常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第十三陣

 超接近戦。ライザー・フェニックスが選んだのは、それだった。

 

「ォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 遠距離攻撃は、愚策。そう判断しての突進。相対するのは、好戦的な笑みを浮かべた月島仁郎。

 炎を纏った拳と鞘入りのままの神器が真正面からぶつかり合う。

 

 如何に傷を治したと言えども、今の一誠ではライザー相手に善戦する事は難しい。寧ろ、一方的に焼かれてお終いだろう。

 故に、彼は固定砲台に徹する。具体的には、仁郎が間を稼ぎ倍加を積み重ねるのだ。

 

 

「“タイミングは送る。自分諸共ぶっ放せ”」

 

 

 ライザーと接近戦を始める直前の、仁郎の言葉である。

 現状、倍加しても接近戦では戦力にならない一誠と、神器が真面に動いていない仁郎。この二人では、どうしたって決め手に欠ける。

 もっとも、ソレはライザーにも言える事だが。

 

「炎は撃たないのか!?」

「ふんっ!貴様の神器はよく分からんが、むざむざとアドバンテージをやるつもりはない!!」

 

 警戒するのは、未知の事象(富嶽山嵐)

 

(あの瞬間、俺の炎は妙な感覚の中にあった!制御できる筈が、まるで川に手を突っ込んだ様な感覚!あの現象は、不味い。下手を打てば、俺に炎が襲い掛かってくるだろう!)

 

 原理が分からない以上、不用意に遠距離手段は取れない。

 ただ、仁郎側からしても近距離戦は望む所。

 ライザーは確かに上級悪魔としての能力を有している。魔力然り、特性然り。そして、身体能力もまた中級以下の悪魔とは比べ物にならないだろう。

 だが、それだけだ。

 

(何故だ……!)

 

 振るう拳、蹴り、合間に挟んだ火炎弾。その何れもが、仁郎の振るう神器によって打ち払われ打ち消され、受け止められる。

 どれだけ優れた身体能力も、才能も。持ち合わせていたとしても、結局のところ磨かなければそれはそこらの石ころと何ら変わらない。

 鍛錬というカットを経て、初めて結果という(ぎょく)を成す。

 ポテンシャルが高かろうとも、才能と共に努力を十年以上続けてきた仁郎の前では意味を成さない。

 何より、彼の強さは鍛え上げたフィジカルと技だけではない。

 

「月島流、富嶽割り!!」

「ぶっ!?」

 

 今も振り下ろしを警戒して距離をさらに詰めてきたライザーに、逆に一歩踏み込んで肌が焼ける事も厭わずに柄頭を思いっきり振り上げてその顎を殴打し、頭を吹っ飛ばしていた。

 無論、そのダメージもライザーは炎と共に再生する。しかし、隙は出来た。

 

「撃てェ!!兵藤ォオオオオオッッッ!!!」

「ッ!ドラゴン、ショットォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 怒号に間髪入れずにぶっ放されるのは、倍加を重ねた魔力砲。

 力技過ぎる一発。これを背に、仁郎は時計回りに横回転しながら沈み込んでいた。

 

「月島流!富嶽、山嵐ィッ!!!」

 

 砲撃の先端へと鞘先を当てるようにして下段から神器を振り上げる。

 そのまま時計回りの回転による流れに砲撃を乗せた。

 神器が振るわれ、そこに追従するように不自然な曲線を描く砲撃。狙いは、今まさに頭部の再生を終えたライザーだ。

 

「くっ……!」

 

 逃げようとしても、もう遅い。そもそも、仁郎の動かすこの砲撃、一誠が放つだけと比べて四割り増しぐらいに速いのだ。

 純粋な砲撃の直進速度と、仁郎の操る富嶽山嵐による流れの操作。この二つを合わせる事によって速度のアップと、一誠だけではできない砲撃の追尾性を確立していた。

 

「ぐぅぅぅおおおぁぁぁぁあああああああああああああああ!?!?!?」

 

 砲撃に呑まれるライザー。ギリギリまで倍加を重ねたお陰で、悪魔の子供にも劣る一誠の魔力でも相当な破壊力となった。

 砲撃は突き進み、そのままライザーの後方にあった校舎へと激突。派手な爆発を生み、瓦礫の山を造り出す。

 崩れる校舎、舞い上がる粉塵――――瓦礫の隙間から、漏れ出る炎。

 

「まだだぁぁぁッッッ!!!」

 

 ボロボロになりながら炎と共に再生を果たす。ライザーの体力は尽きていない。

 しかし、ここは戦場。そして、戦場ならば一切気を抜かない剣士が居る。

 

「月島流――――」

 

 晴れた粉塵の中で、既に奴は居た。

 目を見開く、ライザー。振り上げられる、神器。

 

「――――富嶽鉄槌割りィッ!!!」

 

 瓦礫の山と残りの校舎を粉砕する破壊の一撃が、振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝負は決した。リアス・グレモリーは、その光景を前にそう思った。

 

「お疲れ様、イッセー」

「ハァ……ハァ……っ、は、はい!部長!」

 

 元々消耗していた所に最大限の倍加を行って疲労困憊だった一誠は、敬愛するリアスの言葉に返事を返す。

 最後は持っていかれてしまったが、それでもド素人がゲームの終盤まで生き残っている事は確かな成果だと言えた。例えソレが運だろうと何だろうと、運もまた実力の内。

 

「アーシア、ジローの治療をお願いできる?」

「は、はい!」

 

 回復担当として残ってもらっていたアーシアに指示を出しつつ、リアスが見るのは粉塵の上がる校舎があった場所。

 恐るべき破壊力だ。解体現場にいれば重宝される事だろう。

 

(魔力が無いのよね。気、だったかしら。でも、仙人じゃない)

 

 凄まじい破壊痕。一応、リアスも一誠の補助があれば校舎一つ消し飛ばすぐらいなら出来るかもしれない。

 崩れた瓦礫と、円形に陥没した基礎部分。

 ゲームの為に構成された疑似空間といえども、新校舎の構造は鉄筋コンクリートの高耐久。

 にも拘らず、人力で粉々になるまで破壊された。それも、神器が真面に扱えない状態で言っては何だが頑丈な棒切れを振り回すだけでこの始末。

 

「…?」

 

 不意に、リアスは疑問を覚えた。

 なぜ、とどめを刺した筈の仁郎が戻って来ないのか、と。

 その答えは、今明かされる。

 

「!?」

 

 突然、舞い上がっていた粉塵が大きく膨らんだかと思えば、紅蓮の炎を吹き出しながら巨大な爆発を起こしたのだ。

 同時に大きく弾けた粉塵を突き破る様にして宙を仰向けの状態で吹っ飛ばされる仁郎の体が、飛んできた。

 咄嗟に受け止めようと羽を出して飛ぼうとしたリアスだが、その前に仁郎は空中で器用に体を動かして、彼女の斜め前へと着地。少し地面を滑って勢いを殺してから立ち上がる。

 

「何があったの!?」

「さあ……?確かに仕留めた筈なんですけどね。急に傷が治ったかと思えば、あの通り元気いっぱいですよ」

 

 イテェ、と火傷を負った左腕を振りながら仁郎は目を細めた。

 彼にしてみれば、最初に打ったのとは訳が違う威力で、富嶽鉄槌割りを見舞ったのだ。それこそ、このフィールドで地震を起こす気概で叩き込んだ。

 文字通り叩き潰して試合終了。直前の砲撃がぶち当たった事も相まって、ライザーを仕留めた筈だった。

 だが、現実は真逆。ライザーは立ち上がり、その体には一切の怪我が見受けられない。

 

「これを使うつもりは無かった」

 

 苦々しくも、ライザーは言う。同時に、リアスも気づいた。

 フェニックス家の至宝にして、家を栄えさせた秘薬。

 

「フェニックスの涙……!」

「その通り。こいつを使えば、たちまち傷は癒え体力も戻る。言っておくが反則じゃあない。実際のゲームでも使われているからな」

 

 半分熔けた瓦礫を踏み分けて、ライザーはグラウンドへと戻ってきた。

 状況は悪い。タイマンではリアスは押し切れず、仁郎は左腕に火傷。一誠は疲労困憊で、そもそもアーシアは戦えない。

 

「……」

 

 王のリタイア。そうすれば、これ以上眷属たちは傷つかない。

 愛情深いグレモリーの血筋を色濃く受け継いだリアスは、特に自身の眷属を溺愛している節がある。

 その結果として頭を過ったその方法へと手を伸ばし、

 

「っ!ジロー……」

 

 前に立った月島仁郎の背を見て踏みとどまった。

 痛々しい左腕の火傷。それでも動かす分には支障はないらしく、血を滲ませながら神器の柄を握り直している。

 そして、振り返る事無くリアスへと言葉をかけてきた。

 

「まさか、諦めるなんて言わないですよね?グレモリー先輩」

「っ……」

「まだ終わってません。自分は動けます」

「お、俺だってまだ戦えます!!!」

 

 疲労を滲ませながら一誠もまた立ち上がった。

 膝も震えているが、それでもその足で真っすぐに仁郎の隣に再び並び立つ。

 

「部長!俺、部長には笑っていてほしいんです!幸せになってほしいし、笑顔で居てほしい!そりゃあ、俺は部長のおっぱい大好きですけど!何より、部長の幸せが一番です!!」

「イッセー……」

「だから!無茶をさせてください!無理を通させてください!今!!戦わせてください!!!」

 

 少年の叫びと共に、その体に力が宿ると神器が倍加(Boost)を告げる。

 一誠に諦める選択肢は最初から無い。

 敵が強力。ダメージが消えた。こちらは消耗過多。勝ち目は蜘蛛の糸よりも細いかもしれない。

 

 関係ない。例え、千の挫折を突きつけられて心を折られようとも、その足は何度だって立ち上がる。

 

「カッコつけるな、兵藤」

「当ったり前だろ!俺は、ハーレム王になるんだからな!!」

「疲れてハイになってるな……まあ、良いか」

 

 締まらねぇ、と内心で考えながらも仁郎の頬には小さな笑みが浮かんでいた。

 左腕は火傷したが、関節の稼働には支障無し。力も入る。骨に響くような痛みは、無視した。

 

「兵藤、同じ手は恐らく通用しないぞ」

「おう!もう月島任せにはしねぇよ!」

「……なら、背中は任せるぞ、()()()()

「!行こうぜ、()()()!!」

 

 示し合わせる事もなく、少年二人は駆け出した。

 対してライザーもまた、油断は無くその背に負った炎の翼をより強く燃え上がらせる。

 同時に駆けだした一誠と仁郎だが、やはり鍛えている関係上後者の方が速い。

 神器を顔の隣に、鞘先をライザーに向けるようにして構えて、

 

「月島流!富嶽巌砕突(がんさいづ)き!!」

 

 踏み込みの勢いとねじり込むようにして突き出す削岩機のような刺突がライザーに迫る。

 この突き、恐ろしい事に木刀でも漆喰の壁を数枚綺麗な円形でぶち抜ける威力がある。それを、全力で放てばその破壊力は推して知るべし。

 

「むっ!」

 

 既に何発も食らって、仁郎の攻撃の強さはライザーも文字通り身をもって知っている。

 故に、これを跳躍と炎の翼による飛行で回避。同時に空を僅かに回りつつ全身を燃え上がらせつつ距離を確保。

 

(まずは、あの小僧を潰す!残りはリアスが厄介だが、乱戦では彼女の“滅びの魔力”は使えまい。後ろのシスターは回復こそ厄介だが、所詮は非戦闘員。あちらの小僧は雑魚だ)

 

 狙いは仁郎。突きを放って無防備となって通り過ぎた背中をそのまま叩き潰さんと強襲。

 だが、

 

「ドラゴンショットォォォッ!!」

 

 一誠が居る。

 迫る砲撃。その威力は、先程の倍加後に放った一撃に勝るとも劣らない。

 神器は持ち主の精神に感応して、その能力を大きく引き上げる事がある。それも、神滅具程にもなれば発揮される力は計り知れない。

 今の一誠は、精神が肉体を凌駕しているような状態。肉体負荷を一時的にだが無視して、文字通りの全力全開を発揮していた。

 

「チィッ!!」

 

 迫る砲撃を回避して、一発を放った一誠を睨むライザー。

 如何にフェニックス家の悪魔で上級悪魔といえども、『赤龍帝の籠手』より放たれる砲撃は決して無視できない。

 直線的な攻撃だからこそ、正確に、確実に回避せねばならないのだ。

 そして、回避は一種の隙でもある。一対多の状況ならば猶の事。

 

「月島流――――」

「しまっ――――」

 

 一瞬の隙。上空から特攻するような状況だったライザーの上を、仁郎はとった。

 

「富嶽鉄槌割り!!!」

「っ――――!」

 

 体を反転させて上下反転の状態で両者相対する。

 振り下ろされる神器。間に割り込んだ炎と両腕が咄嗟の壁となるが、しかし体勢不十分。

 円形の衝撃と共に、その体は一直線に隕石の様にグラウンドへと叩き落されていった。

 舞い上がる粉塵。すぐさまライザーは体を再生させながら立ち上がり、

 

「歯ァ、食いしばれェッ!!!」

「ぶっ――――!?」

 

 その端正な顔立ちに、ゴツイ赤の籠手が拳を象り突き刺さっていた。

 倍加は十分。心意気も、勢いも十分。

 錐揉み回転しなが吹っ飛ぶライザー。追撃に駆ける一誠。

 

「~~~~っ、舐めるなよ、小僧ォォォ!!」

 

 強引に体の回転を止めて着地して地面を滑り、どうにか止まったライザーは拳に炎を纏わせ咆える。

 勢いに乗った一誠の左拳と、ライザーの右拳が激突。

 

「ぐあっ!?」

 

 爆炎と共に吹き飛ばされたのは、一誠だ。如何に倍加していようともその実力は所詮は悪魔なり立てのド素人。上級悪魔の魔力を乗せた一撃には届かない。

 しかし、無駄ではない。着地した仁郎が、ライザーの左側面から迫っていた。

 

「富嶽虎逢断(とらあいだ)ち!!」

 

 下から上への三連続斬り上げ。その斬撃跡は爪痕の様に刻まれる。

 

「ぐっ……!」

 

 攻撃その物は防げても、内包した衝撃の全てを相殺できるわけではない。ライザーの体が空へと打ち上げられる。

 追撃の為に、仁郎は振り上げた神器を再び下段へと構えると、膝を大きく沈めて溜を作った。

 跳躍。

 

「月島流、富嶽天砕(あまくだ)き!!」

 

 振り上げと跳躍を組み合わせてロケットのような勢いで空へと跳び上がる。

 吹っ飛ぶライザーだが、今度は体勢不十分ではない。

 

「叩き落してくれる!!!」

 

 渦を巻く火炎の旋風をまとめ上げて、跳び上がってくる仁郎に向けて叩きつけに掛かった。

 空のぶつかり合いを見上げ、一誠は駆け出し――――派手にスっ転ぶ。

 

「っ!?」

 

 即座に立ち上がろうとするが、力の溢れる体に反して足が言う事を聞かない。震えるばかりで、腰が抜けたかのように動けなかった。

 

(ふざけんなっ!!!)

 

 心で叫ぶ。背中を任せると言ってくれた友人がまだ戦っている。今も、火傷を増やしながらそれでも腕を振るっている。

 であるのなら、自分はこんな場所で止まっている訳にはいかない。

 

(まだ終わってねぇ!まだ、終わらねぇ!)

 

『“力が欲しいか?”』

 

 藻掻く一誠に、不意に聞こえた声。

 その出所は分からない、が低い声は問いかけてくる。

 

『“疲労の溜まった体では一発が限界だろう。それでも力を求めるか?”』

 

「寄こせ!!!」

 

 間髪入れず、一誠は叫ぶ。

 一発限り。それでも構わないと。文字通り、全てを賭して叩き込むつもりだ。

 

『“良いだろう。ただし、()()()()()”』

 

 大きな拍動。同時に、一誠は己の内に沸き起こる今までとは違うより力強いエネルギーの波動を感じた。

 声は続く。

 

『“あの小僧に感謝する事だな。お前がもっと弱かったのなら、腕の一つは対価で必要だった”』

 

 力には、対価が必要。それが望むにしろ、望まないにしろ。特に、才の無いものが大きな力に手を伸ばそうとすれば、やはり相応の贄が必要だった。

 紅蓮の光が、一誠を包み込む。

 

 一誠の体に変化が起きている一方で、仁郎は劣勢に立たされていた。

 

「空中では思うように動けまい!!」

「ぬぅ……」

 

 人間は、地上の生き物だ。翼は無く、エラも無く、その両足を持って地を駆け抜ける。

 如何に人外の戦闘能力をもちあわせていようとも、仁郎は人間だ。空中の機動力は0と言って良い。

 その点、ライザーはフェニックスの悪魔。その炎の翼を用いた空中機動は並大抵のものではない。

 敢えて下から上への攻撃を行って仁郎が地面へと降りられないようにして、後はその機動力を持って封殺する算段。

 

(参った。迎撃をしようにも、こうも文字通り縦横無尽で来られると対処にここまで困るのか)

 

 直撃は貰っていないが、状況は悪い。

 叩き落そうにも直前で逃げられ、下を目指せばかち上げられる。

 掠り傷でも増えすぎれば動けなくなる。火傷ならば猶の事だ。

 一か八か、大技を放とうかと考えた所で、赤い光が視界の端に飛び込んできた。

 

「ジロー!!!!」

 

 突っ込んでくるのは、赤い鎧を纏った何者か。

 体の各部位に深い緑の宝玉が嵌められた全身鎧。特に目を引くのが左腕で、肘より先の部分が右腕よりも二回りは大きいだろうか。

 

 『疑似(フェイク)赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)一撃(01オール)”』

 

 背部に設けられたブースターによって、一時的な飛行を可能とした状態。

 神器には、禁手(バランスブレイク)と呼ばれる領域がある。これは、神器保持者が一定以上の領域に到達した結果至るものであり、使い方によっては世界の均衡も破壊する事からこの名が付けられた。

 だが、現状一誠も仁郎もこの領域には至っていない。

 一誠が纏うのは、疑似的な禁手状態の鎧。本来の物に比べれば劣る上に、今回は文字通りの一発勝負。外せば、彼はそのままゲームをリタイアしてしまうだろう。

 

 その背水の陣から発する覇気とも言うべき存在感。これは、ライザーも無視できない。

 ただ、彼はミスを此処でしてしまう。

 例え意識が一誠に引っ張られたとしても、だからといって突進の最中に仁郎への注意を疎かにするものではなかったのだ。

 

「月島流、」

「!しまっ――――」

 

 突っ込んで放たれたライザーの右ストレート。

 これを、仁郎は顔の前に横に倒した状態で寝かせた神器で受けた。受けたと同時に体を時計回りに回転。ライザーからの衝撃に遠心力を加えた状態で回って神器を振り被る。

 

「富嶽渦潮斬(かちょうぎ)り!!」

 

 カウンターの回転斬りがライザーを捉えた。

 相手の攻撃を受け流しつつ、その衝撃を利用した回転斬りは本来は周囲を囲まれた際に一気に周りを斬り倒すために考案されたもの。

 相手からの衝撃+遠心力+己の膂力という式の結果、その破壊力は巨木であろうとも一撃のもとに斬り伏せる。

 鞘入りのままであるため斬れない、がその破壊力は棍棒で殴られたも同然。

 カウンターを受けて、吹っ飛んだライザー。体勢を立て直す暇もなく、一誠の目の前。

 

「オォォォ、ラァァァァアアアアアア!!!!」

 

 振り抜かれる全力の左拳。

 着弾の瞬間、赤い砲撃が叩き込まれライザーの体はその中に消える。

 

(馬、鹿な……!!!)

 

 意識の途切れる寸前、ライザーは見た。

 渾身の力で拳を振るう男の背に、紅蓮の龍が咆える姿を。

 

 この日、赤き龍が目覚める。

 それは、更なる闘争の始まりだったのだが、今はまだこの勝利を刻むのみだ。

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