雄英高校ヒーロー科一年B組一同は、風雲相澤城零式の中に入った瞬間個性圧縮訓練を行っているA組を見て唖然としていた。
「お前達も行け。限界突破だ。物間はもう行ってるぞ」
「「「物間ァッ!!?」」」
放心して帰ってこない生徒らの中で、いの一番に訓練へと飛び込んでいった物間を見て、B組は再起動する。入学初日から変わっちまったよ物間……! と誰かが呟く中、B組の姉御兼委員長拳藤一佳はA組が行っている地獄を見てこれに飛び込むのか、と白目を剥きそうになっていた。
「ヘイヘイ! なんて座り心地のいいタイヤだよ!」
「くっ……! ぉおおおおお……!!!」
「ぐぬぁああああ……!!」
とても広い風雲相澤城零式一階、入ってすぐの右側。超大型トラックのタイヤをワイヤーで三つ括り付け、その上にオールマイトが座っているという頭のおかしい重りを個性全力使用で引っ張る飯田と砂藤。シュガードープとエンジンが共に動かすからこそほんの少しずつ動くタイヤとオールマイト。上半身裸になった飯田と砂藤の鍛え抜かれた上半身には玉のような汗が絶え間なく流れ続けている。
「雑に個性を使い過ぎだぜ、メドローアボーイ。求められてるのは火力じゃない、精密さだ!」
「……っす……!!」
飯田と砂藤の横では五右衛門風呂に浸かり、炎と氷を同時に使って温度を一定にしながらも木彫りの見本を見ながら氷細工を作り続ける轟。その近くには駆世組の人間が高速で木彫りの精巧な置物を作っている。
「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん……!!!!!!」
「ッガァアアアアアア!!!」
「キラ、メキ……☆……!!」
「痛ェ……痛ェよ……!!」
その上ではぶっ飛ばされてバルーンの中で回転しながら跳ね回る麗日と、それを回収するためにひたすらテープを伸ばし続ける瀬呂。それを邪魔する形でレーザーを撃ち続ける青山、もぎもぎを捥ぎり続ける峰田。
「いいなあ赤髪のお前も!! 尻尾のお前も!! いいやつばっかじゃねぇか!!」
「「ごるぱっ!?」」
「ははは、ほら、起きなさい。訓練はまだ途中だぞ」
「「あぎゃああああ!!?」」
向こう側には、乱波にぶん殴り続けられて気絶しては大門治の個性によって細胞を活性化された時の痛みで復帰を繰り返す切島、尾白の姿がある。風雲相澤城零式の外にも訓練を行っている者がおり、芦戸は酸を放出し続けて色素が抜け落ちたり皮膚が爛れたりしているし、叫ぶ気力もないのか、顔だけが凄まじいことになっている爆豪が爆破を繰り返して空に浮いている。
「単純な増強型と近接主体の者は我のところへ来い! 我&伊口ーズブートキャンプはもう始まっている!! このブートキャンプの後、チャンプ乱波との組手だ!!」
「ほら頑張れよ緑谷、障子! プルスウルトラだろ!? しようぜ、ウルトラァッ!!!」
「「イエッッッサァアアアア!!」」
「叫ぶ余裕があるならまだまだ行けるよなぁ!!!」
恐竜の腕と見紛うような剛腕、全てを噛み砕いてしまうような大きな口、ヒクイドリのような鋭い爪と剛脚を見せつける伊口*1に向かっていく緑谷と障子。恐竜&虎VS人間二人という構図だが、恐竜と虎は全くの無傷、人間二人はボロボロという状態である。気絶したら大門治が細胞を活性化させて回復させるため、終わりが来ない。地獄絵図であった。
しかし、それ以上の地獄を構築している者がいた。
「……ッ!」
「もっと音量を上げろ万雷!!」
「腹から声出せよ喝采ッ!!」
ドバドバと血を大量に流しながら炎を放出し、鉄を打ち続ける多々良壱譚である。その近くでは万雷と喝采を解放して、本気で斬り合う心操人使と耳郎響香の姿があった。しかもその手には多々良が打った武器が握られており、剣山となっている場所から取っては変え、取っては変えを繰り返して斬り合い続けている。しかも個性を使用しながら。その周囲は虐殺でもあったのかと思う程に血液が飛び散っており、まさに地獄であった。
ちなみに多々良が鉄を打っている場所を中心に血溜まりが出来上がっており、鉄を打つ度に血溜まりから血が消費されるが、消費されたそばから血が流れる。出血多量で死ぬはずの出血量だが、造血幹細胞の活動が常人の数倍、数十倍以上である多々良は、流れるそばから追加される。しかも多々良の横には魔境山産のものだけで作った造血剤と自家製ライオンレバー製レバニラが常備されているため、どう足掻いても血が足りなくなることはない。
「「「ハァーッ……! ハァーッ……! ッ!」」」
「「「がぁっは!! 不ッ味いなァ!!!」」」
「ははは、精が出ているようで何よりだ。さて、治してやろう」
「「「うぎぎぎぎぎ!!?」」」
クソ不味い造血剤を口に含み、涙を溜めながら飲み込んだ三人に治療を施す大門治。激痛に耐えた先で回復した三人は訓練に戻る。この訓練が終わったら、今は仕舞われているアスレチックの攻略に臨むのだ。ちなみにこの三人は相澤によって他の者達よりもハードな訓練を課されている。
個性圧縮訓練が終わったらアスレチックの攻略、それが終わったらレッドブロウ、マダム、ジェントルノルン、レディカルメン*2など、魔境山に住むとんでも生物達に喧嘩を売って戦うことになっている。ちなみに希望制なので、向上心のある者、命知らずな者は参加できる。現在爆豪、轟、飯田、緑谷、障子が参加を希望しているため、
そしてその地獄はさらに加速する。
「んぐっ…………………………っかぁ!! ハハハ!! 何か楽しくなってきたぁ!!」
「百鬼悟酒飲みやがったぞこいつ!?」
「まだ一口目だよね!?」
妙なテンションのままに多々良が口に含んだのは百鬼悟酒。鬼の力を宿す代わりに、飲めば飲むほど鬼に近付いていくという呪いの武器も裸足で逃げ出すような武器だ。これを飲むと多々良のテンションが高くなり、声もおどろおどろしい声となる。なお、まだ自我は保てているので問題はない。たまに武器の自我が飛び出すが。
「『ああん? 親父、まだ耳郎の嬢とヤッてねぇのか?』 唐突なセンシティブやめなね? 『ガハハハッ! 気にすんな! デカくなれねぇぞ!』 気にするよ? あと身長の話は禁句よ?」
言ってる傍から出てきている。しかも同じ口で話しているので聞いている側は独り芝居をしているように見える。灰色の髪が急激に伸びたと思えば、半分が金色に変わり、蛇のように蠢いており。額には角が生え、鬼の牙を模したであろう刺青が口元に刻まれていた。一気飲みしたせいで半分まで鬼になっているが、しっかり自我は残っている。
「まだそういう関係ではない」
「信じられるか? こいつ水着姿見ただけでフリーズしたんだぜ?」
「『もう耳郎の嬢が夜這いした方が早ぇんじゃねぇのか?』 だからセンシティブ止めなって! 『ヘタレてんなよなァ、親父』 やかましいわ!」
ギャーギャー騒ぎながらも鬼の膂力で鉄を打つのは止めない多々良と、斬り合いを止めない心操と耳郎。周囲から本当に頭のおかしい人間────もはや人間なのかも怪しいと思われている三人を見て奮起する者がいれば、ドン引きする者もいる。なお、この後のアスレチック*3攻略&階層主、とんでも生物との戦いで本当に人間ではないのではという疑いの目を向けられるのは別の話。
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明朝から夕方の五時まで行われた圧縮訓練及び風雲相澤城零式攻略、とんでも生物との喧嘩を経て、ヒーロー科一年生一同は満身創痍であった。
なお、無尽蔵の体力を持っている多々良とそれについて行くために死ぬほど鍛えている心操と耳郎はちょっと疲れた程度で済んでおり、明日からもっとキツイメニューを渡されることになる。あはれ。
それはそれとして。彼らの訓練はここで終わりではない。
「さあ! 自分のご飯は自分で用意しな!」
「だからって雑なネコマンマは作っちゃダメね! 皆で作れ! カレー!」
「カレーは多分胃が受け付けないでしょ。明日にしましょ明日」
「これは薬膳料理をキメる日が来たな……魔境山の山菜と薬草類でなぁ……!」
「とりあえずお粥から行こうか?」
テキパキと夕飯の準備をする三人組に続こうとするが、細胞活性による疲労感などで限界ギリギリなA組、B組は気を緩めたら倒れてしまうくらい体力も気力も無くなっている。最終日までには順応するだろうが。順応しなければ死ぬだけである。PTAも真っ青な合宿である。
「くっ……! 災害時など、避難先で消耗した人々の……心を癒すのは……食事……!」
「無理すんなよ。無理したところでクソ不味い食事しかできねぇから。壱、キノコ」
「シメジあったよシメジ。キノコ神に喰われそうになったのが懐かしいね」
「「「キノコ神って何!!?」」」
キノコ神。キノコが生えたワニガメである。ワニガメのくせに陸上でも素早いため、油断すると一瞬で腕が食われて義手まっしぐら。首の可動域がおかしいのである。
現在三代目のキノコ神の背中にはシメジが生えている。二代目はマイタケが生えていた。初代はシイタケが生えていた。四代目はエリンギでも生えるのだろうか? なぜキノコが生えているのかは誰も知らない。
「豚汁だ豚汁」
「いやここは芋の子汁でしょ」
「とりあえず生姜と薬草を肉と一緒にどーん」
「「こいつやりやがった!!」」
混沌としているが、食欲を刺激するスパイスの香りや、炊け始めている米の匂いなどが少年少女に活力を与える。薬草特有の香りも混ざって、心なしか少し元気になってきたような気がしてきた少年少女が動き出す。
「三人だけに任せてはいられない! 皆! もうひと頑張りだ! 世界一上手い夕食を作ろう!!」
「……飯田、便利」
それでいいのか担任。
「というかこの山の植物って食べて大丈夫なの……?」
「大丈夫だよ。俺達小学生の頃から食べてるけど、何ともないもん」
「小学生の頃からここに来てるの!?」
料理と言っても、今日の夕食にそこまで難しい工程はない。あるとしても灰汁抜きくらいだ。魔境山の栄養豊富な土壌で育った山菜や薬草、野菜などを刻み、鍋に放り込んで炒めてから水を入れる。肉入りラタトゥイユのようなものを作りながら、並行して薬膳粥も作っていくA組とB組。料理経験の豊富な者が多くいたため、そこまで時間がかからず完成したそれらを皿に盛り付け、全員で頬張る。
「うめっ……うめっ……」
「沁みる……! 沁み入る……!」
「生きてるって実感するぜ……!!」
「ヤオモモがっつくね!」
「私の個性は脂質を使って創造するので、脂質を大量に蓄えれば蓄えるほどより多くのものを創造できるんです」
「へー……俺と若干似てるんだね」
「多々良さんのものとは似ても似つかないような気がしますけどね……」
脂質を使って創造する八百万と、ビタミン、鉄分、食物繊維、血液を利用して能力を持った武器を生み出す多々良。八百万の言う通り、似ても似つかない個性だが、栄養を蓄えれば蓄えるほどやれることが増えるという点においては似ていると言えよう。
「そういえば多々良って駆世組とどんな関係なの?」
「お母さんの実家」
「実家が建築会社なんや……うちと一緒やね」
「あ、そういえば麗日さんの家も建築会社なんだっけ?」
意外な共通点を見つけて話に花を咲かせていると、そういえば、と轟が口を開く。
「多々良、お前の父方はどんな人達なんだ?」
「え? んー……お父さんのところは……んー……うーん……」
「言い難いなら言わなくていいんだが……」
「んーん。そもそも父方のお爺ちゃん達は病気で亡くなってるからそんなに会ったことないんだよね。だからどんな人達かは知らないんだ」
「……悪い。嫌なこと聞いたな」
「気にしないで。そもそもお父さんのお父さんとお母さん、結構年齢重ねた頃にお父さんを産んだらしいから、生きてたとしても本当にお爺ちゃんとお婆ちゃんだったよきっと」
病気で死ぬか寿命で死ぬか、時間の問題だったと思うよ、と呟きながらお粥を口にする多々良は、暗くなりかけた空気を消し飛ばすように風雲相澤城零式を指さした。
「あそこの攻略、きついでしょ?」
「「「キツイってレベルじゃないんだが?」」」
「んひひひ、まぁ、慣れてくるよ。まさか階層が減って密度が上がってるとは思ってなかったけど」
あれの攻略をしながら個性を伸ばし、補習組は更に補習授業が待っている。それを考えただけで億劫になってくるが、その補習授業に参加希望を出している三人を見ると億劫になる前にドン引きする気持ちがやってきた。
「そういえば肝試し、大丈夫かな? ここでやったら間違いなく縄張りに踏み込むんだけど」
「俺がルートを構築しておく。問題ないだろ」
「わっ!? お、お爺ちゃん。いつの間に」
「今さっきな。相澤の坊主達と話してきたところだ」
御年七十を超えるとは思えない程の筋肉量と若々しさを保っているダンディな強面ヤクザな男性が、多々良の頭をガシガシと撫でながら笑う。駆世組棟梁駆世建助は、期待しておけ、と言って森の中へ消えていく。魔境山を一人で歩けるあたり、本当に人間なのか疑わしいところである。
「まぁ、俺、肝試し参加しないんだけど」
「「同じく」」
「ノリ悪いなぁ!! 試そうよ肝ォ!!」
「肝は食べるだけでいいや」
「肝は試すもんじゃねぇ、労わるもんだ」
「ホラー系絶対断固拒否」
そう言いながら食事を真っ先に終えた三人は洗い物を済ませてから、部屋に忘れ物をしたと言って風雲相澤城零式に入っていく。その背中に修羅を背負っていたことを指摘できる者など、この場に誰もいなかった。
レディカルメン
なぜか角が生えているバカデカい雌鹿。強い。
キノコ神
キノコが生えているワニガメ。陸上生活に適応したためなのか結構素早い。首の可動域が300度。梟かな?現在三代目。
魔境山の土壌
とても肥えている。美味しい作物が育つ。生存競争に打ち勝った植物だけが成長する。滋養強壮。
隣にレッドブロウ!天空にジェントルノルン!崖の上に白猿!森の中にはレディカルメン、マダム、キノコ神他とんでも生物達!逃げた先にはビッグボス!!
開闢行動隊の明日はどっちだ。大人しく捕まるかアへ顔Wピースを晒すか逃げ帰るか、好きな地獄を選んでよ。
まぁ、ネタバレするとちゃんと目的の一割くらいは果たすんですけどね、初見さん。