手綱を握れ!人ちゃん&響ちゃん!   作:エヴォルヴ

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シリアスは一瞬で消える。シリアス、貴様は邪魔なんだ……ふわんだりぃとティアラメンツとクシャトリラとライゼオルの前に消えるがいい!!

ところでこいつ、オリジンもライジングもしてねぇって話してもいい?


地獄の蓋が開いた

 昼食後、俺達はとても懐かしい空間にて整列していた。

 俺達が自力で森を突破していなかった場合、猿の緊急搬送を経て色々と紹介して初日は終了だったらしいが、今回は口田君もいたのでどうにかなった。というわけで……

 

「合宿でお世話になるのはワイプシの皆さんだけじゃない。建築企業の駆世組の皆さんだ。多々良、紹介してやれ」

 

「あ、はい。それでは……イカれたメンバーを紹介します!!」

 

「「「イカれたメンバーッ!?」」」

 

 個性使用アリの総合格闘技世界チャンプ乱波肩動! 俺の曾祖父? 祖父? にボコられた後に拾われたやべーやつ! 個性は『強肩』! 肩が強いだけ! だがゴリラだ!! 

 

 全身包帯グルグル巻きでまともな医者には見えねぇ大門治縫! 実は俺の主治医! 昔はイケメンだったって聞いて写真を見たらマジでイケメンだった先生! 個性は『細胞活性』! 細胞を活性化させることでとんでもない回復をさせるという個性! しかしゴリラだ!! 

 

 あんた本当に個性ヤモリか!? 伊口秀一! 元引き篭もりだけどお爺ちゃんに拾われた結果立派なゴリラに進化しました! 現在全国の小学校に絵本の読み聞かせに行っている異形型差別撤廃を訴えノーベル平和賞取りそうな予感がしてるゲーマー! ところでヤモリってバクテリア作れましたっけ? 

 

 髪型完全にドヒドイデ! お母さんとは似ても似つかないドラゴン名乗っていそうなヤクザ顔の強面のゴリラ駆世建助! 個性は『建築加速』! 駆世組一のゴリラだったりする! 金槌持ってた方が弱いってどういうこと? ちなみにビッグボスと真正面から殴り合える唯一の人だったりする。この人マジで人間か? 

 

 肝っ玉母さんな美魔女! しかし忘れることなかれ、この人もまた駆世組の人! 俺のお婆ちゃん駆世秤! 個性は『測量』! お爺ちゃんがラスボスなら、この人はラスボス並みに強いラスボス補佐官! 

 

「その他にもいらっしゃる頭のおかしいゴリラな皆さんの六割は無個性or非戦闘向き個性ですが、正直集団戦なら俺達より強いです!! 以上、紹介終わり!!」

 

「「「無個性!?」」」

 

「「「何か文句あっかい?」」」

 

「やめんか馬鹿共」

 

「「「すいません、おやっさん」」」

 

 怒らせないで? マジで怒らせないでね? 囲まれたら確実に殺されるからね? レッドブロウレベル相手に喧嘩売れる実力者しかいないからね? キン肉バスターされても知らないからね? デンプシーされても無視するからね? 

 

「というわけでお前らには個性伸ばしと並行して、この方々との組手……そして風雲相澤城零式の攻略をしてもらう」

 

(((風雲相澤城零式……!!?)))

 

 風雲相澤城零式……これが俺達が挑む新たな風雲相澤城か……

 

「6階に及ぶ階層一つ一つに設置された課題を突破し、区切りに立ち塞がる階層主に挑み、最後の階に辿り着け」

 

「「「減ってる……!!?」」」

 

 ゾオッ……!! と全身に寒気が襲いかかった。俺達が昇り切ったあの地獄の風雲相澤城の階層は13階くらいだった。それが半分に減っている……!!? 

 

「密度はこいつらが挑んだものよりも高い。死ぬほどキツイが……くれぐれも死なないように」

 

「死なせんよ。それが私の仕事だ。────っと、そうだ訓練が始まる前に……壱譚君、人使君と響香君を連れてちょっと来なさい」

 

 む、主治医のお呼びとあれば行かざるを得ない。白目になりそうになるのを必死に耐えているA組の皆とは一度別れ、『医務室ッ!!』と書いてある中々入ることを拒みたくなるドアを潜ると、保健室でよく嗅ぐ薬品の匂いが鼻を擽った。

 

「さて、座りなさい」

 

「「「失礼します」」」

 

 用意された椅子に俺達が座ると、包帯グルグル巻きの大門治先生がカルテを取り出して口を開いた。

 

「君達が健康的で安心しているよ。性病にも罹患していない」

 

「唐突なセンシティブ止めてくれます?」

 

「人間誰しも向き合うべき病気さ。特に、大人になる前……君達くらいの年齢からしっかり知識を持ってほしいと、私は思ってる」

 

 そういえば大門治先生も子供達への性教育とか性感染症とかの知識向上のために日本中を飛び回ってましたね。マジで駆世組って建築会社か? (明るい未来を)建築(するための社会貢献を行う)会社っていう括弧が付いてない? 

 

「さて、君達に来てもらった理由は他でもない。壱譚君、君だ」

 

「俺?」

 

「前に黒百合という剣で性転換したと聞いたよ。その際に月経があったと」

 

「あ、はい。そうですね?」

 

 あの後人ちゃんにぶっ刺したけど、月の日が来なかった。それがなぜなのかは凄く気になっていたけど、そういう知識は無いから放置していたのだ。定期的に連絡したり検診に来てくれたりしている大門治先生はそれを調べてくれていたらしい。頭が上がりませんわ。

 

「結論から言えば、君は男性としての致命的な欠陥を起こしている」

 

「女みたい……てこと!?」

 

「本当に女の子にされたいかい?」

 

「すみません!」

 

「いいさ。いつも通りで安心しているよ」

 

 この人は医者をやってるだけあって、人の壊し方をよく熟知している。どう壊せば効率的に回復するのかとか……昔、人ちゃんが何度も筋繊維と骨を破壊されては治されてを繰り返されてたなぁ……

 そんなことを考えていると、大門治先生はとても複雑そうな表情を浮かべる。

 

「壱譚君、君は子供を作ることができない」

 

「…………ふぉ?」

 

「「はい?」」

 

「君の体は元々女性として生まれてくるはずだった……と言えば分かりやすいかい?」

 

 いや全く意味が分かりませんが? 

 

「君が男性なのに女性的な印象が消えないのは、君の体が本来女性として生まれてくるはずだったからだ。しかし、男性としての要素が混ざっている」

 

「は、はぁ……?」

 

 それが男性としての欠陥を起こしている、というところに繋がっているってこと? 本来女性として生まれてくるはずだったから、俺の体が性転換した際に今まで来ていなかった分の月経が起こったって? ははは、ご冗談を。もっと分かりやすく言ってください。というか……

 

「このカルテのエコー写真、誰のです? 間違ってませんか?」

 

「いや、君だ。君なんだよ壱譚君。君が生まれる前、君がお腹の中にいた時の写真なんだ」

 

「いやいや、待ってくださいよ大門治先生。壱は一人っ子ですよ?」

 

「人使の言う通り、壱は一人っ子です。知ってますよね? なのにどうして────」

 

 双子のエコー写真なんですか? 

 響ちゃんと人ちゃんが問いかけた質問の通り、このエコー写真にいる赤ちゃんは二人……つまり双子のはずだ。これが俺のお母さんのお腹の中をエコー写真として記録したものだとするなら、どうして俺一人しかいないんだよ。

 

「君が本来双子として生まれるはずだった片割れと融合した……その結果だろうね」

 

「融、合……?」

 

「あり得るんですか、そんなこと」

 

「前例がないわけではないさ。どちらかが生まれるためにどちらかを吸収するというのはね」

 

 待って。

 

「しかし、そこでバグが起きた」

 

 待ってよ。マジで理解が追い付かないから。

 

「女の子として生まれてくるはずだった体に、男の子として生まれてくるはずだった体が混ざった……その結果、女性的な体を持った男の子が生まれた」

 

 待ってよマジで! 本当に!! 頭が痛くなってくるから! 理解が! 追い付かない!! 

 

「女性の特徴、男性の特徴、混ざり切らずにバグが生じたため、壱譚君は男性と女性が中途半端に混ざった人間として生まれたんだ」

 

 この話は分からないし、理解したくない! 脳が理解を拒んでいる! だって、大門治先生の言い方じゃあさ……! 

 

「俺が、お姉ちゃんか、妹を殺して生まれたみたいじゃんか……!!」

 

 揺れる。今までの価値観とか、色んなものが揺らいでしまう。ここまで生きてきた時間は、俺がお姉ちゃんか妹の命を奪ったから手に入れた時間だったのかと。生まれる前から人殺しだったのかと。

 考えたくなくて、耳を塞ぎたくなりそうになりながらも、何とか踏ん張る。自分が人殺しじゃないと信じたいから。

 

「そういう結論に至る可能性を加味したからこそ、人使君と響香君にも話を聞いてもらった。すまないね、二人共。私の言い方ではこう伝わってしまう。講演じゃこうはならないんだが」

 

「ああ、そうですね。余計なこと言いやがってこの死にぞこないって思ってます」

 

「マジで余計な情報を叩き込みやがってクソ爺って思ってます」

 

 グラつく視界の中で、響ちゃんと人ちゃんの声がはっきり聞こえた。凄く、怒ってる……? 

 

「託されたんでしょ、お姉ちゃんか、妹ちゃんに。女の体に壱本来の体が吸収されたってことはさ」

 

「自分の分まで生きろって、ヒーローに託されて、壱が生まれてきたんだろ」

 

 それ以外に何かあるかよ。

 二人が吐き捨てるように言い切った。

 

「生まれる前からヒーローとか尊敬しかねぇわ」

 

「ウチらのヒーローに会わせてくれてありがとうってしか言葉が見つからないですよ」

 

 その言葉で揺らぎそうになっていたあれこれがまた、固定された気がした。……うん、考えすぎだよね俺。何シリアスで悲劇のヒロインみたいな思考になろうとしてたんだよ。もっとポジティブに考えよう? 生まれる前から人殺しとかどんな中二病だよ。もしも人殺しだったとしたらお父さんもお母さんもきっと、俺を腫物のように扱っていたでしょうが。どんだけ溺愛されてると思ってるんだ。

 

「話を戻しますけど、こいつがたまに発情顔晒すのも女としての反応ってことです?」

 

「いや、それは壱譚君自身の性だな」

 

「「だそうだぞ、よかったな変態」」

 

「んぎゅっ……♡♡♡!?」

 

 いきなり首を絞めてくるなんて反則だよ……♡最高か♡♡?? 

 

「すまないね壱譚君。言い方が良くなかったが……伝えたいのは君が子供を作れないということと、片割れに託されて生まれてきた……それだけだ」

 

「最初からそう言ってくれたら壱が泣きそうになることがなかったはずだが……?」

 

「ああ、それは本当にすまないと思って────」

 

「へっ、チョロいぜ。気絶するまで腕立て伏せしてろ」

 

 無感情に腕立て伏せを始めた大門治先生を尻目に、響ちゃんが俺の顔を掴んで目を合わせてきた。

 

「忘れんな。壱はウチと人使のヒーローなんだよ」

 

「……うん」

 

「ヒーローは?」

 

「笑って人を助ける!」

 

「よし」

 

 バチンッ! と頬を叩かれたせいで、じぃんっ、と痺れるような痛みが俺の両頬から伝わってきた後、響ちゃんにぎゅっと抱きしめられた。最高過ぎるご褒美を貰った俺のコンディションはいつも以上に安定を通り越して好調────いや、絶好調に至った。

 

「ご褒美最高……♡!」

 

「戻ったね。なら行こ。人使、行くよ」

 

「おう。にしても風雲相澤城零式、どんだけ地獄なんだろうなぁ……」

 

 さっきの会話のお蔭で消え去っていたインパクトがやってきたせいで白目を剥きそうになる。ああ、地獄の蓋が開いた音がしてるよ……!! 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────ー

 

 

 

 

 

 風呂、それは心を穏やかにし、一日の疲れを癒すための場所……地獄のような合宿であってもそれは変わらない。

 

「あ~……久しぶりに入ったけどやっぱりここの温泉やべぇわ……」

 

「だねぇ……溶ける……」

 

 何だかよく分からないインパクトのあるカミングアウトをされた後、それ以上のインパクトで塗りつぶされた林間合宿初日の温泉にて、俺達は星空を見上げていた。

 ここは風雲相澤城兼宿泊施設の近くにある天然温泉。ここでは喧嘩っ早い生物も穏やかになる魔法の領域……水源と同じくらい安全なそこで、俺達は今日の疲れを癒している。乱波さんの拳でぶっ飛ばされ続けていた切島君、緑谷君、飯田君、砂藤君が死にかけているが、明日は我が身である。見ろ、爆豪君すら憐みの目を向けている……! 

 

「にしてもどうなってんだここの温泉……山に直接できてるのか?」

 

「ああ、ここはねぇ……ビッグボスが掘り当てたんだよ」

 

「ビッグボスっていうと……噂の猪か?」

 

「うん。あの時は凄かったなぁ……」

 

 いきなりビッグボスが穴を掘り始めたと思ったら、温泉が噴き出てきたのだからびっくりだよ。ちなみにここには動物以外だと駆世組くらいしか来ないから秘湯だよ、秘湯。

 

『キキッ』

 

『ウキャキャ』

 

『ウッキャァ』

 

「ほら、あそこで猿が星を見ながら酒盛りやってる」

 

「「「猿が酒盛りやってる!!?」」」

 

 風情を感じさせる白猿達を見て驚きの声を上げるA組男子達。俺達を緊急搬送してくれる最強の猿達だぞ、今のうちに挨拶しとけ。

 

「そういや女子はどこに?」

 

「上」

 

「上……? ………………うおっ!? 上にも温泉があるのか!!」

 

「覗きはしない方がいいよ。ここ、ジェントルノルンの縄張りだから」

 

「誰!?」

 

「超デカい梟」

 

 風圧で全てを蹴散らせるんじゃないかと思える巨体をお持ちの梟は、恐らく俺達をどこからか監視しているだろう。この温泉に入れるのはジェントルノルンの温情あってこそなのだ。

 キャーキャーと姦しい女子達の声が上から聞こえてくる中、少し熱いくらいの湯加減の温泉から上がり、背もたれ付きのツルツルした真っ黒な大理石っぽい岩────黒曜石製の天然椅子に腰かける。

 

『キキキッ』

 

「あ、これはどうもご丁寧に……でも大丈夫ですよ」

 

 椅子に腰かけたのを体調不良だと勘違いしたのか、一匹の猿が木材を加工して作ったのだろうコップにジュースを入れて持ってきてくれた。

 

『ウキ』

 

「あ、じゃあいただきます。……うわ、相変わらず美味しい……」

 

『ウキャァ』

 

「あ、君が取ってきたんだ? 凄いね」

 

(((会話が成立している……!!!!???)))

 

 この白猿達、人の言葉を理解しているし、身振り手振りで意思疎通を図ってくれるから分かりやすい。人間よりも意思疎通しようとしてくれるとか、人間よ、動物に色々と負けているぞ。頑張れ。

 

 

 




壱譚が女みたいな体をしている理由
元々女の子として生まれてくるはずだった体に男の体が混ざったから。一応男性としての機能として白い液体は一応出る。なおそこに生殖能力は存在していないのでただの粘り気のある白い液体である。




駆世組
ゴリラ。


白猿
最強の緊急搬送係。この森最速の名を欲しいままにする猿の群れ。普段は断崖絶壁に巣(ツリーハウスのような何か)を作って暮らしている。しかしこいつらニホンザルではなく、遺伝子的にはオラウータンの近縁種である。


ジェントルノルン
とんでもなくデカい梟。実はビッグボスから数えて四番目に強い。
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