「呪イアツメ」のその後、橘希華はどうなったのかを書きました。
その日、橘希華は「ギャラリー」の仕事で、サクリエルを連れてどこかに向かっていた。
隣町、八見市にあるホラーハウスの呪いを祓ってほしいという。
このホラーハウスはそれ自体が
希華の銃を使えば簡単に霊は倒せるという。
希華はいつものように特殊な銃を持ち、デッキをバッグにしまい、ホラーハウスに向かった。
赤茶色の屋根と、クリーム色の壁をした、二階建ての庭つき一軒家。
どう見ても隠世に見えないが、これは擬態しているからだという。
ホラーハウスの中は、案外それほど、暗いわけではなかった。
彼女は慣れているのか、余裕で家の中を探索し、霊を探して撃とうとする。
元凶を倒して帰って給料を得よう、と希華は思った。
数分後、彼女は標的の霊をあっさり見つけ、迷う事なく銃の引き金を引いた。
――それが、彼女の人間としての最後の光景だった。
気がつくと、希華の視界は狭くなっていた。
いや、自分が別の姿になってしまったというのが正確だろう。
パニック状態になった希華は、只管に鳴いたが、声は届かなかった。
仕方なく希華は跳んでホラーハウスに改めて入り直したが、小さくなったため入るには一苦労。
「グエッ!?」
ようやく入った時にも、ペン立ての中身にぶつかりそうになり、希華は慌てて避ける。
そんな中、少女の「大きな」手が床に転がったペンを集め、ペン立てに入れて机に戻した。
希華は少女の手に慌てて飛び上がると、少女は「きゃっ、蛙!」と叫び声を上げた。
当然、希華と少女の第一印象は最悪であった。
「グエグエグエ……」
「やだ、家に蛙が入ってきてる! お母さん、追い払って!」
「分かったわよ。ほら、蛙さんはお家に帰りなさい!」
「グエグエ、グエグエグエグエ~!」
どうやら希華は霊に蛙にされてしまったらしい。
蛙になった希華は、そのまま少女の母親につまみ出されてしまった。
「グエ!」
つまみ出された希華は、ホラーハウスから追い出されてしまった。
あの様子からすると、二度とホラーハウスに入れてくれないだろう。
蛙になってしまった自分も情けないが、希華はどうしてもあの霊を許せなかった。
しかし今は銃を使えず、言葉が通じなかった。
「グエグエグエグエグエ!」
希華は必死に鳴き声を上げて助けを求めたが、
こんな場所に助けてくれる人がいるわけがないと、希華は泣きそうになった。
その時、一人の少女が何かに気付いて、ひょいと自分をつまみ上げた。
「グエ!?」
「あら、こんなところに蛙がいるなんて珍しいわね」
「どこかから、迷い込んできた?」
「……そうかもしれないわね」
二人の少女は黒髪で、顔立ちと身長はよく似ている。
恐らくは双子、といったところだろう。
「私は宝城沙羅、こっちは」
「宝城
二人の少女は沙羅、
この二人なら、蛙の自分を受け入れてくれるだろうと思った。
しかし、希華は沙羅に何か特別な力があると思っており、逆に樹を強く信頼した。
こうして、希華は、宝城姉妹のところにしばらくの間、お世話になるのだった。
しばらくの間、希華は蛙の姿で八見中学校に通う事になった。
今は窓際の、自分を信頼している樹のところにいる。
樹は蛙になった希華を気にかけており、希華もまた彼女を心から信じていた。
「グエ、グエ……」
「蛙なのに、何だか人間みたい」
「グエグエグエ!」
元は人間であります、と言いたいが、樹には言葉が届かなかった。
「でも、一生懸命だって事は、私には分かった。傍にいてくれるだけで嬉しいから」
「グエ! グエグエ、グエ!」
樹はこんな姿であっても、希華を信じてくれるようだ。
希華はちょっぴり、安心するのだった。
次の日。
「あ、さっきの蛙……」
「グエ!」
少女との最悪な出会いをしてしまった希華は、少女を避けていた。
しかし樹は首を横に振って「この蛙に悪気はないの」と言った。
そしてこの蛙が元人間である事を沙羅が明かすと、少女――早坂瑠美はやっと理解してくれた。
幽霊もまた、元人間であるからだ。
瑠美のクラスメートの朱里から怪談話を聞いた後、希華はその原因を倒そうと鳴いた。
当然、瑠美達は希華が戦う事に反対したが、蛙になったとはいえ戦えるだろうと思ったからだ。
蛙になった希華は瑠美に同行し、彼女の心霊テストを「手伝う」事にした。
希華は瑠美の心霊テストを、小さな身体で見守る。
瑠美がドアを何回か開けて、恐る恐る足を踏み入れると、
ピンクのパジャマを着た少女が、瑠美の目の前に立っていた。
「グエ、グエグエ、グエグエッ!」
希華は「瑠美から離れろ!」とでも言うように身体を震わせると、
強烈な電撃を全身から放って少女を攻撃した。
攻撃を受けた少女は慌てて瑠美から離れ、希華は威嚇するように身体を点滅させる。
「グエ!?」
「あ、ありがとう、蛙さん」
何故蛙になったのに攻撃ができるのか希華は疑問に思うが、瑠美は希華にお礼を言う。
そして、しばらく話をして、瑠美と蛙になった希華は和解した。
様々な人物から話を聞き、この怪奇現象の原因が、
50年前の強盗殺人の被害者・由紀子だった事が判明した。
同年代の少女ばかりがこの家で命を落としているのは、どう見ても科学的ではなかったが、
由紀子の悪霊が「仲間を増やそうと」しているからだという。
そんな事をしても無意味だと思った希華は、瑠美や闇使いの宝城姉妹と共に、
推理と人助けを繰り返しながらついに由紀子を見つける。
ちなみに闇使いとは、この地に伝わるシャーマンのような職業らしく、
災いを闇に封印するから闇使いだと言われたらしい。
希華の電撃は容赦がなかった。
由紀子は50年前の人物だったため、既に恨みの塊になってしまっていたので、
説得をするのは不可能だと希華は判断したからだ。
こうして闇使いによって由紀子は箱に封印され、闇に帰っていった。
これによって希華にかかっていた呪いが解け、彼女は元の18歳の少女に戻った。
「ふぅー、やっと元に戻ったのであります。早坂殿、宝城殿、ありがとうございました」
「どういたしまして。あなた、蛙じゃなくて人間だったんだね」
「よく戦ってくれたわ。闇使いの都合で、給料は出せないんだけど」
「それでも、このホラーハウスの悪霊と戦ってくれてありがとう」
瑠美、沙羅、樹にお礼を言われた希華は、笑顔でその場を立ち去っていくのだった。