常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第十陣

 悪魔の駒の特性。それは、神器とはまた別に転生悪魔に力を与える。

 利点は、その特性が与えられた本人の力量次第で育っていく点だろう。

 

「うぐっ……!」

「自分の速度が見切られるからって、正面から突っ込むのはダメじゃないか?」

 

 吹っ飛ばされてちかちかと明滅する視界の中、木場祐斗は呆れた様なそんな言葉を聞いた。

 グレモリー眷属での合宿が始まって早二日。

 祐斗は一度も仁郎に勝てていなかった。それどころか、掠り傷の一つも与えられていない。

 

「月島先輩、お願いします」

「よしっ、来い」

 

 祐斗が立ち上がる間に、次の手合わせが始まる。

 グローブを両手に付けた小猫が猛然と仁郎へと挑みかかっていた。

 彼女の駒である“戦車”。その特性は、剛力と耐久力の上昇。小柄でありながら怪力ともいえる腕力を小猫が有するのはその為だ。

 踏み込み、からの左ショートアッパー。これを、仁郎は真正面から迎え撃つ。

 振り下ろされた木刀が拳とぶつかり――――後者が押し込まれた。

 

「ッ……!」

「甘いぞ、塔城。お前より腕力もスピードも上の奴は珍しくないだろうから、なッ!」

 

 押し込んだ木刀の柄頭を押し出すようにして前へと突っ込みつつ、仁郎が狙うのは小猫の顎。

 咄嗟に右手が間に差し込まれて壁となるが、体勢不十分。その体は大きく飛ばされる。

 着地し、痺れた右手を払って拳を握り、小猫は再度前へ。今度はジグザグと不規則なステップを刻みつつ突っ込んでいった。

 再び始まる超接近戦。その二人を、もっと言うなら仁郎に対して食い入るように見つめる祐斗。

 速度と手数を活かしたテクニックタイプの祐斗に対して、仁郎は典型的なパワータイプ。オマケに確かな技術を持ち合わせた頭の使える脳筋だった。

 何より、月島仁郎の本気はこんなものではない。

 

「つぇーな、月島」

「!兵藤君」

 

 じっと見つめていた祐斗だが、横合いからの言葉に顔をそちらへと向ける。

 汗を拭う一誠。声は祐斗に向けられていたが、その視線は今まさに小猫をぶっ飛ばした仁郎へと向けられていた。

 強いのは知っていた。伊達に松田、元浜と一緒に拳での鎮圧を喰らってきていない。

 だが、ここまで桁違いだとは思わなかった。

 実際、一誠からすれば祐斗も小猫も圧倒的な格上だ。それは初日の手合わせでボコられて知っている。

 そんな二人を歯牙にもかけない。何なら二人同時に掛かって来ても圧倒出来るかもしれない。

 

「月島君は、アレでも本気ではないよ」

「……神器を使ってないからか?」

「それは、僕らも同じさ。彼は、何というか踏み込む一歩を踏んでいないんだ。その一線を踏み越えなくても、僕らはあしらわれている」

 

 解せない、とは思わない。祐斗はそれだけ、仁郎の技量を評価していた。単純に強い剣士とはどういう物かという事をまざまざと見せつけられていた。

 

「まずは、その一歩を踏み込んでもらえるように強くならないとね」

「っ、おうっ!分かってる!」

 

 決意新たに、二人は今一度フィールドへ。

 剛剣の侍は、未だ底を見せてはいないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風を切り裂き、鉄刀が振るわれる。十数キロほどのソレは、振るうという動作を行う事で遠心力が掛かる事で握る両腕に実際の重量以上の負荷がかかっていた。

 尤も、鉄刀を振るう仁郎にしてみれば、()()()()()()()

 

「4667……4668……4669……」

 

 質で劣るのなら、数を振るう。朝と夜の素振りは二千回だが、いつもの鍛錬棒ではないためどうしても振り終わっても物足りない。

 という事で、仁郎は己が満足するまで鉄刀を振るう事にした。

 只管に、愚直に。流れる汗すらもそのままに、いや振り切る様に。

 

 正直な話をすると、仁郎にとって今回の合宿はパワーアップを()()()()()()()

 現状の彼にとってグレモリー眷属の近接組は総じて、自分よりも圧倒的に弱いからだ。現に、ここ二日の乱取りは何れも月島流の剣技を使っていない。使えば、まず間違いなく死人が出ただろう。

 故に、早々に仁郎は実戦感を養う場として意識を切り替えた。

 立ち合いは、どうしても相手が居なければ成立しない。幸い、この場にはアーシアが居る。怪我を負ったとしても、それこそ切断などのよっぽど酷いものでなければ治療も可能だ。

 

「4700……4701……4702……」

 

 ただ、思う。もっと血沸き肉躍る激闘したい、と。

 これは戦闘狂というよりも、武に身を置く人種としての本能か。

 振りは速く、鋭く、強くなっていく。

 風を巻き込み、振り下ろされる先の地面に円形の砂埃が衝撃を教えてくる。

 

「――――精が出ますね」

 

 声が聞こえ、素振りが止まる。

 

「姫島先輩」

「皆もう、お風呂に入ってしまいましたよ?月島君が最後です」

「あ、すみません。ついつい、熱が入ってしまって」

 

 鉄刀を地面に突き立てて、仁郎は一つ息を吐き出した。因みに、その視線は声を掛けてきた朱乃になるべく向かないようにしている。

 今の彼女は、浴衣姿。オマケに湯上りなのか上気した肌と濡れた黒髪が何とも艶めかしい。

 

「物足りませんか?」

「え?」

「小猫ちゃんが言ってましたよ。月島君に本気を出させられない、と」

「あー……成程?」

 

 朱乃の言葉に、空いた左手で首筋を撫でる仁郎。

 実際、本気ではない。況してや全力の全開でもない。手抜きと呼べるほど不真面目ではないが、しかし如何せん不完全燃焼気味。

 だからこそ、仁郎はとある事をリアスへと進言していた。

 

「神器を使った永久組手。本気ですの?」

「時間がない」

 

 問われ、応える。

 

「木場も塔城も筋は悪くない。ただ、足りない。相手は同格か、少し下程度。そんな相手に数の不利を背負って戦うんです。前衛を務める二人が早々に落ちてちゃ、後衛は碌に戦えない。違いますか?」

「それは……」

 

 仁郎が思い出すのは、ライザーの眷属たち。

 搦手までは分からないが、それでも純粋な実力ではグレモリーとフェニックスはほぼ拮抗していると感じた。

 問題は、先の通り数の差。一人一人の質が伯仲でも()()()にされれば押し切られる。

 オマケに、数に余裕があるという事は即ち外道な戦法も取れるという事。

 味方を巻き込んでの面攻撃、とか。そんな事をされれば、人数不利のグレモリーに勝ち目はない。

 

「十中八九、負ける。そして、自分はそんな負け戦を覆したい」

 

 グレモリー先輩には義理もありますからね、と仁郎は空を見上げた。

 負け戦が嫌だとか、そんな事は言わない。

 

 だが、()()()()()()。敗者には弁論を連ねても何の意味も無いのだ。

 

「………っと、まあ色々言いましたけど、自分に出来る事はこんな事位ですから。姫島先輩みたいに美味しいお茶を淹れたりは出来ない。なら、出来る事には全力を尽くそうと思うんです」

「…………」

 

 初めて、この後輩の内面の一部に触れた気がした。朱乃は、そんな感想を覚えた。

 悪魔の中で唯一の人間。初心で、それでいて一誠ほどではなくとも一般男子高校生ほどの性への関心を持ちつつ、相手を不快にしないためにそれら性欲を向ける事はしない努力をしている。

 後は、戦える事位か。下級とはいえ、堕天使を打倒したと本人から報告を受けてもいた。

 実力に関しては、完全に想定外ソレは別に良い。

 朱乃が気になったのは、もう一つの事。

 

「月島君は、リアスが好きなんですか?」

「はい?…………何でそんな話に?」

「いえ、言っては何ですが月島君にはそこまで本気で尽くす理由が有りませんもの」

「んー………まあ、さっきも言った通り義理立てですよ」

「ですが、レーティングゲームに参加すれば大怪我を負う可能性もあるでしょう?フェニックスの炎に焼かれ、全身に火傷を負うかも……」

「それこそ、今更でしょう。自分もその辺りは覚悟して話を受けました。グレモリー先輩に関しても好きですよ?でもそれは、LoveじゃなくてLikeの方で」

 

 仁郎はリアスに対して恋愛感情を抱いてはいない。これは、本当だ。

 

「ただ、あの人の人間性……悪魔性?……とにかく、その人となりは気に入っています。あの人は本気で、誰かの為に泣ける人でしょうし」

 

 結局のところ、仁郎が力を尽くそうとするのはリアスの人徳によるものだった。

 不思議と、彼女は巡り合わせに恵まれている。言い方を変えれば、引き運が強い。

 

「さて、と」

 

 素振りで火照った体も夜風に当たって冷めてしまった。キリも良いとして、仁郎は改めて朱乃へと向き直る。

 

「自分は風呂に入ってこようと思います。姫島先輩も、風邪を引く前に引き上げた方が良いですよ」

「…………ふふっ、そうですわね」

 

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