「ハイ私が来た」
「シンプルに来たなぁ」
「ヌルっと来ると逆に面白いよね」
オールマイト先生の授業、というわけでヒーロー基礎学の授業だ。
「職場体験直後ってことで、今回は遊びの要素を含めた『救助訓練』だ!」
オールマイト先生の説明を纏めると、運動場γ────迷路のように密集した工業地帯で誰が一番早く救難信号に辿り着くのかを競うもの、らしい。建物の被害は最小限に抑えて、どれだけ早く救助者の下へ辿り着くかが重要らしいが……うん、ちょっと試したいこともあるし、やってみようかな。
「さて、最初の組は……緑谷少年、飯田少年、芦戸少女、瀬呂少年、多々良少年だ!」
一番最初の組に選出されてしまうとは……まぁ、試したいことをイメージが固まっているうちにやれるって考えたらいいかも。
にしても機動力に恵まれてる人達が集まったな。緑谷君、飯田君は身体能力に物を言わせた速度、芦戸さんは酸を使って滑ることができるし、瀬呂君はワイヤーアクションのような動きで移動が可能だ。個性を使った機動力が無いのは俺ぐらいなものだ。
「クラスでも機動力いいやつが多いな」
「一ヵ月前なら絶望的だった緑谷も克服したもんなー」
「芦戸もルート次第じゃいい線行くんじゃねぇかな?」
「瀬呂が一位じゃねぇかなぁ、こりゃ」
「緑谷、飯田、瀬呂の誰かかなぁ……」
「「壱だな」」
スタート位置で体を動かしていると、一位が誰になるのかを口々に話している声が聞えてきた。オッズは……俺が最下位ってところかな? 当然と言えば当然なんだけど。
だけどね、俺だって機動力については色々考えてるんだよね……結局、現場に到着しても俺の手が届かなければ命は零れ落ちてしまう。だから、俺だって色々考えた。考えて考えて、時折響ちゃんのこととか人ちゃんのことを考えて、考え続けた末にふとあることを思ったのだ。それを今回の授業で試させてもらう。
「さて……行くよ、無明。というか君、【
『適応外です、父上』
「そっかぁ……本当にあれ、即興必殺だな……まぁそこら辺についても後で考えようか……とりあえず……!」
両腕に
『START!!!』
合図が聞えた瞬間、跳躍丸を叩きつけて跳ねる。凄まじい速度で上にカッ飛んだ俺を見て、誰もが出力調整とか角度をミスったとでも思っただろう。
しかしそれは大きな間違いだ。俺がこの高さまで跳ねたのは次の一手を使うのに高度が必要だったからだ!
「ありがとう、跳躍丸。次は君だ、
跳躍丸を仕舞った後、炎を纏ったガントレットが炉心の炎と共鳴するように強くなる。その炎が腕から背中に到達し、炎の翼のように形成されたのを感じたと同時にその翼を大きく広げて羽ばたく。
「なっ!? 多々良!?」
「多々良が飛んでるー!!?」
驚いたように声を上げる瀬呂君と芦戸さんの真上を越えて飛んでいくと、ピョンピョンと跳ねている緑谷君がブツブツと何かを呟いているのが見えた。……エンデヴァーがー、ホークスがーとか色々言ってるみたいだけど、俺がこれを見出したの最近プレイしたゲームからだよ? 炎の召喚獣さんは俺に素敵なインスピレーションを与えてくれた。ありがとう不死鳥。
「ただ、これ、出力とかの問題で本当なら落ちるんだけど……そこはしっかり対策! するよね! おいで、無明紅姫!」
ガントレットの上から握った無明紅姫から、人間体の無明が顕現する。スターアンドストライプの個性を見て、無明の能力がこういう能力だと分かった時から、何となくこういうこともできないかなぁって思ってたんだよね……!
「上空との距離を斬る!」
グルンと反転するように体を空に向けて、無明を振るう。
それだけで、俺の体は瞬間移動したかのように高度を上げた。
「「「「はぁああああああああああああああああ!!!???」」」」
「成功したぁああああはははっはははは!! 超疲れるこれぇえええ!!!」
『森羅万象、一切合切を切り裂くことが私の願い。物体を斬るならともかく、見えぬもの、掴めぬもの、概念を切り裂くとなれば……父上の技量ではまだ、負担が大きいでしょう』
あ、技量でどうにかなるものなんだ。もう少し素振りとかの回数とか密度増やそうかな? あの技もまだまだ発展途上だし、あれを完璧に模倣できるようになりたい。もっと強くならなくては……ただ無理をすると後々苦労するから無理のない範囲で強くなっていかなくては。
「んでもって────着地!」
滑空していた翼を閉じて一気に降下、跳躍丸を着地地点に突き刺すことで衝撃を緩和、受け身を取ってダメージ無しでオールマイトの前に立つ。
「HAHAHA! 凄いな君は!」
「ありがとうございます。……ところでオールマイト先生」
「む?」
「俺はここに来るまでにどれだけ取り零しましたか?」
「────────!!」
アメリカの職場体験で学んだのは別に、個性の使い方や戦闘の仕方だけじゃない。その力を使ってどれだけ早く誰かを助けられるか、時間をかけずにどれだけ多くの人を救えるかを学んだ。あの日助けたお姉さんと話をする機会があった────というかお姉さんが事情聴取に俺を指名したらしい────際に、色んな話を聞いた。その中には、俺達がもっと早く来ていれば助けられた命の話もあった。
犯罪者による犯行や災害時、俺達が相手をするべきはヴィランだけじゃない。時間そのものもまたヴィランなんだと教えてもらった。助けた人達からはありがとうと言われたけど、俺の中で、お姉さんの話が引っ掛かっている。だから教えてください、オールマイト。俺はどれだけの命を取り零しましたか?
「安心してくれ、ヒーロー。君のお蔭で私は救われている! もちろん、他の救助者もね!」
「そうですか! 良かった!」
そんなことを話しているうちに、他の皆も次々と到着していく。緑谷君は足を踏み外して落下しそうになっていたけど、23%までは安定して引き出せるようになったみたいだ。目指せ30%。感度上げとく?
「遠慮しとくよ……というか多々良君! その背中にいる人? は……?」
「無明だよ」
「え!? その刀なの!? ということは耳郎さんの万雷と心操君の喝采と似たような武器……? でも無明って確か元々多々良君が持ってた武器だし……いや、待てよ? 多々良君は確か自分の個性で生まれた武器は大なり小なり意志を持つって言っていた。武器自身が個性のように使い続けることで姿を変えたりするのか……? ふぉおおお……多々良君の手札はたくさんあるけど、それらが全部そうなるとしたら一枚の手札で何通りの使い道があるんだ!? さっきの切り替えとか、体育祭の動きを見ていて思ったけど、頭の回転が速いんだなぁ……」
緑谷君が自分の世界に向かってしまった……帰ってこーい。
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授業が終わって、更衣室で着替えをしていた俺達は口々に今回の訓練について話をしていた。うーん、皆筋肉付いてるなぁ……見るがいい、俺の体。全く筋肉付いてるような見た目じゃねぇ!
「久々の授業で汗かいちゃった☆」
「俺、機動力課題だわー……瀬呂とか見てると余計そう思った」
「サポートアイテムとかで補うしかないな」
「後手に回るからなぁ……瀬呂とか峰田とか、機動力持ちは羨ましいぜ」
まぁ、ああいう環境だとどうしても機動力は大事になってくるよね。俺は武器で補えたりするけど、そういうことができない場合、サポートアイテムを使って機動力を確保する必要があるわけだ。そこら辺は多分サポート科に行くと色々融通してくれそうだよね。
「……おい緑谷、多々良……! やべぇことが発覚した……! こっち来い……!」
「え? 何かあったの?」
「どしたの峰田君────って本当にどうしたの!? 目から血が出てるよ!?」
深刻な声で峰田君が呼んでくるから振り返ると、女子更衣室がある方向の壁の方で手招きしていた。劣化して色が褪せているポスターぐらいしかないそこに何があるというのか。
「見ろこれ……!」
「え?」
「んー?」
峰田君がポスターを剥がして指を差す。するとポスターのあった場所には500円玉くらいの穴が開いていた。……穴? 何で穴?
「隠されてたから気付かなかったけどよぉ……これって、覗き穴ってやつじゃあねぇのか……!?」
「覗き穴…………覗き?」
「多々良炎仕舞えや!! 蒸れるだろうが! サウナじゃねぇんだぞここァ!!」
「あ、ごめん。というか爆豪君、俺の名前知ってたんだね。ドわすれして特防上げてるのかと」
「どういう意味だァッ!?」
それにしてもこれ、普通に大問題では? 雄英の生徒の誰かが、女子更衣室を覗くためにこの穴を掘った可能性があるってことでしょ? でもポスターで隠されていたってことは卒業生の誰か? でも女子が見つけないわけがないし……ううん……? とにかく大ニュースになるような事件であることには変わりない。
「ところで何で峰田君は血涙流してるの?」
「オイラァ、悲しいんだよ……! この雄英に、見えないロマンを見いだせなかったやつがいることが……!!」
「色々ツッコみたいけどツッコまなくていいよね?」
「耳を澄ませて目を閉じればイメージが広がるんだよ……! 直接見るだけがロマンじゃねぇんだよ……!! オイラはエロスを探求してるけど、これは違うんだよなぁ……!!」
「発言がカッコいいようでカッコ悪いよ峰田君」
「それによ……多々良が耳郎に惚れてんの知ってんだよオイラ。ダチの惚れた女がいる場所を覗きをするような安い人間にはなりたくねぇ!!」
「うん、ありがとうなんだけど発言がカッコいいようでカッコ悪いよ?」
とりあえず、この穴は塞ぐべきなのかな? いや、相澤先生に報告してその後忘れるでいいのかな? 女子には一応報告をすべきか……
「響ちゃーん、そっちからこっち見えるー!?」
「直球で行きやがったこいつ!?」
だって見えてるならそっちから確認してもらった方がいいじゃん。
『見えてる。埋める?』
数秒後、こちらまで伸びてきたイヤホンジャックを使ったモールス信号で見えていることを伝えてくれた響ちゃん。ゲーマーたるもの、モールス信号とギリシャ文字とルーン文字は必修科目だよね。
「相澤先生に報告しよ!」
『了解。こっちでバリケードだけ用意しとく』
よし、これでこちらからやれることはなくなった。あとは相澤先生に報告して、俺達は不干渉を貫くだけでいいと思う。……それで正解だよね? あまり干渉して色々現場を弄っても良くないだろうし。
にしても誰が穴を開けたんだろう? 覗きするくらい好きな人がいるなら、そんなことせずに直球で思いを伝えればいいのに。俺? もっとグイグイ行けと言われたけどそこまで……今の関係性が好きなので。最終的に響ちゃんとそういう関係になれたら嬉しいけど、今の関係を壊したい訳でもないんだよね。精神世界で無明と媚主絶天にどやされたけど、君達はどういう立場なの……?
「話は変わるけど峰田君、上鳴君、昨日くれたあの写真集って何? デッサン用?」
「多々良お前……! グラビアを知らねぇのか……!?」
「ぐら……? ぐりとぐらとかバムとケロなら知ってるけど。家に全巻あるよ?」
「美味しそうに見えるんだよなぁ、あの絵本……じゃねぇよ!?」
「てか全巻!? 逆に見たいわそれ!?」
え? 何? どうしたの峰田君……? いや、峰田君だけじゃなくて上鳴君もどうしたのさ?
「マジで耳郎しか見てねぇんだこいつ……!」
「純愛ここに極まれりかよぉ……!!?」
『壱、あとで話聞くからね』
「いいよー」
「「プライバシーのへったくれもねぇのかお前!?」」
減るもんじゃないし、いいでしょ、別に。
「あの写真集、デッサンに使えるんだよね。峰田君とか上鳴君はああいうの結構持ってるの?」
「え、いや、それは……」
「上鳴、そこでどもるな……! これは多々良を新たな境地に導くチャンスだ……!」
境地……?
「壱、そろそろ行かねぇと授業に遅れるぞ」
「あ、もうそんな時間? 峰田君、上鳴君、あとでまた話そうね!」
昼休み、響ちゃんからの尋問? 質問? をされた後、教室に戻ったら峰田君と上鳴君が女子の皆さんによって吊るされてたけど、何だったんだろう? 相澤先生に質問しても「俺に聞くな」って言われちゃったし……家に帰ったら写真集を紙ごみに出すって響ちゃんが言ってたけど、返してあげなよ……一応個人の私物な訳だし……