とても安全なところで林間合宿するよ。
合宿が始まる。地獄が始まる。ちなみに予定していた場所とは違う場所で林間合宿をやるらしい。直前での変更ですか……とても嫌な予感がするけれど、そこんとこどうですか相澤先生。
「A組は補習があるんだっけ。僕もそうだけど、学ぶことはまだまだ多いね」
「物間君赤点だったんだ」
「個性をコピーする前提で動いていたのが裏目に出たね。ハウンドドッグ先生に完封されたよ」
相方はどうにかゴールさせたけどね、と呟く物間君。うーん、そうかぁ、確かに事前準備が物を言う個性だもんな、物間君の個性って。カービィ? あれはコピーしなくても強い無法者だから。
集合場所で物間君と話していると、他の皆も準備が整ったのか集合場所に集まってきた。バスは席順に座るらしいので、いつも通りだね。
「
「……うん?」
「
「
「合宿所を何だと思ってるんだい……!?」
地獄だよ。
心の中で呟きながら、俺達はバスに乗り込む。さぁ愉快な遠足の始まりだ!!
「バスは一時間後に一回止まる。その後はしばらく休憩を挟まないから気を付けろ」
「相澤先生、十秒チャージの徳用ってどこが一番安いですかね」
「雄英近くの薬○堂が一番最安値だ」
「レスポンスが早い」
「まとめ買いするならクーポンも出るから得だぞ」
「帰ったら購入確定ですわ」
「音楽流そうぜ! 夏っぽいの!」
「ポッキーちょうだい」
「席は立つべからず! べからずだぞ皆!」
「立ってるのは飯田君だけなんよ」
「しりとりのり!」
「リス!」
「スイス!」
「ストライダー!」
「ダストダス!」
「スカラネット!」
「トーマス!」
「す責め止めて!?」
「ねぇ、ポッキーちょうだいよ」
「じゃがりこしか持ってねぇ……!」
「異教徒が……!!」
「極右かよ」
いやはや、とても騒がしいね。この元気がどこまで続くのやら……とても楽しみで仕方が無いよ。俺は今から震えが止まらないけど。
「そういえば相澤先生、合宿って何をやるんです?」
「まぁ、死ぬほど辛いとだけ言っておこう」
「死に安死に安」
「魔法の言葉」
心はいつでもプルスウルトラさ。してないと死ぬ。今回の林間合宿MVPはきっと口田君になるだろう。そんな予感がしている。ほら、見覚えのある山が見えてきた。地元に近付いてきていると思ってたんですよ……とっても懐かしい、温かくて冷たくて痛くて楽しくて苦しくて涙が出るくらい嬉しい思い出が詰まった山が……!!
「あががっががががっがっががががが……」
「人ちゃんがバグった」
「媚主絶天でも使って叩き起こしてやりな」
「理解した……俺の役割。行くよ人ちゃん」
「オーケー、落ち着けよ」
「これは君が! ヤマメに突き立てたナイフだぁああああああ!!」
「かかったな阿呆がッ!!」
カウンターだと!? あ、その軌道は俺の鳩尾に────
「んぎっ……♡!?」
「カウンターしたら体力最大値減少飛んできたって話をしてもいいか?」
「ほらタンク、受け止めてやんな」
「最大値減少は許されねぇよなぁ……!!?」
そんな学生らしい会話を続けること一時間────最後の四十分ぐらいは寝貯めしてたけど。思い出がいっぱい詰まっている山道────手作り感が半端ない木造地図が設置されている二度と足を踏み入れてなるものかと決意しては相澤先生や駆世組の人達に捕まって放り込まれた、たくさんの思い出が詰まった山。
「ここ、パーキングじゃなくね?」
「B組は?」
「お、おしっこ……トイレ……」
「そっちに仮設トイレあるよ」
「悪ぃ、ちょっと行ってくるァ……!!」
いってらっしゃいませ峰田君。仮設トイレはセーフティゾーンだからね、皆で共有しようね。
「よーう、イレイザー!」
嫌な予感で気持ちがいっぱいになっている俺、響ちゃん、人ちゃんが白目を剥きそうになるのを耐えていると、元気のいい女性の声が相澤先生を呼んだ。聞いたことがない声だ。
「ご無沙汰してます」
相澤先生が頭を下げた……となると結構なベテランヒーロー? そう思いながら声が聞えた方向を見ると、フリルがあしらわれた可愛らしい────上鳴君とかが言ってたコンカフェ? なるもので着られていそうなコスチュームに身を包んだ女性二人の姿が。
「煌めく眼でロックオン!」
なるほど、クマに気を付けろと。
「キュートにキャットにスティンガー!」
油断したら一瞬で首が飛ぶぞという警告だな?
「「ワイルド・ワイルド・プッシ―キャッツ!!」」
とても危険な山なので気を付けろということですね、分かります。というか身に染みて理解してます。何度死にかけたと思ってるんですか?
「というわけで今回お世話になるワイプシのお二人だ。失礼のないように」
緑谷君曰く、山岳救助を得意とするヒーローらしい。……って、どこかで見たことがあると思ったら。
「我ーズブートキャンプの」
「虎の動画を見てるキティがいるみたいね」
「お陰様でうちの幼馴染は種族心操人使になりました」
「エスパーかくとうとかいうテクニカルゴリラ」
緊張を解すような会話のキャッチボールを軽く行い、相澤先生に睨まれる前に会話を打ち切ると、マンダレイが指を差した。
「ここら一帯、ある人達の所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあそこ……って、イレイザー、そこの三人が白目剥いて震え始めたんだけど、大丈夫?」
「問題ないです。続けてください」
「じゃあ遠慮なく。でね、ここからあそこまで大体、三時間半くらいかしら?」
「「「ビッグボス達に会わなければって前提止めてください」」」
(((ビッグボス……!!?? あと達って何!!!??)))
「ああ、もしかしてここの関係者? なら話は早いわね」
関係者も何も、身内で当事者ですが……?
「というか、あそこが宿泊場所ならどうしてこんな半端な所に……」
「バス、戻ろうか? な? 早く……」
ああ、ですよね、相澤先生。あそこで凄まじい速度で建築されていくあそこに辿り着けってことですよね。どうせそうなると思ってましたよ畜生め。
「12半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」
「悪いね諸君────合宿はもう始まってる」
だからと言って抵抗するなとは言われてないんですよねぇ!!
「おいで、
土石流が迫り、着弾する直前で俺達を中心にして障壁が生まれる。ははは! 甘いですねプッシ―キャッツ! 俺達をこの森に叩き落したいなら、最低でも伊口さんを連れてくるんだなァ!! あと相澤先生! 事前の説明ってやつは大事ですよ!!
「流石に防ぐか」
「へぇ、地面から引っこ抜いたつもりだったのに。やるね」
「いきなり叩き落すの止め────」
『グルガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』
その叫びを聞いた瞬間、俺達の体が恐怖で停止する。ズガンッ、ズガンッ、ズガンッ! と崖となったこの場所を更に破壊しようとする存在は────俺達の下で強靭な肉体を持つ超巨大なクマであった。
「「「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!?」」」
「イレイザー、本当に大丈夫なのあの子ら」
「久しぶりの再会に喜んでるんでしょう」
誰が喜ぶか!?
「た、多々良君、あの熊ってまさかビッグボスとかいう……!?」
「いや、あれはレッドブロウ。ビッグボスはもっと大きい猪」
「「「猪ィ!!?」」」
この山の名前は駆世山。別名魔境山、マダガスカル山、ダーウィン山、特異山など、様々な別名が付けられている地元の人間は山のプロか駆世組の誰かが随伴してくれない限り全く近付こうとしない地獄のような山だ。個性社会────人間の超常に適応した動物達が多く暮らし、それを研究したいがために毎年何十人もの研究者が勝手に入り、大怪我をして泣く泣く撤退する山である。所有者は駆世組。新人の建築練習などに使われているこの山には、理由が無い限り喧嘩を売ってはいけない存在が複数存在する。その中の一匹が、今俺達の下で咆哮しているレッドブロウである。障害物が無ければ時速70kmで突撃し、肥大化した右腕を叩きつけてくるやべーやつ。俺達はよく喧嘩売ってたけど。だってこいつの縄張りに生息してるミツバチの蜂蜜が欲しかったから。
ちなみにビッグボスは全長十メートルを超える猪。今はどこかで寝てるんじゃないかな……
「さて口田君、出番だ……!!」
「ぼ、僕!?」
「あれも動物……なら口田君の個性が特攻のはず……!」
というかそうでなくては困る。俺達のことを喧嘩相手だと認識しているせいで、間違いなく襲いかかってくるやつを止められるのは口田君だ……!!
覚悟を決めて障壁と共に下へ降りていくと、相も変わらずいかつい顔をしている傷だらけのクマがこちらを好戦的に睨んでいる。おい、なんか笑ってるように見えるぞ?
「静まりなさい巨躯の者よ。穏やかな心を持つのです!」
『……………………グルゥッ……!』
「口田君、君がナンバーワンだ」
「効いてる感じがしないよ!?」
いや、効いている……! あの喧嘩っ早いレッドブロウがこちらを睨むだけに留まっている……! 間合いに入っただけで爆速の拳が飛んでくるレッドブロウが! 凄く大人しい!!
「今のうちに突破しよう!」
「これだけで済むとは思えないしね……!」
「ピクシーボブの個性なら多分……」
土で生き物のようなものを作ることも訳ない。
緑谷君がそう言った直後、森の奥から土気色の生き物っぽくないものが現れた。魔獣……いや、この山に住んでる動物の方が魔獣だったわ。まぁ、そろそろ
「直線距離は大体12km……土モンがたくさんいて……あれ? 響ちゃん、このルートって確かマダムに出くわす?」
「いや、大丈夫……だと信じたい」
「あのー……マダムって……?」
「突然変異アオダイショウ。滅茶苦茶デカいの」
というかこの辺りの生物は俺達が全力を出してようやく喧嘩が成立するような化物しかいないと思え。唯一の救いは水場や建築エリアで戦うことはご法度になっていることか。
「個性を全力使用して三時間半って考えでいいだろうな、あの猫ババアの言い方だと。魔境山の獣道……山舐めてっと死ぬぞ」
「「「それな」」」
というか爆豪君、魔境山のこと知ってたんだ。え? 整備された道だけだけど登った? マジかよ爆豪君。
「馬鹿三人組、こっから水源まで最短どれくらいだ」
「「「大体三十分」」」
「なら水源目指すぞ。こんな山ン中で水分補給無しは確実に死ぬ」
死にかけたら猿達が助けてくれるよ。いつもどこから現れるんだろう、あの猿達。
「まぁ、とりあえず……行動開始の宣言をしろ、飯田ァ!!」
「ああ! A組、行動開始ィイイイ!!!」
「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」
────────────────────────────────────────────────────
日向ぼっこしていたマダムと目が合った時は死ぬかと思いました。(蛇に睨まれた蛙の様相)
二時間半。それが俺達の宿泊施設到着のタイムだ……! マジで疲れた……! 疲れたよぉ……! 水源を辿るようにして宿泊施設までの直線距離が一番近いところに辿り着き、一気に駆け抜けた時、俺達は生きた心地がしなかった。土モンが水源近くで襲いかかってきたせいで水を飲んでいた動物達がバチクソにキレたからである。口田君、お前がナンバーワンだ……!!
「マジ……?」
「水源付近は戦闘ご法度なんだよ……!! ぶっ殺されるかと思ったわマジで……!!」
「どうする? 処す? 処す?」
「ステイステイ! まだだ! まだだ!」
皆が息を整える中、俺達はギリギリと歯を食い縛りながらピクシーボブを処すか否かを審議していた。なお、相澤先生からのストップが入ったのでやらなかった。
「やー、まさか二時間半で来るとは……」
「ねこねこねこ……正直夕方になると思ってた」
「口田君がいなかったら今頃何人か猿の緊急搬送だったと思う」
マジで口田君がナンバーワンだ……! ここに到着した直後に皆で口田君を胴上げしたくらいだ。爆豪君すら胴上げに参加していたと言えば、この山のヤバさが伝わるだろうか?
白目を剥きそうになりながら相澤先生の講評を聞いたり、緑谷君がマンダレイの甥っ子に陰嚢を正拳突きされたりと色々とありながらも、昼ご飯を用意してくれたというプッシ―キャッツの皆さんのご厚意に甘え、新築の建物に入ると────
「わーたーしーがー!! 君達の食事を用意しながら、いた!!」
「おう、来たか実孫と義孫」
「喧嘩か!? 喧嘩だな!? よし、やろう!! そこの赤髪とか良さそうだな!!」
「落ち着け乱波」
「坊の学友か。扱き甲斐がありそうだな」
「オラオラ男共ォ! 口じゃなく手を動かしなァ!!」
「「「すいません姐さん!!」」」
「あー……とりあえず手を洗って来いよ、雄英生」
目を背けたくなるような光景が広がっていた。ナンバーワンヒーローと見た目完全にヤクザな大工さん達が俺達の食事を用意していたのだから。
「「「……………………………………死ッッッ!!」」」
(((知り合いなの!?)))
帰りたくなってきたよ……帰ろうぜ皆……俺達の、捻じれて歪んだけどなんかいい感じに修正されたお蔭で奇跡の始発点になっていそうな雄英高校に……
ね?とっても安全でしょ?少なくともヴィランが来ても食われるか大怪我するかは間違いなしだね!どうしたんだい、青山君? そんなに震えて……安心しろよ青山君……安心しろよ……
レッドブロウ
赤いクマ。時速70kmで突撃してくるやべーやつ。蜂蜜が主食。
マダム
超巨大アオダイショウ。話は通じるがそれはそれとしてやべーやつ。
ビッグボス
十メートル越えの猪。
オールマイト
生やし丸のお蔭で元気いっぱいアンパンマン。残り火だけど本当に残り火ですかね、それ。