レセプションパーティーの会場であるビルのロビー前にて、俺と人ちゃんは準備してきたスーツに身を包んで響ちゃんを待っていた。
「お待たせ」
「全然待ってな────」
「天丼やめろや」
「ぺェッ!?」
ベチィッ! と俺の頭を叩いた人ちゃんのお蔭で俺の意識がリブートされた。
響ちゃんが用意したドレスは、黒と紫────いや、赤紫? ピンクに近い紫のレースがあしらわれたドレスだった。
上半身は肩を隠すようにレースがあしらわれ、コルセット無しのはずなのにしっかりくびれを見せている。
スカートはロングタイプで生地が薄めで動きやすそうだけど、スリットが入っていないので太ももが見えたりすることはない。ただ、時折チラリと見える黒いタイツに施された花柄などが凄く色っぽさを演出している。
髪は花の装飾が一つだけ。ドレスに似合わないようで絶妙に噛み合っているそれは、昔俺が作った炎と歯車の意匠の髪飾りだ。人ちゃんも首に下げているけど、よく持ってたねそれ……本当に昔、お父さんとお母さんが拾ってきた隕鉄と銀で作ったやつ。材料不足で俺の分は作れなかったっけ。
「似合ってるよ、響ちゃん」
「ありがと」
「んじゃ、行くか」
「うん!」
警備の人にチケットを確認してもらい、パーティー会場へと足を踏み入れる。……華やかだなぁ……こう、THE社交パーティーって感じの場所だ。多分、こういう席で色んな駆け引きをする人達もいるんだろうなぁ……
「あ! 多々良君!」
「おお、緑谷君。とりあえず感度7900倍行っとく?」
「行かないよ!!?」
ヴィランアタックでの悪寒って君だよね多分!? とフルカウルしそうな勢いで身構える緑谷君もまた、上品かつ動きやすそうなスーツに身を包んでいる。そして少し後ろにはやはりいたな、皆が。
「A組全員集合って感じだな」
「爆豪君と切島君はいないがな! 女性陣も少し遅れるそうだ」
「おっと、飯田君。ネクタイズレてるぜ」
「む、本当だ。ありがとう」
レセプションパーティーに集まったいつものメンバーを見ながら、俺はふと、見覚えのない人を見つける。
「緑谷君、そちらの金髪の女性は?」
「あ、この人は────」
「メリッサ・シールドよ。初めまして、よろしくね、多々良君」
「これはご丁寧に……よろしくお願いします、シールドさん」
「メリッサでいいわよ。そこまで年も一つしか変わらないし」
ああ、そうですか。アメリカってのは結構オープンな人が多いのか……? まぁ、とにかく俺達はメリッサさんと握手を交わし、軽く世間話を挟んで爆豪君達を待つ。
しかし、一向にやって来ないなぁ、爆豪君と切島君……女子を待たせるもんじゃないよ? 今日はダンスとかもあるらしいし、遠目で見るだけでもいいし、踊ってもいいんだから。スロー、スロー、クイッククイックスロー……スロー、スロー、クイッククイックスロー……
「救済です、ご友人」(合体事故)
「混ざってんぞ異常者」
「コーラルキメ過ぎた?」
「コジマコーラならたくさんキメてる」
結構美味しいんだよね、コジマコーラ。緑色で体に悪そうな見た目しているのに、成分表を確認すると各種スパイスと薬効植物が入っているだけ。体にいいものしか入ってないのはちょっと解釈違いなところがあるけど、そこのところどうですかね販売元。
「飯田君、切島君に電話してみて?」
「先程からしているんだが、一向に応答が来ないんだ」
「んー……?」
もう来ていると思うんだけどなあ……遅刻するような人達ではないだろうし……仕方ない。ここの人に許可取って【
『『『ギヒッ、親父……悪ィやつらが入り込んでるぜ』』』
「きゃっ!?」
「
炉の火が溢れて、武器が騒いでいる。
直後、館内に警報が鳴り響き、日常が壊れる音が聞える中で、俺の炎が反応している。悪意を持って何かを成そうとしている誰かがいると、害を成そうとしているやつがいると訴えている。
「……携帯が圏外になった」
「情報関係が全部遮断されたってことか……」
「上鳴君、電波立てられる?」
「やってっけど無理っぽい。ジャミング系の個性持ちとかいっかも」
「エレベーターも反応してないよ!」
電気系統もやられてる……? いやでも、それならここの施設全部の電気をシャットアウトして混乱を招いた方が、悪意の主は好都合なんじゃ……それとも電気系統をシャットダウンさせると不都合なことがある……?
「さっきちょっと揺れたし、もしかして爆発?」
「爆発物が設置されただけで警備システムが限界になるとは思えないわ……」
電波無し、エレベーター稼働不可。メリッサさん曰く爆発によって警備システムが限界を迎えたとは思えない。となると、これは計画された犯行────大規模テロの可能性が高い。I・アイランド全体がハイジャックされた可能性が高い今、島全体が混乱の渦中にあると考えていいだろう。
「オールマイトがここに来ているはずだけど……」
「オールマイト先生がいるなら心配いらねぇな!」
いや、どうだろう……いくらオールマイトでもこの島全体をすぐに何とかすることはできない気がする。しかもあの人ならこうなった瞬間に動いているはず……なのに動いている気配がしないのは違和感だ。
「人ちゃん、喝采」
「あいよ。来い、【喝采】!!」
預かっていた喝采を人ちゃんに渡して抜刀してもらうと獣の咆哮が響き、人ちゃんの背に獣の指揮者が現れた。
「その武器は……もしかして個性を宿してるの……?」
「いや、それは知りませんしどうでもいいです。人ちゃん、オールマイトに連絡。できるでしょ? 声を届けるのがその子の力だ」
「了解、任せろ」
メリッサさんの質問をバッサリ切り捨てて、人ちゃんに指示を出す。言葉を放たずとも、言葉を届け、コミュニケーションを確立させるのが指揮者の力だ。まぁ、人ちゃんのポテンシャルを100%中の120%に引き上げているからね、この世の理が歪んでもおかしくはないよね。
「……………………………………最悪だ」
「何?」
「ヴィランがタワーを占拠、警備システムは掌握されて、島の人全員が人質……ヒーローも全員囚われてる」
「マジかよ……!?」
しかもオールマイトの力でも中々破壊できない金属によって拘束されているせいで、上手く身動きが取れない状況にあるらしい。どうにか逃げてくれと言われたそうだが、無理では? ここのセキュリティって確かタルタロス並なんでしょ? 無理でしょ。
タワー内は占拠されているから、すぐに動かないとここにもヴィランがやってくるだろう。仮に逃げたとしても、島から出るには飛行機しかない……間違いなく最悪の状況だ。
「やべぇよ……! どうする、皆……!」
「オールマイトからのメッセージ……! 僕は雄英高校教師であるオールマイトの言葉に従い、ここから脱出することを提案する!」
「飯田さんの意見に賛同します……! 私達はまだヒーロー免許を持っていない学生……! ヴィランと戦うわけにはいきません!」
飯田君と八百万さんが脱出を支持する。うん、オールマイトの言葉だし、それはそうなんだよね。間違いなく正解だ。
「なら脱出して外にいるヒーローに伝えれば……」
「難しいわね。ここはタルタロス並のセキュリティが構築されている……脱出するにはシステムを掌握しているヴィランを倒さないと……」
上鳴君の言葉に続く形でメリッサさんが言葉を紡ぐと、皆の視線が俺に向けられた。……まぁ、うん。そうだよね。そうなるよね……
「このタワー、斬る?」
「「「行けるの!!?」」」
「行けると思うよ」
無明紅姫、
「代わりに俺の体が戻らなくなるか、体のどこかが千切れると思う。それでもいいならやるよ?」
「戻らなく……?」
「うん。
そう言った瞬間、打開策を見出したと期待していた皆の表情が蒼白になった。まぁ、そうなるよね。それでもいいならやるよ、ともう一度言おうとした直後、響ちゃんと人ちゃんが誰よりも力強く言い切った。
「「却下」」
「だよね」
俺もできることならやりたくない。痛いものは痛いし。
「とりあえずここからの脱出には賛成なんだけど……どうする? 正直戦わなければ生き残れないって感じだけど」
戦うという選択肢は最終手段だけど、今動けるのは俺達だけであり、仮に出れたとしても俺達はこのタワーに入ることはできなくなる。タルタロス級のセキュリティなんてどうやって再突入せよと。
しかもだ……ここで動かなかったら、お客さんの誰かが殺される可能性がある。悔しいが、俺達が動いてオールマイトが動きやすい環境を作るしかないだろう。
「爆豪君と切島君の回収もしないとだし……」
「そういえばあの二人はどこにいるんだ……!?」
「どこだろうね……?」
ここにいないということは上にいそうだけど……煙と馬鹿は何とやらとは言うけれど、地図くらいは見なさいよ。
「……行こう」
俺達がどうするべきかと何か言い合う前に、緑谷君が口を開いた。
「緑谷?」
「この状況じゃオールマイトも動けない。僕達しか動けないなら、できることをしたい! 僕達で助けよう!!」
「言っておくけど、自分の命を優先ね? 優先しなかったら俺は緑谷君の脊髄を粉砕してでも止める」
「それは分かったけど表現が怖いよ!!?」
いや、本気で。緑谷君の本質は間違いなくヒーローなのだろうけど、放課後にやった心理テストとか、そういうところで見え隠れする自分のことを天秤に入れない性質がイレギュラー過ぎる。考えるよりも先に体が動く……っていうのは多分ヒーローの素質なのかもしれないけれど、それが他の人達に被害を与えてしまう可能性だってある。今の状況でそんなことが起きたら緑谷君自身が自分を許せなくなってしまうだろう。自責の念で変な方向に進む可能性があるなら、俺は嫌われてでもそれを潰す。
「私なら最上階に行ってシステムを元に戻すこともできるわ! 私も行かせて!」
「問題は最上階のヴィランですわ。戦うことを避けるためのオペレーションが必要かと」
「そこら辺は八百万さんに任せる」
「飯田君、ブレーキ役を頼める? これ以上はいけないって判断をお願い」
「…………ああ! これ以上は無理だと判断したら引き返す! 指示には従ってくれ!」
「お願いね。出来るとこまで、やれることは全部やりたい」
「システムさえ戻せば、オールマイトや人質は解放される。そうすればオールマイトが自由に動ける!!」
「デク君、行こう! 私達にできることがあるなら!」
少しずつ方針が決まっていき、班も振り分けられていく。
最上階に向かうチームは俺、人ちゃん、響ちゃん、緑谷君、飯田君、麗日さん、葉隠さん、障子君、常闇君、メリッサさん。葉隠さんにはステルスによる索敵を行いながら先行してもらうことになった。
この場に作戦司令室を構築し、オペレーターを務めるチームは八百万さん、上鳴君、蛙吹さん、青山君、口田君、芦戸さん。青山君と口田君と芦戸さんは作戦司令室の防衛がメインだ。上鳴君は八百万さんの用意した機械の電力供給。
ヴィランの逃走経路を潰すチームは峰田君、砂藤君、瀬呂君、尾白君、轟君。こちらは峰田君の護衛も兼ねている。このメンバーには切島君と爆豪君の回収もお願いしている。
最上階奪還は結構大変かもだが、どうにかしてやるさ。メリッサさんの体力を残した状態で連れていき、制圧または防衛を行いながらセキュリティの復元を行う。それが俺達最上階制圧組に課せられたミッションだ。まぁ、人ちゃんと響ちゃんがいる時点で楽勝だろうけどね。
さて、覚悟も決まったし、行きますか。心の中でそう呟き、俺達は最上階に向かうための非常階段に足を踏み入れた。
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非常階段を上りながら、先行してくれた葉隠さんから送られた情報で八百万さん達が構築してくれたルートを確認する。いや、マジで葉隠さん凄いわ。スタミナもそうだけど、本当にステルスなら負けなしでしょ。
『皆さん、その先に一人監視がいますわ』
「了解。常闇君、お願い」
「心得た。
「アイヨ」
監視の死角に回るようにして
「よし、監視を隠そう。そこのゴミ箱とかいい感じだ」
「手際がいいね……?」
「メタルギアで習った。段ボールは最強」
大きめのゴミ箱に気絶させた監視を放り込み、武装は使えないように砕いておく。さて、大分上ったはずなんだけど……まだまだ先は長い感じか……?
「メリッサさん、最上階って何階ですか?」
「はぁ……はぁ………………200階よ……!」
「風雲相澤城の大体15倍か」
「今年は何階かなぁ」
「100階とかになるんじゃないの?」
まっさかぁ。そんな高さにまで風雲相澤城を改築するなんてことは……うん、無いと信じたいかな?
「麗日さん、メリッサさん背負ってあげて。無重力で」
「うん!」
『こちら轟……爆豪と切島を発見して合流した。ただ、近くにヴィランがいる』
『制圧した方が良さそうね。轟ちゃん、単騎になるけど大丈夫かしら?』
『ああ。五分もかからねえよ』
頼もしい声が聞えた後、爆発などが聞えて通信が切れた。蛙吹さんがこちらへの通信を切ったのだろう。逆方からヴィランの逃走経路潰しに向かっていたチームは、轟君にその場を任せて上に向かったようだ。
『皆! 最上階に着いたよ! 最上階近くはエレベーターが機能してた! テロリストの人達に混ざって最上階に来てる!』
マジで今回のチャンピオンは葉隠さんなのでは?
「僕達も急ごう!」
「だね。ここからは……最小限のメンバーで行こう。【
『『『ギヒヒッ、ちょいと揺れるが耐えてくれよ?』』』
「「「っっ!?」」」
三本の首が機動力に欠けるメンバーの胴体に巻き付き、持ち上げる。うん、脚がドラゴン化してるから重さはそこまで感じない。飯田君は軽くエンジンを起動して走り出しており、緑谷君もフルカウルを使って駆け上がり始めた。最上階までぶっ飛ばしていくぜェ!!
「障子君! 常闇君! 警備ロボットとかの対応よろしくね!」
「ああ、任された!」
「殿は任せておけ」
「ガンガン行クゼー!!」
最上階まで全力疾走だ。後続の心配はしなくていい。ただ最上階に辿り着いて、ヴィランを制圧するだけだ。