それこそが事実   作:スタイニー

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このパートと前のパートは文字数の問題から別れていますが、まとめて読んでください。




26.救いの手は意外なところから① 27.救いの手は意外なところから② 28.受け継がれる想い 29.夢の続きを 30.託された想い

27.救いの手は意外なところから①

 

 

 

 

弥生賞が終わった次の週、サニーは3日間学校を休んだ。

 

もともと若葉ステークスの後にいくらかの休日を設けるつもりだったのでトレーニングに出ないこと自体に問題はなかったが、学校まで休んでしまったことに宮下は不安を覚えた。

 

心配した宮下はサニーに連絡を入れたが何も返事はない。それどころか、携帯の電源を落とされてしまっていたので、宮下はより焦っていた。

 

「宮下さん!お疲れ様です!ドーベルから連絡がありました。サニーさんは部屋にはいるみたいです。ですが、何も話はしてくれないみたいで、ドーベルもお手上げみたいです…」

 

後ろから声をかけてきたのはユタカだった。

サニーからメジロドーベルと仲がいいことを聞いていて、その担当であるユタカにメジロドーベルづてで様子を見てくれるようにお願いをしていた。

 

「そうか…。すまないな。いろいろと迷惑をかけて。友達でも無理となると事務局に許可をもらって部屋に入るしかないか…」

 

宮下は自分と担当の問題に他人を巻き込んでしまったことに申し訳なさを感じる。

 

「自分は大丈夫ですよ。いつもお世話になってますから、このくらいなんてことありません。それより、サニーさんも心配ですが、宮下さんも心配ですよ。いろいろと好き勝手書かれてるようですが…」

 

ユタカが宮下の身を案じる。

 

若葉ステークスが終わり、しばらくしてからそのレースの記事が雑誌や新聞に記載された。

その記事の主題の一つに1番人気を背負ったサニーの敗戦とローテーションへの批判があった。

 

レース出走に関しての批判自体は宮下が予想していた通りのものなので、致し方なかったが、一部の記事には宮下の知名度のなさを逆手に取ったかのような適当な内容の記事が出回ったりもしていた。

 

「まあ、それはいいんだ…。僕みたいな知名度のないトレーナーの記事なんて事実だろうがウソだろうが誰の印象にも残らない。今一時の我慢さ」

 

「それはそうかもしれませんが…。近しい間柄としては面白くありませんよ…。僕やシンジさん、館野さんは宮下さんがそんな人じゃないと知っていますが、知らない人は記事だけを真に受けますから…」

 

淡々と返す宮下にユタカは少し寂しそうな表情を浮かべる。

 

「僕を想ってくれる人が0ではないというだけで、僕は救われているよ。とりあえず、直接会って話をすれば解決できるだろう。ユタカ、いろいろとありがとう。恩にきるよ」

 

「そうですか…。手伝えることがあったら何でも言ってください。自分は宮下さんの味方ですから」

 

「ああ、ありがとう」

 

後輩の気遣いに感謝する宮下。

心配をかけまいと笑顔で返すが、本当の笑顔には程遠く、悩みは深まるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

[ああ…。今何時なんだろう…]

 

布団に包まりながらサニーは携帯を探す。

ずっと塞ぎ込んでいたサニーは携帯の電源を落としていたため、時間感覚が麻痺していた。

 

サニーは月曜日、体調不良という理由で学校を休んだ。実際は若葉ステークスの敗戦のショックが大きく、直ぐには立ち直れなかったことが理由だ。

ただ、そんなことは言えないので仮病を理由にした。

 

若葉ステークスの敗戦はサニーにとってかなり大きなダメージだった。

 

若葉ステークスは重賞レースの下のカテゴリーに分類されるOPレースだ。

このクラスのレースで勝ち切れなかったのにGⅢ以上のレースで好走する自信など持てるはずもない。

 

ダービーまであと2ヶ月あり、可能性も決して0なわけではないのだが、サニーの中では夢への道はほぼ断たれてしまったも同然と思っているため、自信を完全に喪失していた。

 

それに加えて、サニーには宮下を謂れのない批判に晒してしまったことに対する罪の意識があった。

 

レース前にも宮下に対しての批判がいくらかあったため、レースに敗れた後はもっと批判されるだろうことはわかっていた。

しかし、レース後に掲載された批判記事はサニーの想像よりもずっと酷い内容で書かれていた。

 

[あぁ…。私のせいだ…。私が負けたからトレーナーさんが余計に悪者にされてる…。私なんてことしちゃったんだろう…]

 

自分のためを思って考えてくれたプランを些細な不安から生じたわがままによって狂わせ、あまつさえ、起きるはずのない批判に晒してしまったことを気に病んだ。

 

そうやって塞ぎ込んでいくサニーはルームメイトとの会話や友達との携帯でのやり取りすら億劫になる。

 

学校に行きたくない。誰かに会うのも嫌だ。会話もしたくないし、トレーナーさんになんて会えるわけない。

 

 

何もしたくない…

 

 

最終的には携帯の電源すら落とし、周りとの関わりを完全に絶った。

 

そんな状況が続いて3日が経った。

 

[もう3日も経ったんだ…。メールたくさんきてるな…。トレーナーさんからも…。でも、もうこうなっちゃったし、全部おしまいだよね…。今更何も出来ないよ…]

 

心配してくれるみんなの気持ちにありがたさを感じはしたが、だからと言ってもう一度頑張ろうという気力は生まれてこない。

 

[もともと無理な夢だったんだ。あんな無理な夢のためにトレーナーさんまで巻き込んで、私本当にバカ…]

 

 

スタートのミスがなければ

若葉ステークスに出なければ

弥生賞に勝てていれば

無理な夢なんて抱かなければ

 

トレーナーさんと出会わなければ

 

 

終わらない罪悪感のスパイラルはサニーをどこまでも深い闇に叩き落とす。

 

[もう辞めようかな…。夢は叶えられそうにないし、トレーナーさんのことも傷つけた…。もうここには居られないよ…]

 

 

 

トゥルルル トゥルルル 

 

 

 

サニーが超えてはいけない一線を越えようとした時、携帯が鳴った。

 

それは闇に呑まれかけているサニーを救う最後の希望の音だった。

 

 

 

 

 

 

 

28.救いの手は意外なところから②

 

 

 

「もしもし…」

 

サニーが電話に出る。

 

「サニー、久しぶりね。元気にしてるの?」

 

「うん…元気だよ。…お姉ちゃん」

 

声の主はルナスワローだった。

 

ルナスワローとサニーは歳の離れた従姉妹だが、頻繁に連絡を取り合うほどとても仲が良かった。

 

ただ、サニーがトレセン学園に入学するのと同じタイミングでスワローは就職したため、昔に比べると連絡を取り合うことがかなり減っていた。

 

「…。ウソね。その感じ。あなたが困っている時の感じだもの。何があったの?」

 

「…」

 

早々に空元気を見抜かれたサニーは黙ってしまう。

 

「その感じもそう。あんた何かしたわね?正直に話しなさい」

 

「…」

 

スワローが強い口調でサニーを問いただすが、サニーは黙ったままだ。

 

「先に言っておくけど、最近のニュースのことを知ってて私は電話をしているからね」

 

「わかった…。正直に話す…」

 

そう言ってサニーは事の経緯をスワローに話す。

思い出したくもない失態を振り返ることはとても嫌だったが、信頼できる人に真実を打ち明けられたことで少しだけ肩の荷が降りた気がした。

 

「あんた、なんてことしたの!!トレーナーさんにわがまま言って負けて、それで今勝手に塞ぎ込んでいるの!?信じられない、サイテー!」

 

スワローが声を荒げて怒る。

その様子にサニーは完全に萎縮してしまい、半泣きだ。

 

「本当にサイテー…。トレーナーさんにも悪いことしちゃったし…。私ここでやっていくのはもう無理だよ…。もう辞める…」

 

「はっ?何言ってるの?そんなの許さないよ!最後までやりなさい!」

 

サニーの弱気な発言にスワローはさらに怒る。

 

「で、でも…」

 

「『でも』じゃない!!こんな状況であんたが逃げれば、この『ウソ』が『本当』になる。そうすればトレーナーさんは全てを失うわ。あんたの夢を支えてくれたトレーナーさんをあんたは見捨てて逃げるの!?それでいいの!?」

 

「それは…」

 

スワローの叱責に対して、サニーがハッとする。

先程までの自分がいかに独りよがりな話をしていたかに気付く。

 

「それにあんたが夢を諦めてもトレーナーさんは諦めてないんじゃないの?あんたを信じて待ってるんじゃないの?」

 

「…」

 

「トレーナーさんはあなたの夢を認めて支えてくれるパートナーなんでしょ?トレーナーさんが戦う限り、あなたも戦うの。それがパートナーというものでしょう?」

 

スワローの口調が穏やかになり、サニーを諭すように話す。

 

「でも、これだけのことを私はしちゃったんだよ…。トレーナーさん、きっと許してくれないよ…」

 

「大丈夫よ。許してくれるわ」

 

「もし、許してくれても、今までのように信頼はしてくれないよ…」

 

「大丈夫。あなたへの信頼は変わらないわ」

 

「それでも私はトレーナーさんと元のようには出来ない…。私はトレーナーさんを見捨てたんだよ…。きっといつかトレーナーさんだって私を見捨てたいって思うよ…」

 

「思うわけないわ。絶対に見捨てたりなんてしない」

 

サニーの不安をスワローは即答で否定していく。

 

「なんで?お姉ちゃんは私のトレーナーさんのこと知らないでしょ?本当にそうしてくれるかなんて…」

 

「知っているわ。あの人は10年前に私の夢を叶えてくれた大切なパートナーなんだから」

 

「えっ?」

 

スワローから告げられた衝撃の事実がサニーの心を強く揺さぶった。

 

 

 

 

 

 

 

30.2人の想いを受け継ぐ

 

 

 

「えっ?本当に…」

 

驚くサニーはスワローに確認する。

 

「本当よ。宮下さんは私のトレーナーだった人。最後に会ったのはもう7年も前の事だけどね」

 

「そうだったんだ…。じゃあ、もしかして、お姉ちゃんが宮下さんをトレーナーさんにしてくれたの?」

 

「それは違うわ。確かに中崎先生に挨拶の電話をした時に『担当は?』って聞かれはしたわ。でも、私個人のお願いで担当を決めるなんて、他の子たちに失礼だからね。私は『あの子の夢を叶えてくれるトレーナーさんだったら嬉しいですね』と言っただけで宮下さんのことは言わなかった。まあ、そうなったらないいなとは思ったけど」

 

「そうだ。夏休みの前に私は中崎さんっていう人に声をかけられた。それで面接の時に『君の夢を教えてくれ』って言われて『ダービーに出たい』って言ったら『君に相応しいトレーナーがいる。無口だが、腕のいいトレーナーだ』って言って宮下さんに会わせてくれたの」

 

「そうだったのね。私は中崎先生からは何も聞かされなかった。だから、サニーが勝ったデビュー戦の記事を見て初めて知ったし、教えなかったことに何か意味があるのかなって思ったからサニーにも黙っていたわ。ごめんなさいね」

 

「ううん…。それは別にいい…。そうだったんだ…。ごめんなさい…。私、お姉ちゃんの大切な人を傷つけたんだね…。本当にごめんなさい…」

 

サニーは宮下とスワローの関係を聞かされるとより自分のしてしまったことを悲しみ涙した。

 

「それは仕方がないわ。あなたは何も知らなかったんだから。でも、そうだったとしてもあなたがしたことは許されることではないわ。しっかりと謝ってもう一度やり直しなさい」

 

「うん…」

 

それからスワローはサニーに宮下と過ごした学園生活のことを詳しく話してくれた。

 

宮下と出会い、夢を叶えたこと。

長い低迷期もともに戦い続けたこと。

そして、願いが叶わないまま別れなければならなかったこと。

 

スワローはサニーに現役時代のことを話すことは度々あったが、これほど赤裸々に話してくれたことはなかった。

スワローがどんな想いで夢を叶え、その後も走り続けたかを。

 

その話を聞いている時にサニーは思い出す。

学園への合格が決まったことをスワローに報告した時に喜ぶスワローが一瞬だけ険しい表情をしたこととその時の言葉を…

 

 

 

サニー、あなたにはそこで最後まで走り切る覚悟はある?

 

 

 

その時のサニーは『あるよ』と即答したが、この問いかけの意味にもっと深い意味があったのだと気付き、悔やむ。スワローの覚悟に対して自分の覚悟が如何に薄っぺらいものだったかを。

 

「そう。10年経ってもあの人は相変わらず、口下手なのね」

 

「そうなんだよね。だからトレーニング以外でまともに話したのは3ヶ月くらい経ってからだったよ」

 

「それは酷いわ。いつか私怒ろうかな」

 

いつの間にか宮下の今と昔の話に花が咲き、先程までの重い空気はなくなっていた。

 

「サニー。もう大丈夫ね。すぐに宮下さんに謝ってもう一度やり直しなさい。今度はあの人を最後まで信じてね。あの人はあなたの夢を必ず叶えてくれるから」

 

 

「うん、頑張る。トレーナーさんとお姉ちゃんの10年分の気持ちも引き継いで、私は必ず夢を叶えるよ!」

 

「そう…。ありがとう。あっ、そうだ!宮下さんにあったら聞いて欲しいことがあるの。頼んでもいい?」

 

「うん!いいよ!何を聞くの?」

 

「えっとね…」

 

 

 

 

 

 

宮下は学園事務局へと向かっていた。

サニーの部屋への入室許可をもらうためだ。

 

サニーと出会って8ヶ月。

ここまで築き上げてきたものがあるからこそ、なんとか説得をして続けさせてあげたい。

確かに躓きはあったが、希望はまだ消えてはいない。むしろ、宮下の中にはサニーをダービーへと導く道筋が見えていた。

 

 

 

 

君と共にもっと走りたい

 

 

 

 

トゥルルル トゥルルル

 

 

 

まもなく、事務局の窓口に着くというところで携帯が鳴る。

 

 

 

サニーブライアン

 

 

 

宮下の携帯に映し出された名前は待ち望んでいた人の名だった。

 

 

 

 

 

30.夢の続きを

 

 

 

待ち望んでいた人からの電話を宮下はすぐに取る

 

「もしもし、サニー。大丈夫か?会って話したいことがあるんだ。今日、これから会えないか?」

 

「トレーナーさん…。心配をかけてごめんなさい。私も話したいことがあります。今日の夜7時に初めてトレーナーさんと食事をしたレストランで会えませんか?」

 

「えっ?あ、ああ。わかった。じゃあ、そこで会おう」

 

「ありがとうございます。じゃあ7時にレストランで会いましょう。じゃあ、また後で。失礼します」

 

待ち望んだ会話はものの1分ほどで終わってしまった。

 

一応、会う約束ができたこと自体には安堵したが、この会話では何も進展は出来なかった。

 

それから待ち合わせの時間まで宮下は気が気ではなかった。

 

[サニーの話したいこととはなんだろうか。もしかして、学園を辞めると言い出すんじゃないか…?それとも移籍するのか?はたまた…]

 

話されることを予想して、説得するためのシュミレーションを頭の中で幾度となく行う。

 

[もし、サニーが学園を辞めると言ったらなんとしてでも説得しよう。もし、移籍をしたいと言ったら素直に身を引こう。そして、もし自分のもとで走り続けてくれると言ったら…]

 

そうして、いろいろなことを思案しているうちにあっという間に待ち合わせの時間が近くなっていた。

 

宮下は急いで支度をしてレストランに向かう。

バタバタとしたがなんだかんだで待ち合わせの15分程前にレストランに着く。

これ程までに緊張したことは妻の実家に挨拶に行った時以来だろうか。

 

予約した席で待つ宮下はサニーが来るのを待った。そして…

 

「トレーナーさん!お待たせしました!」

 

「ん?ああ、サニー!って、どうしたんだ?その格好は…」

 

後ろから声をかけられ振り向くとそこには大人びた服に身を包むサニーの姿があった。

 

「前にレストランに来た時は制服で、全然お店の雰囲気に合ってなかったから、今回はお店の雰囲気に合いそうな服にしてみました。どうですか?変じゃないですか?」

 

少し恥じらいながらサニーは服の感想を宮下に聞く。

 

「ああ。とても似合っているよ。キレイだ」

 

教え子に向かっていうセリフではないなと内心では思いつつ、いつもと違う雰囲気に身を包んだサニーを宮下は褒める。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

宮下の言葉に嬉しそうにしながらサニーが椅子に座る。

 

「…」

「…」

 

2人とも席には着いたが、少しの間、会話が止まる。

 

「あの…。トレーナーさん。心配をかけてごめんなさい。私が間違っていました。せっかく私のことを考えてくれていたのに、私のわがままで酷い目に遭わせてしまって、本当にごめんなさい…」

 

「いや、いいんだ。あれは僕の判断が軽率だった。サニーが悪いわけじゃない。それにトレーナーをやっていれば、あれくらいのことはよくある。気にしないでくれ」

 

謝罪するサニーを宮下は慰める。

 

「…。トレーナーさんは優しいですね。こんな私でも守ってくれるなんて…。それなのに私は…。私さっきまで学園を辞めようと思ってました。ダービーに出れそうにないし、トレーナーさんには酷いことをしたし、もうここにはいられないって考えてました」

 

「…」

 

「でも、お姉ちゃんから電話があって怒られたんです。『トレーナーさんを見捨てて逃げるのか?』って。『トレーナーさんが諦めてないのに自分だけ諦めるのか?』って」

 

[スワロー…]

 

突然出てきたスワローのことに少しだけ驚く。

 

「お姉ちゃんは私に言いました。『あなたのパートナーはあなたの夢を必ず叶えてくれる人だから最後まで信じて』って」

 

「そうか…」

 

もう自分1人ではどうにもできない。

それほどまでに追い詰められた状況を助けてくれたのが、かつてのパートナーであることに宮下は言葉にならない感激を覚えた。

 

「だから私は私の夢とお姉ちゃんの想いに応えるためにも戦い続けます。あの…一度逃げ出した私ですが、トレーナーさんはまた私と一緒に戦ってくれますか?」

 

目に涙を浮かべながらサニーが真っ直ぐ宮下を見つめて告げる。

 

「ああ、僕も同じ気持ちだ…。もう一度頑張ろう!君の夢を叶えるために一緒に戦おう!」

 

「はい…。よろしくお願いします…」

 

涙を拭いながらサニーは宮下の言葉に笑顔で応える。

 

「ところでトレーナーさん。私にずっと隠し事をしていましたね?」

 

感動的なやり取りから一変して、涙を拭って笑顔が見えた瞬間にいつもの小生意気なサニーに切り替わる。

 

「…。ああ、そうだな…。別に隠す必要もなかったんだが、いつ話をしようかと迷ってはいたよ。サニーのお姉さん、ルナスワローは僕の元教え子だ。彼女は僕の大切なパートナーだった子だ」

 

懐かしむような優しい口調で宮下はスワローとの関係をサニーに告げた。

 

「その話聞かせてくれませんか?」

 

「ああ」

 

宮下はスワローとの思い出をサニーに話し始めた。

 

 

 

 

 

 

33.重なる夢、託された想い

 

 

 

 

「そっか…。やっぱりお姉ちゃんは凄いな…。それなのに私はこんなことで逃げ出そうとしたなんて本当に弱いな…」

 

宮下の話を一通り聞いたサニーがまた涙を流す。

スワローから聞いた話と宮下から聞いた話それぞれを聞いたからこそ、2人が強い絆で結ばれていたことに感動し、如何に自分が情けないかを実感したからだ。

 

「いや、あの子は本当に強い子だった。あれ程強く心を持てる子はまずいないだろう。本当に凄い子だったよ。僕はあの子の担当になれたことを誇りに思うよ」

 

そうスワローを評する宮下の言葉には計り知れない敬意が込められてる。

 

「お姉ちゃんも言っていました。トレーナーさんのもとで走れたことは誇りだって。あんなに心優しくて頼りになる人はいないって。だから、ダービーの後に一度も勝てなくて、トレーナーさんの凄さを証明できなかったことをとても後悔しているって言っていました」

 

「ああ、本当にあの子は強い子だ…」

 

スワローの言葉をサニーから受け取り、彼女がどんな想いを胸に走っていたかを知り、改めてスワローに感謝した。こんな自分のために走り続けてくれたことを。

 

「私もお姉ちゃんみたいに強くならないと!あっ、そうだ!お姉ちゃんから頼まれていることがありました。宮下さんに会ったら聞いて欲しいって言われてたことが!」

 

「なんだい、それは?」

 

「私の手紙のお願いを覚えていますか?と聞いといてって言われました」

 

「ああ…。覚えているよ…。忘れるわけがないさ。あの手紙の願いが僕の今までの支えだったんだ」

 

「手紙ってなんですか?お願いってなんですか?お姉ちゃん結局教えてくれなくて、『宮下さんに聞いて』としか言わないから…」

 

サニーは興味深そうに手紙のことを聞く。

 

「手紙は僕が入院していた時にスワローがくれた手紙のことさ。僕に向けた感謝の手紙だ」

 

「うわー、やたらロマンチックじゃないですか!それで、お願いは?」

 

サニーはますます食いつく。そのテンションはさながら恋バナに食いつく女子のテンションだ。

 

「手紙の最後に2つのお願いがあった。一つはトレーナーを続けて欲しいという願いだった。これは僕がもう一度トレーナーをやろうと決めるきっかけになった。まあ、一応、なんとか叶えてはいるのかな」

 

「おー、もう一つは?」

 

サニーが待ちきれないとばかりにもう一つのお願いを聞く。

 

「もう一つはダービーの舞台に帰ってきて欲しいという願いだ。でも、まだこの願いは叶えられていないな…」

 

どこか申し訳なさそうに宮下はもう一つの願いをサニーに伝える。

 

「うわー!わかりました!私、絶対にその願いを叶えます!私の夢にはお姉ちゃんとトレーナーさんの想いも詰まっているんだなって思ったら、私ますますやる気が出てきました!」

 

サニーは物凄く気合の入った声で宣言する。

 

「ありがとう。一緒に頑張ろう」

 

「はい!頑張ります!」

 

笑顔が満ち溢れる2人の間には、先程までの重苦しく悲しみに満ちた雰囲気はなくなっていた。

 

皐月賞まであと2週間、ダービーまであと2ヶ月と迫った春の日。この日を境にサニーと宮下の奇跡の物語はクライマックスへ向けて一気に動き出す。

 




ウマ娘とトレーナーが織りなすに物語は今の人々だけでなく、過去から受け継がれる想いも密接に絡みます。
先代の人々が成せなかった想いや果たして欲しい願いを後代の人々が受け継ぎ、成し遂げる。そんなドラマもまたウマ娘の魅力かなと思います。

史実のサニーブライアンの物語はその部分がとても濃く出ていますね。
調教師、生産者、騎手、馬主、様々な人々の想いによって成し遂げられたサニーブライアンのクラシック二冠は数多の競馬のドラマの中でもとても魅力的な物語だと思います。
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