怪獣嫌いの明星は物理ですべてを解決する   作:雨音2号

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スーツが僕を嫌ってるってことでしょ。僕もこいつが嫌いです【後】

 

防衛隊第二演習場。

何十メートルもある高い壁に囲まれ、大きな扉は黒と黄の警告色に塗られている。

 

「僕は今回、選別試験の選考委員会を任されとる第3部隊副隊長の保科や」

 

マッシュルームカットに糸目の男、保科宗四郎。

彼は軽く自己紹介をした後、壁のデジタルドアロックに素早く暗号を打ち込む。重い音を立てて開いた扉の向こうには────怪獣。

 

「二部ではこの演習場で怪獣を“討伐”してもらう」

 

ガァン、とショックを受ける二人の心境が伝わってくるようだ。実際にそんな音が聞こえた。まずは驚愕と落胆、続いて緊張、興奮、そして恐怖。

リツは無感動に怪獣を眺めた。

あれはいつかの余獣を生け捕りにしたものだ。見覚えはあるが、自分で倒した覚えはない。リツが出る前に解決されたのだったか。

 

「とは言え丸腰ってわけにはいかんから、君らにはこいつを着てもらう」

 

保科はそう言って、受験者たちを別の場所へ案内した。

 

結局、この試験に馴染みの武器を持ち込むことはできなかった。国の重要機関に一般人が危険物を持ち込めないのは当然だ。試験の公平性にも欠くし、望み薄だと理解していたはず。

 

しかし、相棒に頼れないのはやはり寂しい。

リツはモーニングスターという難易度ルナティックの武器を使いこなすため、生まれた時から身体を鍛え続けてきた。生まれた時からだ。親は熱血だった。

もはやあの鉄塊は身体の一部、己の半身である。

明星(あけぼし)”と名付けた愛しいあの形を手放し、初対面の銃器を用いて戦わなければならない。とんでもない苦痛だ。

だが、リツは試験を受けることを選んだ。そもそも防衛隊員でない者が怪獣と戦うのはありえないことなのだから、当然と言えば当然なのだが。

今は無理でも、いつか堂々と“明星”を連れて戦えるように。

力の扱いが難しいという点で、リツとカフカは一致している。カフカほど厄介な体質の者でも隊員を目指せるのなら、リツと“明星”にだってできるのではないかと思ったのだ。

 

防衛隊に入隊する。強くなって上に認めさせる。そして“明星”と共に戦えるようになる。

 

────そうやって上ばかり見ていたから、リツは気付かなかった。

防衛隊において、“強くなる”とはどんな意味合いを持つのか。そこにとんでもない落とし穴があるということに。

 

 

***

 

 

スーツに足を差し入れ、袖を通す。すると独りでにスーツが引き絞られ、身体の線に沿うようにぴったりと密着した。

────悪寒がした。

 

『身体計測及び形状同化完了』

『怪獣筋肉繊維、正常動作』

 

「……怪獣、筋肉?」

 

盛大に顔をしかめたリツだが、誰にも気にされない。

防衛隊のスーツには怪獣が利用されていたのか。いや、少し考えればわかることだ。生身の人間があんな化け物と互角にやり合えるわけがない。あれは怪獣の力を利用してのものだったのだ。

 

『解放戦力測定します』

 

なにそれ、と疑問に思った時、同じことを質問したらしいレノによって答えがわかった。

 

『スーツの力をどれだけ引き出してるかの道標や。────はっはっは、初めてで8%も出せてたら上出来やで君。訓練積んだ一般隊員でだいたい20%くらいやから……』

 

ピーッ。

 

『おい、マジか……!』

『四ノ宮キコル、解放戦力……46%!』

 

騒がしくなる場。当然ねとキコルは胸を張る。

 

『出雲ハルイチ、18%』

『神楽木葵……15%』

『古橋伊春、14%!』

 

次々と発表されていく数字。

目立つ人物だけが読み上げられているようだが、リツの数字はAI音声すら教えてくれない。

 

『あ、凹むことないで、市川クン。ぶっちゃけ現時点で0%でなければ合格! そもそも0%なんてやつ一回も見たことないけど……』

 

ピーッ。

 

『日比野カフカ、解放戦力────0%!?』

『えーっ!? 何あいつ!? 0出たやん!!』

『あれ、計測ミスかな……』

 

オペレーターまで困惑し始める始末だ。キコルの時と同じくらい騒がしい。

リツは自分の隣でプルプル震えるカフカを見る。

 

「も、もう少し時間ください! 今キバってるんで…!!」

『いやウンコちゃうから!!』

「それ変わるんですか?」

「わっ、わかんねぇだろ! もしかしたらちょびっとくらい────」

 

ピーッ。

 

『明星リツ、解放戦力────ゼロ……いえ、うーん……0.1%……?』

『小数点!!』

 

「おまえも同じくらいじゃねぇか!!」

「スーツが僕を嫌ってるってことでしょ。僕もこいつが嫌いです」

「何言ってんだよ……」

 

フン、と顔を背けるリツ。

カフカはふとリツの着るスーツを見た。胸のガードは角形で、男用。思ったより筋肉の凹凸もしっかりしているが逞しいと言うほどではなく、しなやかで実用的な鍛え方という印象だった。

 

「おまえ、ちゃんと男だったんだな……」

「ハ?」

「ぐはァッ!!」

 

リツの紅茶色の瞳がギラリと赤みを増し、カフカの肩甲骨に上段回し蹴りがクリティカルヒット。二次被害として爆笑中の保科の腹筋に追い打ちをかけた。

 

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