手綱を握れ!人ちゃん&響ちゃん!   作:エヴォルヴ

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ビッグボスはこんな感じ。

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こんなのがいる森に誰が近付くかよ。


リザルト

 魔境山、水源近く。ガスを放とうとしていたガスマスク姿の少年、マスタードは全身の骨という骨を粉砕されたかのような痛みに喘いでいた。

 

「ぁ……ぎ……ッッ!?」

 

 それもそのはずだ。マスタードが個性を発動しようとした矢先に現れたレッドブロウの子供、三頭のレッドブロウジュニアがマスタードの体を容赦なくぶん殴ったのだから。ジュニアとはいえ、この魔境山に勢力として名を残しているレッドブロウの子供。弱いわけがないのだ。極めつけに、レッドブロウの番であるレッドブロウの雌個体がそれを見守っている。個性を発動しようものなら今度こそ一撃で全身をミンチにされるだろう。ちなみに遊び道具だとでも思われたのか、マスタードは現在レッドブロウジュニア三頭にバレーボールとして使われている。自然界において人間の尊厳など存在しない。

 

 そしてそれを近くで見た一人のヴィラン、Mr.コンプレスはというと……

 

「──────────────────ッッッ!!?」

 

 もはや声ではない声を上げて巨大なアオダイショウに締め付けられていた。マダムと呼ばれるそのアオダイショウは夜に活動することはあまりないのだが、レッドブロウの怒りの咆哮によって状況を把握し、ヴィランであろうそれを見つけて強襲したのだ。個性を使うことすら忘れて絶叫するMr.コンプレスの骨は半分以上が砕け、折れた骨が臓器に刺さって想像を絶する痛みに気絶しては復帰するという地獄を繰り返していた。

 

「凄まじいな……」

 

「ああ、相変わらず凄まじい」

 

「この自然がどうして侵されずに残っているのか分かるよね」

 

 同じ場所に転送されていた障子、心操、耳郎がその光景を見て思わず笑ってしまう。この魔境山で強く育ち、勝ち残ってきた名前付き達にはとんでもない化け物しかいないのだ。この程度のヴィランが何かできるような環境ではない。

 

「というか壱はどこ行きやがった……」

 

「また離れちゃったよ……」

 

「マンダレイからの指示もある。索敵を怠らずに────上だ、二人共!!」

 

 障子の声に反応してその場を飛び退いた心操と耳郎。先程まで二人がいた場所には────見覚えのある鋭い刃のような歯が突き刺さっている。

 

「よ、避けられた……また……」

 

「人使、あれぶっ殺していいよね」

 

「奇遇だな、俺もそういう気分だわ」

 

「あれは確か……指名手配ヴィランのムーンフィッシュ!? ヴィラン連合に与したのか!」

 

「障子、ああいうのは薬中って呼ぶんだよ」

 

「明らかにラリってるしね」

 

 いつも以上に殺意を滾らせる二人を見て、障子は多々良が話していたことを思い出す。昔、多々良が二人を庇い、大怪我をした時があったと。その際負った傷は消えたが、あれは痛かったとヘラヘラ笑って首を絞められて喘ぎ声を漏らしていた多々良が言っていたのは、ムーンフィッシュのことだったのだ。

 

「肉……見せて……ね……! 断面……素敵な断面見せて……!!」

 

「来い、万雷!!」

 

「行くぞ、喝采!!」

 

 どこからともなく飛来した刀を掴み、その名を解放する。いつもの冷静沈着な獣の演奏者達やコーラス隊の獣人が、いつになく怒りの表情を浮かべている中、ムーンフィッシュの刃が三人を襲った。

 

「障子! 側面は脆い! ぶん殴れ!!」

 

「ああ!! ────オオオオオオッッ!!」

 

 複製した腕を両腕に巻き付け、丸太のように変化させた拳で刃を殴って砕いていく障子。障子は伊口との組手においてだけではなく、多くの戦闘において手数を優先していたが、伊口からの助言が障子のバトルスタイルを大きく変化させた。

 

『障子、お前の手数は魅力だ。けどな、お前より大きなやつには通用しねぇぞ』

 

『ならばどうするか。そんなの簡単だ。そいつに通用するくらいのサイズにお前が成ればいいんだよ』

 

『乱打だけが戦い方じゃないんだぜ。乱波さんみたいにとんでもない肩があれば話は違うけどな』

 

『お前くらいデカいやつが前に出て、巨大なヴィランだろうが吹っ飛ばす派手な一撃を放って戦ってくれる。それだけで後ろにいる人達はこう思うだろうぜ? ああ、こんなに凄く大きくて強い人が俺達を守ってくれるなら、きっと大丈夫だ……ってな』

 

『胸張って叫べよ、障子。どんな姿であったって、お前はお前だ。自分がカッコいいと思えるお前が、一番カッコいいんだぜ』

 

『ま、全部おやっさんの受け売りだけどな?』

 

 ぶん殴れ。泣いている子供を守るためにヴィランを粉砕し、泣いている子供を温かく包んであげられる巨大な拳で。激流のように叩き付けられる巨拳の大瀑布によって、敵を押し流せ。背中にいる誰かを、背中を押してくれる誰かを守るために。自分が一番カッコいいと思える自分となれるように。あの日掴んだ手も、握ってくれた手も、全部、間違いじゃなかったと言い切れるように。コントのように流された三人組の手を掴み、縁を得て、この姿で良かったと思えた自分は、間違いなんかじゃないのだと、証明するために。

 

「「墜ちろクソ野郎!!!」」

 

 いつの間にか上空に飛び上がっていた二人の友人が、ムーンフィッシュの顔面を鞘に納めた刀でぶん殴って叩き落した。落下地点には、肥大化させた拳を構える障子の姿。ムーンフィッシュは見えているのか見えていないのか分からない服の中で、深海で獲物を喰らい尽くす巨大なタコの姿を幻視した。

 

「【オクトラグナ】ァァァァッッッ!!!!!」

 

 四つに絞り、肥大化させた拳が、ムーンフィッシュの全身にめり込んでいく。

 ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。目にも止まらぬ速さで放たれる拳はまさに大瀑布。ムーンフィッシュが抵抗として歯を伸ばし、刃を放つが、伸びきる前に粉砕される。叩き付けられる拳によって放たれる衝撃波が木々を騒めかせる。昨晩、多々良、心操、耳郎と共に喧嘩を売ってきた大柄な男の成長に、マダム達は小さく唸った。たった一晩でここまでの成長を遂げるとは、と。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」

 

「ゲべァアアアアアッッッ!!?」

 

 これが最後の一撃だと言わんばかりの一極集中アッパーカットによって吹き飛ばされたムーンフィッシュと、拳を突き上げたままの障子。その姿は、オールマイトのように強く、気高いヒーローの姿をしていた。

 開闢隊、ムーンフィッシュ、マスタード、Mr.コンプレス────ヒーロー及び超常生物に叩き潰され、戦闘不能(リタイア)。それを確認した心操と耳郎は多々良を探し、合流しようと周囲を見回し────山の山頂から飛来した矢に目を見開いた。

 

『ごめんね』

 

 多々良壱譚が持つ、殺傷力を持たない弓、鯨ノ共鳴(声よ届け)によって送り届けられた言葉に、三人は青ざめた。その声はとてもじゃないが、いつもの多々良壱譚の声には聞えなくて。まるで、自分達を置いてどこかへ消えるような、そんな声で。

 

「山頂に飛ばせ、万雷ッ!!」

 

「山頂だ! 喝采ッ!!」

 

「「投げろ!!」」

 

 無茶を言うんじゃねぇと言わんばかりの人狼だったが、主の力になることこそが己の本懐。期待に応えられないのであれば死んでしまえと唸り声を上げて、嵐の力を解放して主を山頂にぶん投げた。

 凄まじいGによる負荷がかかる中、その速度を衰えさせることなく適宜音の壁を展開しては山頂に最高速度を維持して接近する。ぐんぐん近付いていく山頂を前に、二人は気付いた。気付いてしまった。戦闘が行われた形跡のある、抉れた箇所、その場所に、誰もいないことに。

 

 アメリカで習った着地法で着地し、その勢いのまま、周囲を見渡し、叫ぶ。

 

「壱!!」

 

「どこだ壱!! 返事しろ!!」

 

 反応は、ない。当然だ。この場所にいるのは、心操人使と耳郎響香しかいないのだから。だけど、諦められない。認めたくない一心で、周囲を探す二人は抉れた箇所の中心に、武器が突き刺さっていることに気付いた。鯨ノ共鳴(声よ届け)であった。なぜこれだけが残っているのかと首をかしげることすらせず、縋るように掴む。

 

『ごめんね、二人共……ちょっとヤバいかも。でも、絶対帰るよ。必ず帰るから……』

 

 だから、ご飯作って待ってて。

 そんな言葉だけが、弓矢に込められていた。今生の別れにしてなるものか、という強い意志を感じる言葉だったが、二人の情緒は滅茶苦茶である。自分達の隣にいたはずの多々良が、ずっと一緒にいるはずだった多々良壱譚が、どこにもいない。

 耐えなくては。耐えなくてはいけないのに。いつものように笑って帰ってくるはずの多々良が、不安にならないように、笑って迎えてやれるように、切り替えなくてはいけないのに。耐えろ、耐えろと心の中で言い聞かせ続ける中、ビッグボスの咆哮が響き、それと同時に、山頂に全力で走ってきたのだろう、息を切らしている相澤が到着した。

 

「心操! 耳郎! 無事か────」

 

「「相澤先生……!!」」

 

 最も信頼する教師がやってきたことで、感情のダムが崩壊した。それを見た相澤もまた、己に届けられた声の主がここにいないことを理解した。

 

(俺は、また……ッ!!)

 

 怒りの咆哮と、教え子の慟哭が響く中、相澤は、己の────ヒーローの敗北を感じ取っていた。

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────ー

 

 

 

 

 

 ビッグボスは、己の愚鈍さを悔いた。悪意にすぐ起きることなく、他の超常生物達に任せると判断した自分の考えの浅さを愚かと断じた。その愚かさが無ければ、自分がすぐに起きて山頂の悪意の主を叩き潰せば────盟友の孫であり、この森の友である子を守ることができたはずだったのに。

 

「オイオイオイオイ……! 待て待て! 行け行け! 嘘だろ!!? 本当だよ!!」

 

 森の友を守ることができなかった。

 

 だが、まだ残っている子供達がいる。英雄を目指すといえど、まだ十数年しか生きていない子供。不安に怯えている子供達が、この森のあちらこちらにいる。この森で育ち、まだ戦う力を持たぬ庇護すべき子供達と、外からやって来た森の友の友人がいる。ならば、その子供達を守ろう。この森の主としての役目を果たそう。森の守護者であり、王としての責務を果たそう。

 

「炎が効いてねぇ……!!? 大量の脳無も紙切れみてぇに……蹴散らしやがった!!」

 

『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!』

 

 目に映る悪意抱く者達を全て蹴散らす。命を弄ばれた者も、せめて苦しむことなく逝かせてやる。

 

 十数メートルの巨躯が、山のような巨猪が、怒りの咆哮を放ちながら全てを薙ぎ倒していく。猪の名はビッグボス。森の王、森の守護者。超常に適応した生物が棲むこの山を纏め上げる最強の猪だ。カリュドーンの猪、エリュマントスの猪、伊吹山の神、グリンブルスティ、ヴァラーハ………………神話に登場する獣はこれ程に恐ろしかったのかと、誰もが理解するだろう。

 

 その体が動くだけで、群がる脳無がゴミクズのように消し飛ぶ。咆哮し、エンデヴァーが放つ通常の炎以上の火力を持つはずの炎をものともしない突進は、全盛期のオールマイトの全力すら霞んで見えるのではないかと思ってしまうような威力だ。その巨体でどうしてそのような速度が出せるのかと疑いたくなるような速度────時速150kmを超える突進は、ありとあらゆるものを蹴散らして進む。まさに王の一撃と呼ぶに相応しいそれに巻き込まれれば、一溜りもない。全力で逃げの一手を選んだ全身タイツの男トゥワイスと、皮膚が焼け爛れた男荼毘だが、もう遅い。逃げるにはもう遅すぎた。逃げるのなら、咆哮が聞えた直後に恥も外聞も捨てて、糞尿を撒き散らしてでもこの山から逃げ出すべきだったのだ。魔王すら死を覚悟する最強の獣、その一撃の余波に飲み込まれ────彼らは全身から血飛沫を上げながら空へと舞い上がり、直後に黒い靄に飲み込まれた。

 

 

 

『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!』

 

 

 

 一見勝利の咆哮にすら聞こえる、ビッグボスの咆哮。しかし、天を突くようなその咆哮にはどこか、哀愁が漂っており、ビッグボスが何かを悔いているように聞こえた。




リザルト

ヒーロー
軽重傷者:数名
行方不明者:一名。


ヴィラン
一名拉致
開闢隊ほぼ全員、ドクターたちがいなければ全治数年の重傷。大体超常生物達に蹴散らされた。黒霧と魔王によって主要メンバーは回収された。
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