それこそが事実   作:スタイニー

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いよいよ、レースは最終局面へ。されど、勝敗はまだ決せず。
何故なら彼女の目には栄光への道筋が見えているから。

今回はダービーを目指し、這い上がってきたあるウマ娘とそのウマ娘に夢を託した相棒たちの話です。


63.2人の相棒 64.最終直線の攻防

63.2人の相棒

 

 

 

俺の名前はシルクジャスティス。

 

ナリタブライアン先輩に憧れたのと従姉妹に誘われてこの学園に来たが、どうにもここは俺と相性が悪い。

 

あれしろ、これしろ。あれはダメだ、これもダメだ。毎日毎日周りからの指図ばかりで、ウゼェ。

 

勉強はだりー、練習もだりー、レースはつまらねー。憧れのブライアン先輩は俺のデビュー前に引退しちまうし、この学園にいる意味なんて早々になくなった。

 

そんな感じで、もう学園を辞めっかなって時にアイツに出会った。

 

アイツ、エリモダンディーはいっつもいじめられてた。アイツが何かしたわけじゃないんだろう。

ただ、周りからしたら、背が小さくて臆病者だから、いじめると面白いから絡まれてたんだろうな。

周りも周りでクズだが、アイツもアイツでシャキッとしないから舐められるんだよ。

 

どっちもどっちだから、俺はほっといたが、ある日機嫌が悪かった俺が、たまたまアイツをいじめている奴らを怒鳴ったことがあった。

 

そしたら、次の日からなんかアイツが後ろをちょこちょこついてくるようになった。

 

初めはうざったかったから睨みを効かしたこともあったけど、話してみたら普通にいい奴だった。

 

それにアイツ、あんなナリして脚は結構速かった。だから、たまに練習相手になることもあって、それからいつの間にか一緒にいることが多くなった。

 

そしたらある日、アイツが俺に聞いてきたんだ…

 

 

 

「ねぇ?ジャスは日本ダービーを目指さないの?」

 

「あん?ダービー?興味ねぇな。ってか、おれは一度もレースに勝ってねぇから目指すもクソもねぇんだけどな!」

 

「あぁ…そうなんだ…そっかぁ…」

 

「いや、なんで落ち込むんだよ」

 

「いや、残念だなって思って…。私、先週のレースに勝てたから、あと少しでダービーに出れそうなんだ…。それで、もし私がダービーに出れたら、ジャスにも出てほしいなって思ったんだけど…」

 

「は?なんで俺もダービーを目指すんだよ。めんどくせぇ。ダービーなんて夢物語は俺みたいな落ちこぼれには関係ねぇだろ?」

 

「そんなことないよ!ジャスは落ちこぼれなんかじゃないよ!今まで沢山の子と走ったけど、ジャスより凄い子はいなかった!だから、大丈夫だって!」

 

「いや、まあそうだったとしても、今からじゃあ、時間的に間に合わないだろ。つーか、なんで俺もダービーを目指すんだよ?」

 

「私の夢だから…」

 

「夢?なんでお前の夢に俺が関係あんの?」

 

「私ね、トゥインクルシリーズのレースで友達と一緒に走ることが小さい頃からの夢なんだ。あんなにすごい舞台で友達と一緒にレースできたらきっとすごく楽しいだろうなって思うの。それが一番おっきなレースで一番仲の良い"親友"だったらいいなって、だから…」

 

「…。まあ、気が向いたら考えるわ…」

 

「ありがとう…。考えておいてね…」

 

 

 

夢を語るアイツの表情はとても楽しそうで、アイツがどれくらい夢に本気かは流石の俺でもわかったし、アイツが俺に対して、偽りなく接していることもわかった。だから、アイツの夢が叶うまでは学園に残ると決めた。

 

まあ、特に学園にいる意味もなくなっていた俺にはちょうどいい理由だったとも思う。

 

それからはとりあえずダービーに出れるようにと前よりは練習を、レースを頑張った。

まあ、当たり前なんだが、そうは上手くいかねぇ。そりゃあ、練習を頑張ってもレースの"勝ち方"がわからねぇんだから当たり前だわな。

 

そんなこんなしているうちにダンディーから自分のチームに来ないかと誘われた。

 

それまで俺はいろんなチームを渡り歩いていた。

ただ、どのトレーナーとも合わなかった。

 

トレーナーが俺に教えて、俺がキレて、またトレーナーが教えて、俺がキレて、そんでトレーナーもキレて、チームを追い出される。それが俺の日常だった。

 

でも、アニキは違った。

アニキは俺を見捨てなかった。

むしろ暑苦しい感じで俺に接してくる。

 

最初はだりーと思ったけど、一応、熱心にトレーニングはつけてくれるから俺も出来るだけキレないでトレーニングに付き合った。

 

そんなアニキはいつも俺に言っていた。

 

 

 

あの皇帝シンボリルドルフだってレース展開が向かなきゃ負けるんだ。

『レース展開の向かないレースを勝てるようにする』よりも『レース展開が向いたレースを必ず勝てるようにする』ほうが凡人の俺らにとっては"賢いやり方"だとは思わねぇか?

10回に1回でもいい。勝てるレースだけは必ず仕留めろ!

 

 

 

『どんなレースも勝てるように』なんて"理想論"しか語らねぇ今までのトレーナー共を冷ややかに見ていた俺にとって、アニキの教えはすげーしっくりきた。

 

そんな感じで練習に取り組む様になるとだんだんと練習がレースが楽しくなる様になった。

そんでもって、アニキと出会って2ヶ月後。ようやく初勝利が出来た。

 

そん時アニキはスゲー喜んでくれて、笑ってこう言ってくれた。

 

 

 

だから言ったろ?

勝てるレースならお前は勝てんだよ!

 

 

 

アニキはああ言っていたけど、俺が勝てたのは間違いなくアニキの教えのおかげだったし、アニキが見捨てないでくれたおかげだった。

 

だから、ある日聞いたんだ。

『アニキは俺といて楽しいのか?』って。

 

そしたらアニキはこう言った。

 

 

 

当たり前だ。楽しいさ。

こうやって1日1日成長していくお前を見ているのが俺は楽しいんだ。

それに俺はお前の脚に夢を見ている。

言っちゃなんだが、俺もお前と同じで、荒くれ者の落ちこぼれ出身だ。

だからこそだ!そんな奴らがGⅠの舞台でエリート様をぶち抜いて勝つことにロマンを感じねぇか?

勝負の世界に育ちの良さなんか関係ねぇ!

手始めに史上初のダービー連覇をやってやろうぜ!

常識をぶっ壊すほどのでけぇ夢を俺とお前でいくつもやってやろうぜ!

 

 

 

初めてだった。誰かに期待されることなんて。

しかも、2人もだ。俺の脚に夢を託してくれる大切な相棒が2人も出来たんだ。

 

 

 

ああ、誰かに期待されるのも悪くはねぇな…

 

 

 

 

「アニキ!どうしたんだ?つれない顔して?」

 

トレーニングの休憩中にシルクジャスティスがシンジに何気なく声を掛ける。

 

「ああ、ダービーの作戦が決まらなくてな…」

 

シンジは普段と違い、浮かない表情で返事をする。

 

「あん?まだ決まってねぇのかよ。この間までいろいろ作戦練ってたじゃねぇか?アレじゃダメなのか?」

 

「ダメっていうか、なんというかな…」

 

シンジは浮かない表情で大きくため息をする。

 

「おいおい、ダービー3日前だぞ。そんなんで大丈夫かよ。ってか昨日の抽選会からずっと顔色が悪いけど、何かあったのか?」

 

さすがのシルクジャスティスもシンジの雰囲気がいつもと違いすぎることを心配する。

 

「…。俺はたぶんダービーを勝てない…」

 

「はっ?何言ってんだ?」

 

シンジの突然の弱気発言にシルクジャスティスが驚く。

 

「やっぱり宮さんには俺は勝てねぇ…。全部見透かされてるんだ…。何やっても勝てる気がしねぇ…」

 

「何言ってんだよ!つべこべ言わずにいつも通りやれば、あんな奴らなんとかなるさ!」

 

普段ならシンジが絶対に口走らないであろう発言の数々にシルクジャスティスも若干困惑している。

 

「お前は何にもわかってねぇ…。本気のあの人には勝てねぇよ…。俺があの人より勝ってるのは実力じゃねぇ。俺は口が立つだけで、結局は教え子のお前らが優秀なだけだ…。もし、あの人にダービーを獲れる実力のある担当が出来たら俺は100%勝てねぇ…」

 

シルクジャスティスの強気な発言をシンジは顔を俯きながら、嗜めるように否定する。

 

「おい!ふざけんなよ!なんだそのヘタレた考えは!相手が先輩だかなんだか知らねぇが、いつもアニキは言ってるよな?『逃げんな!戦え!後は俺がなんとかしてやる!』って!そのアンタが逃げてどうすんだよ!しっかりしろよ!」

 

何を言っても弱気な態度を崩さないシンジにシルクジャスティスが怒る。

 

「…」

 

「ここまで来たんだぞ!こんなとこで諦められっか!ダンディーが俺に夢を託してくれた。アニキが俺にその夢の叶え方を教えてくれた。俺は2人に感謝してんだ!ここに俺の居場所を作ってくれたんだから!」

 

「…」

 

「ダンディーの夢はもうすぐ叶う。だから、次は俺がアニキの夢を叶えて、恩返しがしてぇんだ!ダービー連覇はあんたの夢だろ?違うのか!?」

 

シルクジャスティスの熱い気持ちと今にも泣き出しそうな声色にようやくシンジがシルクジャスティスの顔を見る。

 

「お前…。ああ、そうだ…。ダービー連覇は俺の夢だ…。俺はお前らと勝ちてぇ…」

 

シンジは勇気を振り絞るかのように自分の本心を語る。

 

「なんだよ…。諦めてねぇじゃねぇか…。だったら、任せろ!俺がアニキの夢を叶えてやる!作戦なんかいらねぇ!俺のこの脚がありゃ十分だ!見とけよ!絶対勝ってやっから!」

 

 

 

 

 

[頼むぞ…相棒…。宮さん、ここからが俺らの"本番"です。あなたを倒して俺はこいつらと共に夢を叶えますよ!]

 

シンジは祈るように最終コーナーを回るシルクジャスティスたちを見つめる。そして、全てを彼女たちに託した。

 

 

 

 

 

 

64.最終直線の攻防

 

 

 

「ここまでは完璧にレースを支配している。あとは最後の直線だな…。あの子の実力が試される府中の長い直線だ」

 

「お願い…。サニー…頑張って…。あと少し…あと少しよ…」

 

観客席でレースを見守る中崎とスワロー。

スワローは両手を握りしめて必死に祈る。

その祈りには10年分の想いが詰まっていた。

 

 

 

 

 

さあ、まもなく4コーナーをカーブして直線コース!

先頭はサニーブライアン!サニーブライアン依然として先頭だ!

 

 

 

[アニキの言った通りの展開だな。マジでアンタらは大した奴らだ!認めてやるよ!でもな、この位置ならアンタを確実に捉える!さぁ、アンタらの頭脳と俺"ら"の脚。どっちが上か勝負だ!]

 

 

 

さらにシルクジャスティスも飛んできている!

 

 

 

[やはりシルクジャスティスは直線勝負"だけ"を狙ってきたか…。シンジを揺さぶって自滅を狙ってはみたが…さすがに無理か。さて、サニー。ここからは君の仕事だ。減ってしまった"5.65%"は君自身の実力で取り戻してもらうよ]

 

シルクジャスティスの仕掛けを見て、シンジに仕込んでいた策略が失敗に終わったことを悟り、宮下は最後の仕上げをサニーの実力に託す。

 

[やっぱ、宮さんはスゲーな。きっと、ここまでの全部が宮さんの想定内なんだろうな…。でも、さすがの宮さんもウチにもう1人ダービーを狙える相棒がいるってことまでは知らないっスよね!]

 

策略の失敗に動じない宮下。

しかし、シンジはそれを見越していた。

そして、一つの奇襲の策を用意していた。

 

 

 

「おい!ダンディー!」

 

靴紐を結んでいたエリモダンディーにシンジが声をかける。

 

「はっ、はい!」

 

声をかけられたエリモダンディーはちょっとビックリしながらシンジを見上げる。

 

「ダービーの作戦だが、お前はイン突きで行くぞ」

 

「わかりました。ジャスの邪魔をしないように内側で我慢します」

 

二つ返事でシンジの作戦をエリモダンディーは承諾する。

 

「ちげぇよ!お前も勝ちに行くんだよ!」

 

エリモダンディーの反応に『たぶん、わかってねぇな、コイツ』と内心思ったシンジは、軽くツッコミを入れながら作戦の本当の意味を伝える。

 

「あっ、そうですか…って、えー!私もですか!?私は無理ですって!」

 

まさかの作戦にエリモダンディーが驚き、無理だと激しく首を振る。

 

「大丈夫だ。お前の直線一気はメジロブライトよりも上だ。ダービーを勝てるポテンシャルは十分にある。自信を持て」

 

「で、でも私は追い込みしか出来ません…。一番後ろから大外をとってもジャスの後ろまでが精一杯で、勝つのは無理だと思います…」

 

「まあ、大外から行ったらそうなるさ。だから"イン突き"するんだよ」

 

「でも、トレーナーさんがジャスに言ってたじゃないですか?『100%前崩れになるから、邪魔されない大外からぶち抜け』って…」

 

「そりゃそうだろ。デカくて大雑把なアイツに、前崩れしたバ群を捌ける器用さはないからな。でも、お前は違う。大体のヤツらが"行けない"狭い隙間を小回りが効くお前ならすり抜けられる。チビ(お前)の道は内側にこそあるんだ。だから、ビビらず攻めろよ」

 

不安そうな顔をするエリモダンディーを無視してシンジは自信満々に作戦を伝える。

 

「えっ、本当に言ってるんですか…。いや、やっぱり無理ですよ…。トレーナーさんが期待してくれるのは嬉しいですけど、勝てるイメージが湧きません…」

 

説明を受ける前よりは作戦の意図や勝つための理屈をエリモダンディーは理解しているが、まだ自信には繋がっていないようで、表情は硬い。

 

「ったく、いい加減才能に見合う自信を持てよ。お前はジャスティスの期待を無碍にするのか?」

 

シンジは呆れ顔をしながら、エリモダンディーに問う。

 

「それはどういう意味ですか?」

 

シンジの質問の意図がわからないエリモダンディーが困り顔で尋ねる。

 

「ジャスティスが俺に言ったんだ。『俺はアイツの夢を叶えた。次はアイツに俺の夢を叶えてもらう。どっちが勝ったとしても、ゴールの瞬間は一番近くにいたいんだ』ってな」

 

「一番近く…」

 

「ああ。『ダービーでダンディーとワンツーを決める』それがジャスティスの今の夢なんだ。まあ、自信が持てないのはわかる。それでも親友が期待してるんだ。その想いに応えてやれよ」

 

「はい…。頑張ります…」

 

シルクジャスティスとシンジの信頼と心意気にエリモダンディーは恥じらいながら嬉しそうに頷いた。

 

 

 

 

「よし!バ群がバラけた。一気に行くよ!待っててね!ジャス!」

 

それは人一人分というには狭すぎる隙間。普通なら接触を恐れてしまい飛び込むことを躊躇うだろうが、エリモダンディーは躊躇わない。

小柄な体格と華麗なステップワークで砕けたバ群をすり抜け、先頭を目指して内ラチ沿を一気に駆け上がる。

 

大外強襲のシルクジャスティス、内ラチ強襲のエリモダンディー。

シンジが信頼を置く親友コンビが内外からサニーを狙う。

 

[ここまではトレーナーさんがレースを作り上げてくれた。だから、ここからは私の番!見ててね、トレーナーさん…。行くよ!これが私の全力!!]

 

エリモダンディーがスパートをかけ、バ群を捌いていく中、先頭を走るサニーもまた府中の急坂を登りながら、スパートをかけようとしていた。

 

「俺の位置からアイツはまだ見えねぇ。ってことは先頭集団からは大してリードをとれてねぇってことだ。残り500。これだけあれば俺の脚ならアイツをぶち抜ける!」

 

時を同じくして、大外に進路を確保したシルクジャスティスも先頭にいるサニーの位置を予測しながら狙いを定め、スパートをかける。

シルクジャスティスの末脚は前評判に違わない凄まじい切れ味で壊滅している先行勢のバ群を一瞬にして切り捨てる。

 

そして、シルクジャスティスが再度サニーに狙いを定める為、顔を上げるが…

 

「おい待て…。おかしいだろ…」

 

シルクジャスティスは切り捨てたバ群の先に信じられない光景を見た。

 




シルクジャスティスとエリモダンディー

数多いる競走馬の中でも"セットで語りたくなる馬"の代名詞の一つといえるこの2頭。

この2頭もまた漫画のような映画のようなドラマチックな馬生を歩んだ馬達です。ただ、その結末はハッピーエンドとはなりませんでしたが…。

この2頭もぜひウマ娘化して欲しいですね。
史実では迎えられなかったハッピーエンドに我々『トレーナー』が導けたなら、天国の彼らへの手向けに出来るのではないでしょうか…。
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