残り時間、約三分……悪くはない、悪くはないんだけど、ちょっとあれだな。戦闘面だけを見ているような試験でちょっとモヤモヤする。戦闘向きじゃない個性でも、ヒーローをやっていける人はいるのになぁ……人ちゃん? あれは例外でしょ。何だあの筋肉が付いてるイケメン。最高にカッコいい俺の親友だが? 響ちゃんもいいよね。可愛いし綺麗だしカッコいいし。
「……さてと、ちょっと問題があると思うんだけど、どう思う障子君」
「……0ポイントのことか」
大きな体とたくさんの腕を使ってロボットを粉砕してみせる障子君の回答に頷く。
彼とは昔会った時よりも大きくなったけど、カッコよさは損なわれることなく成長していたのですぐに分かった。人ちゃんと響ちゃんにも会わせてあげたいところだなぁ。彼との出会いを簡単に説明するとこうだ。
川遊び
↓
俺が溺れる
↓
人ちゃんが助けに飛び込む
↓
人ちゃんが溺れる
↓
響ちゃんが助けに飛び込む
↓
響ちゃんが溺れる
↓
たまたまそこにいた障子君が三人を軽々と持ち上げて助けてくれた。
以上。いやマジで助かった……ありがとう、命の恩人。三人のヒーローだよ障子君。でもちゃん付けは人ちゃんと響ちゃんだけの特権だから付けないよ障子君。君の地元の大人相手にメンチ切って泣いた赤鬼をやったのはいい思い出だよ障子君。泣いた赤鬼の青鬼は俺の引っ張り出したとんでも武器から出てきた巨人だからマッチポンプもいいところだったけど、楽しかったよ障子君。君はやっぱりヒーローだよ障子君。あれだけ痛めつけられた人達のために戦えるのは、ヒーローだよ障子君。
それはそれとして。0ポイントのロボットはとんでもない大きさのロボットのようだから、どう食い止めるのかが試験最後の鍵になる。そりゃあ、巨大なヴィランに対してやれることなんて中々あるものではないが、被害を最小限に抑えてヴィランを倒すというのは、多くのヒーローに求められるものだ。オールマイトだって攻撃する方向に気を付けているし、エンデヴァーもいかに低火力で的確に仕留めるかを考えた戦い方をしたりする。ホークスとかもそうだ。
「対策はあるのか?」
「ぶった斬る」
「ざっくりし過ぎじゃないか?」
「それ以外にある? 感度6000倍にしてみる? 事故ると俺がビクンビクンするだけで終わるよ?」
「お前は変わっていないな。………………そういえばあの子が持っていた短剣、お前の持っていたものと────」
「キノセイダトオモウヨ!」
俺はヒーロー志望、ウソツカナイ。
「元凶はお前か!!?」
女の子の恋心は応援したくなるもんね!!!!
「あの一件があってからあの子の目がたまに捕食者の目になっていたぞ!?」
「愛されてるね。障子君カッコいいもんね。惚れちゃうよね。美少女とイケメン……いいね、映えってやつだ!」
「今ここでお前を殴ってもいい気がする……!!」
フハハハハハハハ!! やっぱり顔見知りとの会話ってのは楽しいものだ。向こうから向けられているのは敵意というか呆れというか、怒りだけど。頼まれたら余計なお節介しちゃうの、俺。その後響ちゃんと人ちゃんにシバかれるまでがテンプレなの。私壱譚、今あなたの後ろに(感度6000倍短剣を握って)いるの。私壱譚、この後間違いなく俺のヒーローにシバかれるの。
「式は白無垢?」
「殴っていいか?」
「ごめんね!」
友達との会話を楽しみながらもしっかりロボットはぶった斬っていく。うむ、無明……中々いい切れ味じゃないか。俺の生み出した武器の中で比較的真面な武器、【無明】。能力が全く何も存在しない、ただよく斬れる刀。こういうのだけじゃなくて、ふざけた効果を持った武器も生まれたりするからこそ、俺のテクニックが磨かれている自覚がある。どう使うのか、どう運用するかを考えて武器を回さないといけないし。
「それにしても、お前がいるということは、会場のどこかにあの二人もいるのか?」
「うん、いるよ。……ほら、あそこ」
指を差した方向で打ち上がる雷鳴のような咆哮と、嵐のような咆哮。抜いたんだね、二人共。暴れ馬でしょ? 頑張ってね。────カッコいい二人を見れないのは超不満だからあとで話くらいは聞かせてね!!
そう思った矢先、俺達の近くで地鳴りと強い振動が起こる。なるほど、この地鳴りと振動は間違いなくこの試験のラスボスが現れる瞬間の演出だ。あの刀を抜いたのが、0ポイントロボットだとするのなら────
「……でっか」
「予想の数倍は巨大だな……!」
何円かかっているんだろう、という感想が出るくらいのサイズのロボットがこちらに向かって進行してくる。うーむ、これは中々……だが。
「ぶった斬るしかないよね」
「どうするつもりだ?」
「障子君、脚を狙おう。装甲の隙間とか考えなくていいこれで」
取り出したのは、障子君くらい体が大きくないと振り回されかねないくらい、大きな剣。パチパチ、と焼けた炭のように燻った炎を吐き出すそれを見て、障子君はマスク越しに笑った。
「懐かしいな、その大剣」
「覚えてたんだ」
「ああ。お前があの日見せてくれた大剣だろう?」
俺では使えないと言って嘆いていたすぐ横で、障子君が振り回してみせた黒い大剣。鍛えた今なら振り回せるであろう大剣だが、やっぱり障子君みたいな体格がいい人が握ると一層カッコよく見えるなぁ。この大剣の能力は単純明快。とんでもない火力を以ってバーナーのように全てを切り裂く。なお、その代償として使えるのは二回まで。それ以上使うとただひたすらに重たい鉄板になる。障子君が構え、巨大ロボの脚に突撃していく中、沈黙を保ち続けているその大剣の名前は────
「焼き切れ、
障子君の呼び声に呼応したかのように、大剣が火を灯す。んんんんっっっはあああああああああああああああ!! 障子君を使い手と認めた
「とどめは任せるぞ、多々良」
「────りょーかい」
無明を鞘に納め、バランスを崩してこちらに倒れてくるロボを正面に捉える。息を吸って、吐いて。呼吸を落ち着かせて、意識を刀に集中する。音も聞こえなくなった直後、鯉口を切って一気に抜き放つ────!!!!
結論から言えば、ロボはぶった斬れた。しかし、しかしだ。俺の技量が追い付いていないばかりに、無明は折れ、俺も無傷ではなかった。
「────────手首逝った!! 衛生兵ェエエエエエエエエ!!!!」
感度上げても痛いだけだからなこれ! 感度上げて痛くならずに快感に変わるのは響ちゃんのハートビートだけだよ! 何でって?
「愛です、愛ですよ、ショウジ」
「もう一本行っておくか?」
「フヒヒヒヒ、サーセン。いやマジで痛いなこれ。衛生兵まだー?」
「応急処置くらいはできないのか?」
「片腕になるのって初めて……♡!」
「なぜ興奮している?」
応急処置してもらってから障子君連れて人ちゃんと響ちゃんに会うでしょ? 障子君に状況を話してもらうでしょ? 片腕じゃ真面に抵抗できずにシバかれるでしょ? 痛みが人ちゃんと響ちゃんによって上書きされるんだぁ……興奮もするよね。
「……天性のマゾヒストだったか」
「以心伝心だね♡」
「思い切りぶん殴っていいか?」
おっと、挑発し過ぎたね。うーん、興奮しすぎるのも良くないなぁとは思うんだけど、響ちゃんと人ちゃんからの愛を感じ取れる機会が待っていると考えると体が勝手に熱くなるんだ……疼いちゃうんだ!! 二人の説教は心配してくれてるということも分かるし、俺がどっかに行かないように見ていてくれていると感じるから。倒錯的な性癖が目覚めようとしている……! 静まれ! 静まりたまえ俺の性癖! さぞかし名のある性癖と見受けたが、なぜそのように荒ぶるのか!!?
「…………やはり愛か……」
「頭もやられたみたいだな、多々良」
「失敬な。俺はあの二人のためなら命を捨てても惜しくはない!!」
「それで喜ぶようなやつらか、お前の親友は」
「例えだよ、例え! 例え話!」
まぁ、命を捨てても惜しくないというのは本当のことだけど。個性が発現して、コントロールが上手くいかなくて、初めて作った武器に振り回されていた俺を抱きしめて止めてくれたのは、あの二人だった。両親は仕事でいなかったしね……しゃあなしよ。感度上昇系短剣が初めての武器だったせいで、感じるもの全てが痛いくらいだったのに、俺が落ち着くまで一緒にいてくれた二人に抱きしめられた時、全然痛くなかったんだ。あの経験が無かったら、俺はこの個性が嫌いになっていたかもしれない。二人を拒絶して一人で引き篭もっていたかもしれない。
だから、そんなヒーローの助けになるというのなら、命を捨てても惜しくはないのだ。……まぁ、響ちゃんとお付き合いして結婚するまでは死にたくないし、人ちゃんと定年退職後に縁側でのんびりするまでは死にたくないんだけどね!!
「あ、障子君、受験後暇? 暇だよね? 暇だなヨシ! ファミレス行こうぜ!」
「おい」
「任せろ、ファミレスの流儀ってやつを教え込んであげるからさ……サイゼでいい? ガスト? ココス?」
「全く……お前の暴走に付き合うあの二人は大変だな」
酷くなぁい?
ちなみに三人はシェアハウスする予定。
次回は心操の視点で行くォ(ボーちゃん)
アッ、この性癖、深いッ!!
今回からの感想は性癖の開示を行ってから書いてください。