それこそが事実   作:スタイニー

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2人の夢物語は一度終わりを告げた。

そして、僕/私のそれぞれの新しい物語が始まった…。


エピローグ.それこそが事実

愛知県のある町

 

 

 

「先生ー!アタシ、この間のレース大会で一番になったよー!」

 

小さなウマ娘の女の子がレース大会の賞状を片手に先生と呼ばれる大人のウマ娘に駆け寄る。

 

「おっ!すごいねー!たくさん練習頑張ってたもんね!おめでとう!」

 

先生は駆け寄ってきた女の子の頭を撫でながら、満面の笑みで褒める。

 

「先生、いつもありがとうございます。この子、初めて大会で一番になれたんです。先生の教室に来てからこの子はとても楽しそうで、レースもどんどん速くなるんです。本当にありがとうございます」

 

女の子のお母さんが先生に感謝の言葉を述べる。

 

「いえいえ、私は私のわかる事を教えているだけですから。この子が偉いんです。でも、レースを楽しんでくれて、レースに勝つ楽しさをわかってくれているなら、それは私としてもとても嬉しい事ですね」

 

先生はお母さんの言葉に照れながら謙虚に答える。

 

「いえいえ、先生のおかげですって!そもそも、こんな田舎に中央で活躍した選手がレース教室を開いてくれているなんて有り得ないんですから!しかもダービーウマ娘さんなんて!私観ていましたよ、先生のダービー!」

 

「あっ、ありがとうございます…」

 

お母さんの言葉に先生はますます照れる。

 

「でも、先生はずっとここで教室をやるんですか?先生の指導力と知名度なら、もっと都会の方でやれば、人も集まると思うんですが?」

 

「今のところ都会でやるつもりはありません。もともと私はこういうところで、教室を開きたいと思っていたんです。なかなかレースを教われる機会がない場所の子たちにも、レースに勝つ楽しさを知ってもらいったかったので…」

 

「そうですか…。でも、もったいないですよ!去年、この教室の卒業生のカゼちゃんが中央の重賞に勝ってますし、リーオちゃんも中央で頑張っていると聞きます。それにここの卒業生は中央に行けなかったとしても地方のレースなら必ず勝ち上がるって評判ですよ!もっと多くの人が集まれば中央のGⅠだって勝てる子を育てられますよ!」

 

先生の言葉にお母さんはちょっと残念そうな顔をしながら、再度ステップアップを促す。

 

「そう言っていただけるのはありがたいんですが、私にはそこまでの才能はありませんから…。結局、私があれだけ活躍できたのはトレーナーさんのおかげなので…」

 

お母さんの言葉に先生はますます謙遜する。

 

「そうですか…。ところで、先生のトレーナーさんはまだ中央でやられているんですか?ダービートレーナーさんですけど、あまりメディアには出ない方ですよね?あれからダービーに出ることもないんですか?」

 

「まだ、やってますよ。ダービーを狙えるレベルの期待選手の指導依頼もあるらしいんですけど、全部断ってるみたいです。『僕にはローカルが性に合ってる』とか『もうダービーに勝てる気がしない』とか『ダービー連帯率100%のまま引退する』とか言ってます。腕前はピカイチなのに本当にシャイというかヘタレと言うか…」

 

先生は先程までと違い少々愚痴っぽい口調になる。

 

「へー、引退してからも連絡をとっているなんて、仲がよろしいんですね!」

 

それを見たお母さんは手を口に当てながらニヤつく。

 

「いや、まあ…はい…。とりあえず、今日のスプリンターズステークスにトレーナーさんの担当の子が出るみたいなので、観ようかなと思ってます…」

 

先生はお母さんの表情を見て、軽率に口走った"惚気話"を悔いるように顔を赤らめる。

 

「そうなんですね!じゃあ、私たちも観ないと!今日のレースは勝てそうですか?」

 

「どうでしょうか?私は勝つと思いますけど、一番人気じゃないですからね…」

 

「絶対勝てるよー!だって『一番人気はいらないから一着だけ欲しい』でしょ?お母さん!」

 

「えっ?」

 

唐突に話に割り込んできた女の子に先生は驚く。そして、女の子が口にした言葉に先生が慌てる。

 

「ごめんなさい。大会前にいつも私が先生の"あの言葉"をこの子に言ってから送り出していたら、口癖のようになってしまって…」

 

先生の驚く顔と慌てる顔を見て、お母さんは少し申し訳なさそうな顔をする。

 

「あっ、いや、その、確かに私が言ったんで…仕方がないんですけど…。いざ言われると恥ずかしいというかなんというか…」

 

先生はさらに顔を赤くしていて、今すぐにでも逃げ出したそうな素振りを見せる。

 

「私はカッコよかったと思いますよ。先生とトレーナーさんの勝利インタビューは本当にカッコよくて、勇気をもらえましたから。一応、言っておきますけど、私たち世代のウマ娘はみんなあのダービーを見てましたからね。あの"伝説のダービー逃走劇"!」

 

恥ずかしそうにする先生を見たお母さんは、少し真面目な表情であのダービーについての率直な感想を告げる。

 

「私はウマ娘に生まれましたが、こんな田舎で生まれ育ちました。だから、トゥインクルシリーズなんてものはテレビの向こう側の別世界のように思っていて、目指そうとなんて全く思いませんでした。でも、あのダービーを観た時に思ったんです。『私も挑戦しておけばよかったな…』って。だから、先生がここで教室を開いてくれて本当に感謝しているんです。この教室のおかげで、あの世界は現実にあって、目指す権利は誰にでもあるんだって思えるようになりましたから。だから、結果はどうであれ、この子にも目指して欲しいんです。これはウマ娘(私たち)だけの青春(特権)だと思うので」

 

お母さんはさらに真剣な表情で感謝の想いを精一杯先生に伝える。

 

「そうですね…。おっしゃる通り、これは私たちだけの青春ですから、ウマ娘の子供たちには一度でもいいから目指して欲しいですよね」

 

先生は嬉しそうな顔をしながらお母さんの意見に同意する。

 

「うんうん!やっぱりそう思いますよね!あっ、でも先生みたいにダービーに出たいとか、勝ちたいと思ったら才能は必要ですよね…。ウチの子、先生みたいになりたいって言うんですけど、流石にそれは無理かなって…」

 

先程まで楽しそうにしていたお母さんが子供の顔をチラリと見た後に顔が少しだけ険しくなる。

 

「それはわかりませんよ。私にも才能なんてなかったですから。でも、一つだけ必要なことはあります」

 

「必要なこと?なんでしょうか?」

 

お母さんの不安そうな顔を見たサニーが少しだけ顔付きを引き締めアドバイスをする。

 

「必要なことは『ダービーに憧れ続けること』です。私にも褒められる才能はありませんでした。でも、一つだけ褒められるところがあるとしたら、ダービーを夢を見て、憧れて、それを目指して諦めずに頑張り続けたことだけは自分の唯一褒められることだったと思います。それがあったから私はトレーナーさんに出会えたんです…」

 

先生が過去の思い出を懐かしむような目をする。

 

「ええ、そうですね…。挑戦する心と諦めない心を持つことは絶対に必要ですね。頑張ってくれるかしら…ふふふっ」

 

お母さんは子供の頭を撫でながら微笑む。

 

「先生ー!もうすぐ、レース始まるよ!」

 

「あっ、もうそんな時間だ!はーい!今行くよー!あっ、よかったらここで観ていきませんか?」

 

「えっ?いいんですか?じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「やったー!サニー先生と一緒に観れるー!」

 

「よーし!一緒に応援だー!」

 

[ねぇ、トレーナーさん!私の物語はまだまだ続くよ!いつか、また会えたらトレーナーさんに話してあげるね!]

 

 

 

サニーブライアン

通算成績:10戦4勝、GⅠ勝利数2勝、URA最優秀クラシック選手受賞

 

 

彼女は二冠を制したが、その実力には賛否が分かれる。理由は『秋以降・ひいてはシニア級での戦績がないから』というものだ。しかし、彼女が成し遂げた『ダービー逃げ切り』はその後20年以上経っても並び立つ者がいない。奇しくもそれは、彼女が『逃げウマ娘はダービーに勝てない』というジンクスの"例外"に当てはまる『実力者』であるという事実の証明である。

 

 

 

 

 

 

中山レース場

第38回スプリンターズステークス GⅠ

 

 

 

「ライトオ。調子はどうだい?」

 

「愚問ですね。トレーナー。私はいつも最速で最強で最高です。何か問題でも?」

 

「いや、特に問題ないよ。いつも通りで何よりだ」

 

宮下はカルストンライトオというウマ娘と共にGⅠスプリンターズステークスに挑んでいた。

 

「しかし、今日は生憎の不良バ場。私の体のデキは最高潮ですが、物理的に自己最速タイムを皆さんにお見せできないとは、なんたる不運。私、やる気が出ません」

 

カルストンライトオはガックリと肩を落とす。

 

「いや、そこはやる気を出そうか。タイムは確かに出ないが、今のライトオならデュランダルに勝てるんだから」

 

肩を落とすカルストンライトオを嗜めるように宮下は発破を掛ける。

 

「はっ!そうでした!今日は私の宿敵デュランダルが出ています。命を何度か脅かされヒヤリとしました!おのれデュランダル!今こそ恨みを晴らす時!」

 

発破をかけられたカルストンライトオはすぐに持ち直す。

 

「いや、そのモチベーションの上げ方はおかしい。あと、それは冤罪だ。ライトオが勝手にVRのチーターに彼女のイメージをしただけじゃないか。いろいろと助けてくれた恩人にそういう言い方は良くないよ」

 

それに対して宮下は少し呆れながらツッコミをいれながら嗜める。

 

「まあ、それもそうですね。ごめんね。デュランダル。では、改めて少し気合いを入れます。…やってやるぜぇぇぇ!うん。いい感じです」

 

「…」

 

宮下とカルストンライトオの出会いは2年前に遡る。きっかけは後輩トレーナーからの依頼だった。

 

 

 

抜群のスプリント能力はあるんですが、癖が強すぎて…。

でも、凄く良い子なんで、宮下さん一度その子を見てあげてくれませんか?

 

 

当時のカルストンライトオはデビュー3年目で4勝の実績をあげる素質あるスプリンターとして、一定の評価を得ている選手だった。

ただ、"1200mでも長すぎる"と評された適正距離の狭さのせいで、重賞ではまだ未勝利だった。

 

宮下も彼女の名前だけは聞いたことがあったが、実際に見たことはなかった。

 

 

見るのは構わないが、僕はそこまで短距離が得意ではない。それに話によると"逃げウマ娘"らしいじゃないか。僕は逃げ戦術が苦手なんだ。だから、どちらかでも得意なトレーナーに頼んだほうがいい気もするが…。まあ、とりあえず、この夏は見るよ…。

 

 

 

そういった経緯で宮下はカルストンライトオを見ることになった。

 

そして、初めての出会いは…

 

「初めて会った時は…チャック、そしてテープで遅刻し一直線。うん、そんな感じでした!」

 

「急に何を言い出すだい?」

 

いきなり語り出すカルストンライトオに宮下が少し驚く。

 

「話が長くなりそうなので、邂逅エピソードを最速でまとめてみました」

 

「誰も邂逅エピソードの話はしていないが…。まあ、確かに出会いはそんな感じだったな…」

 

「そんなことよりトレーナー。私に指示を。あなたの指示が私の最速伝説を作るのです。いつまでも私との出会いに浸っている場合ではありません」

 

「…」

 

感情も会話もジェットコースターのように目まぐるしく変わるカルストンライトオに宮下は困惑し言葉を失っている。

 

 

 

そんな出会いを経て、カルストンライトオと契約した宮下はすぐさま結果を出す。

 

初戦の4勝クラスの条件戦をアッサリと勝つとその年の第2回アイビスサマーダッシュで2人は驚くべき記録を叩き出す。

 

 

 

タイムにご注目ください!

タイム、1000m53秒7!

レコードの赤い文字が上がりました!!

 

 

 

重賞初勝利を1000mの日本レコードで挙げる。

しかも、その時の1ハロンのラップタイム9秒6と200m〜800mの中3ハロン29秒6は世界記録を更新する大記録だった。

 

これだけの記録を出したのだから当然契約延長かと思いきやカルストンライトオは契約延長を申し出なかった。

 

 

 

世界記録を出したということは、すなわち私が全てのウマ娘の頂点。もう、この場所に用はない。

 

 

えっ?どういうこと?

 

 

私の次の目標は『地上最速の生物』です。

私は私より速い生物(ヤツ)に会いに行く!さらばです!

 

 

えっ?ちょっと、待って!おーい!待ってー!

 

 

 

そう言い残して、カルストンライトオはしばらくトレセン学園から失踪した。

 

ちなみに失踪している間は宮下と彼女の同室のデュランダルが学園にバレないように必死に誤魔化し続けたことで大ごとにはならなかった。

 

その後、しばらくしてカルストンライトオは学園に戻る。

 

 

 

くそっ!地上2番にすらなれないとは!

トレーナー!私を鍛え直してください!

私はもう一度、最速の世界に返り咲きたい!

もう一度この学園で頂点を獲り、次こそはプロングホーンに勝つ!

そして、チーターへの挑戦権を得る!

 

 

えぇ…。

 

 

 

どうやら失踪している間、カルストンライトオは本当に地上最速を目指してアメリカに行っていたらしく、その過程で地上2番目にすらなれなかった事に挫折し、学園に戻ってきたようだ。

 

こうして、宮下とカルストンライトオは再び契約する。ただ、再契約後カルストンライトオは二桁惨敗と長期の休養を繰り返してしまう。

 

実はカルストンライトオはアメリカに行っている最中、脚のケアを全くせずに野生動物たちと連日競い合っていたため、完全に脚を壊してしまっていた。

加えて、野生動物たちとの"直線勝負"に明け暮れたことでカーブの曲がり方とレースの走り方を完全に忘れてしまっていたのだった。

 

そこから全盛期のコンディションを取り戻すべく、宮下とカルストンライトオは地道に立て直しを図る。

 

そして、カルストンライトオがデビューしてから5年目の今年。世界記録を叩き出した年から2年の歳月を経て、ついに宮下はカルストンライトオの立て直しに成功する。

 

手始めにOPレースを2着。次の函館スプリントステークスで3着と復調の兆しを見せると2年振りのアイビスサマーダッシュを1番人気で圧勝し、隔年連覇を達成した。

 

そして今日。勢いそのままに、スプリンターズステークスで悲願のGⅠ制覇を狙っている。

 

「不良バ場でタイム自体は伸びないが、これ自体はライトオに好都合だ。何故ならデュランダルの切れ味も鈍るからだ。それに不良バ場ということは"水の上を走る"ようなものだ。"水の上の走り"をライトオは出来るよね?」

 

宮下は不敵な笑みを浮かべながらカルストンライトオを煽てる。

 

「なんと!私が夏合宿で会得した『水上走り』が活かせるとは!トレーナー!私なんだか無性に走りたくて仕方がなくなってきました!見ていろオーストラリアに香港!ついでにデュランダル!私の水上走りで完膚なきまでに叩き潰す!」

 

宮下の一言にカルストンライトオはさらに気合いが入る。

ただ、気合が入りすぎて宿敵のデュランダルが"ついで"扱いに格下げされた。

 

「いい気合いじゃないか、その粋だ。あとは練習通りに『"君だけ"の中山1200コースの走り方』が出来れば君は負けない」

 

気合いが乗り始めたカルストンライトオを見て、宮下は安堵し、さらにアドバイス与えることでさらなるモチベーションアップを図る。

 

「私の"傾く癖"を考慮した走りですか。確かにこれなら最終コーナー分だけ"曲がる我慢"をすればいい。残りの1000mくらいは『直千番長』の独壇場だ。ところでトレーナー。前から思っていましたが、トレーナーは私を操るのがとても上手い。しかも、『性癖』まで熟知しているとは。もしや、私にゾッコンか?」

 

モチベーションが上がりきったカルストンライトオが急に冷静になり、宮下に自身への"想い"を問う。

 

「間違ってはいないが、その表現は人前で絶対にしないでくれないか。うーん。ゾッコンかどうかはわからないが、ライトオを一番上手く操れる自信はある。それは本気で思っている」

 

それに対して宮下は"誤解を招く表現"に苦言を呈しつつ、率直な想いをカルストンライトオに告げる。

 

「これでもまだゾッコンの域に達していないとは、かなり悔しい。かくなる上はタキオンにお願いして薬漬けにすればワンチャンあるな」

 

カルストンライトオは表情を変えずに悔しがるとともに恐ろしい計画を口走る。

 

「薬漬けはやめてくれないか。僕はまだ人生を終わらせるつもりはない」

 

突然の薬漬け宣言に宮下はそこそこ真面目なトーンで拒絶する。

 

「チッ、どうして薬漬けの計画がバレた。"あの方"を忘れさせ、あなたを私だけのものにし、一生を添い遂げるつもりだったのに」

 

計画がバレたカルストンライトオはそこそこ大きな舌打ちをしながらさらに悔しがる。

 

「いや、今ライトオが口に出したからバレただけだ。口に出さなかったら危なかった。ところで再契約してから思うが、ライトオは何かとあの子と張り合いたがるが、なんでなんだい?」

 

未然の計画が阻止できたことに安心の表情を浮かべた宮下が、素朴な疑問をカルストンライトオにぶつける。

 

「それはあなたの心に"あの方"がいる限り、私があなたの"一番"になれないからだ…。それはまるでこっそりエサをやっていたニャンコが、別の誰かに懐くのを目撃した時のように!嫉妬してしまうんです!それはもうメラメラと!!」

 

いつも表情がほとんど変わらないカルストンライトオが珍しく一瞬だけ落ち込む素振りを見せた…のも束の間、すぐに自分の中にある嫉妬心を"しょうもない例え"で訴える。

 

「僕を想ってくれるのは嬉しいが、その例え方は今日限りで止めようね。その例えだとせっかくの素敵な想いが色褪せてしまうから。とりあえず、あの子も君も僕にとってはどちらも"運命の相手"だ。優劣なんてつけられないくらいに特別なんだ」

 

カルストンライトオの例え話にはすかさずツッコミを入れるが、それはそれとして、カルストンライトオの落ち込んだ表情を見逃さなかった宮下が一応のフォローを入れる。

 

「むっ、なんですかその表現。きゅん。別に比べてないならいいですが…」

 

宮下の言葉にカルストンライトオは顔を赤らめる。ただ、真顔なので可愛らしさは一切ない。

 

「君もあの子も僕にとっては特別なことに変わりはないよ。あの子は僕に"最高の景色"を見せてくれた。君は僕に"最速の景色"を見せてくれた。本来、僕のようなトレーナーでは見ることの出来ない景色を2人は見せてくれたんだから」

 

宮下は少しはにかみながら2人への想いを告げる。

 

「確かにそうですね。あの方があなたに見せた景色を私は見せられない。ですが、"最速の景色"は私だけが見せられる。ああ、あなたと契約し、共に過ごせていい人生でした。今までありがとう。ああ、一生の思い出が…」

 

カルストンライトオが宮下の言葉を聞き、想いに耽る。

 

「いや、思い出じゃなくて、目の前のレースを見てくれ…。とりあえず、僕は君を最後まで見守るよ。約束だったね、僕と共にもう一度最速の世界へ行くんだろ?"カル"」

 

そんなカルストンライトオに宮下はツッコミを入れながら、カルストンライトオとの約束と彼女の"特別な"愛称を口にする。

 

「くそっ!こんな時にその愛称を呼ばれたら、テンション爆上がりでしょうが!嬉しい。嬉しい嬉しい嬉しい。うっひょーーー!と踊りたい気分ですが、今はレース前。この気持ちの昂りをスピードに変え、さっさとレースを終わらせて、勝利の報告と共に改めて踊り、あなたに抱きつくとしましょう。では、トレーナー。行って参ります!」

 

目に見えてテンション爆上がりになったカルストンライトオはルンルン気分でコースへと向かう。

 

「ああ、いってらっしゃい」

 

 

 

 

さあ、逃げ体勢はカルストンライトオ。

どこまで逃げられるか新潟二度のチャンピオン!

 

4コーナーをカーブして、むしろリードが開いている!

 

さあラチ沿いに宮下直治ダービートレーナー!

カルストンライトオを逃がす逃がす!

カルストンライトオを逃がす!

 

さあ問題は2番手争い。

2番手外からデュランダルがやってきた!

シーイズトウショウもやって来ている!

2番手が横一線大混戦!

 

しかし、これは行ってしまうぞ!

行ってしまうぞ!

 

カルストンライトオが逃げるぞ!

 

2番手外からデュランダルだが前とは離された!

 

カルストンライトオーー!!

 

 

 

「ほら、やっぱり勝てたじゃないか…。世界最速のカルが負けるはずないんだ…」

 

小雨降りしきる中山レース場で宮下はカルストンライトオの圧勝劇に満足そうな笑顔を見せる。

 

「中央のGⅠに勝つのは7年ぶりか…。サニー、君に話したい物語がまた増えた。君の物語はどうだい?いつかまた出会えた時にはお互いの物語を話そう…」

 

そう呟いた宮下はレインコートのフードを頭に被りながらターフで待つカルストンライトオの元へと歩いて行った。

 

このレースの2年と2ヶ月後、宮下はトレーナーを引退する。

引退の際の言葉は宮下らしく『幸せでした』と一言だけだった。

 

 

 

宮下直治

通算成績:6579戦512勝、重賞12勝、GⅠ級勝利4勝

 

 

彼の成績を上回るトレーナーはたくさんいる。

しかし、彼が成した『ダービー逃げ切り』と『1000m日本レコード』の2つの記憶と記録はその後20年以上経っても並ぶ者がいない。

それは宮下直治という男が"数字だけ"では表せない、一角の人物であるという事実の証明である。

 

 

 

 

 

 

 

時代は流れ、季節は移ろいゆく。

でも、僕/私たちの駆け抜けた日々は色褪せない。

だって、その日々は僕/私たちのかけがえのない青春なのだから…。

 




締めの挨拶前に一つ愚痴を聞いてください。
カルストンライトオのキャラのせいで、エピローグの感動が50%カットになりました!おのれ!カルストンライトオ!笑

さて、気を取り直して締めの挨拶です。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
彼らの物語はこれでお終いです。

最後のエピソードも『史実に基づいたフィクション』として描きました。小ネタについては興味があれば、ぜひお調べください。

私は私の想いのままこのコンビをこの様に描きましたが、きっと皆さんには皆さんなりの想いがあるでしょう。
この物語はあくまで"一つの解釈"として受け流しながら楽しんでいただければと思います。

さて、最後に。
私はウマ娘というコンテンツに面白さと可能性を感じます。
競馬はオグリキャップにより『ギャンブル』から『スポーツ』へと認識が変わりました。では次はどのように変わるのでしょうか?
私は競馬がウマ娘によって『スポーツ』から『ドラマ』へと認識が変わってくれたらと思っています。
競馬に携わる全ての人々と馬の絆の物語として、どちらも末長く続いて欲しいなと思います。
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