深夜テンションというのもあって、わりと滅茶苦茶ですがご容赦を。
それとここら辺はサクサク進んでいきます。
期末試験当日。
地獄を見たような表情でペンを動かしていた人達がいたけれど、そこら辺は見なかったことにします。
そんなことを考えながら、俺達はヒーロースーツを着用して駐車場前に集まっていた。プロヒーローが集まっていることにとても不安を感じますが、どうでしょうそこんところ。
「それじゃあ演習試験を始めていく」
「鬼ごっこですか?」
「かくれんぼですか?」
「隠れ鬼ですか?」
「似たようなものかもな。この試験にも赤点はある。林間合宿行きたけりゃみっともねぇヘマはするなよ」
うーん、とても嫌な予感。
「諸君なら事前に情報を仕入れて何をするか、薄々分かってるとは思うが……」
「入試みてぇなロボ無双だろ!」
「花火! カレー! 肝試しー!」
「残念!! 諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!!」
あ、根津校長先生だ。お久しぶりです。チーズ食べます? あ、もうお昼は済ませた? そうですか。
で、だ。根津校長先生曰く、ロボとの戦闘訓練は実戦的ではなく、ヴィランが活性化している今はもっと対人戦闘、これからの活動を見据えた実戦に近い教えを重視していきたいとのこと。
うん、いいんじゃないだろうか? 対人戦においてどうやって動くべきなのかを考えるには、きっとそういう訓練が必要だから。
「諸君にはこれから、二人一組でここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」
チームアップか……どんな感じかなーっと……?
轟×八百万vsセメントス
緑谷×爆豪vsオールマイト
芦戸×上鳴vs根津校長先生
青山×麗日vs13号
口田×心操vsプレゼントマイク
蛙吹×常闇vsエクトプラズム
瀬呂×峰田vsミッドナイト
葉隠×障子vsスナイプ
砂藤×切島vsブラドキング
飯田×尾白vsパワーローダー
多々良×耳郎vsイレイザーヘッド
うーん……? ブラドキング先生?
砂藤君と切島君の相手であるブラドキング先生……あの先生の授業を受けたことはないけど、物間君曰く血を操って自在に戦う個性……ヒーローコスチュームの管に血を伝わせることで籠手等から血を放出、瞬時に凝固させて拘束する────らしい。
また、血液を剣や槍のようにして使うことも可能。やりすぎれば失血による気絶もあり得る個性なのに、凄い人だ。力のゴリ押しで何とかなる先生ではないけど……あれ? もしかして意図的に弱点の先生を相手にさせられてる? 相澤先生は間違いなく俺達の天敵だけど……マジで?
「多々良、お前には通常のルールと合わせてもう一つ条件を付けさせてもらう」
「条件?」
今のルールは制限時間が30分、生徒側はハンドカフスを教師に付けるか、どちらか一人がステージから脱出……という格上相手にどう対処するかを考えさせられるルールだ。そこに合わせて何を追加して────
「
「………………………………………………………………」
「多々良の表情が死んだ!!?」
待て待て待て待て。それを持ち出すとかマジですか相澤先生。いや、確かにあれらはそのうち使えるようにしないとなぁとか思ってましたけどね? それでも、それでもですよ相澤先生。
「マジで言ってます?」
「大マジだ」
「棄権は……無しですよね、知ってます一応聞いただけです」
「よく分かっているようで何よりだ」
うわー……うわー……! 嫌だァ……! いや、あの武器達が嫌いというわけじゃないけど、我が強すぎるんだよあれら三つは。嫌だなぁ……可能であれば二年生、または三年生になってから使いこなせるように練習をしたかった……というか響ちゃんと組ませたのってまさか……
「くひゅっ……」
「マジで大丈夫なのか!? 先生、多々良の顔色死ぬほど悪いんだけど!?」
「問題ない。現実を見て腹を括ろうとしているだけだ、気にせず移動しろ」
相澤先生の有無を言わせぬ言葉で移動を開始するA組と、現実を飲み込むために時間を要している俺。響ちゃんが俺と組ませられたのは多分、俺の制御失敗を許さないためだ。あの武器を使うなら、相澤先生とのタイマンや、相澤先生+違う先生という組み合わせでも良かったはずなのに、響ちゃんを巻き込んだ。人ちゃんではなく響ちゃんを巻き込んだ。相澤先生、俺はオープンにしているけど露骨過ぎませんか……!!
しかし、もう決まったことにグチグチと言うわけにはいかないし……どうしよう、本当にどうしよう……どれを使う? どれが一番聞き分けがいい? いや、全部どんぐりの背比べ並みだ。無理……! 嫌だ……でもやらないと響ちゃんも赤点になっちゃう……
「壱、行くよ」
「………………こひゅ」
「大丈夫だって。確かにあれらはヤバいけど、大怪我は覚悟してるよ、ウチ」
響ちゃんが俺の手を引いて歩き出す。炉心の炎を抑えることはできたけど、あの三つは本当にじゃじゃ馬過ぎて使えないのだ。我が強すぎて使い手のこっちが引っ張られてしまう、振り回されてしまう武器。武器に振り回されるなんて、使い手失格ではないか。
「ほら、頑張ろ」
「……うん」
「シャキッとする!」
「んぎゅ」
頑張るしかないかぁ……
────────────────────────────────────────────────────
壱は武器を選り好みしない。だけど、使いこなせないからと武器庫の奥底に封印してしまった武器が三つ存在する。それが相澤先生が話していた三つの武器だ。
一つ目、
二つ目、
そして最後に
この三つは、いつか使いこなせるようになればいいな、と悲しそうな顔をしながら壱が封印した武器。あれだけ寂しそうな表情を浮かべて武器に触れている壱を、ウチは初めて見た。
「……壱、何使うか決めた?」
「………………悪竜ノ刃」
「そ。なら始まるまでにちょっと作戦会議しよ」
いつものテンションではない壱を見て、A組も先生達も驚いていたけど、こっちが壱本来の姿だ。正直こういう姿を少しは見せてくれないと心配になってくるから、あのはっちゃけた状態からたまにはこっちの状態に戻ってほしい。こっちの方が機微に気付きやすいし。
「多分、相澤先生が見るのはどれだけ使いにくいこれを使えるようになっているか、だと思う」
「うん。そしてウチが見られるのは……個性が使えない状況で、どれだけ動けるのか」
そして相澤先生の弱点をどれだけ突き続けることができるのか。これについては壱も見られているはず。相澤先生との組手は何年も行ってきた。今でも思い出すだけで震えが止まらないサバイバル鬼ごっこは、毎年夏と冬に行われていた。その時にいつも見られていたのがそれだったし、今回も確実にそこを見られている。
んでもって……脱出不可能の状況下、絶大な力を持っている壱が、ウチという足手纏い役────足手纏いになるなど絶対に御免被るが────に近い存在が窮地に陥った時、どう動くかを見られる。相澤先生、マジで舐め腐ってる? 一応ウチもあの頃よりも大分強くなってるんだけどな。……それは壱も同じか。壱の場合、武器に振り回されて傷つけたくないって感じだけど。
「壱、躊躇わなくていいからね」
「……?」
「その大刀がじゃじゃ馬だったとしても、結局使うのは壱なんだから」
まだ迷っている────ううん、怖がっている壱に言葉を伝える。あんたがやることはいつもと全く変わらないんだってことを。
壱はいつも走り続けてきた。血反吐を吐いても、骨を折っても、体が砕けても、ずっと走り続けて、ここまで来ている。それをいつもウチと人使が後ろで見ていた。隣にいるために、一人にさせないために。ずっと、間近で見てきたんだ。
マイナスからゼロへ、ゼロからプラスへと進むために、がむしゃらに走っている、立ち止まろうとしない困った幼馴染の姿を、ウチは一番近くで見ていたから。だから、あんたなら大丈夫。だってあんたは────
「頑張れ、ウチのヒーロー」
「………………」
黙ったままだけど、目の奥に火が灯ったのが見えた。きっと大丈夫。壱は、多々良壱譚はこの程度で止まるようなやつじゃないから。
『多々良、耳郎ペア、試験開始』
始まった。
フィールドは市街地。森ではないけど立体的な場所となっているこの場所で、相澤先生をどう凌ぐか────いや、凌ぐんじゃない。どう捕まえるのかを組み立てる必要がある。離脱は可能かもしれないけど、評価が低い結果となる気がする。というか相澤先生ならそうする確信があった。
相澤先生が壱の個性を抹消できるのは、一回の抹消につき武器か壱本体かのどちらかのみだ。これは前に本人から聞いている。武器の能力を抹消した場合、壱の個性を抹消できず、壱の個性を抹消した場合、武器の能力を抹消できない。憶測だが、武器の材料が壱の一部のせいで、抹消がバグを起こしてしまうのだろう。ただし、武器の抹消を選択した場合、その効果が消えるまでの間、全ての武器が能力を使えない
しかし今回抹消するとすれば────!
「本人の個性!」
「正解だ!」
ウチのイヤホンジャックが動かなくなった直後、上空からの声と共にマチェットが振り下ろされた。試験用に刃は潰してあるとはいえ、喰らえば間違いなく骨が折れるだろうそれに対してウチは万雷による迎撃を選択する。
「ふっ!」
「やるな。だが、切り替えに対応できるか?」
ゴーグルの向こうで相澤先生が意図的に目を閉じたのが見えた。これは切り替えるつもりか!
「チッ、ハートビ────」
「ブラフも混ぜる。見えたものだけに頼りすぎるな。今回はそっちへの切り替えは無しだ」
「ぐっ!」
捕縛布がウチの手首に巻き付きそうになり、咄嗟に振り払うが、それもまたブラフ。本当に狙っていたのは────まだ十全に動けずにいる壱だった。
(動けずにいるなら、お前はそこまでのやつだったということになるが……どうする?)
一本振り払ったけど、もう一本の捕縛布が壱に迫る。不味い、間に合わない。万雷の解放も選択肢に入れるが、それでも間に合わないそれに手を伸ばした、その瞬間だった。
「……うん……」
全身が粟立つような邪気が、壱の全身から放たれる。あの時、ヴィラン連合がやって来た時に感じた悪意など可愛らしいものだと思えるほどの、殺気と邪気に、流石の相澤先生も一瞬動きが止まった。
「大丈夫。もう逃げないよ。君と……君達ともう一度、向き合うから」
大刀を握り、ブツブツと何かを呟く壱の体から、メキ、メキ、と何か音が聞える。まるで体の全てを構築し直しているかのように、ヒーローコスチュームが血で染まる。その血はすぐに黒と紫の炎に変わり、コスチュームを禍々しい翼────否、三頭の竜の首のようなものと尻尾が突き破った。
ブチブチブチッ!! と皮膚を突き破るようにして生えてきたそれらを中心として、呪詛のような刺青が全身に侵食している。その刺青が広がり、竜の角のようなものが仮面を突き破った時、壱の顔が露わになった。
「────ごめん、遅くなった」
その瞳はとてもじゃないが、人間とは思えない、幻想の産物であるドラゴンのようで。けれど、炎が燻っているかのような瞳から感じ取れるのはいつもと変わらない壱で。声も恐ろしく感じるけど、いつもと変わらない、いつもの壱の優しい声だ。
「遅いよ馬鹿」
「向き合うの結構急いだんだけどね。まぁ、響ちゃんのお蔭だけど」
「それでもだよ────壱!」
こうして呑気に話しているのを相澤先生が待ってくれるはずもなく。伸びてきた捕縛布と、それと合わせて突貫する相澤先生に対して、壱は……
「暴れ狂え! 悪竜ノ刃!!」
『『『ギヒッ……! いいぜェ、使いこなしてみせなァ!!!』』』
拮抗した迎撃どころか、反撃をしてみせた。大刀でマチェットを受け止め、捕縛布を竜の首で噛み付き、黒紫色の炎が捕縛布を伝播して相澤先生を襲う。あれ? てかあの首喋った? いや、今はそんなのどうでもいいか。
しかしそこは流石の相澤先生。瞬時に燃えている捕縛布を切り離し、距離を取った。けど……!!
「ウチがいることを忘れないでよ! 行くよ、万雷!!」
「グオッ……!!」
トランぺッターが指揮者の指揮に合わせて爆音を掻き鳴らし、相澤先生の動きを止める。
嵐のオーケストラ、二人目、演奏者トランぺッター。その能力はウチと似ている。音による攻撃を行うそれは、高音であれば物体を粉砕する破城槌となり、低音であれば相手を拘束する網となる。攻防一体の能力を持つそれだが、今のウチでは出せて数十秒程度。だが、その数十秒が勝敗を決すると教えてくれたのは、あなただったよね、相澤先生。
「これで────」
「ウチらの勝ちだ!!」
「────!!」
「あれ!?」
『『『あんの野郎!? 俺らを消すのとか────』』』
壱の体が元に戻ったのと同時に、万雷も消えた。刃も輝きを失っていて────あれ、これって……
「「個性はともかく、武器の能力消すのは無しでは!?」」
「…………あ」
「「無意識!!?」」
確かにサバイバル鬼ごっこでは個性と武器のどっちかの能力が消えるっていう駆け引きもやったけども! 切り替え無しじゃなかったんですかねぇ!!?
こう、なんだか居た堪れない空気の中、ガチャン、とハンドカフスが嵌められる音が聞えて────
『多々良、耳郎ペア、条件達成』
条件達成のアナウンスが入って講評に移った。嘘でしょ相澤先生。
「すまん、お前らが想像以上に成長していたから思わずいつものようにやってしまった」
「やった、褒められた!」
「調子戻って来たね、壱」
「うん! ありがとね、響ちゃん」
お礼を言うのはこっちの方なんだけどね。いつも壱には助けられてるし。
「俺も反省点があるが……多々良、ちゃんと使えるじゃねぇか。スタートまでのあれはブラフか?」
「いや、じゃじゃ馬だと思ってましたけど、意外と話の通じる子達でして……」
ああ、食わず嫌い的な感じだったんだ……なんて思って話を聞くと、どうやら力に振り回されていたわけではなく、壱自身が極端に怖がっていたから武器側もできるだけ早く終わらせようと力を際限なく壱に注ぎ込み続けて、結果的に力に振り回されているように見えていた……というのが封印武器シリーズ達の暴走形態っぽい何かだったそうだ。過剰なエネルギーに耐えるために意識をカットし、武器側に委ねていたのも起因していたそうだが……壱自身、自分はそんなことをしていたのかと驚いたらしい。ああ、船漕いでる。眠いの?
「無明の解放よりも疲れないけど……眠い……」
「肉体の再構築のようなものをやれば、体に負担が来る。眠くなるのは当然か。歩けそうか?」
「すみません、無理です」
「……耳郎」
「大丈夫です。ほら、壱、担架来るまで支えたげるから、座りな」
「ん……………………」
あ、やばい、もう寝た!? ……本当に、寝る時はすぐ寝るよね。
でも間違いなくじゃじゃ馬ではある。