TSサイバネ八極拳士はハードな異世界をイージーに乗り越える!   作:ケンシー

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二 拳士確かめる

 己――もしくは俺――が、ドハマリしていたゲームがある。

 『サイバークライシス・アンダーシティ』という近未来SFオープンワールドで、その特徴はなんといっても凄まじい出来のキャラクタークリエイト。

 洋ゲーにしては珍しい、日本人オタク好みな美少女も作成できるというそれで、俺は自分にとって最高の”自キャラ”を作り上げた。

 それが己――”CEK-6626 レイ”だ。

 金髪ロリサイバネ八極拳士とかいう、なかなかのゲテモノなその少女は俺の操作を受けてサイバーパンクな世界を駆け巡り――

 

 なんやかんやあって、俺を中身に異世界へ転移した。

 

 正確には、気付いたら俺はレイの姿で異世界にいた。

 よくある異世界転生なわけなのだが、直前の記憶がないので果たして死んだのかどうかはわからない。

 何にしても言えることは、俺がサイバネティックな金髪ロリにTS転生してしまったということだ。

 

 しかもこの世界、なんだかずいぶんハードなご様子。

 魔族が人間を家畜にする世界だ。

 何でも魔族には魔力という人間を根源的に恐怖させるフェロモンのようなものがあって。

 そのせいで人間は魔族に、全くと行っていいほど抵抗できていないらしい。

 ただ、その魔力はレイには一切通用せず、レイは魔族に負けないくらい強いのだが。

 

 無論、その力を使って虐げられている人々を救うことに否やはない。

 そもそも俺は、この世界に転移した時決めたのだ。

 レイのように生きよう、と。

 レイのモットーは”義を見てせざるは勇無きなり”。

 そういう性格のつもりで、俺はレイを導いて(ロールプレイして)きた。

 だから俺は、”己”として人々を救う旅に出たわけなのだが。

 

 問題は、己が魔物を殺せるかということだった。

 仮にも元は単なる一般オタク。

 人を殺したことなんてあるわけもなく、殴った経験すらない。

 そんな俺が、果たして己のように敵を攻撃することができるのか?

 その疑問は、常に俺へつきまとっていた。

 

 ――まぁ、案外なんとかなっちゃたんですけど。

 

 単純に、己のボディがそれだけ精神的にも頑丈だったのか。

 数百と魔族を倒している間に、感覚が麻痺してしまったのかは解らないが。

 少なくとも今の”己”は、魔族の滅殺に躊躇なんてものはなく。

 人々を助けては、次なる魔物を討つべく旅を進めていた。

 

 

 ●

 

 

 呼吸を整える。

 体内を巡る気を循環させ、それを最大の効率で相手に叩き込むイメージを思い描く。

 己の身体は、文字通りその動きが染み付いている。

 使おうと思えば、勝手に身体が動くのだ。

 

 まずひとつ。

 拳を目の前に突き立てられた木片へと添える。

 全身の力を拳に集中させ、

 

「――寸勁」

 

 言葉とともに、その力を木片に”乗せる”。

 するとたちどころに木片は真っ二つに割れ、地に倒れた。

 本来なら、単純な筋力だけで木片を粉微塵にできてしまうのだが。

 あえて”絞る”ことでキレイに叩き割って見せたのだ。

 

 続けざまに、相手の間合いに入り込むように踏み込む。

 肘に体重を乗せながら、次の木片に体当たりを仕掛けるのだ。

 

「――頂肘」

 

 結果、木片は横に割れて吹き飛んだ。

 更に入り込んだ間合いを利用して、背中から次の木片に攻撃を仕掛ける。

 

「――鉄山靠」

 

 八極拳に置いて、もっとも有名な技と言われたら間違いなくコレだろう。

 一撃必殺のイメージを持たれることも多いが、相手の防御を背中から(もたれかかる)ことで崩す技。

 続けて態勢を整えながら、俺は片足を持ち上げてケリを放つ。

 

「――連脚」

 

 これは、ぶっちゃけてしまえば八極拳ではない。

 連続の蹴り技、百裂某といえばその動きは伝わるだろうか。

 なんでそれを八極拳士の己が使うのかと言えば、ゲームにその技があったからとしか言いようがない。

 ゲームでは八極拳を名乗っているが、実態は八極拳ベースの中華系業の詰め合わせというのが実態だ。

 何なら、これ八極拳としてはどうなの、みたいなのも少なくない。

 具体的にはこの連脚、やろうと思えば風の刃を飛ばす遠距離攻撃にできる。

 この世界でもその仕様は変わらなかった。

 

 その後も、己は複数の業を連続で放っていく。

 基本的にゲームでの”己”は、複数の業を連続で放つコンボキャラのような動きを得意としていた。

 軽快なその動きは、とにかく動かしていて楽しかったことを覚えている。

 それを、リアルで己はなぞっているのだ。

 

 不思議なことに、己は自身の動きをイメージ通りに動かすことができた。

 この場合イメージとは、明確な動きを脳内に描いているわけではない。

 完全に、こんな感じに動けたらいいなという直感的な動作で動くことができるのだ。

 脳内にコントローラーがあるような感じである。

 

 やがて、()()()()()()から用意した木片をすべて破壊すると己は呼吸を整える。

 木片はすべて、ゲーム内でやたらと入手することのできた宣伝看板である。

 近未来SFでなんで木製の看板があるんだよと思うかも知れないが、スラムに行くと結構な頻度で見ることができた。

 己のこれは、宣言看板を作った会社が夜逃げしたので、処分に困った看板をなんとかしてくれというクエストをクリアして入手したものだ。

 使い終わったら、集落の人に薪として使ってもらおう。

 まさか、この木片に使い道ができるとはなぁ。

 

 と、思っていると。

 不意に遠くから気配が近づいてくる。

 敵意はない、気配の主も察しが付いた。

 そして――

 

 

「ねえさま! ここにいたんですね!」

 

 

 飛び込んできた少女を受け止める。

 少し癖のある銀の髪を首のあたりで一本結びにした、己の見た目と同じ程度――十と少しの少女だ。

 衣服は平民の服装と言っても通るが、明らかに生地が高級で装飾も多い。

 本人の品も相まって、育ちの良さが伺えた。

 

「――マリア、どうしたのだ?」

 

 マリア、己が救助した馬車の中に隠れていた少女である。

 

「おばさま達が心配そうにしていました。レイねえさまがどこかへ行ってしまったのではないかと」

「まだ機雷の敷設も終わっていないし、何より挨拶もなしにいなくなったりはしないとも」

 

 現在、マリアと救出した女性たちは己がその少し前に救助した集落に世話になって貰っている。

 もともとマリア達はその集落を目指していたそうなので、一石二鳥だ。

 

「それにしても、ねえさまの武術は凄いです。魔族をあんなにもたやすく屠るなんて。今も、一つの演舞をみているかのようでした」

「そこまで褒められるのは、いささか照れくさいのだが……」

 

 そもそも、己の業は”俺”のものではないのだからして。

 使えるものは使うというのが”己”の精神性であるがゆえ、俺もそれに準じてロールプレイしているわけだが。

 ここまで無邪気に褒められるのも、この世界にやってきて初めての経験だ。

 大抵は怪物じみた力に畏れを抱かれるか、心酔されるかのどちらかである。

 

「というかマリア、(なれ)は馬車から己の大立ち回りを見ていたのか?」

「はい。ねえさまの戦いぶりはしかとこの目で見ておりました」

「ふむ……」

 

 色々と、マリアには聞きたいことがあるのだが。

 ……今はそれどころではないな。

 

「――マリア」

「はい、何でしょうねえさま」

「少し己から、――絶対に離れないようにするのだぞ」

 

 直後、己はマリアを抱えながら。

 

 

 一息で、己たちを見張っていた下級魔族の真横にケリを叩き込んだ。

 

 

『なッ――!』

「えっ!?」

 

 驚愕の、声二つ。

 マリアが驚きに満ちた顔でこちらを見上げていた。

 ――やはり。

 

『な、なぜバレタ!?』

「気配を全く隠しきれていないぞ」

 

 気配は、女たちを集落につれてきたあたりからしていたのだ。

 おそらく、馬車を襲ったゴブリンの一匹がはぐれていたのだろう。

 そしてようやく本隊に追いついたと思ったらあの有り様で、下手人である己を見定めるべく追いかけてきた、と。

 

「そのまま、巣に逃げ帰るなら後をつけて巣を壊滅させるつもりだったのだが、上手くいかぬものだな」

『ギャハハ! 俺達はそんな間抜けじゃねぇんだヨ! んなことするより、そのガキを人質にとって テメェをなぶったほうが早エ』

 

 いや、それは。

 そもそもどう考えてもマリアを人質にするという作戦の実行手段がない。

 人質を取らないと己を倒せないのに、人質を取る方法をどう考えても考えていない感じだ、アレは。

 

「ねえさま……」

「どうした、マリア。やはりあの畜生共が恐ろしいか?」

 

 己の腕の中で、マリアが何かをいいたげに見上げてくる。

 魔族には、人を恐怖させる魔力がある。

 それに当てられたのかと思ったが――

 

「――あんなヤツ、やっちゃってください!」

 

 まぁ、案の定というべきか。

 下級魔族に一切怯むことなく啖呵を切ってみせている。

 とすると、彼女があそこで音を立てたのにも、なにか別の訳がありそうなのだが。

 今は眼の前のゴブリンだ。

 

「さて、貴様が巣に逃げ帰るならそれを追えばよかったのだが。面倒なことに、貴様はこちらに向かってくることを選んだ」

『あァ?』

 

 こちらの隙を伺う様子を見せているゴブリンに、己はため息をこぼす。

 

『当たりメェだロ! 拠点に逃げ帰ったところで一人だけ生き延びたことを咎められて俺は殺されるに決まってル!』

「だから、己を連れ帰って命乞いをするしかない、と?」

『ああそうカ。そうすりゃよかったんだなァ』

 

 ……こいつに限らず、ゴブリン共はとにかく頭が回らない。

 目先のことしか意識が向かず、すぐに先ほどまで考えていたことを忘れてしまう。

 まぁだからこそ、やれることもあるわけだが。

 

『そのガキを渡せ、そうすればてめぇの命だけは助けてやるよ』

「流石に、先程人質にすると自分で宣ったことは忘れるなよ……まったく」

『な、何故それヲ――!』

 

 狼狽する低能のゴブリンに、己は即座にケリを叩き込んだ。

 一瞬で、脚が吹き飛ぶ。

 

『が、ア――?』

「さて、これでマリアには危害を加えられないだろう。……少し下がっているといい。これは子供が見るべきではない」

「レイねえさま、バカにしないでください。ねえさまが何をしようとしているかくらい解ります」

 

 いいながら、己から離れて距離を取るマリア。

 目をそらすつもりはないが、かといって己にひっついていても邪魔になるだけだからな。

 ゴブリンと違って、聡明な子だ。

 まぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という疑問は残るが。

 今はそれを気にしている暇はない。

 

「さて、下級魔族よ」

『ひィ!? な、なんで俺の脚ガ! どうなってんだよこれハ!』

「人の話を聞け」

 

 そう言って、己は――ゴブリンの指を一つ握りつぶした。

 

『ギ、アアアアアアアアアッ!』

「貴様が巣に逃げ帰らなくとも、巣の居場所を突き止める方法が一つある」

 

 そして、意図的に嗜虐的な笑みを浮かべて。

 次の指へ手をかけた。

 

 

「貴様を拷問して、巣の場所を吐かせることだ」

 

 

 直後、ゴブリンの悲鳴が何度も響き渡るのだった。




さくさく倒して行く感じの作品になればと思います。
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