞える。打ち延ばされ、形が整っていく。俺が適宜修正とかしたりしているけど、二人も中々筋がいい。もう少し不格好な形になるかなと思ったけど、綺麗に整っているじゃないか。
今作っているのはナイフ。軍人の彼らは支給されているものがあるから不要だろうけど、日常生活でも使えるナイフだから、非番で家にいる時とか、家族で料理を作る時とかに使えるようなものだ。あとはまぁ、お守りとしての意味合いが強い。シルバーバレットみたいな、そんな感じの。とにかく、悪いものを跳ね除けるような、そういう意味合いだから使わないで家に置いてもらうだけで構わないや。
……………………と、そうこうしているうちに仕上げの段階に到達しているじゃないか。仕上げや柄などの接合などは俺がやることになっているので、しっかりと仕上げていく。焼き入れなどを終えた後、研ぎ上げて、白銀の輝きを纏う刃がお見えになったナイフは、二人が初めて作ったとは思えない仕上がりとなっている。今回の柄は牛革を使ったレザータイプにした。
「巻き付けて……接着して……」
「手際いいよなぁ、やっぱり」
「何度も言うけど慣れだよ。何年この個性と付き合ってると思ってるのさ。小学一年生の時からだよ?」
本当に遅咲きだったからなぁ、と呟きながらナイフを完成に近付けていく。本当に、俺の個性は遅咲きの個性だったのだ。四歳くらいで発現するはずの個性は、どういうわけか小学生になってから発現した。しかもお父さんとお母さんの個性とは全く違うものが発現したもんだから、全員で首をかしげる始末。かかりつけの病院の先生は突然変異か、隔世遺伝であろうと言っていた。やっぱり家系図探そう。面白い発見がありそうだ。
「……よし、完成。名前は……まぁ、無難に【シルバーナイフ】とかでいいかな?」
「お守りだもんな。あんまり独特な名前を付けてもあれだし」
「これが武器だったら何てつけるつもりだったか聞いてもいい?」
「能力にもよるよ? 今回のナイフは能力付きじゃないし、先に名前を付けちゃった」
これが能力持ちの武器だったら、試し切りをして効果を見て、そしてから名前を考えていただろう。ただ、今回のナイフは能力を持っていない。俺の血を混ぜたけど、能力は持っていない感じがする。能力を持っていたら何となく感じ取れるし、作ってる間にこう……何か聞こえてくる。聞こえてくると言えば。
「耳鳴りが消えた……透明だ……気分がいい……」
「G5クワガタじゃん」
「クワガタが野良犬に憧れるのか……」
「イラつくぜ……幼馴染に……憧れたんだ……!」
あの耳鳴り何だったんだろうな、結局。そこまで害が無かったから放置していたけど……そのうち耳鼻科の受診を考えておくべきかな?
「そういえば壱、ネットニュース見たか?」
「アプデ来た?」
「そうじゃないって。ヒーロー殺し、捕まったってさ」
「あ、本当?」
響ちゃんのスマホに映し出されるヒーロー殺しステイン逮捕の記事。ふんふん、あ、プロヒーローが捕まえたんだね、ヒーロー殺し。……そっかぁ、コンプライアンス違反ヴィランにはできなかったかぁ…………いや待て、続きがある……えーと何々……? ヒーロー殺しステイン、タルタロスへの移送中にも淫語を喚き散らす……? 動画も乗ってるから再生してみよ。
「────────────うーん、淫語刀ですね間違いない」
「やりやがったな飯田……!」
「ごめん、ループ再生しないで……これ、マジで……!」
「「「あははっははっははははっはははは!!?」」」
笑いが止まらない。凶悪犯として話題になっていたヒーロー殺しが、コンプライアンス違反ド変態ヴィランとなって一生ネットの晒し者になっているんだから。やりやがった、やりやがったよ飯田君。見事にコンプライアンス違反にしてみせやがった。日本に帰ったら飯田君の祝勝会だ。クレープでいいかな?
「さてと、ナイフ渡しに行く前にシャワー浴びておいで! びっしょびっしょだよ二人共!」
「ああ。……壱は全く汗かいてねぇな」
「自分の個性で脱水起こしてたら世話無いよね」
「エンデヴァーが聞いたら憤死しそう」
何でエンデヴァー……って、そうか。そういえば轟君が色々言ってたね。熱が籠るとか何とか。俺はそんなことないけど、やっぱり体質的な所もありそうだよね、こういう問題は。
「排熱とかどうやってるんだ? 炉心は心臓部分だよな?」
「さぁ? 俺もよく分かってないんだよね」
そもそもこの炉心についても分からないことばかりだし。リカバリーガール主導で行われたレントゲン検査の結果、俺の心臓は二つあるみたいなのだ。一つは人間と同じ心臓。もう一つはその心臓と重なるように形成されている炉心。俺を殺したいのなら、俺の心臓を潰した後に炉心を潰さないといけないわけである。
「ま、俺のことはいいから汗を流してきなよ。着替えは持っていくからさ」
「頼んだ」
「ウチは自分で持っていくからいい」
「そう? ………………………………ところで響ちゃん」
「何?」
「何か、その……胸、ちょっと大きくなってな────お゛ッ♡!?」
「いきなり何言ってんだ馬鹿!」
い、いやだって、マジでちょっとだけ大きくなってるんだもん! 濡れたシャツから透けて見える下着が若干合ってなさそうなんだよ! なんだろう、モデル体型からスーパーモデル体型に一歩近付いたくらいなんだけど、バストサイズ若干大きくなってるよ響ちゃん!? 結構たくさん食べてもお腹にも胸にもお尻にも足にも脂肪が付かなかった響ちゃんが! 若干だけど!
「これ以上余計なことを言ったら殴るよ」
「もう殴ってるぞ響香」
「情熱的だね……♡! というか胸囲は人ちゃんも大きくなってるよ。筋肉がまた育ちやがって」
「叩くな叩くな。胸囲格差が激しいからと言って────おっと待て響香、イヤホンジャックは洒落にならん!?」
シャワールームへと逃げ出す人ちゃんを追いかける響ちゃんを見送ってから、胸の中から桜の意匠が施された鞘に納められた刀を取り出す。これはあの時進化した武器、無明改め、無明紅姫。侍からお姫様にジョブチェンジした結果、もっと物騒な能力を開花させた刀だ。【絶断】という能力は間違いなく人に向けてはいけない能力だけど、使いこなせるようになれば、人の一部だけを斬って、それ以外は無傷……なんてテクニカルなこともできるようになるかもしれない。
「これからもよろしくね、無明」
『ええ、そのために私達は存在していますから』
……何か声が聞えた気がした。精神世界的な場所じゃなくても聞こえるものなのだろうか、こういうのって。
『直に触れていることに限定しますが、可能ですよ。……ところで父上』
「あ、そうなんだ……で、どうしたの?」
『響香殿にはもっと押した方がよろしいかと』
唐突にぶっこんできたね無明!?
『好意は伝わっているでしょうが、それだけではいけません。もっと二人の時間を有効活用すべきかと』
「君、生まれてから間もないよね? 大体数ヶ月くらいだよね?」
『それはそれとして私も女の身を持っていますから。媚主絶天とはよく話します』
武器内でのコミュニティがあるのか……知らなかった……確かに少なからず意志を持って生まれるんだから、コミュニティが生まれているのも当たり前ではあるけど……
『父上としては響香殿と恋仲になりたいのですよね?』
「……んんー、まぁ、そうと言えばそう、なんだけどね……」
『? それ以外に何かあると?』
「縛り続けるつもりはないんだよ、俺」
響ちゃんや人ちゃんが離れたとしても、俺は別に────まぁ、ちょっとだけ悲しいけど、追うことはしない。そっちで幸せになってくれるなら、それはそれでいい。響ちゃんにも、人ちゃんにも幸せになってほしいし。ヒーローを目指しているんだから、たまに道が交わることもあるだろうから、仮に二人が俺から離れたとしても、二人が幸せならそれでいい。
「あとは、この関係性が一番好きだからさ、今はこれくらいでいいんじゃないかなって思ってる」
『……難しいですね、人間というのは』
「武器には難しい?」
『ええ、人の姿を持ったとしても、所詮は武器。私からすれば、人間の
「……そっか」
無明の願いは全てを切り裂くこと。そこに生物、無機物、人間、非人間の区別はない。多分、その願いもあって人間のあれこれは面倒くさく見えてしまうのだろう。世が世なら血を求め続ける妖刀、魔剣として歴史に名を刻んでいたであろうこの刀にとって、人間の柵というのは酷く窮屈に感じるのかも。
『好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。斬りたいものは全て斬る……では成り立たないのでしょう』
「そうだね」
『人間の身で生まれていたとしたら、私はきっと、破綻した人間となっていたでしょうね』
破綻した人間か……まぁ、そこら辺は環境に左右されそうだけど、無明がそう言うならそうなのかも。親としてはそれを否定してあげたいのが本音かな。どう否定してあげたものか……うーん……うーん…………あ、そうだ。
「無明が人間として生まれてたら、俺が見つけに行くよ」
『え?』
「だって、俺は無明の親だから。人間として生まれてたら親じゃないけど、友達にはなれる」
破綻していたとしても、それを隣で止めてあげるか、受け止めてあげるかをしてあげられる人がいれば、きっと間違いは起きないだろうから。
「だから、そこまで悲観的に考えなくてもいいんじゃないかな。破綻者、なんて他人の尺度で変わるものだし」
ヴィランの中にも、自分のことを認めてもらえなくてヴィランになった人っていそうだよね。俺の知り合い……親戚……親類……? にもヴィランになりそうな人いたし。その人は今、海外で武器の使用以外何でもアリというぶっ飛んだルールが設けられたスポーツ────スポーツにしちゃ物騒すぎるけど────で戦っている。
喧嘩に明け暮れて、俺のひい爺ちゃんにボコボコにされた結果が今の状況らしいけど、ひい爺ちゃん、あんた何者なの……? 駆世家の人達、無個性とかあんまり戦闘向きじゃない個性の人が集まってるけど、とんでもなく強いんだよ。俺、響ちゃん、人ちゃんが本気で挑んでも「まだ子犬よ」とか「まだ
────────────────────────────────────────────────────
夜。俺達の送別会を開いてくれたスターアンドストライプとスターズの皆さん。食堂に集まって、巨大なピザやラザニア、コーラなどに舌鼓を打っていると、スターアンドストライプがそういえば、と懐から封筒を取り出した。
「イチタン、ヒトシ、キョウカ。これを受け取れ」
「「「おん……?」」」
許可をもらってから封筒を開封すると、そこには一枚のチケットが入っていた。……ナニコレ?
「Iエキスポのプレオープンチケットだ」
「「「レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン……?」」」
「「「どこから出てきたその単語!!?」」」
カッコいいだろ、レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン。デッキに入れたことは全くないけどカッコいいだろ。俺のデッキはふわんだりぃずだよ。人ちゃんのはティアラメンツだよ。響ちゃんのはクシャトリラだよ。
「知らないのか三人共?」
スターズの皆さんが説明してくれたが、Iエキスポとは、世界中のヒーロー関連企業が出資し、個性の研究やヒーローアイテムの発明などを行うために作られた学術研究都市『Iアイランド』で行われる博覧会だそうだ。
会場であるIアイランドは、研究成果や発明品を狙うヴィランから科学者とその家族、研究成果、発明品を守るために移動可能な人工都市となっているそうで、直径約14キロの大きな人工島となっている。移動手段は飛行機のみということもあり、行くだけでも大変な場所だそう。
そんなIエキスポ、何だか凄い催し物らしく、そのプレオープンのチケットとなるととんでもない高額となるそうで、しかもとんでもない抽選倍率で引き当てる必要がある。とても貴重なチケット……らしいのだが……
「どうして俺達に?」
「今回の報酬と、課題クリアのご褒美……ってとこかな?」
「それと、今回の職場体験は超有意義なデータを獲得できた。将来有望なヒーローの卵とのコネクションの確保、とかな」
過大評価しすぎでは、と思ったものの……アメリカとしてはこの職場体験というものが有意義なテストケースとなったのは事実であり、大物取りを成功させた鍵が、俺達三人であると現場のヒーローや機動隊の皆さんが言っていたこともあったことで評価が大きく付けられた……そうだ。
「プロになった君達をアメリカが引き抜ける可能性も出てきた。それだけでアメリカとしては色々と報酬を出したいのさ」
「つまり……これからも仲良くしようね……ってこと?」
アメリカって確か、日本よりも犯罪発生率が高いんだっけ。日本は島国というのもあって、犯罪発生率が超常社会になる前とほとんど変わってない……って、それが異常なんだよね、本来は。そもそも日本だってヒーロー飽和社会と言われていながら飽和してはいないし。飽和してたらヴィランなんて表に出てないでしょ。
「今はそのくらいの認識で構わない。こっちは万年人材不足だから、君達みたいな優秀な人材はいつでも大歓迎さ」
「ま、難しい話はこのくらいにして、今夜のパーティーを楽しもうじゃないか!」
「料理はまだまだあるぞ! 食え食え!」
スターズの皆さんにピザを口に捻じ込まれながら、Iエキスポのチケットを眺める。面白そう、ではあるんだけど……面倒事が起こりそうな気配もあって、微妙な気持ちが……
「っと、忘れるところだった。スターアンドストライプとスターズの皆さん」
「「「ん?」」」
「この一週間お世話になりましたって意味を込めて、こちらをお渡しします」
忘れる前に、と胸の中から引っ張り出したシルバーナイフ。所々デザインが違うそれらの鞘と、刀身には皆さんの名前と俺達の名前が刻まれている。
「能力とかはありません。ただよく切れるナイフです」
「お守り代わりにでもしてください」
「たまーに使ってもらえたら幸いです」
一人一人に配っていくと、三者三葉の喜び方で俺達に感謝を伝えてくれるスターアンドストライプとスターズの皆さん。感謝してるのはこっちの方なんだけどなぁ。
「おいおい、分厚い肉が抵抗なしに切れやがった! ダズ! 厨房の包丁これに変えたらどうだ!?」
「馬鹿言うな! とんでもない切れ味で俺の指が飛んじまうよ! 肉と魚を切るのに使うよ!」
「「「使うんじゃねぇか!!」」」
「なるほど、こりゃ魔除けの品みたいなものだな。日本で言うところの……悪縁を断つってところか」
ギャーギャーと騒ぎながら喜んでくれる皆さんの顔を見て、俺達は満足気に頷く。この一週間ちょっと、本当に有意義な時間だった。インターンでアメリカに行くことは難しいかもしれないけど、機会があればまたここに来たいものだ。
こうして、俺達の職場体験は終わりを告げた。
帰りの飛行機も、行きの飛行機と同じものに乗って帰ったのだが、その際にIエキスポの封筒をも一度確認したら、とんでもない額が書かれた小切手が入っており、実家の