期末試験の翌日、教室にお通夜のような表情を浮かべている人達がいた。
「皆……土産話っ、ひぐっ、楽しみに……してるっ、がら……!!」
「俺達の夏はここまでだ……」
「林間合宿行きたかったぜ……」
「一個の目的にかまけ過ぎた……」
芦戸さん、上鳴君、切島君、砂藤君の四人である。
こちらの四人、何でも演習試験で成功条件を達成できなかったそうで、お通夜みたいな表情を浮かべているようだ。悲しいね……きっとサバイバル鬼ごっこをやらされるんだ……
「頑張ってね四人共。サバイバル鬼ごっこ」
「「「「サバイバル鬼ごっこって何!?」」」」
サバイバル鬼ごっこはサバイバル鬼ごっこだよ。それ以上でもそれ以下でもないよ。
「ま、まだ分からないよ! どんでん返しがあるかもしれないよ!」
「緑谷君、それはフラグというものでは?」
「フラグ……砂地の旗取り合戦……」
「要塞となった風雲相澤城……」
「「「う゛ッ……!!」」」
「試験で赤点取ったら林間合宿行けずに補習地獄!! そして俺らは実技クリアならず!! これでまだ分からんのなら貴様らの偏差値は猿以下だ!!」
上鳴君が薩摩隼人みたいに叫んでいる。でも足りない。もっと、ガラスが割れるくらいの声量で叫んでどうぞ。
「多々良ァ! 試験のありゃなんだ! 舐めプしてたんか!!?」
「おはよう爆豪君。制御不可能って判断して封印してたやつ。舐めプはしてないよ。してたら死んでたし」
「ケッッ!!」
「毛玉吐く?」
「誰が猫じゃ!!」
朝から元気がいいね爆豪君。血圧上がってそうだけど大丈夫?
「おはよう。予鈴が鳴っていないから大目に見るが、早めに席に着いとけ」
あら相澤先生がいつもよりも早めに登場だ。予鈴は鳴っていないが、ちょっと色々と配るものとかがあるから早めに来たとのこと。あのー、ところで俺達の方を見てからニヤリと笑ったのはどうしてなのか聞いてもよろしいですかね?
「今回の期末だが……残念なことに赤点が出た」
そう……赤点かぁ……皆で林間合宿という名の地獄に放り込まれると思っていたんだけどなぁ……
「したがって林間合宿は────全員行きます」
「「「「どんでん返しだぁ!!!!」」」」
うん、皆で地獄に行こうね。
「筆記の方での赤点はゼロ。だが実技……切島、上鳴、芦戸、瀬呂が赤点だ」
「先生、俺は?」
「
やったぁ。
悪竜ノ刃、使い続けると最終的にドラゴンになってしまう武器だが、相澤先生のお蔭で後遺症は無し。ただ、数時間だけ目がドラゴンのようになったままだった。まぁ、数時間で収まったけどね。使い続けてたら何日も戻らないままだったかもだけど。
「ただし、赤点ギリギリのやつもいる。誰とは言わんが自覚して励め」
「「俺じゃん」」
「ウチじゃん」
「サバイバル鬼ごっこがお望みか?」
「「「ノー・サー!!」」」
まぁ、とにかく皆で林間合宿という名の地獄に向かえるようで安心だ。皆で地獄に行こうね……大丈夫、風雲相澤城とか風雲山田城とかが出てこない限り三日ぐらい死にかける程度で済むから。何にせよ、合理的虚偽再び、というやつですね相澤先生。
「先生! 二度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかと!」
「わぁ水差す飯田君」
まぁ、やる気を出すための虚偽はいいだろうけど、何度も来ると油断が来るよね。俺達は油断した直後に気を引き締め直すために滝行やらされたけど。寒かった。
「確かにな、省みるよ。ただ、全部嘘ってわけでもない。赤点組には別途補習時間を設けてる」
「赤点回避組に参加権はありますか!」
「喜べ、合格組は志願制だ」
「「「参加を希望します!!」」」
「「「「嘘だろお前ら!!?」」」」
俺達幼馴染三人組が志願すると、マジかよお前らという視線を向けられた。え? 参加しない理由がどこにあるの?
「実技の評価点と問題点を更に詳しく解説してもらえるチャンス……逃す必要性があるのか……!?」
「肝試しは!?」
「ウチがホラー系無理。あと多分壱と人使が殴る」
うん、それで出禁になりかけたお化け屋敷あったもんね。響ちゃんの脚とかを触ってくるのが悪い。
「花火!」
「「こいつが花火の擬人化みたいなところある」」
「林間合宿に行ってまで授業とか真面目か!?」
合宿も授業の一環では……?
とにかく、俺達は誰に何と言われようと補習授業に参加するぞ。これは決定事項だ。迂闊に外に出てクマに襲われる方が怖い。個性があってもクマは強い……というか、今自然界に存在している生物って個性社会に適応した生物*1だから、超常の世代である俺達であっても食われる時は食われる。山に入った人間が行方不明になったという通報があって探しに行った警察とヒーローがクマなどに襲われて大怪我して戻って来た、なんてニュースもあるくらいだ。だから真夜中に森に行くなら口田君が必須である。
「こいつらが特殊なだけだ。林間合宿のしおり、今から配っていくから確認しとけ」
そう言って林間合宿のしおりを配っていく相澤先生。ふむふむ、結構な大荷物になりそうだけど……いや、そうでもないか。個性使用アリなら俺の荷物はそこまで嵩張らない。そもそも服は制服とジャージ、あとは靴くらい。水着は学校指定のやつでいいでしょ。ちょっと大きめのやつを買っていたから、今も入るはずだ。でも水か……俺が入ると水が沸騰したりする時があるのびっくりするんだよね……まぁ、それはそれで水源が確保できるからアリなんだけど。
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さて、そんなこんなで翌日。昨日? 相澤先生に呼び出されて、風雲相澤城が建設されることが判明してそれどころじゃなかったので記憶の彼方に棄ててきました。葉隠がクラスの皆で買い物に行こうとか何とか言っていたけど、俺達は予定があるし死ぬほど疲れてるからパス、明日の特売を逃したら終わるという意味の分からない理由でキャンセルした。三人揃って真っ白だったから許容されたけどな。
今頃ショッピングモールで楽しく買い物しているんだろうなと思いながら、俺達三人は、地元に最近できたらしいアトラクションプールに訪れていた。皆には悪いけど、休日はゴロゴロするか、三人で過ごすって決めているんだよ。
「うーん……」
「どうした壱」
「人ちゃん、やっぱり筋肉付いてきてるねぇ。羨ましいや」
そう言ってベチベチと俺の背中を叩いてくる壱。雄英に入る前から鍛えてきたけど、こう……使える筋肉を目指して肉体改造を続けてたら、ギリシャ彫刻に近い体つきになったんだよな、俺。俺と同じくらい鍛えている壱はと言うと────
「マジで女みてぇだよなお前の体」
壱の体は……うん。サラシを巻いていれば女と認識されるんじゃねぇかと思うような体つきだ。何だその腹から鼠径部にかけての線の入り方。女じゃねぇか。
「信じられるか? さっき警備員さんに補導されかけた」
「笑うとこか?」
「嗤えよ親友」
「不憫だ……」
これだから水着は嫌いなんだ、とボヤく壱に苦笑を送ることしかできない。こいつ、結構容姿で苦労してきてるからなぁ……こう……男に告白されたり、ショッピングモールで響香と一緒に買い物していたらナンパされたり、海水浴に行ったら明らかに変質者らしきやつから「君のせいで今大変なんだから」、「そんな恰好してるのがいけない!」と迫られたり────そいつは俺と響香で潰したし、駆世組の人達が連れて行った────とか……碌な思い出がない。不憫だ……
「開き直ってパレオ着てやろうかな」
「早まるな?」
「冗談だよ」
何て目をしてやがる……!
「騒がしいよ男共」
「あ、響ちゃ────────」
「────攻めてきたなあ」
響香の水着は黒いビキニタイプの水着だった。峰田と上鳴によって渡された女性の水着姿の写真集の中で壱が無意識に開いていた────デッサン用の写真集だと勘違いしていたが────項目に似ている水着だ。
黒いレースのロングカーディガンを羽織ってやって来た彼女の水着は、ブラックカラーのビキニ水着。上のスタイリッシュなクロスデザインはセクシーさを感じさせるが、それでいていやらしさが出ていない。下はミニスカート。太もも上部までをスカートで隠すことで、可愛らしさと色っぽさを同時に引き出している。……うーむ、俺の隣でフリーズしている馬鹿は自覚が無いだろうが、ドンピシャで好みの水着だ。
この水着……間違いなく気合を入れて選んだものだろう……響香、やるんだな……!? 今日、ここで多々良壱譚という男の心を奪う作戦を……!!
「はっ……!」
「壱、どう?」
「────────────────────────────」
またフリーズした……壱には……!! 純愛ピュアボーイには刺激が強すぎたんだ……!! 響香の恥じらう姿と水着が重なり合って壱の思考回路がショートしている……!!
「起きろ馬鹿」
「んぎっ……!?」
「水着の感想を伝えてやれよ」
次にフリーズしたら響香に着替えてくるように言わなくちゃいけなくなるが……行けるか、壱!?
「え、えっと……似合ってる、と思う」
お前一度響香の裸見てるだろうが。あれは事故? それでも見てるんだったら水着でフリーズしてんじゃねぇ。
「ん、ありがと。結構悩んだから嬉しい」
「人ちゃんも似合ってると思うでしょ?」
「おう。似合ってると思うぞ」
俺の感想はどうでもいいんだよ壱。響香が求めてるのはお前の感想なんだよ。見ろあいつの顔を。まんざらでもない顔してるから。顔を下に向けるんじゃねぇ。脳内フィルターに焼き付けて慣れろや。モジモジしてんじゃねぇ! そういう反応するからナンパされんだろうが!?
「ほら、遊ぶよ。どこから行く?」
「流れるプールから行こうぜ。激流らしいぞ?」
「え、本当!? 行く!」
流れるプール好きだよなぁ、こいつ。
そう思っていると、壱が流れるプールに向かって速足で動き出してしまった。……耳まで赤いところを見るに、響香を直視できないから逃げたな。
「女冥利に尽きるってもんじゃねぇか?」
「まぁ、気合入れて選んだやつだし、褒められれば嬉しいよ」
「あいつは直視できてなかったけどな」
「直視させるよ」
強いな……何かを選び、捨てることなく抱えた女の強さだ……
「そういや、壱は響香にほぼ一目惚れだけど、お前はどうしてなんだ?」
「どうしてって……うーん……話し始めたら三十分は拘束するけど?」
「オーケー、落ち着いて簡潔に話してくれ?」
「惚れたことに、惚れた以外の理由は必要?」
「一途だな。そういう感じだ」
壱と響香の恋愛合戦は見ていて退屈しない。壱が純粋な好意をぶつけ続けて弾幕を張るが、響香はたまに好意を向けてこうして超高威力な一撃を加えて壱を撤退させる。だがな響香……距離の詰め方を誤ったら間違いなく壱に襲われるぞ?
「逆に襲い返すけど」
「心を読むなよ。………………静かにやってくれよ?」
「そもそも壱ってそういう知識あるの?」
……………………………………いやいや、保健体育で百点取ってたし、あるだろ。……あるよな?