常住戦陣~月島流剣術推して参る~ 作:トコヨノオウ
長くも短い十日間。
ただ、やはり技量の上達を見込むには短い期間であったと言えるだろう。
しかして始まるレーティングゲーム――――が、その前に。
「ジロー。貴方は、私が呼ぶまで前線に立っちゃダメよ?」
「……理由を聞いても?」
グレモリー側のスタート地点である、オカルト研究部の部室にてリアスは仁郎にそう告げた。
「こんなに貴方を付き合わせて何をいまさら、という話でもあるんだけど。貴方が強いのは、合宿でよく分かったわ。ライザーにも勝てるでしょう。でも、それじゃいけないと思うの」
真っすぐにリアスの蒼い瞳が、仁郎に向けられる。
「私たちは、私たちの力を示さなくちゃいけない。だからせめて、私が呼ぶまでは待機をお願い」
「ふむ……まあ、先輩にも面子がありますし、自分は構いませんよ」
仁郎にも否は無い。
そもそもが、悪魔の問題。今回は特例で参加しているだけというのを、彼はちゃんと理解している。
無論、力は尽くすがそれはそれ。暴れるだけが能ではない。
アッサリと引きさがり、神器を肩に立て掛けてソファに座った仁郎。
寧ろはしごを外されたのは、リアスの方だ。
彼女自身も自覚しているが、ここまで巻き込んでおいて大事な場面で遠ざけるなど怒鳴られたって文句は言えない。
例え殴られるような事態となっても、彼女は誠心誠意言葉で宥めるつもりだったのだ。
そして、勝負の時は訪れた。
*
月島仁郎は、見晴らしのいい高所に陣取って、頭を抱えていた。
「アレは無いだろう、兵藤……」
眉間を揉んで苦言を零すのは、一誠が新たに考案した魔法にあった。
一誠のエロ根性が成せる魔法だが、如何せん見た目と効果が酷すぎる。
「……一応、装甲を破る効果はある……のか?」
変態の極だが、有用性はある。相手が女性限定だが。
接近戦に置いて脅威の一つが、相手の装甲問題だ。要は、全身鎧などの装甲。これを突破するのは存外難しい。
それを、一方的に且つ相手を物理的に傷つける事無く装甲を剥げるのなら、無力化という観点ではまあまあに有用。
もっとも、相手の尊厳を踏み躙っている時点で仁郎としては論外だったが。
ゲームは続く。
最初に落ちたのは、朱乃。相手“女王”と相打ち。
次は、祐斗と小猫。眷属は軒並み落としたが、ライザーに一矢報いて業火に巻かれた。
残る一誠は、前二人と共に突っ込んで炎に巻かれたが、間一髪のところで二人に突き飛ばされて辛うじて助かった。火傷も、アーシアが治療中。
残るはグラウンドでのリアスと、ライザーの一騎討ち――――とはならない。
「もう良いですよね、グレモリー先輩」
「……ええ。そうね。私としては、貴方の出番を無くす気概で居たんだけど」
「ま、次頑張りましょう。今回は準備期間も短かったんですし、非公式なんですから」
右肩に神器の鞘を当てて、仁郎参戦。
「随分と遅い登場だな。まあ、尻尾巻いて逃げたとしても誰も咎めはしなかっただろうが」
「ペラペラと、饒舌だな」
リアスを通り越して、ライザーと相対する仁郎。
握るのは、鞘と柄を負い紐でギッチギチに固定した神器。構えは正眼。呼吸は深く、心臓の鼓動は緩やかだ。
「抜かないつもりか?」
「抜かせてみてくれよ」
ライザーの蟀谷に、青筋が浮かぶ。同時に、その背に現れるのは悪魔の翼、ではなく炎によって構成された翼だった。
フェニックス家は、悪魔の貴族。その能力が、幻獣のフェニックスに則る。
操る業火と不死身の再生力。
前者はあらゆるものを焼き尽し、後者は限界こそあれども手足の欠損が起ころうとも炎と共にその体は再生していくことができる。
悪魔社会においてもその能力は屈指の物だろう。
そして、ライザーは上級悪魔にふさわしい能力を有している。同時に、プライドも。
「ならば、抜かなかった事を後悔させてやろう!!!」
そう叫び、ライザーの右手に魔力が集束。燃え盛る業火となると、突き出す動作と共に炎の津波が仁郎へと襲い掛かっていた。
人間一人、焼き殺す事などそう難しいものではない。水でもなかなか消えないフェニックスの炎ならば肉体の水分量なども無視して骨ごと焼き尽せる。
二の足を踏ませるであろう炎。
だが、生憎と
「月島流、推して参る」
前へ。
下段へと鞘先を下しつつ見極めるのは、
肌が熱気に焼かれそうなほどの距離となり、
「――――富嶽山嵐!!」
剛剣が振り上げられた。
流れを読み、流れを掴む。振り上げられた神器によって巻き起こされた流れの嵐は、そのまま業火の壁を巻き取って空へと伸びる炎の柱となって吹き飛んでいた。
「な……!それが、お前の神器の力か!!」
その光景に目を剥くライザー。同じく、リアスたちもまた目を見開いていた。
が、そんな隙を戦場で晒す方が悪いという物。
「月島流――――」
眼前。ライザーの目の前には、神器を頭上に持ち上げた仁郎が迫っている。
炎の竜巻を突っ切ったからか、その頬には火傷が見て取れたがやはり
「――――富嶽鉄槌割り!!」
斬ると押すを同時に行い、且つ全身の活力を一瞬で発揮する刹那の見極めが必要な剛剣がライザーを襲う。
振り下ろされた鞘が頭部を捉え、そのまま力任せに地面に叩きつけ、押し潰していた。
直径十メートル程の円形状に押し潰されたような形状のクレーター。その中央で、仁郎は神器を振り下ろした格好で残心。
並大抵のはぐれ悪魔ならこの一撃で勝負が決している。というか、今回のレーティングゲームに参加した者達の内、一部を除いて勝負を決する一撃となった事だろう。
だが、仁郎を相手取るのはその数少ない一握りの例外。
「――――ナメるなよ、小僧ォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「ッ」
爆炎がクレーターの中心より湧き上がり、咄嗟に下がる事で仁郎はこれを躱す。
そして、土埃を焼き尽しながら憤怒の形相でライザー・フェニックスは立ち上がっていた。
「貴様が腕に覚えがある事は分かった。最早、一切の油断はせん!!フェニックスの悪魔に喧嘩を売った事を、後悔しながら焼け果てるがいい!!」
「……」
業火を嵐とするライザー。
十メートル弱離れていても、仁郎の前髪が熱気に揺れるほどの膨大な熱量だ。
もっとも、やはり仁郎は引き下がるような事は無いのだが。寧ろ、
「……面白い」
命のやり取りを前にして、その気配をより強く、より鋭く研ぎ澄ませていた。
ただ、コレはレーティングゲーム。一対一の決闘ではない。
「月島……!」
「体はもう良いのか?兵藤」
仁郎の左側に並び立つ様にして、兵藤一誠が戻ってきた。
「大火傷をするかもな」
「そりゃあ、お前の方だろ!……危ねぇんじゃねぇの?」
「ここで引き下がれるほど、自分は利口じゃない」
火炎の化物を前に、若きが立つ。
勝負は、終わりが近づいていた。