〜この馬は強い。やはり、GⅠにフロックはない〜
前回に続き"絶対に無い話"が一部ありますが、上記の2つの言葉がその話の元ネタもとい"妄想の種"です。
この言葉が『誰』の『いつ』の言葉かがわかる方は立派なサニーブライアン好きだと思います(笑)
52.勝者の品格
サニーとマヤノトップガンの模擬レースから遡ること30分前。1人の中年男性と1人の老紳士がトレセン学園内を歩いていた。
「先生ー!待ってください!」
中年男性は先を行く老紳士を慌てて追いかける。
「編集長。急いでください。貴重な時間がもったいないですよー」
老紳士が編集長と呼ぶ中年男性を急かす。
「それはそうなんですが、事務局に行き先を伝えておかないと学園の方々に迷惑ですから…」
困り顔で応える編集長。どうやら老紳士は学園事務局に行き先を伝えないまま学園内を歩いているようだ。
「それはもちろん、練習場に決まっているではないですかー。それだけわかればよろしいのでは?」
そう答える老紳士の顔は『何を言ってるんですか?あなたは?』という顔をしている。
「いや、学園内にはいくつも練習コースがありますから…。とりあえず、誰を見に行かれますか?今日のこの時間で練習予定があるGⅠウマ娘は…サニーブライアンでしょうか?」
編集長は老紳士の自由さに少々呆れながら、バインダーに挟まれたリストを読み上げる。
「サニーブライアンさん…。あー、今年の皐月賞ウマ娘さんですかー。確かにG1ウマ娘さんですが、私はあの子には興味がありません。なので、後回しです」
老紳士は厳しい口調でサニーを酷評する。
「そうですか…。ちなみになぜサニーブライアンに興味がないのですか?」
編集長は老紳士のサニーブライアン評の理由を聞く。
「私は選手個人というよりは、あの陣営のレースに対するスタンスが好きではないのです。だから、興味も持てないのです。彼女の担当トレーナーは以前に『調整がてらレースに出た』と言ったことがありましたね。それに先日も理由はどうあれ、急な取り消しを行ったりとレースに対しての敬意が感じられない。それが興味を持てない一番の理由ですね」
「確かに、担当トレーナーへの批判は多いですね。それに勝ったレース自体の評価も高くない。まぐれで勝てたようなものですからね」
編集長も老紳士の意見に同調する。
「私はG1勝ちにまぐれはないと思っていますから選手の実力自体は認めていますよー。しかし、勝者には"品格"も必要です。伝統あるクラシックレースの覇者がレースそのものを軽んじることを私は許したくありませんねー」
老紳士はサニーの実力を認めつつ厳しい評価を変えない。
「ねぇねぇ!マヤノちゃんが模擬レースをするんだって!見に行かない?」
「えっ?ホントに?私も行く!」
「対戦相手誰だろうね?」
「わかんない。でもマヤノちゃんがやるってことは強い子なんじゃない?」
何人かの生徒が会話をしながら練習コースに急いで向かって行く。
「マヤノ…?あっ、マヤノトップガンのことでしょうか?彼女は先日、田川トレーナーから長期休暇宣言が出ていました。つまり突発の模擬レースでしょうか?これは面白そうですね。見に行かれますか?」
「ほー、マヤノトップガンさんですか。『変幻自在の撃墜王』。あれは言い得て妙な二つ名ですね。彼女のレースはエンターテイメント性に優れていて、いつもワクワクさせられます。ぜひ見に行きましょー」
そう言って2人は生徒の向かった方へと歩いて行った。
「いやー、とても面白いレースでした。いいところで終わってしまったのは残念ですが、両者ともに見どころのあるレースでした。これが模擬レースで見られるとはなんとも贅沢なものですねー。今日はこれだけでも足を運んだ甲斐がありましたよー」
模擬レースを見た老紳士は非常に満足している。
「確かに見応えのあるレースでしたが、マヤノトップガンは大丈夫でしょうか?途中でやめていましたが、どこか故障したのでしょうか?」
編集長はマヤノトップガンの急なレース中止を心配しているようだ。
「おそらく大丈夫でしょー。先程、田川君のところで元気にはしゃいでいましたからー」
「ならいいですが。しかし、相手の子もなかなかでしたね。あのマヤノトップガンに3角で強気に競りかけていくとは。あの子は誰でしょうか?」
そう言って編集長は先程のリストを見返しマヤノトップガンの対戦相手を探す。
「えーと。申請上ではこのコースを使っていたのは田川トレーナーのチームと宮下トレーナーのチームですね。そうするとあの対戦相手はサニーブライアンということになりますね。先生、あの子はおそらく…。あれ?先生?」
編集長がリストを眺めている間に老紳士は姿を消していた。
53.たとえ期待されなくとも
「サニー。僕は事務局にコースの利用許可書を出してくる。少しここで待っていてくれ」
「わかりました。そこのベンチで待ってますね」
そう言って宮下は事務局へ向かって行った。
「ふー、楽しかったな。やっぱり年度代表ウマ娘は凄いな。でも、あのままレースを続けてたら私、勝てたかな…」
宮下と別れたサニーは近くのベンチに座りながら模擬レースを思い返す。
「失礼、お嬢さん。お嬢さんは先程ここで模擬レースをしていた方かな?」
「えっ?あっ、はい。そうですが、何か?と、いうかどちら様ですか?」
突然声をかけられたサニーが不審そうな目で老紳士を見つめる。
「これは失礼。私はウマ娘好きの老人です。先程、あなたたちの模擬レースを見ていたものですから、その当事者に話を聞きたくなりました。少しお時間よろしいですかな?」
「えっ?あっ、どうぞ。[あれ?イベントもないのに一般の人って学園に入れたっけ?もしかして不法侵入?]」
サニーはなし崩しに老紳士を横に座らせるが、少し警戒している様子だ。
「先程の模擬レースはとても見応えがありました。あれ程のレースをこんな場所で見れるなんてとても贅沢ですねー。素晴らしいものを見せてもらいました。ありがとう」
「えっ?あっ、どういたしまして…」
老紳士の独特の会話ペースと突然のお褒めの言葉に戸惑うサニー。
「しかし、あなたはかなりお強いお嬢さんだ。今までの実績はいかがかな?」
老紳士がサニーに今までの実績を問う。
「…。一応、今年の皐月賞を勝ちました。でも、それしか実績がありません…。なんか、ごめんなさい…」
サニーは老紳士が自分を今年の皐月賞ウマ娘とわからずに話しかけていたと知ると内心傷ついた。
「今年の皐月賞ウマ娘さん…ですか…。一つ質問をしてもよろしいかな?今から言う質問は答えづらい質問だとは思いますが、出来れば、本心で答えていただきたい。このことは他言しないので」
「えっ?あっ、はい。答えられることなら…」
老紳士は先程までの穏やかな雰囲気から威厳のある雰囲気に変わる。
「今までの経緯を見るに、あなたとあなたのトレーナーからはレースに対しての敬意が感じられないように思えます。あなた方はこの歴史あるトゥインクルシリーズをどうお思いか?」
老紳士の鋭い質問がサニーへと飛ぶ。
「…。ごめんなさい…。レースに対しての無礼は私が原因です…。私が不甲斐ないからトレーナーにあの様な発言をさせてしまったんです。あの発言は私を庇っての発言です。私のトレーナーは本当はトゥインクルシリーズそのものへの敬意や熱意は人一倍ある人です。だから、あの人のことを悪く思わないでください…」
サニーは少し悲しげな表情をしながら老紳士に本心を訴えた。
「なるほど…。では、あなたの言葉を信じた上でもう一つ質問です。あなたとあなたのトレーナーを取り巻く周囲の目というものは非常に厳しい。そして、あなた方への評価は不当な程に低い。このような逆境に耐えられず、心を壊し、自信をなくし、勝利を諦めてしまった者も過去にはたくさんいました。そんな過酷な状況でもあなた方は勝利をあきらめませんか?」
サニーの表情に何かを感じ取った老紳士の口調が優しいものに戻り、再度質問する。
「もちろんです!私とトレーナーは夢を叶えるために戦っています。周りの評価がなんですか?人気がなんですか?そんなもので勝利を諦めるなんてありえない!一番人気はいらないから一着だけ欲しい!それくらいの気持ちで私たちは戦っていますよ!」
自分たちの熱意が本物であることをサニーは力強く宣言する。
「…フフフ。やはり、あなたはお強いお嬢さんだ。あなた方の信念と夢、実るといいですね。次のダービーで全国の皆さんの評価を覆してくれることを期待していますよ」
老紳士は満面の笑みでサニーに激励の言葉を送る。
「先生ー!ここにいらしたんですか?勝手にどこかへ行かないでください…。あれ?この子はサニーブライアン?」
「さあ、帰りましょう。お嬢さん。素敵なレースとお話をありがとう。私は貴女を応援したくなりました。これからも頑張ってくださいね。では」
「えっ?もう帰るんですか?えっ?ちょっ、先生ー」
老紳士はサニーにお礼を言い、スタスタと編集長をおいて去って行く。
「おーい!サニー!一体誰と話していたんだい?」
それと入れ違いで用事を終えた宮下が帰ってきた。
「いや、よくわかりません…。でも、あの人どこかで見たような…」
「え?誰かもわからずに喋っていたのかい?学園内とはいえ、不審者には気を付けてよ」
「先生!大原先生!もう取材はよろしいんですか?春シーズンの特集記事の取材は?」
編集長が帰ろうとする大原を呼び止める。
「ええ。今日はもう十分です。素晴らしいレースを見て、素晴らしいお話も聞けましたー。私は満足です」
大原はとてもニコニコしていて、表情に充実感が溢れている。
「そうですか…。ちなみにサニーブライアンとはどんなお話を?」
編集長が大原とサニーとの会話内容を聞く。
「それは秘密ですねー。あの子との約束ですから。しかし、直接話をしてわかりましたが、あの子はGⅠウマ娘さんに相応しい『品格』のある子でしたねー。ウマ娘さんたちの見極めにはそこそこの自信がありましたが、『巷の噂』に踊らされてしまった私はウマ娘評論家として、まだまだ未熟者でした。帰ったらダービー予想の印を打ち直すことで、彼女への謝罪といたしましょうー」
「えっ?急にどうしたんですか?サニーブライアンと何かあったんですか?私はあの子から大物感は感じませんでしたが…」
大原の評価に対して編集長は共感できないようだ。
「編集長はまだまだですねー。だから編集長止まりなんですよー」
「え?どういうことでしょうか…?」
大原は編集長を嗜めながら学園を後にした。
54.確信と揺さぶり
ダービー4日前
枠順抽選会会場
「あー、ダービー出場選手の担当トレーナーがこんなところにいるのは如何なものですかね?」
「おー、館野君も来ていたのか。いや、前回の皐月賞の抽選会で気づいたんだが、最初から僕があそこにいる必要はないと思ったんだ。黙っていれば隅にいても気付かれないかなと思ってね」
抽選会会場の壁際で宮下と館野が会話をしている。
「いやいや、本当はダメですからね。しかし、あっという間にダービーですね。サニーちゃんあれからどうなんですか?」
館野が軽いツッコミを入れながら宮下にサニーの調子を聞く。
「とてもいいよ。ダービー、勝てるね」
宮下が少し笑いながらダービーへの意気込みを語る。
「おっ、宮さんが言い切るとは珍しい。かなり調子いいんですね!これは期待だ!ところでさっきシンジとユタカと会いましたが、あいつらとは話しましたか?」
「ああ、少しね。開口一番シンジから『俺は騙されませんからね』と言われたよ。アイツもだいぶトレーナー職が板についてきたな。ただのヤンチャ小僧じゃなく、しっかりとトレーナーをしている。まあ、今回に限ってそれが厄介だが」
宮下は後輩の成長を喜びつつ、馴染みのある間柄が敵としていることに困っているようだ。
「まあ、シンジも去年ダービートレーナーになりましたからね。怖いもの知らずというやつですよ。さて、もうすぐサニーさんの抽選ですね。希望はやっぱり18番枠ですよね?」
「ああ、もちろん。ただ、サニーにはもう伝えているよ。『あの箱の中には18番しかないから自信を持って引きなさい』とね」
「またまた、宮さん、今日はやたらと強気に言い切りますね。サニーちゃん絶好調なんですね!」
普段の雰囲気と違う宮下に館野がさらにチャチャを入れる。
「強気かどうかはわからないが、18番を引く気しかしないんだ。だから、あの箱の中には18番しかないのと同じなのさ。そして、18番を引いた時点で僕らの勝ちが確定する。ただ、それだけだよ」
館野のチャチャに対して宮下は淡々と語る。
「一体どうしたんですか?あっ、わかりましたよ!昨日の麻雀で『緑一色四暗刻』で上がって、この流れならってやつですか?気持ちはわかりますが、だからって抽選の引きまで強いとは限りま…」
サニーブライアンさん!
皐月賞に続き、18番枠に決まりました!
「えっ?嘘でしょ…?えっ?なんで…」
「だから言ったじゃないか、あの箱には18番しかないって。さて、これで僕らの勝ちは確定だな。あとはアクシデントなく当日を迎えるだけだ」
まさかの予言通りの抽選結果に館野が驚愕する。
それに対し、宮下は冷静な態度を崩さない。
「いやいや、驚きました…。正に神が味方していますよ…。宮さん、ダービートレーナーになってきてください。ダービー当日は僕も現地で応援しますから頑張ってくださいね」
館野が姿勢を正し、宮下を改めて激励する。
「ありがとう。さて、サニーのスピーチだけは前で聞こうかな。僕はもう行くよ。館野君、本当にありがとう。君のサポートがなければ僕の夢は叶わなかった。本当に感謝している。じゃあ、またね」
そう言って宮下は会場中央へと歩いて行った。
[宮さんは18番枠を引いたか…。会場のほとんどがわかっていないが、これも宮さんの思い通りだろうな…。嫌な展開だ…]
サニーが18番枠に決まったアナウンスを聞いたシンジに緊張が走る。
「シンジ。隣の席いいかな?」
「あっ、はい…」
後ろから宮下に声をかけられシンジが少しビクつく。
「宮さん。狙い通りの18番枠スか?なかなか引がいいッスね」
「ああ。まあ、18番枠が取れる気がしていたからそれほど驚きはしないが、嬉しいことには違いないかな」
シンジの問いに宮下はいつになく淡々と答える。
「そうッスか…。ところで宮さん的にはマークしてる子とかいるんスか?」
シンジは立て続けに宮下に質問をする。
実はシンジはこの時点でかなり動揺していた。
理由は会場での宮下に対しての発言にあった。
もともとこの発言は宮下に対して『自分は情報戦を見抜いた上で真っ向勝負で行きます!』という感じの意気込み程度のものでしかなかったが、抽選結果が宮下の理想通りになったことで、その意気込みが逆に"失言"になってしまったように感じたからだ。
なので、シンジは宮下の狙いを少しでも引き出そうと躍起になっていた。
「そうだな。上位人気組はみな注意しているよ。どの子も素晴らしい才能を持っているからね」
「なるほど…。ちなみにサイレンススズカとかどうなんスか?同じ逃げウマ娘ですけど、気になりますか?」
「悪いなシンジ。次はサニーのスピーチだ。質問は後にしてくれないか?」
「あっ、ハイ…。すんません…」
簡単にあしらわれてしまい、シンジの策略は失敗に終わる。
では、皐月賞ウマ娘のサニーブライアンさんに伺います!ズバリ!気になるライバル選手は?
「シルクジャスティスさんです。他に気になる選手はいません」
おー
[マジか…。既にロックオンされてる…。これは昨日今日の話じゃない…。ずっと前から宮さんは俺らをマークしてるのか…。ヤバい…宮さんはもう仕込みを終えてる…]
サニーの回答を聞き、シンジの動揺は最高潮に達する。
「シンジ。さっきの質問だが、回答が変わった。僕はあれこれと考えすぎる性分だからいろいろと目移りしてしまう悪い癖がある。だが、僕の担当はお前の担当だけをライバル視しているらしい。今回は彼女の直感に従ってお前の担当を第一に警戒して作戦を組むよ」
シンジの肩を軽く叩きながら宮下はシンジの質問に回答する。シンジにはその目が恐ろしく冷淡で深く突き刺さるように感じ、恐怖する。
「そ、そうですか…。自分も頑張ります…」
「ああ。いいレースをしよう。じゃあ、また当日会場で」
そう言って宮下は会場を後にした。
「シンジさん!サニーブライアンさんからライバル宣言されてましたね!って、どうしました?顔色悪いですよ?」
しばらくして、ユタカがやってきた。もちろん宮下とのやりとりは知らず、声をかけている。
「お、おう。会場のエアコンにでも当てられたかな…」
シンジは悟られないように適当な誤魔化しをする。
「気をつけてくださいよ。ダービーが近いんですから。ところで宮下さんはいないんですか?さっきいましたよね?」
「あっ、ああ。宮さんはもう行ったよ…。なあ、ユタカ。俺らは順調にキャリアを積んでる。それはいいことだ。ただ、トレーナーの極みってやつにはいつになったら辿り着けるんだろうな…」
シンジは唐突にユタカに問いかける。
「トレーナーの極みですか…?うーん、そもそも極みってなんですかね?歴代最強の選手を担当するとかGⅠを総なめにするとかですか?」
いまいちピンときていないユタカがなんとなくで回答する。
「まあ、それもあるかもな…。ただ、俺は思うんだ。レースの行末を完全に操作して、レース前から100%勝てる状況を作り出せるとしたら、それはある意味トレーナーとしての極みじゃないかってな…」
「それはそうですけど、そんな神様みたいなことは出来ませんよ。まあ、もしできたとしたら奈瀬さんぐらいじゃないですかね?少なくとも自分には無理ですね」
「まあ、そうだよな…。とりあえず、ユタカ…。初ダービー頑張れよ…」
「えっ?あっ、はい。ありがとうございます。頑張ります…」
励ましにお礼を言うユタカだが、シンジがなぜ引き攣った顔をしているかは最後までわからなかった。
55.いつまでも一緒に
それはダービー前日の夕方だった。
突然携帯が鳴る。相手はサニーだった。
『大変なことが起きたから、助けて欲しい』と、とても必死な声で助けを求めるサニー。
宮下は驚き、急いで支度をして学園へと向かう。
サニーに何かあったのかと焦る宮下。
車を美浦寮に一番近い門の前に留め置き、急いで寮の管理室へ行こうとすると、サニーが門の影から顔を出して爆笑している。
『やーい!引っかかったー』と騒ぎ立てるサニーは何事もなかったかのように笑っている。
呆気に取られる宮下に対してサニーは『ダービーの前日に豪華な夕食を食べたかったんですけど、お金がないので助けて欲しかったんです。と、言うわけでご飯に行きましょう』と悪びれもなく宮下をご飯に誘った。
とりあえず、何もないならよかったと胸を撫で下ろす宮下はサニーを車に乗せて"いつもの"レストランに行った。
レストランへ行く道中も食事中もサニーはいつになくよく喋っていた。
食事が終わるとサニーは『せっかくですから夜景も見に行きましょ』とドライブを提案する。
宮下はサニーに誘われるがまま、近くの夜景が見える高台の公園へと向かい、公園の展望台で夜景を眺めた。
「いやー、さっきのトレーナーさんの顔は面白かったなー。鳩が豆鉄砲を食ったよう顔っていうのはああいうのを言うんですね」
サニーが思い出し笑いをしながら宮下をからかう。
「いや、僕からしたらあんな電話があったら焦るに決まっている。それで来てみたらサニーが笑っているんだから、ああなるだろ。イタズラが過ぎるよ」
宮下は騙されたこととからかわれていることを少し恥ずかしがりながらサニーに怒る。
「はーあ、楽しかった!さて、明日はダービーですね!」
そんな宮下の話をサニーは一切気にせず、笑顔で話題を変える。ただ、その声色はさっきとは少しだけ違う感じがした。
「明日はダービー。ついにトレーナーさんの夢、私の夢、お姉ちゃんの夢が叶うんですね!」
「…ああ」
「明日勝ったら私はダービーウマ娘かぁ〜。いやー正にスターじゃないですか!」
「ああ」
「ダービーに勝った後はもちろん三冠ウマ娘を目指しましょうね!あっ、私、お姉ちゃんと同じローテーションで年内は走りたいです!」
「ああ。いいよ」
「三冠ウマ娘になったらいよいよ年度代表ウマ娘も射程圏内ですね!あっ、でも有馬記念ではマヤノちゃんに勝たないといけないなぁ〜。私勝てるかなぁ〜」
「大丈夫。勝てるよ」
「それで、来年はAJCCあたりから始動しましょう。春は天皇賞と宝塚記念を目標にして、夏は…暑いから全休で」
「いいと思うよ」
「秋はオールカマーあたりを初戦にして、天皇賞秋は距離が短いからパスして、JCと有馬記念を目指します!いやー、出るレースほとんどG1とか、正にスターって感じですね!」
「ああ。そのローテーションで走ろう」
賑やかに今後のことを話すサニーはとても楽しそうで、宮下はそれを見守りながら、相槌を打っていく。
「ねぇ、トレーナーさん…。私、いつまで走れるかな…」
「えっ?」
サニーはくるりと宮下に背を向けると、先程までの賑やかさから一変して、とても冷静な口調で宮下に質問を投げかける。
「私は明日、ダービーに勝ちます。そして、みんなの夢を叶えます。ねぇ…トレーナーさん…。トレーナーさんは夢が叶った後も私と一緒に走ってくれますか…?」
サニーは更に宮下に問いかける。ただ、その声色はどことなく悲壮感が漂っていた。
「もちろん。さっき言ったじゃないか。サニーが決めたローテーションで秋シーズンも走るし、来年も走る。ずっと一緒に走るよ。約束だ」
宮下はサニーの突然の変化に不安を覚えたが、悟られないように冷静に受け答えをする。
「フフッ…"ずっと"…か…。よかった…。約束ですよ…」
「ん?今何か言ったかい?」
サニーは小さく呟く。ただ、宮下にはその言葉は聞こえなかったようで、宮下は聞き返す。
「いえ何も…。よーし、明日のためにもう寝ましょ!学園まで送ってください!」
サニーは再び宮下に体を向け、元気よくお開き宣言をする。その顔には悲壮感はまったくなく、先程までの賑やかなサニーに戻っていた。
それぞれの想いが重なる運命の日本ダービーがまもなく始まろうとしていた。
実際は時系列的にバラバラな『確信の18番』『緑一色四暗刻』『一騎討ち宣言』のエピソードを全てまとめて、主人公陣営の『勝利の確信』の場面としました。自分で言うのも難なんですが、抽選会の話は気に入っています。
さて、主人公陣営が既に勝利の確信を持つ中で、第64回日本ダービーはどのようになっていくのか?みなさん楽しみにしていてください。