わー、凄い激流だ……噂に違わぬ激流プール……凄い流れていく……
浮き輪に掴まって浮きながら、凄まじい激流に身を委ねていると、俺以外の人達の楽しそうな絶叫が耳に入ってくる。この施設にはウォータースライダーもあるんだっけ。あとで滑りに行かないとね。
『『『ギヒヒッ、親父、ありゃねえわ』』』
「
え!? 俺君達引っ張り出してないよね!? あんな大刀こんな場所で出すわけないから当たり前だけど、君達なんで出てきてるの!?
『『『ギヒッ……俺達は他の連中よりも親父への干渉力が高くてなァ。俺達を出さなくても首くらいは出せるんだぜ』』』
わぁ、新情報をありがとう。お蔭で周囲からの視線を感じるよ。うーん、常闇君の
「ところで、ありゃねえわって……何のこと?」
『『『響香のことさ。何で逃げたんだよ』』』
「昔より綺麗で直視できなかった……」
『『『ダセェ逃げ方してんなよなァ』』』
うるさいな。仕方ないじゃないか。俺だってここまで面倒くさい人間だと思ってなかったんだよ。いや、たまに響ちゃんにカウンター喰らってフリーズするってことは今までもあったけど。
……綺麗だったなぁ、響ちゃんの水着姿……あれ? そういえばIエキスポのプレオープンって確かドレスコードがあったような……響ちゃんのドレス姿が見れる……!!? 見たい、見たいけどまたフリーズしたらどうしよう。さっきの水着姿を思い出しただけでフリーズしそうになるのに、ドレス姿なんて見たら……気絶してしまうかもしれない。
「何唸ってんの」
「うひぃ!?」
「ふふっ、うひぃって……変な声」
いつの間に激流プールに入ってきたのか、響ちゃんが俺の隣にいた。カーディガンが無くなったことにより白く輝く肌が見えるようになった響ちゃんを見て、俺の体が火が付いたかのように熱くなってきた。
激流の中でも見えるスラッとしなやかに伸びた腕や足、引き締まったお腹や、腰のライン……あとクロスデザインの水着によってちょっとだけ強調されている胸元────────だけではなく、水に濡れて輝いている髪も、おかしそうに笑っている表情も全部可愛いし、綺麗で…………あ、待って響ちゃんそれ以上近付かないで! 好きになっちゃう! 今よりもっと好きになっちゃうから!! というか悪竜の刃はどこにいった!? いつの間にか消えてるし!
『『『場所は伝えたし、あとは自分で頑張りなァ』』』
謀ったな! 謀ったな悪竜の刃!!
「ひ、人ちゃんは?」
「ボート借りに行ってる。ウォータースライダー、ボートに乗ってないとダメなんだってさ」
「へー……」
スス、と少しだけ離れると、響ちゃんがそれに合わせて近付いてくる。もう一度ほんの少しだけ離れると、響ちゃんがまた距離を潰してくる。ならばと少し近付いてみると────腕を組まれた。……………………………………腕を組まれた?
「あのー、響ちゃん?」
「何?」
「そのー……どうして腕を……?」
「あんたがまた逃げないようにするためだけど?」
「逃げた記憶は一切ないよ!?」
「嘘吐くな。心音でバレるんだから。てか、腕組むくらいはいつもやってるでしょ?」
浮き輪を掴んでいる方の腕とは逆の腕に絡みつく響ちゃんの腕と、冷たい水越しでも分かる響ちゃんの体の感触と体温に体が沸騰したように錯覚する。腕を組むなんてことはいつもやってることなのに、水着で素肌に触れる面積が多いだけでこうも違うのか、なんて考えて気を逸らせようとするが、響ちゃんがそれを許さない。助けて人ちゃん、俺もっと響ちゃんのことが好きになっちゃう。
そんなことを考えながら激流に身を預けていると、少しだけ冷静になってきた。心臓はまだバクバク言ってるけどね。それに気付いたのか、響ちゃんはおかしそうに笑みを浮かべた。
「水着だけでこんなことになるとか、本当に色々ズレてるよね壱って」
「ズレてる……のかな?」
「ズレてるよ。いっつも好き好き言ってくるくせに」
「好きな人に好きって伝えるのって悪いこと?」
「そういうのがズレてる……って、あんたにとってはそれが普通なのか」
「うん」
そうだよ。好きな人には好きって伝えなくちゃ。テレパシーなんて使えないから、言わないと何も伝わらない。……直視できなくて逃げたけど、それはそれ。
「ま、今の世の中色んな人の普通があるか」
「もしかしたら血を見るのが好きで普通って人もいるかもよ」
「なら、血を吸うのが好きで普通って人もいたりしてね」
個性:ヴァンパイアみたいな人いそうだよね。この時代、どんな個性があったとしてもおかしくはないし。ただ、それを受け入れるためのあれこれが整っていないのが世界の現実であることは確かだ。異形差別なんてものがあるのがいい例だよね。あの村、障子君が言うには俺達が帰った後に行政が入ったらしけど、どうなったんだろう。異形差別の歴史は深い。その見た目でたくさんの人が傷付いたし、たくさんの人が傷付けられてしまった。
それにしても個性って何なんだろう? もしかして元々はウイルスだったりするのかな? こう……共生するために人間の体を改造してしまうような……いや、逆なのか? 人間がそれに適応しようとした結果、異形型になった? ううん、分からない。誰かダーウィン連れて来て。
「ということはあの肉とか断面とかうるさかったヴィランも?」
「あれは……いやどうなのあれ……薬もやってそうだけど」
ちょっと調べたら出てきたよね、あの変質ヴィラン。指名手配中で、脱獄した後もまだ捕まっていないヴィラン────ムーンフィッシュ。どこが魚なんだろうか。
「ま、難しいことは抜きにして遊ぼうよ」
「そうだね。で、響ちゃん」
「ん?」
「いつまで俺に掴まってるつもりなの?」
「まぁ、この激流プールのゴールに着くまでは?」
……泳げるよね、響ちゃん。
「浮き輪無しの場合、浮き輪持ってる人と一緒にいないといけないんだってさ」
「へー……あれ? 借りれたはずだよね?」
「壱が流れてくるの見えたから、連れですって言ったら通してくれたよ」
監視員さーん、警備緩すぎじゃないですかねー? あ、でも響ちゃんの体に触れて怒られてないのは幸運かも。普通に役得! 慣れてきたらこの状況がとっても天国! 柔らかいし温かいしすべすべしててとてもいい! ありがとう監視員さん!
「変なとこ触ったらぶん殴るからね」
「それは流石にしない」
「まぁ、それもそっか」
そうこうしているうちに激流プールの流れは緩やかになり、出口が見えてくる。激流プールの出口は入口とは別の場所となっており────そこは幻想的な植物園が広がっていた。
「「わ……」」
凄いな……ガラス張りになっているのか、その植物などには触れることができないが、色とりどりの花や木々が生い茂り、図鑑でしか見たことがないような鳥が空を舞っていた。このアトラクションプール施設は植物園、動物園、水族館が併設されており、プール施設で遊ぶもよし、植物園で穏やかな時間を過ごすも良し、動物園で動物と触れ合うもよし、水族館で海に想いを馳せるも良しの施設なのだ。
建設は駆世組。……はい、俺の母方の実家です。ヤクザから足を洗って建設会社をやっているという駆世組、個性豊かな人しかいないから色々と作れちゃうんだそう。やばいよね。ここに来てる理由もチケットが送られてきたからだし。ありがとう、お爺ちゃん達。ちなみにお爺ちゃんの個性は『建設加速』。文字通りの個性で、完成像が完璧に作られた『手書き』の立体図面があれば、建設作業を加速させることができるというもの。そんな個性からどうしてお母さんの採寸という個性が出たのか? 少し前に他界したお婆ちゃんの個性が測量だったからじゃないかな。
「凄いね……」
「うん。あ、鳥だ。綺麗だねぇ」
「……あれ、フウチョウってやつじゃ……」
「……日本で人工生育成功してるのかな」
絶滅危惧種に関しての研究は続いているし、技術的に可能になってる可能性はあるよね。あ、あの緑色の鳥綺麗だなぁ……お腹の羽は赤いんだ……へー……
「そういえば動物園のコーナーにヒクイドリいるらしいよ」
「そうなんだ。あとで見に行こ」
ヒクイドリ、あんな見た目で実は果物とかを食べる動物である。でも哺乳類の死骸も食べたりするそう。
植物園の幻想的な風景をゆっくり流れながら眺め、ゴールに到着。水から上がると、ゴムボートを背負った人ちゃんが待っていた。
「おかえり。フリーズしてないようで何よりだよ」
「ただいま。ちょっと慣れてきた」
いつまでもフリーズする程俺も学習しないわけがない。役得だし。
「ゴムボートデカくない?」
「安心しろ、三人乗りだ」
「ウォータースライダーって三人で流れていいの……?」
あ、ここのは特別製? そっかぁ。
「そういえば壱、ここのレストランの従業員に伊口さんいたぞ。パートだけど」
「マジで? あとで挨拶行こう」
伊口さんというのは、駆世組に拾われた元引き篭もりの方だ。ヤモリの個性を持った異形型の彼だが、ナイフの使い方がとても上手いので厨房担当になっているのだろう。俺がゲームをよくやるようになったのも伊口さんが影響している。lolなるゲームをよくやり込んでいるそうで、俺達もやりたいと言ったら、「止めておけ、こっちは地獄だぞ。仁王にしておけ」と言われた。ジャンル違くない? 風鬼が超高速で迫ってくるあの恐怖よ。あいつだけ別のゲームやってない?
ちなみに現在は異形差別やら個性差別やら無個性差別やらの歴史などについてをマイルドに織り交ぜた、誰でも読める絵本を描いたり、それを読み聞かせに全国の保育園や小学校に行っているそうだ。結構好評で引っ張りだこだそう。駆世組に絵本部が作られる日も近くないかもしれない。どこを目指しているんだろう、駆世組。
「とりあえずウォータースライダー行くか」
「うん。響ちゃん前と後ろどっちにする?」
「前で。壱、あんた真ん中ね」
「身長問題……!」
響ちゃん、俺、人ちゃんの順番で背丈が高くなっているから仕方がないが、いつも俺はこういうアトラクションで真ん中に行きがちだ。まぁ、響ちゃんのことを抱きしめることができるチャンスだから嬉しいけど。……でも服越しじゃない状態でのこれは小さい頃以来だから心臓が持たないかもしれない。
ウォータースライダーを目指して歩いていると、何だか見覚えのある髪の人がいる。あれ? でもモンスターボールみたいな見た目じゃないし女の人だ……んー……?
「あの、困ります……」
「いいじゃん、遊ぼうよ」
「ちょっとだけだからさ!」
ナンパか? こんな子供も遊んでいるような場所で? 大人げないというか何というか……お姉さんが困ってるのが見えていないのだろうか? これだから性欲で物事を見ているような人は……峰田君を見てみろ、自分なりのロマン? なるものを持って性欲に忠実になっている。カッコいいけどカッコ悪いを体現しているんだぞ。けれど今見ている光景はカッコ悪くてカッコ悪いを体現してる。
さて、そんなカッコ悪い大人をどうやって払い除けようか────思考がそっちにシフトしそうになった直後。
「失礼。女性に嫌がらせ行為を行っているという通報があって来たんだが」
「「え゛────」」
カッコ悪い大人が振り向いた先には、いかにも海の家の店員といった服を着てトロピカルジュースをトレーに乗せている爬虫類のような姿の男性がいた。首には職員IDらしきものを吊るしており、目付きは酷く鋭い。服の下の下は土木作業で鍛えられた筋肉に包まれており、半袖の袖がはち切れんばかりだ。
「はあ、お前達みたいなのがいると、空気が悪くなるんだよ」
「い、いや、その……」
「子供が遊んでるとこでダサい真似するなよ」
「「すみませんでしたぁあああああああああああ!!!??」」
「馬鹿野郎! プールで走るんじゃねぇ!!」
ギロリ、と駆世組直伝のメンチ切りに勝てなかったカッコ悪い大人が走って逃げ出す様を見てそんなことを言ってから、フン、と鼻から息を吐き出してから、ナンパされて困っていた女性の座っているテーブルにドリンクを置いて帰っていく異形型の個性を宿した彼に、俺が声をかけようとしたが、その前に女性が口を開いた。
「伊口君、ありがとうね!」
「……あー……いや、ここの従業員として当然のことしただけなんで……轟先生も男避けくらいは……って、夏雄さんは?」
「えと……ちょっとゼミで何かあったみたいで、電話してるみたい」
「そうですか……」
え、何、知り合い? ってか、轟先生……? ということはもしかして……
「轟君のお姉さん!!?」
「わっ……!?」
「うおっ!? 人使がいたからいるとは思ってたけど……やっぱりいたのかお前ら」
「面影があるような、無いような……」
「もしかして全員母親似……? いやでもあのモンスターボールヘッドじゃない……脳がバグる……!」
「灰色の女の子みたいな男の子、紫色の男の子、黒色の女の子三人組……もしかして、焦凍が言ってたのって君達のこと?」
轟君……酷いよ……どうしてそんな伝え方しちゃうんだよ……俺、傷付いちゃったよ……傷付いちゃったからさぁ……
「もう感度7900倍にして薔薇陸奥の餌食にするしかなくなっちゃったよ」
「女みたいな顔と体してるのは事実だから止めろ」
「分かりやすくていいじゃん」
「酷くない?」
そんなやり取りをしている間に、戻ってきたガタイのいいまたもや轟君とどこか面影が似ている男性がやってきて、軽い自己紹介と会話をしてから────轟君のお姉さん冬美さんとお兄さん夏雄さんから今度ご飯食べにおいでとか言われた────別れ、当初の目的であるウォータースライダーを見て、風雲相澤城を思い出して白目を剥きそうになりながらスタート地点へと立つ。
「……高いな」
「高いね」
「高いなぁ……あ、植物園が見える」
このプールで最も大きいアトラクション、ワイルドパイレーツ。とても高いところにスタート地点があって、真っ直ぐ流れたり、カーブしてみたり、回転してみたりしながら最後にはジャンプ台のような場所から飛び出してプールにドボン、というウォータースライダーである。ちなみに最後のプールには水中に強い個性を持った職員がいるので溺れても安心。
ゴムボートに乗らないといけない理由は色々あるらしいが、一番の理由は水着が脱げる人がいるから、それが起こらないようにするためだそう。
「じゃ、行くか」
「しっかり掴まってないと振り落とされるね、これ」
「壱、振り落とさないでよ」
「わぁ、責任重大」
職員さんの案内に従ってゴムボートに乗った俺達は、遠心力で振り落とされないようにゴムボートについている固定用ベルトを装着し、片腕で自分の前に座っている人の腰に手を回し、もう片方の腕でハンドルを握る。
「では、いってらっしゃい!!」
職員さんの声が遠くなっていくのと同時に、俺達を乗せたゴムボートが加速していく。
「「「おわあああああああああああああああははははあああああああああ!!!!???」」」
予想以上に速いぞこれぇえええええええええ!!?
右、左、正面、斜めと絶え間なく動き回るウォータースライダーの中で、俺達は絶叫とも笑い声とも取れるような叫びを上げて進んでいく。響ちゃんの体の感触とかを楽しむなんて余裕は消え去り、振り落とされないように必死になっていると、その加速が最高潮になって、周囲が若干明るくなったなぁと思った瞬間。
「「「わあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!???」」」
ドウ……とゴムボートと共に空へと投げ出された。ジャンプ台から飛び出した俺達は重力によって地上に引き戻され、深めに作られたプールに着水。バシャアアアンッ! と凄まじい水飛沫が上がり、俺達はその水飛沫によってびしょ濡れになってしまった。水着だからいいんだけどね。
「はははっ、やっべぇ、このウォータースライダー」
「人生で一番凄いよ、これ」
「ヤバいね、これ……」
ベルトを外して陸地に上がった俺達はびしょ濡れになった顔を見合わせてから、異口同音にこう言った。
「「「もう一回滑ろう!!」」」
今のでどんな感じなのかは分かった。あの超加速していく感じをもっと楽しみたい! そう思ってゴムボートを三人で担ぎ、もう一度列に並ぶ。もう一度やってきた俺達を見て職員さんはちょっと驚いていたが、さっきと同じように元気よく送り出してくれた。最高だった。
────────────────────────────────────────────────────
「いやー、遊んだ遊んだ」
「眠……」
「水中って結構体力使うもんね」
時刻は午後五時。朝八時からオープンしているアトラクションプール施設で朝一から三時くらいまで遊んでから帰ったウチらは、自室に行くのが面倒ということでリビングにマットレスを敷いて寝る準備に入っていた。
夕飯は軽く食べた程度だけど、遊び過ぎて食べ物が入らないという不思議な現象に陥ってしまって、満腹だ。もちろんお風呂にも入ったし、ちょっとした事件が起きていたのも確認済みで、相澤先生との連絡も終わっている────というか、さっきまでいた。家庭訪問って今日だっけと思ったけど、ショッピングモールで緑谷がヴィランに遭遇したらしい。トラブルに巻き込まれやすいのかな、緑谷って。
「で、どうだった、水着」
「んー……綺麗だった。昔よりも、ずっと……」
昔って……本当に子供の時じゃん。今も子供だけど、それ以上も前の話だよ。でも、そっか。綺麗だったかぁ……あ、不味い、にやけてしまう。
「壱、あのさ」
「……ぐぅ……」
「寝やがった……!」
寝ちゃったよ、壱。まぁ、今日一番はしゃいでいたのは壱だったし、仕方が無いか。水泳レース、風雲相澤城のスタートラインまで戻される落とし穴兼滑り台っぽいウォータースライダー、激流プール、植物園と色んな所に行ってたし、初めて会う人と結構話したもんね。人見知りしやすいし、結構気を張ってたのかな。
「響香、今日の作戦はどうだった?」
「まぁ、目標は達成しなかったけど、いい感じだったんじゃないかな」
「俺か? こいつが一向にそういう関係に進もうとしないのは俺がいるからなのか?」
「いや、こいつがヘタレてるだけでしょ」
「そうかな……? そうかも……?」
壱の灰髪を指で梳りながら人使の疑問に答える。関係が壊れるのが怖いって感じてるのが強いんだろうけど、それと同時に人使を除け者にしたくないって気持ちも────いや、これはどっちも同じか。でも、それ以上に何かが……壱が本能的に避けているような感じが……?
『『『ギヒッ、親父は訳アリなのさァ』』』
「「うわっ!?」」
小さな声で驚くという器用なことをしながら、シャツが捲れて背中が剥き出しになってしまっているところから出てきた、間違いなくこの世の生物とは思えない三本の邪竜の首を見る。
「訳アリって、なんだよ」
『『『知りたいかァ? ギヒッ、知りたいよなァ……けど、俺達は教えねェ』』』
「何その意味深な言い方」
『『『ギヒヒッ、これは親父のこれからに関わることだしなァ。それに……人使も響香も、今これを受け止められるとは思えねェし』』』
その言葉に、ウチらは凄く嫌な予感がした。まるで、壱がもう少しで死んでしまうとか、そういうことを仄めかしているのかと思って。しかし、三本首の竜は親父はまだまだ死なねェ、と笑った。
『『『ま、そのうち分かるだろうさ。親父もそのうち気付くだろうしなァ』』』
「今答えていけよ。どんなことを言われようと受け入れる覚悟はできてるっての」
人使の言う通りだ。壱と関わり続けると決めたんだから、何を言われたとしても受け入れる覚悟はできている。
『『『あー……語弊があった。受け止められるじゃねェ。実感が湧かねェだろうって話だ。じゃ、そういうわけで、親父は寝てるし、俺達も寝る』』』
「「あ、待て────」」
三本首の竜はウチらの制止を聞くことなく引っ込んだ。実感が湧かない? 壱の今後に関わることで、実感が湧かないこと……それでいて、壱の命に係わることではない……? 全然分からない。
「あいつの言葉は気になるが……壱も気付いてないなら、追及しても意味がない、か……」
「………………釈然としないけどね」
壱が無意識に何を抱えているのかは知らないけど、そのことを知った壱が何を伝えたとしても、ウチも人使も隣から離れることはない。だけど、どうしてだろう。
「…………向き合う、よ……何、度……でも……何回、でも……」
寝返りを打ち、寝言を言いながら幸せそうに寝ている壱を見て、よく分からない胸騒ぎがするのは。
まぁ、意味深な事言ってるけど、命に係わることじゃないのは確かです。壱譚の命に関することでも、響香の命に関することでも、人使の命に関することでもないです。死にません。こいつらは殺しても死にません。多分一人でも残ってれば墓の中から出てくるタイプ。