ライザ&カズマのアトリエ この素晴らしい世界と秘密の錬金術士 作:アトリエはいいぞ
「あの、この子は……?」
「その子はフィーっていいます。あたしの家族!あ、ごめんなさい!いやだったら……」
「いえいえ、まさかこんな風に甘えてくれる生き物は初めて見たものですから……」
「フィ~~」
「もう、だめだよフィー。ほら降りて」
ウィズ魔法道具店の店主、ウィズさんに会うことができたあたしだけども、なぜだかフィーはボオスに初めて会ったときのように頭の上に寝転んでしまった。あたしはそれに対してびっくりしてしまったが気を取り直してウィズさんの頭からフィーを回収する。やっぱりフィーのような生き物はこの世界にはいないのかあ……。
「ギルドの方々からお隣に新しくお店ができると聞きまして、もし困っていれば何か力になれれば、と思ってきてみたんですけど……」
「え、そんな商売敵相手にそんなことをしていいんですか……?」
「あ、いえ実は……その……商売敵になれるほど私の店は繁盛していなくて……」
「そ、そうなんですね……」
「ですが、ライザさんのお店が繁盛すれば……もしかしたら隣の私のお店も人が来るんじゃないかなと」
あー、なるほど。人が増えればそれだけ興味を向けてくれる人が増えるかもしれないということだね。しかし、そういう目的があったとはいえわざわざ困ってないか聞きに来る当たりウィズさんっていい人なんだなあ。そういえば、あたしより年上?それとも同い年?よくわからないんだけど不思議な雰囲気をまとっている人だ。例えるなら……オーレン族の人の雰囲気に近いかも。
「それでなんですけど、この大量の建材は……?」
「あたしが錬金術で作ったんです。明日、組み立てられるように!」
「組み立て、ですか?」
「はい!この設計書通りに組み立てられるように建材を調合して加工しているんです!家丸ごとを調合の結果としてとらえて、そこに至るまでの道筋をレシピとしてはじき出す!って先生の教えなんですけど」
「私が知っている錬金術は、薬の調合がメインだったので……少し驚いています。こんなこともできるんですね」
錬金術士になったばかりのころに作ったアトリエの設計図は今からしたらグシャグシャだったけど、タオやアンペルさんに教えてもらって今じゃ立派に家の設計書を書き上げることができる。いやー、あたしも立派になったものだなあ……えへへ……あ、そうだせっかく来てもらったんだし。とあたしは火をつけなおした錬金釜に、ヤギミルク、卵、ハチミツ、エルツ糖を突っ込んでぐるぐる。そして出来上がったものを適当なバスケットに入れてウィズさんに手渡した。
「せっかく来てもらったので、良かったらこれどうぞ。商品にする予定のラーゼンプディングです!」
「い、いまのも錬金術ですか!?」
「はい、そうですよ?」
「わ、私が知ってる錬金術じゃありません!?」
「そうなんですか?」
「フィー?」
あたしとフィーが顔を合わせてバケットの中を確認して血相を変えて慌てるウィズさんをまじまじとみる。あたしたちが何もわかってないのが伝わったのかウィズさんが混乱しつついろいろ教えてくれる。えっと、こっちの世界の錬金術は精緻な魔力操作の技術と、寸分の狂いもない材料の軽量、釜ではなく魔方陣を使い、なおかつ消費魔力と成果物は3倍比例する……。
「かなり使い勝手わるいんですね~」
「そんな感想ですんでいいものじゃないんですが……あんな適当に放り込んだように見えるのにこんな完璧以上の、しかも薬でも何でもないお菓子なんて……」
「薬も用意できますよ。あたしの錬金術は、やろうと思えば何とかなるがモットーなので」
「ほ、ほんとにそうなんでしょうね……」
なんだか引かれてしまった気がするけど、それはともかくとしてウィズさんはどうやらこれから少々仕入れのために魔法道具店を留守にするという話をあたしにしてくれた。せっかくお隣さんができるのにすぐ自分がいなくなるのがなんだか申し訳なくって何か困ってないかと聞きに来てくれたのが本題だったみたい。うーん、いいひとだねやっぱり。
「その、寝るのがテントで大丈夫ですか?」
「さっきベッド調合したので大丈夫です!旅先では野宿当たり前でしたし!」
「それならいいんですけど……今日いっぱいは私もお店にいるので、困ったら遠慮なく来てくださいね。フィーさんも、いつでも遊びに来てください。ライザさん、プディングありがたくいただきますね」
「フィーッ!」
「はい、ありがとうございます!アトリエが完成したら是非遊びに来てください!」
遊びに行きますね、とお互いに約束してウィズさんは帰っていく。去り際に貴重なお菓子……とか聞こえたけど気のせいでしょう。身なりもしっかりしてるし立派なお店もあるし、すごい魔法使いだっていうしお金に困ってるわけないない。だって、担当さんにあんなにひどく言われていても結局お店を続けられるってことは収入がちゃんとあるってことだろうしねぇ。
「フィー、あたしたちはもうひと踏ん張りだよ!あと少しで材料全部調合できるからね!」
「フィー!」
むん、と気合を入れなおしたあたしは同じポーズをマネするフィーにパワーをもらって錬金釜に今度は別の材料を突っ込んで調合を始めるのだった。
「シュタウト様、おはようございます。業者の手配は終了しておりますので、もうすぐ到着するかと。しかし、おひとりでこれを?」
「そりゃあもう!大変だったんですよー!」
「たいへん、で済むのですね……」
「あはは、ちょっとズルしてるので……」
翌日、ウィズ魔法道具店の隣の土地にうずたかく積み上げた建材の山を見た担当さんが感嘆の息を吐いた。ズルっていうのは言わずもがな複製釜のことなんだけど、それを教えたところでウィズさんの反応を見る限りいいことはなさそうなのでもうしまい込んでしまっている。アトリエが完成しても素材集めに行くときは探検バッグに突っ込んで持ち歩くつもりだし。背嚢だからかなり大きくて身動きしづらいのが難点なんだけどアクセル、泥棒がそれなりいるらしくてちょっと怖いし。
「おはようございます!一日よろしくお願いシャッス!お前らぁ!挨拶!」
「「「よろしくお願いしまーす!」」」
「はい!よろしくお願いします!」
「フィフィフィッ!」
担当さんと今日の作業について確認しているとぞろぞろと20人くらいの職人さんっていう感じの人たちが歩いてきた。担当さんと話してあたしにも挨拶をしてくれたのであたしも元気よく代表らしい恰幅のいいおじさんに挨拶をして、より詳しく書き直した図面を広げて詳しく説明。積みあがっている資材には全部番号を炭で書いているのでそれを見てどう作っていくかを説明すると職人さんはそれだけで分かったみたいで早速部下の人に指示をだして作業に取り掛かってくれる。
「えーと、そここっちで!その木の板はあっちでお願いしまーす!」
「ウッス!」
「こっちだな!」
「フィーッ!フィーッ!」
建材の加工は済んでいてもうあとははめ込んで組み立てるだけ、という状態の建材たちはあたしたちがアトリエを組み立てた人数より多い、しかもプロの人たちの手によってあっという間に組み立てられていく。自慢じゃないけどアトリエ建築においてはあたしはそれなりの回数をこなしてきた自負があるのでイメージは完璧だ。まるで下からにょきにょきと生えるようにあたしにとっては見慣れたあの隠れ家が間取りを変えて建っていく。
しかし、早いなあ。お昼ご飯はあたしが錬金術でぱぱっとウニと獣肉の煮込みを用意して、ドライビスクと一緒に提供させてもらった。えへへ、リラさんから教わったレシピは大好評だよ。おなかにたまるし美味しいし、悪いことなんて一つもなーし!フィーの応援の効果があるのかどうなのかわからないけど、職人さんたちはあたしの想定以上の速さであっという間にアトリエを組み立ててしまった。
「よし、ここからはあたしの仕事!」
「フィム!」
あたしはコンテナの中からアルケミーペイントを取り出して、一つだけ残しておいた大きな板に、『ライザとフィーのアトリエ』と書いて、末尾にゆるーいフィーの似顔絵を描いた。カラフルな看板を職人さんが上げてお店の入り口になる部分に掲げてくれて……完成だ!あたしの、アクセルのアトリエ!こっちにいられるのはあまり長くないと思うけど、ここでもたくさん調合するぞ!
いい仕事したぜ、と茜色の空の下で汗を拭いている職人さんたちを見送りあたしとフィーはピッカピカの新しいアトリエに入っていく。全体的な形は大きくしたあたしのアトリエなんだけど、部屋が二つある。まず一つが、お店用の錬金術で作った道具を陳列していくお店用のスペース。もう一つはあたしの仕事場兼生活スペース。王都で借りていた部屋をそっくりそのまま再現したんだ。だから実際は隠れ家と王都のアトリエを合体させた感じだね。
「コンテナは、ここね。錬金釜、複製釜に、エッセンス、採取地調合具……あたしって古式秘具たくさん持ってるのね……あっ!これは……」
「フィーッ!」
「ふふ、わかる?コアドライブ……まさかオーリムのアトリエに忘れてきてただなんて、それと……これもだね」
コアクリスタルにコアドライブをつけて、そして仕舞いっぱなしだった最後の冒険で使った鍵束を腰に仕舞う。うん、あたしの完全装備ってかんじかな。ああ、そうだ。めぐみんに上げたからイノセントレープがなくなっちゃってるんだった。そうだなぁ……エリキシル剤でいっか。それと、ラヴィネージュはここ周辺だと威力が高すぎるのがわかったので、ローゼフラム、オメガクラフトに変えておこう。時空の天文時計は……出しておこうか。代わりにグランフラムでいいや。
なにせ一回試しでラヴィネージュを使ったとき、カエルどころか湿地の一角が完全に凍り付いちゃったからねえ。魔物相手でも威力的にはオーバーキルだったんだからこっちでもそうかも。上位爆弾とか魔法の道具は売らないようにしよう。食品とか、ちょっとした薬とかがいいと思う。よし、これでオッケー!
「フィーッ!フィッ!!」
「ふふ、懐かしいでしょ。間取りとかは一緒だもんねえ。本棚は空っぽだけど。ソファとかは王都で使ってたやつだもんね」
「フィイッ!」
アトリエを模様替えするのがちょっとした趣味だったあたしだもん、旅に出るときに全部持ってきちゃった!いやはや、まさかこんなことになるとは思ってなかったけど、あの王都にいたころの日々がフィーの中でよみがえってきているようで嬉しそうに飛び回っているフィーをみて、あたしも心から嬉しくなった。ああ、そうだ。そろそろ食べないとまずいかも。
「フィー、はい。マナドロップ」
「フィムッ!」
マナドロップは、かなり在庫がある。ころん、と袋の中からだしたマナドロップをフィーに見せるとフィーは待ってましたとばかりにマナドロップを口に入れてころころと転がし始める。三日に一度とカラさんから聞いたことを守ってあげてるけど、大丈夫かな……理論自体は間違っていない、それは確信しているんだ。
何でかっていうと、これはアンペルさんからもらった魔石で作った魔光の星水の理論を応用して作っているから。あの薬でもフィーは魔力を補給することができたから、おなじ方法で魔力を込めたマナドロップでも補給できる。これは間違いない。あたしの本題は、オーリムのものに頼らずフィーに魔力をあげる方法を考えることだ。カラさんがおおらかだから、素材の採取を許してもらってはいるけど……いつまでもそれだと、クリント王国と何も変わらないから。
マナドロップはフィーの魔力を補給するための理論実践用。1週間で様子を見てそれから本格的に取り組む……つもりだったんだけどな~、とほほ。まさか別の世界に移動して、またアトリエを構えることになるだなんて思いもしなかった。しかも、頼りになるみんなは絶対に来れないという状況で。
「まあ、考えすぎてもしょうがないよね。フィー、ギルドにご飯食べに行こ」
「フィーッ!」
はあい、と片手をあげたフィーを頭にのせて、あたしはマナランタンを腰に下げて暗くなったあたりを照らしつつギルドにゆっくりと歩いていく。夜に差し掛かっているにもかかわらず、いや夜だからこそ余計ににぎわっているらしい併設の酒場に入ったあたしは見知った後ろ姿を見かける。カズマだ。そして近くにはレントみたいな感じの部分鎧、ちゃんと服はきているけど……とにかくそんな感じの恰好をした金髪の女の人が、カズマの手を握っていた。
「やっほ、カズマ。冒険はうまくいった?」
「ら、ライザさんっ!助けてくれ!」
「……へ?」
あたしは、手を握られたままのカズマのヘルプコールに首をかしげる。若干息の荒い女の人と目が合った。
アトリエ解説のコーナー
オーレン族
ライザ世界から門を挟んで隣り合う世界にある異世界オーリムで生活している異種族。長大な寿命とわかりづらいが獣耳と手足どちらかに獣毛が生えている。さらにオッドアイという特徴もりもりな種族。羨ましい。ライザ一行にも何人か同行しているオーレン族がいる。
クリント王国
ライザ世界における古代文明。錬金術で栄えた王国だが、この国のやらかしが大体ライザたちに面倒ごととして降りかかってくる。門とか門とか門とか。さらにはオーリムより資源を奪いまくっているのでオーレン族の中には蛇蝎のごとく錬金術士を嫌うものがいるほど。というかオーレン族はクリント王国のおかげで滅びかけているのでライザが受け入れられてるのは奇跡に近い。おのれクリント王国。
感想評価ありがとうございました。ではまた次回に。