それこそが事実   作:スタイニー

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いよいよ、このコンビの躍動期に入っていきます。

自分のこだわりとして『史実の映像と実況を元にしたレース描写を描く』ことを意識しています。

が、『たぶん、そうじゃない』とツッコミどころがあったとしても、生暖かく読み流してください。


31.皐月賞へ 32.クラシック第1戦 33.予期せぬ事態 34.追い風 35.想いを力に変えて

31.皐月賞へ

 

 

 

続きまして、サニーブライアン選手、抽選をどうぞ

 

 

 

それから日は経ち、皐月賞4日前。

宮下とサニーは皐月賞の枠順抽選会の会場にいた。

 

あれから2人の関係は持ち直し、改めて皐月賞への出場を決める。

 

その間に起きたサニーの不登校騒ぎは再びサニーが元気な姿で登校し、友達に謝ることで一応の収束をみた。

 

とはいえ、誤解が解けたのはサニーに近しい人達だけなので、世間的な宮下の評価が変わることはなかった。

 

しかし、宮下とサニーは周囲の声を気になどしない。結果で見返すと覚悟を決めているので周囲の声はたわいのないものでしかなかった。

 

「サニー頼むぞ。外なら出来るだけ外の方がいい。一番いいのは18番だ」

 

「はい…引けるように頑張ります…。ごめんなさい…私が下手くそなばっかりに…」

 

力強く送り出そうとする宮下に対してサニーはどこか、弱気な部分を覗かせる。

 

「大丈夫だ。あのアドバイスはサニーの力を一番引き出せる方法だ。何も恥じることはないよ」

 

「はい…。行ってきます…」

 

そう言ってサニーは抽選台に向かう。

その歩く姿は晴れやかな会場には似つかわしくないほど自信なさげだが、サニーがそうなってしまうのには理由があった。

 

関係を持ち直してから皐月賞までの2週間はスタートの練習を重点的に行った。前走・前々走の失敗を繰り返さないためだ。

 

しかし、練習の成果は思ったほど上がらず、本番に不安を残してしまう。

 

本番を間近に控え、不安要素が残る現状に宮下は焦っていたが、抽選会の2日前に館野が2人の元を訪れ、アドバイスをくれた。

 

「スタートは出足にすべてを賭けるのではなく、第1コーナーまでの直線全てを先頭の確保に費やすつもりでいきましょう。普通なら道中に支障をきたすのでやりませんが、サニーちゃんのスタミナと安定した精神力があれば問題ないはずです」

 

館野がくれたアドバイスはサニーの特性を活かしたサニーだからこそできる方法だった。

 

「なるほど、その発想はなかった。確かにいいかもしれない。何か意識するポイントはあるかい?」

 

「そうですね、スタートのイメージは"飛行機の離陸"ですかね。第1コーナーまでの直線を"滑走路"と思ってください。最初の1完歩でスピードを出す必要はありません。徐々にスピードを上げて第1コーナーに入る前に先頭を確保出来ればいいので、スタート時の踏み込みや反応にミスが起こってもリカバリーが効きます」

 

「なるほど…。リカバリーも効くのか。それはいい」

 

館野のレクチャーを受け、宮下は自分には思いつかない発想に感嘆の声を上げる。

 

「ただ、唯一のネックが枠番です。この方法は内枠では出来ません。ですから、枠番は必ず外枠でないといけないです。これだけは運が絡みます」

 

館野が少しだけ申し訳なさそうにウィークポイントの話をする。

 

「そればかりは仕方がないだろう。こちらでなんとかするしかない懸念材料だ。気にしないでくれ。十分にありがたいアドバイスだ」

 

申し訳なさそうにする館野を宮下は励ます。

 

「まあ、そこらへんはお二人の日頃の行いの良さに賭けるということでお願いしますね。あとはサニーさんの頭脳と宮下さんの頭脳で道中のことは補ってください。影ながら応援していますよ。頑張ってくださいね」

 

「ああ、館野君のアドバイスを活かしてみせるよ。ありがとう」

 

館野からのアドバイスは宮下にとってかなりの名案だったためかなり上機嫌だった。

 

ただ、サニーは少し落ち込んでいた。

サニーにとってはこのアドバイスが自分の実力不足の証明でもあったからだ。

あれだけの決意をしておきながらこの体たらく。

サニーの中では嬉しさよりも情けなさが勝っていた。

 

そんな前日談がある中での今日の抽選会。

サニーは登壇し恐る恐る箱の中に手を入れる。

 

[出来れば大外…。出来れば大外…。お願い18番出て!]

 

自分たちの運命を決めるかもしれない抽選。

サニーは覚悟を決めて札を拾い上げる。

 

 

 

18

 

 

 

サニーが拾い上げた番号は願い通りの18番だった。

 

「やった!18番です!やったー!あっ…」

 

余りにも理想的な番号に喜びを爆発させるサニー。しかし、会場は静まり返っていて、冷めた笑い声すら聞こえていた。

 

その光景を見たサニーは自分が舞い上がってしまったことに恥ずかしさを感じ、札を係員に渡して、逃げるように宮下の元へと向かう。

 

[逃げ宣言をしての大外枠。まあ、普通に考えれば周りの反応が当たり前だ。しかし、これは僕らにとってはラッキーだ。枠番の問題がなくなって道中のことだけに注力ができる]

 

宮下は冷静な振る舞いを見せてはいたが、内心ではかなり喜んでいた。

 

「うう…恥ずかしい。トレーナーさ〜ん。18番取れました…」

 

逃げるようにサニーが宮下の元に帰ってきた。

 

「ご苦労さん。素晴らしい引きだ。サニーの日頃の行いのおかげだね。ありがとう」

 

宮下がサニーの引きの良さを褒め、労う。

 

「そうですよね!私の日頃の行いの成果ですよね!いやー、私が健気にトレーナーさんのために頑張っている姿を神様は見てくれているんですよ!やっぱり私エライ!」

 

公の場なので声のボリュームはかなり抑えているが、宮下からのお褒めの言葉を貰ったサニーが調子に乗る。

 

「あー、はいはい。偉かったねー」

 

「ちょ、反応酷くないですか!?」

 

その光景を見た宮下は先程までの罰の悪さと恥ずかしさはどこに行ったんだと問いたくなるがグッと堪えて、クールにあしらいながら残りの抽選会をやり過ごした。

 

 

 

 

 

 

32.クラシック第1戦

 

 

 

皐月賞当日。

 

今年に入って4回目。通算で5回目の中山レース場。宮下とサニーは慣れた感覚で中山レース場内を歩く。

 

違うことがあるとすれば、レース場の熱気だ。

今日はクラシック第1戦の皐月賞。

5万人以上の観客の熱気が出場するウマ娘たちの感覚を研ぎ澄ます。

 

「サニー。大丈夫か?」

 

「はい!大丈夫です!」

 

宮下の言葉にサニーが元気よく答える。

 

「今日の芝の状態は弥生賞の時より悪い。作戦通りにスタートを決めて、4コーナーを先頭で回れれば芝状態も手伝って十分に勝ちを狙えると思う。善戦狙いじゃなく、勝つつもりで自信を持っていこう!」

 

「はい。行ってきます!」

 

伝えるべきことを伝え、宮下はサニーを送り出す。

その姿には出会った当初のひ弱な姿はなく、サニーが確かに成長していることを感じさせる。

 

今年の皐月賞の1番人気はここまで6戦3勝連帯率100%のメジロブライト。

デビュー当初こそ低評価だったが、そこは名門メジロ家。しっかりと地力をつけていて前走の共同通信杯もレコード勝ちしており、実績は1番人気に相応しい。

 

2番人気はランニングゲイル。

前走の弥生賞の勝ちっぷりを評価されての2番人気。

 

今回の皐月賞はこの2名が頭一つ抜けた人気を集めていてそれ以下は混戦状態だ。

 

サニーは前走の敗退の影響と宮下に対する批判もあり11番人気とかなりの低評価だった。

 

ちなみに春先に注目されたサイレンススズカは弥生賞の失敗が尾を引き、皐月賞には出場できず、ダービーに狙いを絞っていた。

 

混戦を極める今年の皐月賞。

ファンファーレが鳴り、場内の騒めきが最高潮に達する。

 

「サニーブライアンさん!ゲートに入ってください!」

 

「はい!」

 

係員に促されサニーはゲートへと入る。

 

「すぅー、ふー。よし!」

 

サニーはゲート内で大きく深呼吸をして、目を閉じる。観衆の熱気が耳に残るが、自分の心はとても落ち着いている。

 

 

ここまでいろいろなことがあった。

辛いことも悲しいことも悔しいこともあった。

でも、全てを乗り越えて今ここに立っている。

今日はまだダービーではないけれど、ここまで来れたのは間違いなくあなたがいたからだ。

勝てるかどうかはわからない。

でも、今日はあなたに教わったこと、あなたと作り上げてきたことを全て出し切ることを誓います。

 

あなたが育ててくれた私をみんなに見せるために。

 

 

 

第57回皐月賞、態勢完了!

 

 

ガシャン

 

 

[ちょっと力んじゃった…。でも大丈夫!ここから一気に行く!]

 

 

ゲートが開いてスタートが切られました!

メジロブライトがちょっと後ろからという形になりそうです。下がったのかそれとも下げたのか。

 

先行争いですが、さあ誰が行きますか!

外からサニーブライアンが行った!!

 

 

おー

 

 

サニーブライアン逃げ宣言!

サニーブライアンが果敢に先頭に立っていきました!

 

 

 

スタート直後こそ寄れてしまったが、サニーは体勢を立て直し、一気に内へと切り込んでいく。

その大胆な切り込みに会場からは歓声が上がる。

 

 

 

その後ろにテイエムキングオー、外目をついて13番ゴッドスピード。そして、ビッグサンデーはちょっと持っていかれる感じであります。

 

メジロブライトは最後方。

メジロブライトは最後方からレースを進めていきます!

 

 

 

[よし、先頭を確保できた…!?]

 

まずまずのスタートを決めたサニーは予定通り第1コーナー手前までに先頭を確保するつもりでレースを進め、先頭に立つ。

 

しかし、予想外なことに2番手にいたテイエムキングオーがその横から先頭を奪い返してきた。

 

[まずい、先頭を取られた…。いや、待って…。大丈夫かも…。あの子、掛かってるだけだ]

 

プランを崩されたサニーは一瞬動揺するが、すぐさま冷静に相手の表情などを観察し、"意図しない逃げ"であることを見抜く。

 

[たぶん、あの子はレースを作れない。これなら2番手でもレースを作れるかな]

 

サニーの見極めは素晴らしかった。

実際にテイエムキングオーは掛かってしまっただけで意図した逃げではない。

行き当たりばったりの逃げではレースを作ることはできない。それならばとサニーは無理に先頭を奪い返すことなく、2番手からレースを作る"実質逃げ"に切り替える。

 

[想定外の2番手だが、サニーは落ち着いているな。先頭を一旦捨てて、タイムキープに気を回している。いい判断だ]

 

隊列が落ち着き、先行集団が第2コーナーを回り、向正面の直線に入る。

 

先頭は依然としてテイエムキングオーが引っ張る。その1バ身ほど後ろにサニーブライアンが位置し、そのさらに1バ身後ろに3番手のゴッドスピードが位置をとるかたちとなった。

 

注目のランニングゲイルは中団後方から。

メジロブライトは相変わらずの最後方でレースが進んでいく。

 

 

 

今1200を通過!

1分13秒の平均ペース!

 

 

 

レースは淡々とした流れのまま、大きな動きもなく後半戦へと入っていく。

 

 

 

 

 

33.予期せぬ事態

 

 

 

[はっ、はっ、はっ。1000mのハロン棒…。たぶん1ハロン12秒でラップは刻めてると思う…。後ろからのプレッシャーはないし、いい展開だよね]

 

向正面を走るサニーは周囲を一旦確認し、状況を整理する。

 

2番手を走るサニーにはかなり余裕があった。ペースもスローなため、すぐ後ろに後続勢がいるものの、先行するサニーたちに圧力を加えてくる選手がいるわけではないので、体力・精神力ともにさして消耗なく走れていた。

 

[1000mは1分1秒か…。さすがだサニー。完全に君のペースだ!]

 

サニーは何事もなく走っているが、実は前半戦のペースメイクは宮下も唸るほどの完璧なものだった。

 

[この状況、3番手以下は完全に後方マークだ。しかも後方勢はお互いが牽制しあって動けないといったところか。さて、前残りの条件が揃いつつあるが…。サニー、どこで仕掛ける?]

 

状況は有利。後は仕掛けどころさえ間違えなければ。宮下の中に期待が膨らむ。

 

[もうすぐ、3コーナー…。そろそろ仕掛けたいけど…。あれっ?前の子が落ちてきた?]

 

宮下の考えと同じく仕掛けどころを探すサニー。

すると先頭を走っていたテイエムキングオーの異変にサニーが気付く。

 

 

 

テイエムキングオー失速

 

 

 

掛かり気味だったテイエムキングオーのスタミナが突然切れる。

 

それを見たサニーは無理にペースを上げることもなく、入れ替わるように3コーナー手前で先頭に踊り出ることができた。

 

[ラッキー!これなら3コーナーを先頭で回れる!あの子を抜いたらスパートしよう!]

 

サニーは勝負所を決める。

 

 

 

先頭からシンガリまでは12・3バ身といった展開ではありますが、先頭はまたサニーブライアンに替わっています。サニーブライアンに替わっている。

その後ろからは13番ゴッドスピード。

さらにその後ろからはフジヤマビザン。

外からはキタサンフドー。

 

 

 

サニーのスパートに合わせてせて先行勢が徐々にペースを上げていく。

 

 

 

さあ、外の方から5番のオースミサンデーも上がってきた!

そして、そしてメジロブライトも外目を突いてきた!ランニングゲイルも来ている!

 

 

 

そして、前の動きを見て本命の後方勢が満を持して動き始めるが…

 

「失速した子、邪魔っ!」

 

後方勢に予期しない障害が立ちはだかる。

失速したテイエムキングオーがさらに失速したことで後続勢にとっての"壁"になり、必要以上に外を回らされる事態に陥る。

 

その被害を一番に受けたのはランニングゲイルだった。

 

弥生賞と同じような捲りを予定していたが、前回よりも位置取りが内側になってしまい、失速したテイエムキングオーに前方を塞がれる。

 

[くそっ!最短経路を塞がれた…。仕方がない、大外へ…!?まずいっ!外にも出れない!」

 

しかも、外目からの進出プランに切り替えようとした瞬間、大外から先に上がってきたメジロブライトによって外への持ち出しも塞がれてしまう。

 

不運があったとはいえ、それは明らかな自滅だった。

 

 

 

さあ、4コーナーをカーブして直線コース!

 

 

 

[よし!4コーナーに先頭で入った!ブライトちゃんもゲイルさんもまだ来ない。行けるかも!]

 

狙い通りの四角先頭。

レースは最後の直線へと入る。

 

 

 

 

34.追い風

 

 

 

さあ!サニーブライアン先頭だ!

3バ身のリードがまだある!

サニーブライアン先頭!まだ3バ身のリード!

 

 

 

[よし!行けるぞ!サニー!]

 

眼前に広がる光景は宮下が"理想"として思い描いた光景に限りなく近い。勝利が手の届くところにあることを感じた宮下の応援に力が入る。

 

[コーナーが終わった!あと300!持って!私の脚!]

 

サニーは宮下も太鼓判を押す無駄のないコーナリングで4コーナーを回り、いよいよ残すは直線のみとなる。

サニーも宮下と同じく勝利が手の届くところにあることを感じ取る。

 

[さあ、ここから参りますわ!]

 

 

 

さあ!外からは外からはメジロブライト!

メジロブライト懸命の追い込み!

 

 

 

しかし、そこはG1皐月賞。まだ予断は許さない。

3・4コーナーで外を通って中団までポジションを押し上げてきていたメジロブライトがスパートの経路を確保して襲いかかる。

 

それ以外にもオースミサンデー、シルクライトニング、遅れながらもランニングゲイルらがサニーを捉えるべく追い込みを開始する。が…

 

[よし、ここから!]

 

 

 

バキッ!

 

 

 

[あっ、痛いっ!あっ…脚が…]

 

[オースミ様?あっ、あわわわ!]

 

 

メジロブライトがさらにギアを上げようとした瞬間、少し前を走るオースミサンデーが足を引きずり、急激な後退をする。

 

 

 

 

オースミサンデー故障発生

 

 

 

 

幸い接触こそしなかったが、メジロブライトはその煽りをもろに喰らってしまい、ほんの一瞬ではあるが、立て直しに時間をとらえてしまう。

 

二度目の不利。

メジロブライトからすればこれほどの不運はなかった。それでもメジロブライトは諦めない。

再度追い上げを図るその末脚はさすがは名門メジロ家という素晴らしいものだった。

 

[あと100!行け!動いて!前に…行かないと…]

 

大外でアクシデントがあったが、その影響を受けていない選手からの凄まじいプレッシャーがかかる中、サニーにも正念場が訪れる。

 

ここまで比較的芝の荒れていない最内コースを通っては来たものの、ついにサニーにも芝状態の悪さが牙を剥く。

 

残り100m。レースのフィナーレが近づいていた。

 

 

 

 

 

 

35.想いを力に変えて

 

 

 

[サニー…。頑張れ…。あと少しだ…]

 

見守る宮下もわかっている。ここまで粘ってきたサニーが限界を迎えつつあることを。

 

先頭こそ奪えなかったものの、それ以外は理想通りのレース構築が出来た。そして、選手全員が後方への警戒を意識しすぎて前へのプレッシャーがかけられない状況が追い風になる。しかも、有力選手たちに起きた2度の不利がそれをより強固なものにした。

 

様々な幸運に導かれ、残り100m地点まで先頭を維持してきたが、ついにその恩恵は底をついた。

サニーに残された力はもうなく、宮下の作戦も意味を成さないゾーンに入っている。

 

宮下は祈るしかなかった。

 

[脚に力が入らない…。前が歪む…。歓声も聞こえない…。ああ、もうダメだ…。せっかくここまで来たのに…。あと少しなのに…。ごめんなさい…]

 

勝ちたい気持ちはある。勝利を諦めたくもない。

ただ、体がついてこない。どんなに力を振り絞ろうとも、どんなに脚を前へ運ぼうとも、ゴール板が近づいてこない。

 

もう諦めるしかないのか…

 

 

 

サニー!大丈夫!あなたは負けない!

 

 

 

[あっ、お姉ちゃんの声…。そうだ、私は行かなくちゃ…。あの先に私とお姉ちゃんの夢がある!ここまで来たんだ!諦めてる場合じゃない!]

 

いるはずのない人、聞こえるはずのない声。

しかし、サニーには聞こえた気がした。

そして、その声を聞いた瞬間にサニーの視界が、力が戻る。

 

 

間を割ってきた!間を割って9番のセイリュウオー!間を割ってセイリュウオー!

シルクライトニングも来ている!

 

 

しかし、先頭は!

なんと!

サニーブライアン逃げ切った!!!

 

 

 

迫る後続。脚色の違いは歴然だった。しかし、ゴール板をいち早く通過したのはサニーの体だった。

 

 

 

第57回皐月賞は大波乱!

 

なんと!勝ったのはサニーブライアン!

担当は宮下直治!

皐月賞初出場・初制覇!

 

勝ちタイム2分2秒0!

上がりの3ハロン36秒5!

 

 

 

[勝った…。勝てたのか…]

 

善戦出来ればいい。そんなつもりはなかった。

だから、勝つつもりで皐月賞の作戦を練った。

しかし、いざ勝てたことがわかると信じられなかった。

 

残りの100mは諦めるしかない状況だった。

しかし、サニーは先頭でゴールを通過していた。

 

何が起きたかはわからない。

でも、確かにサニーが先頭だった。

喜びよりも驚きがまさり、勝った実感が湧かない。

 

「宮下さん。お疲れ様でした。おめでとうございます。今回は我々の完敗です」

 

声をかけてきたのは奈瀬だった。

弥生賞と同じシチュエーションだったが、今回は勝者と敗者の立場が逆転している。

 

「あ、ああ。ありがとう。なんだかまだ実感が湧かないな…。道中はかなり展開に恵まれていた。実力通りとは言えないよ」

 

奈瀬の言葉を受け、少しだけ勝利の実感が湧いたが、レース内容を客観的に振り返られる冷静な自分がそこにはいた。

 

「そんなことはありませんよ。僕たちこそ、本当は宮下さんのようなレースがしたかったんですから。あなたの担当は本当に強かった。とはいえ、次のダービーでは必ず借りを返しますよ」

 

謙遜する宮下に対して奈瀬は惜しみない賛辞を送りながらも、逆襲を誓う闘志をみなぎらせる。

 

「ああ。僕たちも皐月賞ウマ娘として恥ずかしくない走りを見せるよ。またダービーで」

 

「ええ。ではまた」

 

そう言って奈瀬は立ち去る。

 

「またダービーで、か。勝ったんだな僕らは…」

 

宮下は自分が口にした言葉でようやく勝利を実感することが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

[ハッ、ハッ、ハッ…。ダメだ…。本当にもう何も残ってない…]

 

全身が凄まじい疲労に襲われ、サニーは膝をつく。その光景は3週間前と全く同じだ。

 

[でも、勝ったんだ…。私は勝った…。やったよお姉ちゃん、トレーナーさん!]

 

しかし、3週間前とは違う部分がある。

確信を持って見上げた先に18番の文字が掲示板の一番上にあるのだ。

 

[キツかった…。もう何度も走ったはずなのに、こんなに長い直線は初めてだ。でも、勝てたんだよね。夢じゃないよね]

 

懸命に脚を動かせどゴールがなかなか近づかない。今まで走ってきた中で一番長い直線に感じた。

 

そして、あと100mの地点で力尽きたはずだった。

しかし、どこからともなく聞こえたスワローの声が聞こえた時、一瞬だけ力が戻った。

自分でもわからない不思議な出来事と感覚だった。

 

「サニー!よくやった!おめでとう!」

 

遠くからの声に反応して、サニーが目を向ければ、そこには宮下の姿があった。その姿を見て、この声が幻聴ではないとすぐに理解する。

 

「トレーナーさん…。やりました…。勝てました…」

 

息を切らしながらも、満面の笑みでサニーは宮下を迎える。

 

「最後の直線は本当によく粘ってくれた…。やはり、君は凄いな…。僕の想像よりも上を行ってくれた。おめでとう」

 

労う宮下の表情は今までに見たことがないほど、喜びに満ちていた。

 

「最後の100mでお姉ちゃんの声が聞こえたんです。そしたら少しだけ力が戻りました。お姉ちゃんが後押ししてくれたんだと思います」

 

サニーは自分の身に起きた不思議な出来事を宮下に伝える。

 

「そうか…。スワローが力をくれたのか…」

 

その言葉を聞いた宮下は感慨深い表情で一瞬だけ遠くを見た。

 

「これでお姉ちゃんの願いは2つとも叶えられましたね!それに私の夢も!」

 

「ああ。次はダービーだ…。10年もかかってしまったが、スワローとの約束がようやく果たせる。サニーのおかげだ…。本当にありがとう…」

 

ようやく果たせたあの日の約束。

辛く長かった10年間が報われた瞬間だった。

 

 




何度か皐月賞のレース映像をYouTubeやニコ動で見返していますが、まず目に付くのは出足の加速と大胆な切り込みですね。
実際の映像もかなり歓声が湧いていて、かなり衝撃的だったんだなと思います。

次に目に付くのはサニーブライアンの最終コーナーのコーナリングの美しさですね。正に人馬一体といえる美しいコーナリングにこのコンビの実力が垣間見えます。

そして、最後の粘り。
脚色は完全になくなっていました。
でも、サニーブライアンは逃げ残りました。
実際は違うのかもしれません。
でも、最後の一押しに関係者全ての想いの後押しがあったと私は思いたいのですが、みなさんはいかがでしょうか?
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