雄英高校敷地内、校舎から徒歩五分の築一日。……一日? マジで?
セメントス先生と駆世組の建築によって建てられたという寮『ハイツアライアンス』を前にして、俺達は白目を剥きかけていた。
「さーてどうしようかなぁ……とっても嫌な予感がするんだよなぁ……」
「これ地下だなぁ……地下に何かあるなぁ……」
「正解。地下にデカい空間がある。先生! これってまさか……!!」
「風雲相澤城地底バージョンだ。ヒーロー科の寮にはその担任ごとのダンジョンが用意されている」
「「「全部攻略したら?」」」
「おめでとう、ちょっと高いジュースを奢ってやろう。その後は次の受難だ」
「「「ですよね!!」」」
楽しくなってきたなぁ……どうっすかなぁ……
頭を抱えたくなりながらも、相澤先生のありがたいお言葉を頂戴するために心を落ち着けて整列する。え? 整列しなくていい? そうですか。
「とりあえず一年A組が無事に集まれて何よりだ」
うん、それはもう安心しましたとも。相澤先生も記者会見とかで色々忙しくしていたそうで、もしかしたら担任が変わってしまうかもと思っていたけど、そんなことがなくてよかった。
……ところで相澤先生、髭が綺麗に無くなってますね……家庭訪問で一時帰宅していたお父さんとお母さんに引きずられていったのを見送ったけど、マジで永久脱毛させられたんですね……お労しや相上……
「さて、これから寮について軽く説明するが、その前に一つ」
「おん?」
「当面の間、ヒーロー科一年は仮免取得に向けて動いていく」
「そういやそんな話だったな」
「林間のカオスと自宅待機ですっかり忘れてたぜ」
忘れないであげて。
「多々良壱譚に新たな個性が発現したが────そこは自分で説明できるか?」
「あ、はい。……と言っても、そこまで難しい話じゃないんですよね」
皆の視線が俺に向けられる中、俺は個性を発動し、目に蒼い光を灯す。
「
「本来の」
「個性?」
「うん。今まで使ってた個性は全部お姉ちゃんの個性なんだって」
皆の頭に疑問符が浮かんでいるのが見える。まぁ、いきなりそんなことを言われてもどう反応すればいいのか困るよね。うん、分かる、分かるよ。誰だってそうなる。俺だってそうなる。
うーん、これ言っていいのかな? いいよね? 言ってしまえ。
「俺、元々双子で生まれるはずだったらしいんだけどね?」
「「「うん……?」」」
「俺が虚弱過ぎて生まれてすぐ死にかねないってことで、お姉ちゃんが自分の体をくれたんだって。だから体のベースはお姉ちゃんなんだ」
わぁ、皆が宇宙を背負い始めたぞ。
「お姉ちゃんの体がベースだから、お姉ちゃんの個性が先に出て、俺の個性は今頃花開いたんだ」
正確には変速に耐えられるくらいの体になるまで発現しなかったのと、何のために力を使うのかがブレていたせいもあったみたいだけど……一番の要因は二つの個性に対して体が耐えられる状態じゃなかったことだそう。セントラル病院の先生と主治医の大門治先生の見解がそうなので、きっとそう。
「テレビで見たあのとんでもない動きはもしかして……?」
「うん。この個性のお蔭。俺が触れたものの速度を変化させる個性で加速、減速をしてたんだ。最大で十倍。
おっと、ストップだ爆豪君。俺は一度も舐めプした覚えはないぞ。さっきも言ったはずだぞ、俺の個性はあの時に発現したんだって。
「じゃあ、あの武器をばら撒いて切り刻んだ技もその個性によるものか」
「ああ、なんちゃってファントムソード又はなんちゃって超究武神覇斬ね。正直ああやらないと切り替えが間に合わなくて……」
咄嗟の速度変更は本当に課題になってくる。あの速度変更がスムーズにできるようになったら、間違いなく俺がやりたいことが全部できるようになるはずだ。
「ま、仮免取得までには色々やれるようになるよ。スピード自慢、空中機動自慢の皆には色々教わりたいからよろしくね」
「うむ! いつでも声をかけてくれ!」
「こりゃ負けてられねぇな!」
「ハッ、どんな技を使えるようになろうが叩き潰してやらァ!」
皆の闘志が漲っておられる。特に魔境山でレッドブロウに一撃でやられた人達が。レッドブロウとの戦いはね、ゼロ距離が一番安全なんだぜ……! 勇気の前回避こそが俺達を勝利に導いてくれるんだ。
「オールマイトも記者会見で話していた通り、次はお前達だ。今後の日本のヒーロー社会を担っていく君達にはさらなる飛躍を期待してる。俺達もお前達が正規の活躍をできるように力を入れていく。気張れよ、お前ら」
「「「はい!!」」」
「よし、話は以上だ。寮の中で色々と話をする。元気よく行こう」
「今日から共同生活かぁ……」
「いつもと変わらねえな?」
「ウチら三人はいつもと変わらないね」
「響香、お前は壱との関係性が変わっただろうが。屍みたいな壱を忘れたとは言わせねぇぞ」
「加減が利かなかった」
「変わらないもの、変わったもの、たくさんあるよね♡」
ちなみに響ちゃんのお父さんである響徳おじさんとお母さんである美香おばさんにはもう挨拶しに行った。どちらからも喜ばれたし、「響香をよろしくね」と言われてびっくりしたよね。響徳おじさんが「娘はやらん!」みたいなことをするかと思ってたんだけど。それを伝えたら「壱譚君のことはよく知ってるし、響香から色々ともう聞いてるからな」と笑われてしまった。あと同情もされた。人ちゃんも混ぜて男同士の話をするの、結構楽しい。
「わっ! あとで根掘り葉掘り聞くね!」
「先に祝福だろうがよォ、芦戸ォ……!! 何年来の恋が叶ったんだぞ……!!」
「「「峰田がまともなことを……!!?」」」
「エロに愚直なオイラでも純愛を祝福する考えくらいあらぁ!!」
うんうん、峰田君とはよく話してたけど、そういうことが絡まない限り凄くいい人だよ、峰田君は。
「あ、そういえばお父さん達から引っ越しそば貰ったんだよね。皆で食べてって」
「天ぷらを揚げねば……」
「戦い、だな……!」
「多々良、俺はざるで頼む」
皆天ぷらとざるそばだよ。
そんなことを轟君に言いながら、俺達は新築の寮に入っていった。そして思ったことを一つ。
「「「広い!!」」」
「右が女子棟、左が男子棟だ。ただし、一階は共同スペースだ」
「広キレー! ソファアアアア!!」
「中庭もあるじゃん」
「豪邸やないかい!」
「麗日君!?」
うん、広い。滅茶苦茶広い。そして豪華。掃除が大変そうな寮だ……分担業が必須となってくるだろう。ローテーション表作ろう、ローテーション表!! 炊事洗濯清掃を分業するんだ!! というか麗日さんが倒れたけど大丈夫かな。飯田君が支えたし大丈夫か。
天井は高い、窓は多い、共同スペースが広い。掃除は本当に大変そうな場所だ……五、六人で回せばすぐだろうけど、一人でやるとなればきついだろう。やはりローテーション表の作成が急務だ……
「風呂、洗濯機、食堂は共同スペースだ。無論、男女別にしてある」
「長湯しても問題ない……! 最高か?」
「壱は長湯するもんな」
「三時間は入っていたい」
その分掃除はしっかりしますとも、ええ。ベースとなったお姉ちゃん自身がお風呂好きなのかもしれない。そこんとこどうなんですか、お姉ちゃん。
『お風呂は大好きよ! 水分とか体力が続く限りずっと入っていたいくらい!』
やっぱりそうなんだ。
「それと、食堂にある食材などについては適宜買い出しに行ってもらう。月に出される予算以内に買い物を行い、正しい金銭感覚を身に付けてもらうのが目的だ」
皆で寮のことで騒いでいると、相澤先生からそんなお達しが。なるほど、金銭感覚を身に付けるというのは大事なことだ。
俺達がヒーロー免許を取った後は、既にいるプロヒーローの事務所に入ってサイドキックになるか、自分で事務所を開くか。それか、プロヒーローのところで色々学びつつ貯蓄などを増やして、独立、個人のヒーロー事務所を開くという感じになってくる。その時必要になってくるのは金銭感覚や金銭管理。独立したはいいが、経営が火の車……なんてヒーローは少なくないと聞く。経営科の人達から聞いた話だけど。もちろんそういうのを得意とする経営科の人達を雇うって選択肢もあるけれど、俺達自身の金銭感覚を培うのは本当に大事なことである。
「そこら辺については────三馬鹿と麗日が得意だろ。四人が主導でやらせてみろ」
「よーし、頑張っちゃうぞ」
「うち、結構節約しちゃうんだけど大丈夫かな……」
「節約術は応用利くし教えてくれ」
よっしゃ、楽しくなってきちゃったぞ。
「とりあえず全員荷解きして、部屋作りを済ませとけ。解散!!」
「「「部屋作り開始ィイイイイイイイイ!!!」」」
愉快な寮生活の始まりだ!!
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部屋作りを開始してから一時間とちょっと。変速と百鬼悟酒の同時使用によって結構早く部屋作りが終わった。
持ち運びが簡単な組み立て式の棚に色々と本を入れて、クローゼットに私服を入れて、武器の手入れに使う道具達を専用の箱に入れたらほぼ完成。あとはゲーム用のモニターとゲーム機を配置したら俺の自室の完成だ。
「……よし、昼寝しよ」
変速を使いながら昼寝をするという暴挙を犯すぞ俺は。変速自体、世界の理を歪めるらしいので、恐らく概念系個性。つまり脳疲労の回復速度を二倍とかにもできるのでは? というわけでレッツ昼寝タイム。枕は低反発枕です。しかし、物足りない。物足りないので……
「購入しました抱き枕……!」
柔らかい材質の抱き枕は、入眠までの時間を超短縮するとのことで、どんなもんかと気になってます俺。セミダブルサイズのベッド、とても広くて寝やすいです。ゲームの休憩でゴロゴロする時にとっても有用。床でゴロゴロするととても体が痛いのです。
そんなことを思いつつ、抱き枕をベッドに配置、布団乾燥機を使ったお蔭でとてもフカフカなベッドにダイブし────そのまま抱き枕に抱き着く。……いい……!! これはとてもいいぞ……! 俺は結構横を向いて寝る人間だから、こういった抱き枕の類は凄くいい……! 何でもっと早く買わなかったのだろうと思うくらいにはとてもいいぞ……!! ここに薄手の毛布を被ればあら最高。
「これは本当にいいものだ……!」
『壱譚、お前は教訓を得る必要がある』
「お爺ちゃん? どしたのミシガン総長みたいなこと言って」
お爺ちゃんが突然レッドガンの歩く地獄みたいなことを言い出したので、抱き枕を抱えながら起き上がる。本当にどうしたの、お爺ちゃん。凄く険しい顔してるけど。
『女は時折、道具にすら嫉妬の炎を燃やす』
「嘘だぁ」
『事実だ。経験談だからな』
あれ、何だか遠い目をしてる……
え? 本当のことなの? マジで? 本気で言ってる? ……いや、でも響ちゃんがお爺ちゃんの奥さんであるお婆ちゃんと同じとは限らない────
「壱、夕飯のことなんだけど────は? 」
「あ、響ちゃん」
『…………遅かったか』
何が?
「見て見て、これ買ったんだ。結構良さげだよ。人ちゃんと一緒に買ったんだけど、響ちゃんにもオススメしたい一品」
「へー、そっか、そういうことするんだ……」
「響ちゃん? 顔怖いよ?」
ずんずんと部屋に踏み込んできた響ちゃんが、むんず、と抱き枕を俺から引き剥がしてしまう。そしてベッドから落とされる。
「俺の抱き枕が!?」
「壱、知ってる?」
「何?」
「ハイツアライアンス、防音加工とんでもないんだよね」
「……? そうなんだ?」
「うん。でさ、夕飯まで結構時間あるんだよね」
うん、そうだね? 今が一時半だから、夕飯の時間まであと四時間以上はあるね。それがどうかしたのか。そう問いかける前に、俺は響ちゃんに押し倒された。……………………前にもやったなこれ。
『壱譚、危機感の欠如だ。教訓を得ろ』
「まぁ、寮生活始まっていきなりヤるのもあれだし、壱にはこれから夕飯の時間まで抱き枕になってもらうから」
「えっ」
「まぁ、我慢できなくなったら抱き潰すかもだけど、別にいいよね?」
助けて人ちゃん、峰田君、障子君。俺響ちゃんに滅茶苦茶にされちゃう。
なお、この後普通に昼寝した。両親から自制しろと言われたので。