手綱を握れ!人ちゃん&響ちゃん!   作:エヴォルヴ

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おはよう(昼夜逆転)


多々良壱譚:フルバースト

 変速(トランスミッション)

 

 俺が何代も前のお爺ちゃんから受け継いだ個性。母方のお爺ちゃんである駆世建助の『建築加速』みたいな、特定の行動に対する加速ではなく、ありとあらゆる行動に対する速度の変化を引き起こす個性。世の理すら歪めるとんでもない個性だと説明されたそれのお蔭で、俺はこの神野に到着することができた。明日はきっと筋肉痛で動けないだろう。

 

『壱譚、お前が反動無しで使えるのは三速(サード)までだ。それ以上は大きな反動が起こる。決めるなら一気に攻めろ』

 

「問題なし! 反動押し倒してでもぶっ倒してやるよ!!」

 

 俺の奥から聞こえた声にそう返し、オールマイトと共にAFOに激突する。何だかとんでもない姿になっているAFOがオールマイトをいなそうと拳を振るうが、残念ながら俺はさっきオールマイトに触れている!! 

 

二速(セカンド)ッ!!」

 

「何ッ!? ────ガハァッ!?」

 

「HAHAHA! こいつはいい! 瞬間的だが、私の全盛期と同じかそれ以上の速度か!!」

 

 速度×重さ=力。そんなことを誰かが言っていたなぁ、なんて呑気に考えながら、オールマイトが吹っ飛ばしたAFOの背中に向かって金棒を構える────のではなく。金棒を髪に巻き付けて両手を空ける。金棒を振るうだけが百鬼悟酒の力じゃないんだぜ!! 

 

「図に乗るなよ……!!」

 

三速(サード)ッ! 発気揚々(はっけようよう)……!!」

 

『俺の頃とはわけが違うぞッ! AFOッッ!!』

 

 構え、彼岸花が咲き誇る。行司の姿をした鬼が現れ、AFOが間合いに入った瞬間に鬼の張り手を叩き込み、その勢いのまま顔面を掴む。喰らいやがれ!! 

 

『今の多々良壱譚は貴様があの夜戦った男ではない!! 何のために、誰のために力を行使するのかを再確認したこいつは言うなれば────潜在能力を100%中120%引き出された状態!!』

 

「模倣必殺! 大津波ッッ!!」

 

 鬼の膂力と加速によって放たれる超高速かつ超高威力の掴み技が炸裂したことで、AFOの体が地面にめり込む。追撃はせず、オールマイトが立っている場所まですぐに離脱する。何をされるか分かったものではないからね。

 

「オールマイト、手応えは?」

 

「あるにはある……が、君が合流する前から感じていた決め手に欠ける手応えだな。USJに現れた脳無と同じような個性を持っていると見ていいだろう」

 

「ショック吸収……もしくはゴムですかね? 妙に跳ねてましたし」

 

「筋骨発条(バネ)化とも口にしていた。恐らく複合しているはずだ。だが、私達ならやれるさ!」

 

「ですね。……ところで俺、戦闘に参加していいんですかね? 勢いのままやってますけど」

 

「うーん……まぁ、あとで一緒に根津校長達のお叱りを受けようじゃないか!」

 

「よーし、やる気出てきちゃったなァ!!」

 

 相澤先生にも怒られるんだろうなぁ、きっと。

 苦笑交じりにオールマイトと話していると、俺達を狙う熱線が放たれるが、オールマイトがすぐさま反応。全力の拳圧によって熱線を上空に吹き飛ばした。変速切ってるはずなのに凄いですね?? 全盛期どんだけ強かったんですかあなた。え? 今でもスターアンドストライプが強化上限まで自分を強化しても膂力は届かない? マジで? 筋肉馬鹿かよ。

 

「ショック吸収とゴムの個性が貫通するレベルの一撃ばかり……厄介だな。オールマイトが二人いるようなものだ……そして何より……お前だ。駆動……!!」

 

「お爺ちゃん、あいつに何かしたの?」

 

『いや、ただ奴の弟と娘を連れ出し、弟からは個性を貰い、娘に一目惚れされただけだ』

 

「────────────────────―殺す……! 殺してやるぞ、駆動……!!」

 

「わぁ、煽り性能高いなぁ……」

 

「多々良少年? 誰と話してるの?」

 

 乱雑な攻撃を雑談しながらもいなす。ここに至るまでにオールマイトがAFOを追い詰めたからこそ俺が戦闘に参加しても問題なく動けているんだけど、そこにお爺ちゃんの個性やお爺ちゃんのせいで精神が乱れているのも相まって結構余裕な感じがしている。負ける気がしないというのはまさにこういうことなのだろう。

 

「個性を幾つか纏めるなどということはもう止めにしよう。君達二人を確実に殺し、世界に絶望を贈る……!」

 

「セフィロスかな?」

 

「セフィロス?」

 

「おや、オールマイト、ゲームはあまりやらないんで?」

 

「生まれてこの方ヒーロー稼業に必死でね。そう言った遊びはそこまでさ」

 

「んじゃ、帰ったらゲームも始めてみましょ。FFは名作ばっかりですよ。オールマイトのゲーム配信とか絶対トレンド入りしますよ」

 

 最近発売したFFXVIも名作過ぎて……ゲームをプレイして久しぶりに大泣きしたよ。主題歌もBGMもキャラも最高過ぎたんだ……

 

「今、僕が掛け合わせられる全ての個性を束ね、重ね……! 君達の存在を否定する……!!」

 

 そうこうしているうちに、AFOの体が膨れ上がった。うーむ、とても醜悪な姿になってきているぞ……! 何だろう……色んなものが滅茶苦茶に混ぜ合わされて、ぐちゃぐちゃにされた後、無理矢理形を整えて無理矢理抑えつけているような……うん、凄く気持ち悪い。アステールとかメーテールとかエーブリエタースでもそんなことにはなってなかったぞ。あの星々を見習っていけ? 

 

「──────────────!!」

 

「言葉話せなくなってるけど、あれ大丈夫だと思います?」

 

「いや……奴の中心から発せられている熱量……! あれは恐らく、核爆弾級の爆弾だ! 奴が何かをする前に倒さねば、ここは焦土と化すだろう……!!」

 

 なるほど、タイムリミット有り、しかも下手に攻撃すれば爆発するという下手気な戦いよりも面倒なものに変化させたのか。勝利条件はAFOの爆弾を起爆させず、これ以上の被害を出さないこと……しかも熱線とか空気砲とかレーザーとか全部避けながら近付いて殴らないといけないとか、シューティングゲームじゃないんだから。三速(サード)の速度を乗せた掴み技を叩き込んだのにそこまでダメージが通っている感じがしなかったところから察するに、打撃はそこまで通りが良いわけじゃなさそう。オールマイト級の膂力があればいけるだろうけど……鬼化してもやっぱりベースはお姉ちゃんの体だから、オールマイト級にはなれないね。大体砂藤君の二分の一くらい? こう考えると砂藤君の個性って凄くない? 

 

 まぁ、それはさておき、今のAFOに有効打になる手札は百鬼悟酒の中にいる鬼達にはいないかも……? そもそも百鬼悟酒自体、能力が戦闘向きじゃないんだよな……鬼化自体副産物だし。鬼を呼べるけど、皆脳筋というか、伝承通り過ぎるから……何だかんだ鬼って膂力に物を言わせる奴らばっかりだ。パワーisジャスティスなのか? 

 

「多々良少年、その加速はどこまで使いこなせているんだい?」

 

「反動無しは三速(サード)まで。自壊覚悟なら最大十速……ただ、こっちは十速(オーバードライブ)です。反動ありきで現実的なのは五速(クインティ)四速(フォース)ですかね」

 

「なら私が君を奴の懐まで連れていく。最後は君が決めてくれ」

 

 そこはオールマイトが決めるんじゃないんですね、とは言えなかった。さっきソーマをぶっかけたとはいえ、無くなった活力を無理矢理回復させたようなものだし、オールマイトの限界はもうとっくの昔に訪れている。それに……トップヒーローがお膳立てしてくれるというのなら、乗らざるを得ない。

 

「私の拳では恐らく奴の用意した爆弾を起爆させてしまうだろう。しかし、君の個性と武器達なら、きっと奴から爆弾を切り離し、全てを終わらせることができるはずだ」

 

「了解しました。じゃ、フィナーレ、飾りましょうか!!」

 

 長々と戦って被害を広げるのも、あのヘリが中継しているお蔭で見ているはずの響ちゃんと人ちゃんに心配をかけすぎるのもよろしくない。というか鬼化+変速のコンボで個性をずっと使い続けているせいもあってお腹減ってるんだよね。早く帰ってご飯食べたいので、オールマイトの作戦に乗る。

 

「飛ばしていきますよ、オールマイト! 二速(セカンド)……三速(サード)ッ!!」

 

「行くぞ、多々良少年────いや、煉武!!」

 

 その声と共に、世界が加速した。俺の個性によって二倍の速度を手にしたオールマイトが俺を担いで飛んだのだ。反応速度を強化する個性を持っているのか、その速度にAFOは対応してくる。でも、忘れてないか? お爺ちゃんの頃とはわけが違う個性なんだぜ? スターアンドストライプの言葉を借りるなら────手の内が分かっていても対策のしようがないって話さ!! 

 

「ぶっ飛ばせ、決闘壁盾(コロッセオ)ッ!!」

 

 銅鑼が鳴る。人面の触手や鋲が迫るが、それらを全て衝撃波とオールマイトの拳圧が消し飛ばす。衝撃波が広がる速度も、オールマイトの拳が放たれる速度も通常の三倍。密度が足りてないんじゃないかなぁ、お爺ちゃん!! 

 

「まだまだ加速していきますよ!! 四速(フォース)!!」

 

「DETROIT SMASH QUARTET!!」

 

 音が遅れて聞こえてくるくらいの速度に到達したオールマイトの拳が四発、重なるようにAFOが展開した分厚い装甲に叩き込まれる。オールマイトの100%以上のパワーを宿しているそれを同時に四発喰らって砕けない装甲があると思うか? という問いは、スターアンドストライプとスターズの皆さん────姉さん(シス)兄さん(ブロス)達の連携で倒せないヴィランがいるか? という問いをするくらい愚かな問いだろう。粉々に砕け散った装甲の後ろから、更に壁と熱線が迫り、激突すれば大ダメージは免れないだろう。だが、ここで俺の変速の出番だ。鬼化も解除した方があの子達を使いやすいだろう。

 

一速(ロー)……からのおいで、蓮華の炎舌(アグニストラ)!」

 

『父さん、上手く使ってみせてくださいね!!』

 

「!? ────ははっ! 凄いな!」

 

 速度を通常の速度へと戻し、残っている慣性を蓮華の炎舌(アグニストラ)の炎によるワイヤーアクションに利用、障壁と熱線を回避。回避したらすぐさま速度を四速(フォース)へと戻す! 瀬呂君にワイヤーアクション教えてもらっておいて良かったぁ!! 

 

「さぁ、決めろ、ヒーロー!!」

 

「ええ!! 決めてやりますとも!!」

 

 オールマイトによってAFOの懐に入った俺は、スロットに入れてあった武器達だけでなく、胸に手を突っ込んで内包している武器をガンガン取り出しては空にばら撒く。

 

「行くよ、皆!! ────上げろ、媚主絶天!!」

 

『あら、こんな戦いにも私を使ってくれるなんて、嬉しいわ』

 

「反応速度を上げるなら君が一番だからね! っし、焼き溶かせ! 蓮華の炎舌(アグニストラ)!!」

 

 蓮華の炎舌(アグニストラ)の炎を炉心と連動、蒼白い炎の拳がAFOの爆弾を避けるようにして異形となった巨人の右腕を消し飛ばす。その勢いはAFOを置き去りにするような速度だが、反応できるし、次の武器がそこにいる!! 

 

「焼き切れ! 黒剣の亡骸(コープスオブスルト)!! んでもって……カッ飛ぶよ! 跳躍丸!!」

 

『それが親父殿の望むことならば!!』

 

 無機物であれば強度を無視して焼き切ることができる大剣によって邪魔な右腕を切り裂き、整形、足場を作り出した後、跳躍丸の石突きを叩きつけてAFOの真後ろから飛びかかる。言葉を失ったとはいえ、判断力が低下しているわけではないのか、AFOが大量の触手と熱線、空気砲、レーザー砲etc────様々な攻撃手段で俺を妨害しようとしてくるが、残念。その量だったらこいつで捌けちゃうんだよなぁ、これが!! 

 

「雷鳴を轟かせ! 雷刃朝焼(バアル・ドーン)!! (まが)れ! 弧露助!!」

 

 俺の静電気や、AFOが放つレーザーに含まれている電力を吸収、励起されたブレードが触手群を黒焦げにしながら細切れにしていく。触手の後ろに隠されていた鋲は刃が自在に曲がる槍、弧露助によって解体される。名を持たず、一撃で壊れてしまうような武器達も使って、AFOを削り続ける。

 

「縫え! 縫剣(ほうけん)繕縁(つくろうえにし)!!」

 

 剣が、斧が、槍が、大剣が、弓が、鎌が、棍が、最大出力を引き出され砕けたり、休眠状態になったりしながらもAFOの体をどんどん削り、残るは本体と爆弾のみとなったところで、AFOが俺を────俺の中にいるお爺ちゃんを見たような気がした。今相手をしているのは俺なのに、俺を見ないでどうするよ。

 

「終わりだ。決めるよ、無明紅姫(むみょうべにひめ)

 

『ええ……切り捨てましょう。万象一切、万物悉くを切り裂きましょう。死狂い、血狂い、屍山血河を晒し、血化粧で己を染めましょう』

 

 白みだした空の下、無明紅姫が俺に寄り添うように顕現する。眼前にて自爆を早めようとしているのか、体を動かしているAFOが何かしでかす前に、終わらせる。

 

五速(クインティ)……今日一番の攻撃で終幕を飾ってやる。窮極の一太刀、受けて沈め……!!」

 

 一閃。

 神速の一太刀がAFOと爆弾の繋がりを断ち切り、爆弾は自然消滅、AFO本体は俺の後を追うように空から地上へと落下してくる。お前が完全に気絶しない限り、何度でも抵抗してきそうなんで、もう一発行っておけ!! 

 

「お爺ちゃんとお婆ちゃんとお姉ちゃんと────ついでに合宿楽しみにしてた皆の分だ!! AFOッッ!! くたばれぇえええええええええええええええ!!!!!! 

 

 頭から降ってきたAFOの左頬に右拳をぶち込み────今日何度目かは知らないし覚えていないし興味がないが、AFOを地面にめり込ませた。

 

「………………………………っとと……」

 

「多々良少年!?」

 

 変速(トランスミッション)を解除した直後にやって来た倦怠感や筋肉痛などで体がふらつき、倒れそうになったところをオールマイトが支えてくれた。

 

「オールマイト、筋肉痛とか大丈夫ですか?」

 

「HAHAHAHA! 少しキツイが、この程度何ともないさ! それよりも……君が無事で良かった……!!」

 

 いやぁ、ご心配おかけしました、本当にマジでご心配をおかけしました。

 俺を抱きしめて声を震わせるオールマイトに心の中で謝罪を繰り返しながら、俺はそういえば、と百鬼悟酒を取り出す。

 

「負傷者にソーマぶっかけてから病院に運びましょう。絶対その方が社会復帰早いですし」

 

「それ、本当に大丈夫なのかい!?」

 

「大丈夫ですよ。俺が三口飲むと鬼になるだけで、他の人達が飲んでもただの酒なのは相澤先生相手に実証済みです」

 

「体張ってるなぁ、相澤君……!」

 

 オールマイトは苦笑交じりに相澤先生の名前を呟いてから、思い出したように俺の背中を叩き、いつものような笑みを浮かべた。

 

「ヒーローや警察の活躍で事件は終わりに近付いている」

 

「? そうですね?」

 

「そして首謀者のヴィランと交戦し、それを撃破した後、ヒーローはどうするべきかな?」

 

「────────────ああ、なるほど」

 

 長い夜が明けて、朝が顔を出そうとしている中、俺とオールマイトは笑みを浮かべて拳を空に突き上げた。まぁ、それだけだとオールマイトの背丈とかに負けて見えなくなりそうなので、お姉ちゃんの個性である炉心の火を胸から拳へと伝達させて聖火に見立てて燃え上がらせた。

 

「ファンファーレでも鳴ったらまさしくゲームですよね」

 

「HAHAHAHAHA! さぁ、凱旋と行こうかヒーロー!!」

 

「あ、はい。でも動けないので担いでもらってよろしいですか?」

 

「もちろん! 今回のMVPの凱旋だ! 丁重に扱わないとな!」

 

 オールマイトに担いでもらい、俺は百鬼悟酒を口にする。うーん、高揚感。ソーマを作りながらぼんやり空を見上げると、ヘリが飛んでいるのが見えた。あの馬鹿みたいな嵐の中でも撮影してたのか……マスコミ根性とんでもねぇな? 経営科もそうだけど、胆力ヤバイ人しかマスメディアとかヒーロープロデューサーにならないのだろうか? 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────ー

 

 

 

 

 

 セントラル病院で精密検査を受けてから退院した今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 

 俺は相澤先生及びブラドキング先生及び根津校長及びリカバリーガールから大層お説教をいただきました。はははははは、オールマイトも縮こまってやんの。あ、緑谷君達からも大層お説教されました。順当。

 

 そんな大変長いお説教を越えて、VIP待遇で現在住んでいる家の近くまで送ってもらった俺は、個性が発現したせいなのか胸の奥に知覚できる存在に声をかけた。

 

「お爺ちゃん、これで終わりだと思う?」

 

『いいや、終わりではないだろうな』

 

「でっすよねー……」

 

 あれで終わりならオールマイトが記者会見で「次は君だ」なんて言わないだろうし。というかお爺ちゃんが何かの二代目で、オールマイトがその何かの八代目らしいけど……もうその何かが誰かに継承されてたりするのかな? オールマイト、もう限界も近いとか言ってたし。

 

『備えるに越したことはない。五速(クインティ)まで無反動で使えるように鍛えていくぞ』

 

「うす。あとは武器の進化も進めなきゃね」

 

 これについては武器達との対話を何でも繰り返すしか方法が無いからなぁ……先はとても長い。だが、やれることが増えればそれだけたくさんの可能性も見いだせるというもの。変速(トランスミッション)一速(ロー)で常時使うようにしておけば鍛えることができるだろう。あとで物間君とか飯田君を呼んで色々やろう。あと相澤先生。いつもありがとうございます。

 

 お爺ちゃんから授かった力も、お姉ちゃんから授かった命と個性も、何のために使うのか。それを認識したからこそ、分かる。この力を使いこなさなければ、俺はゼロからプラスに進むことができない。頑張ろうなぁ、多々良壱譚。

 

「いやー、久しぶりの我が家よ……」

 

 我が家というか借り家だけど。

 そんなことを考えながら、俺はいつものように家のドアを開けた。

 

「ただいまー!」

 

 そして元気よく帰宅の挨拶。挨拶大事。

 

「おう、帰ってきたか暴走野郎」

 

「加速できるようになったからもっと暴走するね♡」

 

「こいつ一回シバくべきでは……?」

 

 俺が手洗いを済ませてからリビングに向かうと、最初に迎えてくれたのはエプロン姿のゴリラこと心操人使だった。その手にはぐつぐつ煮え滾った鍋の姿が。今日は昼間から鍋パですか。いいですね、鍋。中身は? あ、モツ? 最高かよ。

 

「鬼化、自在になったんだな」

 

「ああ、うん。何かできるようになった。肝機能が進化したかもしれない」

 

 自然と席に着いてもつ鍋を突き始める俺達は、毒にも薬にもならない会話を続ける。これだけで何か日常が帰ってきた感じがするものだ。

 

「響ちゃんは?」

 

「疲れて寝てる。一番心配してたのあいつだったしな」

 

「…………そっか」

 

 響ちゃんが起きたら謝らないとね。

 

「ああ、そういえば壱」

 

「ん?」

 

「ラブレター渡してなかったのな」

 

「んげふ」

 

 モツが気管に入りそうになって咽る。なぜ人ちゃんがそれを知っている……!? 

 

「合宿から帰ったら食べたい物リストに挟まってたぞ」

 

「……あぎゃす」

 

「どうした? ぜったいれいど行っとくか?」

 

「俺をドラゴンタイプだと思っていらっしゃる?」

 

「まぁ、デカヌチャンヒーローのすがただし、タイプは変わってるかなと」

 

 それでも氷タイプに負けるようなタイプ持ちではないと思うんだけどな。……まぁ落ち着け、俺よ。まだ人ちゃんがそれを見つけたというだけで、響ちゃんが見たというわけでは────

 

「あ、壱。帰ってたんだ」

 

「んひょるぼっ!?」

 

 驚きすぎておかしな声が出た。

 

「ぷっ……はははっ、何その声……! ごめん、ちょっとツボった……!」

 

「イヌヌワン。ポワァーオ! ぐちょぐちょぐちょ」

 

「やめて! 笑い死ぬ! 笑って死んじゃうから!」

 

「おんみょ~ん」

 

「人使も乗るな!? ははっ、はははははは!!?」

 

 何だよ、迫真のポケモンの鳴き声を笑うなよ。

 ゲラゲラと笑って涙を流す響ちゃんは、ようやく落ち着いたのか、荒い息遣いのままこちらを見た。

 

「はー……笑った笑った……次やったら川に沈めるからね?」

 

「「あぎゃっす」」

 

「シバくよ?」

 

「いいよ♡ん゛お゛ッ♡♡!?」

 

「さーせん。つか帰ってきて早々フルスロットル過ぎねぇかお前」

 

 帰ってきてこうしないのは噓でしょ。俺の日常を謳歌することは誰にも止めることができないのだ。止められて堪るものかよ。

 

「全く……おかえり、壱」

 

「ん、ただいま!」

 

「早速だけどちょっと来て。話があるから」

 

「せめてお昼ご飯を食べさせてくださ────」

 

「後にしろ。温め直してやるから」

 

 ああ、もつ鍋が……

 もつ鍋のいい匂いに後ろ髪を引かれながらも二階に上り、歯を磨いて来いとのことだったのでしっかり歯を磨いてから響ちゃんの部屋に入室する。楽器とかがたくさん置かれているその部屋は、中々ロックな感じなのに、モノクロカラーのお蔭で落ち着きと安心感を覚えさせる部屋だ。昔三人で作った安眠とリラックス効果のあるお香を焚いているのか、薄っすらとラベンダーの香りが漂っている。

 

「あの、響ちゃん? それで、話というのは……?」

 

「まあ、その前に座りなって。疲れてるでしょ?」

 

 ポンポン、と響ちゃんが座るベッドの横を叩いてそこに座れと指示されたので、響ちゃんの隣に座る。お香の匂いよりも先に響ちゃんから漂う石鹸と甘い匂いが頭をクラクラさせるような気がしなくもないのは、久しく会っていなかったからなのだろうか? うーむ、ヘタレであることは自覚しているけれども、こんなに面倒くさい人間だっただろうか、俺は。

 

「……マジで心配したよ」

 

「ごめん」

 

「逃げ出すかと思ったらあんなヤバそうなのを相手にしてさ……」

 

 もう、本当にそれはもう大変ご心配をおかけしました。何度も何度も頭を下げるしかできない俺はふと、響ちゃんが仄かに頬を赤く染めながら個性であるイヤホンジャックを弄っていることに気付く。

 

「響ちゃん、熱でもあるの?」

 

「はい?」

 

「顔、赤いよ?」

 

「いや、これは大丈夫なやつだから。……いや、やっぱりダメなやつかも……?」

 

「熱計った?」

 

「平熱だよ」

 

 平熱なんだ……じゃあどうして顔が赤いのだろう。そう思った矢先、響ちゃんが口を開いた。

 

「ねぇ、壱。ウチのこと、どう思ってる?」

 

「え? 好きだよ? 大好き。それがどうかしたの?」

 

「それは友達として? それとも……女の子として?」

 

 それを問われた瞬間、俺はどんな顔をしていたのだろうか? ただ、本当に情けない顔をしていたに違いない。唐突な質問に混乱して周囲に目を向けると、響ちゃんの枕の上に少し古ぼけている手紙が置いてあることに気付いた。気付いてしまい、白目を剥きそうになった。あれは間違いなく俺が書いて渡せずにいた響ちゃん宛の手紙……!! 

 

「どっち?」

 

「あー、えーと……………………どっちも……?」

 

「誤魔化すの禁止ね」

 

『壱、ちゃあんと答えてあげてね? 女の子に恥をかかせちゃダメよ?』

 

『……邪魔になるな。俺達は何も見ない。何も聞かない。頑張れよ。恥は、かかせるな』

 

 お姉ちゃああああん!! お爺ちゃあああああん!! どっか行かないでぇえええええ!!? いきなりの展開過ぎて俺の脳が壊れそうなんだよ!! 精神を安定させるために会話をさせてよぉおおおおおおお!!! 

 

「ウチは、壱のこと好きだよ」

 

「────────」

 

「友達としてじゃなくて、一人の男性として、壱のことが好き。壱は?」

 

 何だ? 何を言われた? 何が起こっている? 響ちゃんは今、なんと言った? 俺が……何だって? 好き? 友達としてじゃなくて、俺のことを、ちゃんと男として見てる……? 助けて人えもん。俺の脳が混乱している……!! でも、お姉ちゃんとお爺ちゃんが言っていたように響ちゃんに恥をかかせるわけにはいかない……! 覚悟を決めろ、覚悟を決めて、いつものように言い切れ。

 

「え、あ、いや、その……俺も、好きだけど……」

 

「聞えない」

 

「結構声出したよ!?」

 

「聞えないったら聞えない! もう一回!」

 

 ひぇええ……何か今日の響ちゃんいつも以上にグイグイ来るなあ……うぐぐぐ……こうなったらもういつも通りというかいつも以上に弾けてしまえ!! 

 

「好きだよ! 大好き! 初めて会った時からずっと! ヒーローみたいな響ちゃんも! 楽器を演奏したり歌を歌って楽しそうにしている響ちゃんも! 意外と乙女な思考も持ち合わせてる響ちゃんも全部! 全部大好きだ!! 他の人と一緒になる響ちゃんを見たくない! 大好きなんだ!!! 俺は響ちゃんがいないとダメなんだ!!!」

 

『………………これも血筋か』

 

『ちょっとお爺ちゃん、私達はお邪魔になるから引っ込むって話だったじゃない!』

 

 胸の奥でお姉ちゃんとお爺ちゃんが何かを言っている気がするが、構うものか。

 

「ずっと一緒にいたい!! 死ぬまで! 死んだ後も!! 来世でもずっと一緒にいたい!!」

 

 顔だけじゃなく、全身が熱い。けど、言い切った。思いの丈、多分、全部。勢い余って響ちゃんの肩を掴んで叫んでしまったけど、俺はずっと抱え続けていた想いを全部吐き出した。……いや本当か? 本当に全部言い切ったか?

 

 情けなく自問自答をしそうになった俺は、意識をすぐに切り替えて響ちゃんのことを見て────背筋が凍ったような感覚に陥った。多分、お姉ちゃんとお爺ちゃんもヒュッって変な息吸った気がする。そうなるのも無理はない。無理はないよ人ちゃん……!! だって今、響ちゃんの目はまさしく……空腹の肉食獣の目……! 心の内に潜むサディストを解放した人間の目をしているのだから。

 

「じゃあ、もういいよね? 両想いだもんね?」

 

「え、あの────んぎゅっ♡♡!!?」

 

 響ちゃんのイヤホンジャックが首に巻き付き、強く締め付けられる。それだけではなく、首にプラグが突き刺さり、ドクンッ、ドクンッと響ちゃんの心音が流し込まれ、思考が停止しかけた。停止しかけて────すぐに何も考えられなくなってしまった。ぎゅうううう……っ! と一切離すつもりのない、相手のことを考慮していない、一方的な抱擁によって、彼女から漂う匂いが鼻腔を支配し、頭の中が真っ白に染まった。何も考えられない。何も考えることができない。

 

 身動ぎ一つできないでいると、響ちゃんは拘束に近い抱擁を少し緩めて、俺の体をトン、と押してベッドに押し倒した。熱に浮かされたような表情を浮かべた響ちゃんは、チカチカと頭の奥で星が瞬いている俺を見て何を思ったのか、舌なめずりをしてから俺の顔の横に両手を置き、俺が完全に逃げられない状態を作り出す。

 

「ひぇ……」

 

「何その声。そんなに怯えなくてもいいじゃんか」

 

「いや、だっていきなりこんな……あ゛ぉ゛お゛っ♡♡♡!?」

 

 イヤホンジャックの締め付けが強くなり、思わず喘ぎ声が出た。その声すら今の響ちゃんにとっては興奮を強めるスパイスにしかならないようで、息を荒げながら俺の首筋に顔を埋めて深く息を吸いながら俺が逃げないように先程と同じかそれ以上の強さで俺を抱擁する。もはやそれは抱擁というよりも束縛、拘束の類だが。

 

「あ゛ー……やっば……マジでヤバイわ……ごめん壱、多分加減できない」

 

「ぇ、ぁ……」

 

 そういう知識について疎い俺でも分かる。その宣言は────

 

「ウチが満足するまで絶対離さないから」

 

 俺を完全に壊すと言っているようなもので。

 

「あの……優しくお願いします……」

 

「ごめん、無理」

 

「ぁ……ぁああ……」

 

 

 

 

 

『………………………………………………………………………………これも、血筋か』

 

 俺が壊れる前に聞えたのは、お爺ちゃんの、昔を思い出し、同情するような声だった。




一方その頃心操人使。

「お、マジかよここ最新のPCパーツ売ってるじゃねぇか……!! おっとぉ、海外限定版の規制なしホラーゲーム発見……! 宝しかねぇなこの店……!!」


数時間後…


「いやー、買った買った。……っと、そういや今日は洗剤が特売なんだよなあ……!!逃しちゃいけねぇ!このビッグウェーブ!!」

「ム、心操カ?」

「おお!?エクトプラズム先生!」

「他ノ二人ガ見当タラナイヨウダガ」

「ああ、響香は泣き疲れて寝てますし、壱は帰ってきたばっかりでぐっすりですよ」

「ソウカ。……コノ近クニアルカラオケ屋、ソノ近クニアル八百屋ガイツモ、五時ニ糠漬ケノ詰メ放題ヲ開催シテイルゾ」

「マジすか……!! 行くしかねぇなァ!? あざっすエクトプラズム先生!!」

(壱、頑張れよ。俺も色々買い物頑張るからよ……! 死ぬんじゃねぇぞ!!)
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