頭のおかしい山の中で行われる合宿三日目の夜。駆世建助が作ったルートで行われるクラス対抗肝試しのルール説明が行われた。
ラグドールの個性、『サーチ』によって全員の状態を把握。各生徒の驚いた状態になった回数をポイント化し、それが多かったクラスが勝利である。なお、驚かす側、驚かされる側はルートから出てはならず、ルートから出た瞬間大幅減点。ちなみにルートから出た瞬間とんでも生物達の縄張りに踏み込むことになるので死にたいやつは出て問題なし。
また、驚かされる側は二人一組でスタートする。ルートの中間地点にいるラグドールから通過証明書を受け取り、スタート地点まで戻ってくることでゴール。
「創意工夫を凝らし、対抗するクラスの生徒をより多く失禁させた方が勝ちだ!」
「なるほど?」(媚主絶天を構える補習参加者)
「なるほどなぁ……?」(磨かれたステルス性能を見せつける補習参加者)
「なるほどね」(馬鹿二人を抑える補習参加者)
この三人、補習授業に参加するため肝試しに参加することはない。そもそもこの三人が出たらとりあえず斬ってみるか、殴ってみるか、索敵してみるかで全く話にならないのである。そんな三人を見てもテンションはそのままの幾人か。この幾人かはこの後すぐに悲しいお知らせを叩きつけられる。
「残念だが補習組は今日も補習授業がある」
「嘘だろ!!?」
「ところがどっこい、現実です……! これが現実……!」
ぐにゃあ……と絶望の表情に染まった補習組と、今日の補習授業はどんなものかなぁと呑気に笑う三人組。同じ補習授業受講者だというのに、どうしてここまで差が出るのだろう。
相澤に引きずられていく補習組と、それについて行く三人組を見送ろうとしたA組とB組の生徒やオールマイトを筆頭とした肝試し参加者はふと、何かの音が聞こえてきたことに首をかしげた。
「……何、この音?」
「金属を引っ掻いてるみたいな音……? いや、鐘……?」
誰かがそう呟いた直後、この山を熟知している者達の意識が切り替わった。
「イレイザー! ブラド! オールマイト! ワイプシ!」
「生徒を守れ!! 外敵だ、それも大軍!!」
「「「ッッ!!?」」」
万全を期した。情報も制限したはず。そして日本でも有数の、最も安全な山を利用した合宿だったはずだ。だというのに、日常が崩れ去る音が遠くで聞えた。
「おやっさん! ジェントルノルンが飛んだ! 白猿達の鐘からして、崖上にいるぞ!」
風雲相澤城零式の最上階で見張り番をしていた駆世組の人間が叫びながら肝試しのスタート地点に飛び込んできたところで、本格的に生徒も教師も意識が切り替わる。切り替わった直後────
「ギッ……ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!??」
漆黒の異形が木々を吹き飛ばしながら転がってきた。
「脳無……!?」
「嘘だろ……? 万全を期したんだよな……?」
「なのに、どうして……脳無がいるんだよぉおおおおお!!?」
峰田が叫ぶ中、プロヒーロー達は脳無の姿に違和感を覚えていた。あり得ない程に欠損しており、酷く怯えているように見えるのだ。まるで、再生をする前にぶん殴られて、どうにか逃げ出したかのような、そんな姿が、とてもじゃないが違和感だった。そして、その違和感を納得に変える存在が、すぐに現れる。
『グガァアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』
それは、鮮血を浴びたかのように真っ赤な毛並みを持った、巨大なクマであった。重機と見紛う程の太さと強靭さを兼ね備えた巨躯を支える、大木のような剛腕と剛脚。血走り、身も心も凍り付かせるような咆哮を放つそれは、魔境山のとんでも生物筆頭の大熊────レッドブロウである。
こいつだ。こいつが脳無をこのような無残な姿にしたのだ。その証拠に、レッドブロウの腕には今引き裂きましたと言わんばかりの真っ赤な液体がこびりついているし、脳無の腕だったであろうものが爪の先にくっ付いている。
「……レッドブロウ、もしかしてこいつ、縄張りに入って喧嘩売ってきたの?」
『グルガァッ……!!』
「「「そっか……なら殺すしかないよなァ!!?」」」」
魔境山の掟その一、部外者────駆世組の関係者などは除く────が縄張りに踏み込んできただけでは飽き足らず、喧嘩を売ってきたら確実に殺せ。なお、多々良、心操、耳郎の三人が入ってきたら殺すつもりで全力本気で戦い、殺してはならない。舐められたと感じた瞬間から喧嘩は始まっている。
ビッグボスが定めた掟により、脳無は殺されることが確定した。ちなみにこの脳無、一応多々良がアメリカで出くわした脳無と同等の力を持っているが、個性の使い方が拙過ぎて再生していると他の個性が使えないという欠陥もいいところな脳無である。そんな脳無は、レッドブロウの殺意に当てられたことで野生が解放されている多々良、心操、耳郎にもロックオンされた。終わりである。というかもう終わった。
「ギュペッ!?」
『グガァアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』
レッドブロウの剛腕が脳無をぐちゃぐちゃに叩き潰した。再生をしようとはしなかった。この苦しみが続くくらいなら、死んだ方がマシだと考えてしまった脳無は、個性を発動することなくその生涯に幕を閉じた。
レッドブロウの勝利の咆哮が響く中、森の至る所から動物達のざわめきが響いている。脳無がいるということは、ヴィラン連合がこの森に潜伏している可能性が高い。そう考えたプロ達は、子供達を避難させることを最優先に考えるが……
「ごぱっ……!?」
「多々良!?」
多々良の口からタールのようなものが溢れた。多々良だけではない。他の何名かの生徒の口の中からも黒いタールのようなものが溢れて体を飲み込んでいく。相澤が個性を発動し、周囲を見回すが、個性を発動しているような何者かの姿は確認できない。しかしこれがヴィランによる何かだとは理解できる。どうにかしようとするが、何かできることはなく。
「ノォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
オールマイトの声とは思えないほど、後悔の念が籠った絶叫が森に響く。生徒を守れなかった自分への苛立ちを叫ぶオールマイトに、ラグドールが叫んだ。
「落ち着くにゃ! あちきの個性で皆を捕捉できてる! でも……散り散りになっちゃってる……!」
「一先ずこの場にいる生徒を連れて避難する! 全員! 俺について来い!」
「オールマイトさん、まずは現状をどうにか好転させることを考えましょう」
後悔するのはその後でいい。できるだけ冷静なふりをする相澤の拳は真っ白になるくらい握り締められている。腸が煮えくりかえるような思いを抱えていることは想像に難くないだろう。しかし、それよりも怒りに染まっている者がいた。
『グゥルガァッ……!!!!』
レッドブロウである。
この森でも若い縄張りの主であるレッドブロウは幼馴染三人組と共に成長してきた。時に勝利し、時に敗北し、時に共闘し、切磋琢磨し続けてきた戦友であった。最近、番となり、子供も生まれたことで父となったレッドブロウは子供を守る義務がある。親友達に己の雌と、子供達を紹介するはずだった。その後、喧嘩をして、蜂蜜を食べ交わすはずだった。他の縄張りを持つ者達にしてもそうだ。駆世建助から、ビッグボスから親友達が友人を連れて帰ってくると伝えられて、楽しみにしていた。いつもと変わらない、しかし幸せに変わったたくさんのものを共有するはずだった。それを、何者かが奪おうとしている。レッドブロウにはそれが許せなかった。
『グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』
怒り狂う咆哮が、騒めく山に響き渡る。瞬間、騒めいていた山の動物達の鳴き声が聞こえなくなる。
突然しん……と静まった空間は。
『グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』
『ギュルォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!』
『アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!』
『ブオォオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』
怒り狂う獣達の合唱広場へと変貌を遂げ、プロヒーロー達ですら冷や汗を掻き、学生達の中には気絶する者も出るほど。その怒りの咆哮は魔境山の様々な場所から響いており、その様々な場所で爆発が起きたかのような轟音と煙が上がっていた。
その中で、相澤は────イレイザーヘッドは今自分が何をすべきか、何が最悪かを考える。最悪は、生徒の誰か一人でも失ってしまうこと。現状の手札でその最悪を回避するためにはどうすればいいのかを考え、この場での責任一切を背負うことで、誰も失わせないようにすること。
「マンダレイ、テレパスで全員に通達。責任は……俺が全て────」
「いいや相澤君、私達で背負う! マンダレイ!」
「ええ! A組、B組、駆世組に通達!! この場にいるプロヒーローの名において、戦闘を許可する!! ただし、戦闘せずに逃げることが可能な場合、戦闘を避けて逃走を選択すること!!」
最悪を回避するための戦いが今、始まった。
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マンダレイによる一方通行の伝達が響いた頃。多々良は一人、山の頂上で一人の男と対面していた。
「やあ……初めましてだね、僕の可愛い娘の血を引く子」
「てめぇは誰だよ」
髑髏を模したデザインの黒いヘルメットを装着し、目と鼻を完全に隠すだけではなく、口元すらもパイプが繋がったマスクによって表情を描くし、どこを見ているのかすら分からない謎の男を前に、多々良は本能的な恐怖を捻じ伏せて炎を纏い、百鬼悟酒をいつでも飲めるように構えていた。
「ふふ……その反抗的な表情も、とてもそっくりだ……悪い男の毒牙に引っ掛かってしまって……」
「意味不明なことをつらつらと……あんたみたいな親戚なんて俺は知らないんだけど?」
場所は山頂、救援はまだ見込めない。ビッグボスが起きるのが先か、動物達が自分を見つけてくれるのが先か、自分が死ぬのが先か。そんな状況を少しでも好転させるために多々良は頭を回転させ続け、いつでも動けるように体に言い聞かせ続ける。
自分と相対している男は何が理由かは知らないが上機嫌。微かに上擦った声を聞く限り、それは間違いないだろう。
「どうすれば自分が逃げられるか、生き延びることができるか……いつでも動けるように考え続けているね。聡明なところもそっくりだ」
「だーかーらー……あんたみたいな不気味なやつ、知らねぇっての」
月明かりが照らす山頂で、キッチリとスーツを着こなした男の纏うオーラはただひたすらに不気味で、芝居がかった身振り手振りも恐怖を煽る。ニヤニヤと笑っているのであろう男は、多々良が声を発する度に喜悦の感情を隠そうともしない。正直言って気持ち悪い、というのが多々良の感想であった。
「強がって強い言葉を吐く癖も、声までそっくりなんて……運命すら感じてしまうよ」
「やな運命もあったもんだ」
睨み合い────睨んでいるのは多々良だけだが────が続く中、最初に動いたのは不気味な男だった。
「小手調べと行こうか?」
「ッ!」
「【空気を押し出す+筋骨バネ化+瞬発力三倍+膂力増強】」
放たれた空気砲に対応するため、多々良は百鬼悟酒を一気に飲み、半分以上を鬼と化す。
凄まじい威力の空気砲を鬼の膂力で振るった金棒によって相殺した多々良の右腕は、その威力に痺れを訴えている。何度も相殺できるものではないだろうことは間違いなかった。
「やるじゃないか。じゃあ次は────」
「させるかァッ!!」
次の攻撃が来る前に飛び出した多々良が金棒を振るう。並みのヒーロー、並みのヴィランでは瞬時に肉塊を化すであろう一撃に加え、蛇のように蠢く髪が男を食い殺さんと
「素晴らしい……! あの子と同じ個性! 【無機物に個性を与える】という個性が! 世代を重ねたことで深化している……!!」
「なぁに言ってんのか分かんねぇなァ!!」
「あの子を奪われたことは本当に忌々しいが……この瞬間だけ感謝をしてもいい……! あの男の個性は引き継がれず、あの子の個性のみが強く、美しくなっている!!」
「訳分らんことばっか言ってんじゃねぇよヴィラン様よぉ!!」
「ドクターの反対を押し切ってでも出張ってきた甲斐があったというものだ……!! 弟だけではなく、可愛い愛娘にも再会できるなんて!!」
幾度となく金棒と蠢く髪が男を襲うが、全く通じない。金棒は衝撃が反転したかのような弾かれ方をし、髪は黒い爪のようなもので引き裂かれてしまう。もう一口飲み、完全に鬼と化して攻撃するか……そう思った矢先、多々良の腹に黒い槍のようなものが突き刺さった。
「……ぁ゛?」
「【鋲突+麻酔+薬物強化+解毒】……いつ気付かれるか冷や冷やしたよ」
凄まじい眠気が多々良を襲い、膝を付いてしまう。段々と瞼が重くなると共に、百鬼悟酒の酒精も抜けていく。まだ立たなくては、そう言い聞かせるが、全く動けない。
抵抗虚しく倒れた多々良が最後に聞いたのは────
『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!』
「おっと……あれとやり合うには少し拙いね……続きは僕達の家でゆっくり話そうじゃないか。おやすみ、多々良壱譚君」
そう言って笑う男の声と、この山の主が目覚めた咆哮であった。
今作のAFO、ブラコンと親バカを拗らせて究極進化させている。気持ち悪さ100倍アンパソマソ。
ね?一割は完了させた。他?できるわけねぇよなぁ!!!!???