それこそが事実   作:スタイニー

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https://number.bunshun.jp/articles/-/853337

https://retsuden.com/horse_information/2021/29/153/

上記のリンクがこのエピソードの元ネタです。

一世一代、一度きりにして最後の大勝負に臨むサニーブライアンとトレーナー。
史実も同じですが、そのプレッシャーは私たち傍観者にはわかり得ないことでしょう。

厚かましい話かもしれませんが、それでも、私はその緊張感も含めて少しでも読み手の方々にその時の"リアル"が伝わるような話を描けたらと思っています。



56.王者の風格 57.いいオンナ 58.それぞれの想い

56.王者の風格

 

 

 

 

ダービー当日。

 

宮下は昼過ぎに自宅を出た。

自宅を出る時に珍しく妻と子供が家の外まで見送りにきた。妻は『頑張ってね』といつもと同じ言葉を宮下にかけたが、その顔は普段と違い、とても楽しそうだった。

 

東京レース場に着いて受付をし、サニーを待つ。

待ち合わせの時間は13時30分だ。

 

しばらくしてサニーが来る。

その表情はとてもリラックスしていて、大舞台を前にした緊張は微塵もない。

 

レース2時間前。

いつも通り、レースの打ち合わせをする。

 

レース1時間半前。

いつも通りのウォーミングアップをしながらレースに向けてのモチベーションを高める。

 

レース45分前。

レース30分前からパドックに入るためウォーミングアップをやめてサニーが勝負服に着替える時間だ。

 

更衣室へ行くサニーを見送った宮下は近くにあるベンチに座る。すると突如として凄まじい虚脱感に襲われる。

 

[どうした…。全ていつも通りのはずだ。皐月賞の時だってなんともなかった…。どうして…。あっ…]

 

いつも通りの行動にいつも通りの会話。全てをいつも通りにこなしていたはずだが、今日は違った。宮下はその感覚に戸惑っていたが、ふと足元を見て気付く。

 

[足が震えている…。僕は怖いのか…]

 

足だけではない。全身が震えていた。

それを自覚した瞬間に今まで押さえ込んでいた不安が一気にのしかかってきた。

 

宮下とサニーは盤外戦のための演技を1ヶ月半続けた。その情報操作は徹底したもので、ある意味狂気じみたものがあったかもしれない。

 

宮下は自身の交友の狭さと知名度の低さを逆手に取って、『宮下は皐月賞の思わぬ勝利に浮かれている』という印象を徹底して周囲に植え付けた。

 

加えて、若葉ステークスの時に捏造された自身の"虚像"を世間や近しくない間柄の人々に"実像"として映るような接し方を徹底した。

 

本来の自分からかけ離れた人物像を演じ続けることに抵抗はあったが、夢を実現するためにと、強い精神力で過酷な1ヶ月半を乗り切った。

 

しかし、ダービーの発走を目前にして宮下の精神力は限界を迎えた。

 

どんな代償を払おうとも夢のためなら頑張れた。

しかし、実際はどんな代償を払おうともどんなに頑張ろうとも夢が”100%”手に入る確証は存在しない。しかも、このチャンスを逃せば一生夢は叶わない。

 

ぼかすことのできないその事実が最後の最後に宮下に重圧となってのしかかってきたのだ。

 

「トレーナーさん?どうしたんですか?」

 

猛烈に襲いかかる不安に飲み込まれそうになった瞬間、いつも耳にする優しい声が聞こえた。

 

「あっ、ああ…。サニーか…。準備が終わったんだね…。あっ…」

 

いつもの声をかけられて見上げた先には見知らぬ女性がいた。その瞬間に宮下は思った『一流と呼ばれる人は得てしてこういったオーラがあるのか』と。

 

「『あっ』ってなんですか?『あっ』って」

 

そんな宮下をよそに、サニーが宮下の気の抜けた言葉に少しイラッとする。

 

「あっ、いや、すまない。見たことのない女性が立っているかと思って、驚いてしまったんだ」

 

宮下はとても力の抜けた声で理由を説明する。

 

「なんなんですか?こんな大事な時に私をバカにしてます?本当に失礼ですね。私は私ですよ」

 

そう言ってサニーはますます怒るが、視界に何かを認めた瞬間、サニーは身を屈め、宮下の手をそっと取った。

 

「不安だったんですね…。手、震えてますよ。大丈夫です。私はここにいますよ…」

 

優しい言葉とサニーの手の温もりが宮下に伝わった瞬間に体の震えが止まった。

 

「私も不安がないわけじゃないけど、トレーナーさんが頼もしいから心を強くを持てました。でも、トレーナーさんは違いますよね…。私はいつも助けられてばかりで頼りないから…」

 

サニーは申し訳なさそうにしながら話す。

 

「そんなことないさ…。僕も君にいつも助けられているよ…」

 

そんなサニーの表情を見た宮下が優しい言葉をかける。ただ、その表情は先程までとは違い、いつも通りの頼もしい顔つきになっていた。

 

「まったく、本当に優しい人ですね…。さっ、トレーナーさん!立って!」

 

そう言ってサニーは宮下をベンチから立たせる。

 

「今日は私が頼られる番。でも、その前にもう一度、私にあなたの夢を教えて。今日の私はどんな夢だって叶えられる最強のウマ娘。あなたの夢を必ず叶えます…」

 

サニーはゆっくりと目を閉じ、宮下の胸に額を当てて呟いた。

 

「わかった…。僕の夢はダービートレーナーになることだ。サニー、僕の夢を叶えてくれないか?」

 

宮下も目を閉じ、願いを伝える。

 

「はい…。あなたの夢を必ず叶えます。待っていてね…」

 

 

 

東京レース場 第9レース出場者はパドックへお集まりください

 

 

 

「よし!行ってきます!」

 

サニーは宮下の胸から額を離し、優しい笑顔で宮下の言葉に応え、花道へと向かう。

 

「ああ、行ってらっしゃい」

 

宮下も優しい笑顔でサニーを見送った。

 

その後ろ姿は正に王者の風格が漂っていて、とても逞しく、美しかった。

 

 

 

 

 

 

57.いいオンナ

 

 

 

「お姉さん。隣いいかな?」

 

「あっ、はいどうぞ!って、中崎先生!」

 

観客席に座っていたスワローが中崎を見て驚く。

 

「スワロー、観に来てたんだな」

 

「ええ、サニーに観に来てくれって頼まれましたから…」

 

「ここに来るのは10年ぶりか?思い出すか?あの時を」

 

「ええ。思い出しますよ。あの日のことのほとんどを。なんて言ったって自分の夢が叶った日なんですから」

 

「まあ、それもそうか…。さて、今日はアイツの夢が叶う瞬間を拝めるのか?どう思う?」

 

「何言ってるんですか?叶いますよ。あの子が言ったんです『今日トレーナーさんの夢が叶うから観にきてね!』って、だから、叶うんですよ…」

 

「ああ、そうだな…」

 

 

 

 

ダービーの本バ場入場がまもなく始まる。

 

 

 

 

さて、解説の大原さん!

素晴らしい天気に恵まれました!

第64回日本ダービー!

大原さんの本命はどのウマ娘でしょうか?

 

 

私の本命はシルクジャスティスさんですねー。

なかなかいい走りが出来ていなかった時期に比べれば体の仕上がりがかなり良くなっていますから、期待ができると思いますねー。

 

 

なるほど。

では、それに対抗するウマ娘はどうお考えですか?

 

 

対抗、いえ、第二の本命はサニーブライアンさんですねー。今日のあの子は非常にいい眼をしていました。あとは、その気合いが前に向きすぎないようにトレーナーから的確な指示があればいいですねー。

 

 

大原さん、ありがとうございます。

 

 

さあ!

全てのウマ娘が全てのトレーナーが夢見る日本ダービー!

ここに進めるのはわずかに18名!

この段階で全てが勝者!

拍手で迎えましょう!

映えある18名のウマ娘とトレーナーをご紹介していきます!

 

 

 

 

「すぅー、ふー。よし!」

 

18番目にターフに降り立ったサニーは大きく深呼吸をして軽くダッシュを入れる。

 

[大丈夫。体は軽い。緊張もない。感覚が研ぎ澄まされている。こんな感覚初めてかも…]

 

サニーは自身の体の充実感を確認する。

 

「あっ!痛〜い」

 

「えっ?」

 

突然の叫び声に振り返るとシルクライトニングが足を押さえて倒れ込んでいた。それを見てサニーが慌てて駆けつける。

 

「ライトニングちゃん!大丈夫?どうしたの?」

 

「痛い…。芝のくぼみに足を取られちゃって、挫いちゃった…」

 

そう言ってシューズとソックスを脱いだシルクライトニングの足は目に見えて腫れている。

 

「すごい腫れてるよ…。トレーナーさんに見てもらった方が…」

 

「大丈夫…。大丈夫…。これくらいなんとかなるよ…」

 

そう言ってシルクライトニングはソックスとシューズを履き直し、歩こうとするが全く普通には歩けていない。

 

「あの!係員さん、すみません!この子、足を挫いちゃって…。この子のトレーナーさんを呼んでもらえませんか?」

 

「お願い…呼ばないで…」

 

「ダ、ダメだよ。こんな脚で走ったらもっと怪我しちゃうよ!」

 

「…お願い。どうしてもダービーを走りたいの…」

 

痛みをおして無理にでも走ろうとするシルクライトニングを見るにみかねてサニーが係員を呼ぶが、シルクライトニングはどうしてもトレーナーを呼んで欲しくないようだ。

 

「気持ちはわかるけど…。やっぱり、ほっとけないよ。このまま放っておいたらどうなるかくらいわかるから…だって友達だもん…。とりあえず、トレーナーさんに診てもらおうよ。ねっ?」

 

「わかった…。富子先生を待つね…」

 

サニーはシルクライトニングの気持ちを察するが、友人を危険に晒すまいと必死に説得する。

一瞬の葛藤があったようだが、シルクライトニングもその気持ちを察して、無理に歩くことをやめ、サニーの指示に従った。

 

しばらくして、安川がシルクライトニングのもとに駆けつけ、足の具合を見る。

 

「…。ライトニング…。残念だけど、これじゃあ走らせられないねぇ〜」

 

安川は眉間に皺を寄せながら非情な宣告をシルクライトニングに告げる。

 

「先生…私、大丈夫ですから…。お願いです…走らせてください…。先生の最後のダービーだから…」

 

シルクライトニングは泣きながら安川に出走許可を請う。

 

「そう言ってくれるのはありがたいけどねぇ〜。私だって悔しいが、アンタにはまだまだ先がある。無理に走ってもっと大きな怪我をしてもらうわけにはいかないよ…」

 

安川はシルクライトニングの決意を嬉しく思うが、トレーナーとしての判断を優先することを告げる。

 

「うぅ…。ごめんなさい…。私がドジだから…」

 

シルクライトニングは悲しい表情で安川の決定を受け入れる。

 

「仕方がないさ。まあ、その分、菊の舞台で晴らしなさいな。係員さん。この子を医務室へ。シルクライトニングは棄権します。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 

安川はシルクライトニングを慎重に立たせて係員へと引き渡す。

 

「あーあ。サニーちゃんとダービー走りたかったなぁ〜。今度は徹底マークして絶対に勝つつもりだったのに…。ねぇ、サニーちゃん!絶対にダービー勝ってね!私はサニーちゃんの頑張りを知ってるから!だから、サニーちゃんが本当に強いんだって、みんなに見せてね!」

 

ターフから去ることが決まったシルクライトニングは涙を堪えながら精一杯の笑顔でサニーに激励の言葉を送る。

 

「ありがとう…。絶対に勝つから見ててね!」

 

そう言ってサニーはシルクライトニングを見送った。

 

「へぇー、アンタがサニーブライアンかい?ライトニングから話は聞いてるよ!」

 

「へっ?あっ、はい…。そうですが…」

 

安川がサニーに声をかける。

サニーは突然のことに少し驚く。

 

「ふーん。へー。ほー。はー」

 

「えっ?なんでしょうか?」

 

声をかけた安川は舐め回すようにサニーの体を隈なく観察する。

 

「いやー、アンタいいオンナだね!私もまだまだだね〜!こんないいオンナを見逃してたなんて!」

 

「えっ?あっ、ありがとうございます…」

 

安川はサニーを褒めちぎり、サニーはそんな安川の振る舞いにタジタジになる。

 

「アンタ、あの子のことは気に病まないでおくれよ。あの子のドジがいけないんだ。むしろ、アンタをマークする奴が1人いなくなったと思ってくれた方が私らにとっても気が楽さね。アンタをずっと褒めていたあの子のためにもダービーを勝ってちょうだいな!じゃあね!」

 

安川は豪快な笑顔でサニーを励まし、去っていった。

 

 

 

あー、放送席!場内アナウンスがあるようです。

 

 

東京レース場 第9レース発走除外選手についてお知らせいたします。

1番シルクライトニング選手は左脚に故障を発生した為、発走を除外いたします。

 

 

あー

 

 

左脚に故障…。

シルクライトニング選手は発走除外となります。

 

 

残念ですねー。

 

 

ええ、残念ですね〜。

49歳7ヶ月。最年長ダービートレーナーを目指していた安川富子トレーナー。

こんな形で戦列を離れることになるとはシルクライトニング選手共々安川トレーナーにとっては当然本意ではありません。

 

 

 

 

第64回日本ダービーは波乱の展開からスタートした。

 

 

 

 

あー、放送席!

今のアクシデントの間にマチカネフクキタル選手が何処かへ行ってしまいました…。

現在、係員が探しに行っています…。

なんだか波乱の予感がするスタート地点です。

 

 

 

 

 

「コミちゃんトレーナーさーん!聞いてくださーい!」

 

「えっ?フクちゃん何でここにいるの?」

 

「そんなことより一大事です!何と先程のアクシデントは昨日の占いで予言されていたんです!」

 

「…」

「…」

 

「…………で?」

 

「それを言いにきました!でわ!」

 

「えっ?それだけ?」

 

 

あれ、なんだ?

 

あの子ダービーに出る子よね?

 

なんでここにいるんだ?

 

本バ場入場してからの脱走なんて前代未聞だな。

 

これは理事会から大目玉だぞ…。

 

ルール知らないのか?

 

担当はどんな指導をしてるんだ?

 

これは最悪だと謹慎か罰金処分だな。

 

可哀想に…終わったな…。

 

 

ざわざわ

 

 

[あっ、私この後、諮問委員会行きだ…]

 

周囲の喧騒に小宮山の顔からは血の気が引いていた。

 

 

 

 

 

 

 

58.それぞれの想い

 

 

 

 

ゲート入り前のスタート地点は選手同士の交流の場であったりする。

仲のいい者同士であったり、ライバル同士であったり、初対面だが、お互いに興味を持つ者同士など、関係性は様々だ。

 

 

「よう!アンタがサニーブライアンか?」

 

「ええ。そうよ」

 

サニーに初めに声をかけたのはシルクジャスティスだった。

 

「名指しで俺にケンカを売るから、かなりイカした野郎かと思ったが、なんだ?ただのモヤシだな!」

 

シルクジャスティスがサニーを挑発する。

 

「あのスピーチが癇に障ったのなら、ごめんなさい。でも、あれは私の本心よ。私はあなたの実力を認めていて、あなたの末脚を一番警戒しているわ」

 

[コイツ…]

 

サニーは挑発に乗るどころか、シルクジャスティスの実力を認めて警戒宣言をする。

その言葉を聞いたシルクジャスティスからは先程までの薄ら笑いが消えている。

 

「まあ、アンタらがどんなに小細工しようが、この府中の直線なら俺の末脚には関係ねぇ!かかってこいよ!」

 

シルクジャスティスは少しだけサニーへの認識を改め、サニーに向け宣戦布告する。

 

「そうね。それも私たちはわかってる。だから、私はあなたを待っているわ。最後の直線でダービーウマ娘の称号を賭けて全力で競い合いましょう」

 

サニーはシルクジャスティスに一騎討ちを申し込む。その表情には笑みが溢れているが、隙は一切見当たらない。

 

「ハッ!なんだ、口先だけのハッタリ野郎かと思ってたが、なかなか肝据わってじゃねぇか!なら期待通りに最後の直線で全力でアンタをぶっ潰す!」

 

「ええ、全力でぶつかりましょう。まあ、勝つのは私だけれど、お互い全力を出し合って、いいレースにしましょうね。それじゃあ」

 

シルクジャスティスの勝気な勝利宣言に対し、サニーはクールな勝利宣言をし、その場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

「今日のレース、あなたは絶対に先頭を切るの?」

 

「ええ、私は絶対に先頭を切る。たとえ、あなたが競りかけてきてもね。それが私がこのレースに勝つための一番の方法だから、私は絶対に引かない」

 

次に話しかけてきたのはサイレンススズカだった。サイレンススズカの問いにサニーは臆することなく逃げ宣言をする。

 

「そう…。あなたはレースを走ることに不安や迷いはないの?」

 

そんなサニーを見たサイレンススズカが少し驚いた表情をする。

 

「不安も迷いもないかな。私はトレーナーさんが描いてくれるレースプランを完璧に再現することを目指してるの。それが出来れば必ず勝てるって信じてるから迷いはないよ」

 

「あなたはトレーナーさんをすごく信頼しているのね…」

 

明るく答えるサニーに対して、サイレンススズカの顔にはどこか元気がない。

 

「うん。トレーナーさんは私の夢を支えてくれる大切な人だから、全てを信じられる。それにトレーナーさんも私を信じてくれるから自分の夢を私に託してくれているの」

 

「そうなのね…。ねぇ、あなたたちの夢は何?」

 

「私たちの夢はダービーに勝つこと。だから、申し訳ないけど、このダービーだけはあなたに先頭も勝利も譲れないわ」

 

「…」

 

宮下への信頼を口にし、ひたすらに勝利を目指すことを告げるサニーの目はどこまでも真っ直ぐでどこまでも澄み切っている。

その表情を見たサイレンススズカはどこか寂しげで羨ましげな曇った表情をする。

 

「アドバイスになるかはわからないけど、もし、あなたが何かに迷っているなら、『誰かのために走ることの楽しさ』を知るといいよ。きっと何かが変わるから。私はトレーナーさんと出会えて、それを知って、いろいろなことが変わったから」

 

どことなくサイレンススズカの雰囲気を察したサニーが優しい言葉をかけ、励ます。

 

「誰かのために走る楽しさ…。私もいつかそれに気付けるかしら…」

 

「大丈夫よ、いつか気付ける。いや、気付かせてくれる"特別な人"にあなたは必ず出会えると思う。だってあなたの才能は"特別"なんだもの。さて、もう行かないと。お話出来て楽しかった。またね。サイレンススズカさん。レース頑張りましょう」

 

「ええ。またね…」

 

晴れやかな笑顔のサニーに対し、サイレンススズカの笑顔はぎこちなかったが、先程よりも少しだけ穏やかな表情になっていた。

 

 

 

 

 

 

「サニー様〜!改めて今日はよろしくお願いいたしますわ〜!」

 

「あっ!ブライトちゃん!こちらこそ、改めてよろしくね!」

 

最後に声をかけて来たのはメジロブライトだった。もともとサニーはメジロドーベルと仲がいいが、メジロブライトともメジロドーベルを通してよく話す仲だった。

 

「あの〜、レース前につかぬことを聞いてもよろしいですか〜?」

 

「ん?どうしたの?」

 

メジロブライトはニコニコした表情のまま、サニーに質問しようとする。

 

「ドーベルから聞きました〜。サニー様には昔ダービーで2着になったお姉様がいると。それは本当ですか〜?」

 

「そうだよ!正確には親戚のお姉ちゃんだけどね。10年前のダービーで2着だったんだ。勝った人にはかなり差をつけられちゃったけど…。それでも私の憧れの人なんだ!」

 

サニーはスワローのことを誇らしげにメジロブライトに話す。

 

「いえいえ、着差はどうあれ、ダービー2着という功績は輝かしいものですわ〜。私の慕うライアンお姉様もそうでしたから」

 

メジロブライトもまた、誇らしげにメジロライアンの話をサニーにする。

 

「メジロライアンさんかー!あの時のトゥインクルシリーズの看板選手の1人だよね!私もよく観てたなー!爽やかでかっこいいんだよね!」

 

サニーはメジロライアンの名を懐かしむ。

 

「うふふ、そうですわね〜。サニー様、私は今日そのライアンお姉様の想いを背負って走ります。サニー様も慕われるお姉様の想いを背負って走るのでしょう?」

 

そうサニーに問いかけるメジロブライトの口調はいつもより凛々しい。

 

「もちろん!私もお姉ちゃんの想いを背負って走るよ!お姉ちゃんが果たせなかった夢を叶えるんだ!ブライトちゃんも負けたくないだろうけど、私だって負けたくない。だから、お互い全力を尽くそうね!」

 

サニーは爽やかな笑顔でメジロブライトに決意を伝える。

 

「うふふ。やはり、サニー様はお強い方ですわ〜。私も全力を尽くすと誓います。名門メジロ家の名にかけて。メジロブライト、参ります!では!」

 

メジロブライトはスカートの両端を持ち、サニーに深々と一礼し、自分のゲートへと入って行った。それを見たサニーもまた、自分のゲートへと入っていく。

 

[そうだよ、ブライトちゃん…。私は大切な人の想いを背負って走る…。お姉ちゃんとトレーナーさんの10年分の想いを…]

 

 

 

 

かのメジロライアンはレコードで駆け昇るアイネスフウジンの後ろで涙を呑みました。

あれから7年…。

新たなメジロの光が今、偉大なる先達を超えようしています!

 

さあ、第64回日本ダービー!

 

 

 

ガシャン

 




与太話ですが、マチカネフクキタルのレース前のやらかしは我ながら上手く書けた気がします(笑)

このダービーはレース前後にも様々なドラマがありますが、それを盛り上げているのが、実況の方の言葉です。

あの有名な実況はもちろんですが、本馬場入場の紹介・スタート前の口上・レース後の語りも非常に美しいものがあります。

なので、次の話を読む前に実際のレース動画を観ることをおすすめします。私は実際のレースを知っているからこそ楽しめる描写を心掛けているので、観ておいていただけると嬉しいです。
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