常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第十一陣

 月島流剣術は、殺人剣。

 実のところ、型の練習などはほぼほぼ存在しない。木刀を用いて、只管に打ち合う場合が殆ど。

 月島仁郎も、父親が生きていた頃は只管に打ち合いに精を出していた。

 恐るべきは、この月島流を修めた者達は木刀で真剣と相対し、これを打倒す事が出来たという点だろう。

 

「っ、自信無くなるね……!」

「言ってる場合かよ、木場!次来るぞ!?」

 

 ぼやきながら両手に新たな魔剣を造り出す祐斗。その傍らでは、左腕に赤い籠手を装着した一誠が居た。

 二人の先では、今まさに吶喊した小猫が吹っ飛ばされ、暴威が迫っている。

 

「あれ、本当に木刀かよ……!」

 

 一誠が冷や汗を垂らしながら、倍加を終えて前へと突っ込む。

 ぶつかり合う、木刀と籠手。本来ならば前者は木っ端微塵に砕け散るか、或いはへし折られて持ち主へといくらか威力が減衰した拳が突き刺さった事だろう。

 だが、

 

「――――フンッ!」

 

 ぶつかり合いを制したのは木刀だ。

 さらに一歩踏み込まれたと同時に押し切られてしまった。

 大きく左腕を弾かれる一誠。そこに、更に前へと突っ込んできたタックルが突き刺さる。

 

「ごえっ……!」

 

 鉄山靠、ではないが当て身というのは剣術においても有用だ。

 押し退けられた一誠を目晦ましに、迫るのは祐斗。

 両腕を体の前で交差させて狙うのは、足元だ。

 

「ハッ!…………なっ!?」

 

 空を切る、魔剣。影が差し、視線は上へと誘われた。

 

「甘いッ!」

 

 脳天に振り下ろされるのは、高々と振り上げられていた右足。

 両腕を振り切った上に、前へと突っ込んで重心の位置が悪い祐斗にこれを避ける手段は無い。

 間髪入れずに一撃噛まされ、脳震盪と共に撃沈。

 瞬く間に三人を叩きのめして、仁郎は地面に降り立った。

 

「さっきより、良くなったんじゃないか?欲を言うなら、兵藤、木場の順番が逆の方が良い。兵藤の倍加は時間がかかる」

 

 木刀を右肩に乗せて、仁郎はそう評する。

 神器有りの無制限組手。

 一応、仁郎は仁郎で気による強化を施して木刀の強度を底上げしているのだが、後はほぼ素の身体能力と変わらない。

 彼らとの差は、純粋な実力差もあるがもう二つ。

 

「猪突猛進の兵藤は別として、木場と塔城は視野を広くしよう」

「イテテ……視野?」

「どうするんですか?」

「観の目、って奴さ。態と、焦点を暈して相手を曖昧な目で見る」

 

 そう言って、仁郎はぼんやりとした目を祐斗に向ける。

 どこを見ているのかもわからない視線だ。

 試しに動き出そうとすれば、その前に動く部位へと木刀の切っ先を押し付けられて疎外された。

 

「ど、どうなってるんだ?」

「自分が今見ているのは、木場の全体像だ。腕とか頭とか脚とか。その一部へと注目するんじゃなく、風景を眺めるように全体を見てる。相手の解像度は落ちても、どう動きだしても察知しやすいって事だ」

「それって、私たちにも出来る事ですか?」

「まずは焦点を暈す事から、だな。習得できるかどうかは別にして、こういう技術がある事は知っておいた方が良い」

 

 武術というのは、力と技があればそれだけで強くなれる訳ではない。

 知識が無ければ対応できない状況という物が必ずどこかでやって来る。無論、それら一切合切を無視して力技でねじ伏せるという事も出来なくはないだろうが、限界はあるだろう。

 それこそ、一誠、祐斗、小猫の三人ならば、一誠にだけその可能性がある。それだけ、神滅具というのは破格なのだ。

 

「さて、休憩はもう良いだろ?」

 

 肩に担いでいた木刀を下して、仁郎が言う。同時に、三人にもまた緊張が走った。

 一誠が一気に跳び下がり、祐斗は斬りかかって、小猫はしゃがみながらの足払い。

 

「良い動きだな!」

 

 木刀を地面に突き立てて蹴り足を防ぎ、木刀の柄頭よりも低くしゃがみ込む事で斬撃を回避。

 頭上を斬撃が通過した瞬間、突き立てた地面を鞘の代わりとして一気に空に弧を描くように振り抜いた。

 小猫は体を逸らし、祐斗は魔剣を盾にそれぞれ防御。ただ、吹き抜ける風が血の気を引かせるには十分すぎた。

 だが、これで二人は直ぐには動けない。

 立ち上がる力をそのまま前へのベクトルへと変えて、仁郎が駆けるのは一誠の方。

 

「っ、来やがれぇ!!」

 

 一誠が握るのは、左拳。神器の都合上、彼にとって一番の武器であり防具は左腕だからだ。

 

(倍加は二回!それでも全ッ然足りねぇけど、逃げられるかよ!!)

 

 兵藤一誠に才能は無い。現状、非戦闘員であるアーシアを除けばまず間違いなくグレモリー眷属最弱は、彼だろう。

 元々一般人である事も相まって、体術は初心者に毛が生えた程度。その伸び率も亀の歩みであり、遅々として進まない。

 だが、ここぞという時に退かなさに関しては、中々の物。

 

 駆けながら、仁郎は目を細める。

 彼は決して一誠を侮ったりしない。スケベなエロバカではあるものの、根性がある事を知っているから。

 ぶっちゃけ、才能に胡坐をかく天才よりも、努力し続ける凡人の方が恐ろしい場合が多いのだ。

 前者の場合は、劣勢に折れると建て直せない事が多い。一方で後者は挫折など日常茶飯事。故に不屈の闘志で立ち上がってくる。

 一誠は間違いなく後者だ。故に、仁郎は油断しない。

 

「――――は?」

 

 気付いた時には、迫っているのは木刀――――ではなく、二つの並んだ靴の裏側だった。

 咄嗟の事。反応できたのは、無制限組手を始めた結果養われた戦いの勘が僅かにでも働いたおかげだった。

 左腕を前に両腕を顔の前にクロスするようにして置き、直後に走るのは車でも突っ込んできたのかと思えるほどの衝撃。

 ドロップキック。攻撃手段としては、両足が地面を離れるという行動上下策もいい所なのだが、その威力は並大抵ではない。

 加えて、蹴りを敢行した仁郎はそのまま一誠を足場にして空へと跳び上がっていた。

 

 木刀が閃く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「強いわね」

 

 魔力を練り上げつつ、リアスはその光景を口にする。

 唯一の人間のオカルト研究部員。神器は持っているが使い方がいまいち分からず、本人は身に付けた剣術を主な武器としている。

 驚くべきは、その実力だ。

 

「月島君ですか?」

「ええ。堕天使を倒したとは聞いていたけど、まさか祐斗や小猫も全く敵わないだなんて」

 

 オマケに祐斗は神器を使い、その上で未だ届かない。

 

「というか、どうして木刀で模造品とはいえ魔剣を砕けるのよ」

「月島君曰く、気を纏わせているから、らしいですわ」

「気?ジローは仙術も扱えるの?」

「術そのものは使えないようです。ただ、気を練る、そして巡らせるのが上手いのかと」

 

 朱乃のいう気による肉体活性は、何も特別な事ではない。悪魔なども魔力によって新た能力の強化などは可能だからだ。

 注目すべきは、その“滑らかさ”。

 それは無意識に行われる呼吸の様であり、血流の様であり、瞬きの様であり。

 淀みがない。いや、未だ無意識の境地には至れていない為に完全に淀みを取り除けたわけではないのだが、それでも十分すぎるレベルにあるだろう。

 月島仁郎の身体能力と得物の頑丈さのカラクリはここにある。

 

 惜しい。無意識の内に、リアスはそう考え、慌てて首を振った。

 現状悪魔の駒が余っている彼女にとって、眷属探しは急務ではないがなるべく早めに埋めてしまいたい問題だった。

 

(もしも、ジローに合わせるのなら“騎士”……いえ、“戦車”かしら)

 

 良くないと思いつつも、考えは止まらない。それだけ、月島仁郎という少年は眷属として勧誘するには魅力的な存在だったのだ。

 とはいえ、ライザーにも本人が望まない以上眷属にしないといった手前その言葉を曲げる訳にはいかない。そんな事をしてしまえば、彼女は仁郎の信頼を失う事になるだろう。

 思考を逸らすべく、リアスは延長線上の話題を朱乃に振る。

 

「そういえば、朱乃はジローがお気に入りよね?」

「え?」

「だって、あそこまで男子に近づく貴女は珍しいじゃない?」

「そう、ですわね……月島君、反応が可愛いんですもの。オマケに、お強い」

 

 そう言ってジッと木刀を振るう少年を見やる朱乃。その横顔に、リアスは眉を上げた。

 学園の二大お姉さまと羨望の的である二人だが、浮いた話など今まで一度も無かった。

 婚約者の居るリアスは別として、人当たりの良い朱乃は男性嫌いの節があったからだ。それを表に出す事は無かったが、小指を結ぶような仲に至る者は居なかった。

 だが、今はどうだろう。その瞳には熱っぽさが見え隠れしている。

 ゲームが終わったら話してみようか。そんな事を思いながら、リアスは魔力を練るのだった。

 

 

 

 そして、時は流れる。

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