常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第十四陣

「神器ってのは、便利だな」

 

 綺麗サッパリと無くなった火傷痕を見て、月島仁郎は感嘆の声を漏らした。

 

 グレモリーとフェニックスの非公式レーティングゲームは、前者の勝利で幕を下ろした。

 気で強化しながらも、生身で炎の中へと突っ込んでいたようなものだった仁郎は左腕がかなり深い火傷を負い、全身もほぼ満遍なくフランベされていた。

 それら火傷を治してくれたのが、アーシア・アルジェントだ。

 彼女の神器『聖母の微笑』は、大抵の怪我を瞬く間に治してしまう。欠損などは無理だが、例えば斬り飛ばされた腕などを引っ付けて神器を使用すれば繋ぎ直す事も可能。

 確実に痕が残ったであろう深度の深い火傷であっても綺麗な物。後遺症もない。

 

 十日間の合宿と非公式レーティングゲーム。

 晴れてライザーとリアスの婚約は破棄。直近で予定されていた二人の婚約発表パーティは急遽頓挫し、勝手に話を進めていた両家当主は頭を抱える事になったとか。

 問題は、その後に起きた。

 

「あの馬鹿は、何時まで寝てるのか……」

 

 兵藤一誠が昏睡状態に陥って既に三日が経過していた。

 原因は、疑似的とはいえ禁手を無理矢理発動してしまったから。神滅具の禁手など、いったいどれほどの負荷を所持者に強いるのか。それも無理矢理ともなれば、その反動が襲ってきてもおかしくはない。

 

 仁郎が考えるのは、自身の神器の事だ。

 もし仮に、彼が神器を真面に使えていれば結果はもっと違った。もっと簡単にゲームの片はついたはずだった。

 当然だろう。鞘入りのまま殴りつける剣と、剣そのものの機能を遺憾なく発揮して切り捨てる剣。どちらに軍配が上がるかなど分かり切った事。

 そもそも、神器にはそれぞれ一つの能力があるのだが、仁郎は自身の神器がどういう能力を有しているのかすら分かっていない。

 

 一誠が倒れ、リアスが付きっきりとなっている現状、オカルト研究部は二人を抜いた状態で運営している。

 仁郎が居た所で何が出来るのかという話だが、不測の事態が起きた際には戦力が居た方が良い。そんな考えもあって放課後には部室に顔を出していた。

 

「こんにちはー」

「……あら、月島君」

「どうも、姫島先輩……だけですか?」

 

 薄暗い部室に居たのは、朱乃だけ。祐斗と小猫は席を外しているらしい。

 カバンを床に置いてソファに腰掛けた仁郎は、ふとこの先輩も様子がおかしい、と思考を回した。

 レーティングゲームが終わってから、何やら思い詰めている。この事に気付いたのはゲームが終わって割とすぐの事だ。

 ただ、気付きはしても仁郎は今一歩を踏み込もうとはしなかった。

 小猫の問題と同じだ。彼は余りにも朱乃の事を知らない。精々が、年上の先輩で、S気質があり、紅茶を淹れるのが上手くて、物腰柔らかな大和撫子といった位か。内面はノータッチ。

 

「……はぁ」

 

 気まずい。露骨にではないがアンニュイなため息を吐く美人というのは絵になるが、同時に視界の暴力が過ぎた。

 オマケにそれが、目をかけてもらっている先輩ならば猶の事気にかかる。

 小さな一息を挟んで、仁郎は意を決し口を開いた。

 

「あの、姫島先輩?」

「……っ、はい。何でしょう?」

「あー、いや……何か悩みでも?」

 

 良い言い訳が思いつかず、直球勝負。

 ぱちくりとアメジストを彷彿とさせる瞳が瞬いた。

 

「悩み、ですか?」

「ええ、まあ。少し前から溜息増えてますし、何か思い詰めたようにジッと虚空を見てる事も多かったので」

 

 思わぬ相手からの、思わぬ言葉に朱乃は固まった。彼女自身は、どうやら悩みが表に影響を齎していたとは思わなかったらしい。

 沈黙。気まずさが顔を覗かせる。

 無言のままに、朱乃はゆらりと仁郎の隣へと腰を下ろした。

 

「月島君」

「は、はい?」

「私の懺悔、聞いていただけますか?」

「え?あ、ああ……どうぞ?」

 

 唐突にそんな事を言われて、仁郎は頷くしかない。

 朱乃は俯きながら、隣へと視線を向ける事なく口を開く。

 

「私は……酷い女なんです」

「……」

「親友であり、恩人ともいえるリアスの一大事でありながら、自身の感情を優先したのですから」

「感情?」

「結果、私は眷属の中でも最も早くに脱落しました。リアスのこれから先の一生を左右したかもしれない一戦にあの体たらく……剰え、女王の駒を貰いながら……!」

 

 血を吐くような後悔の言葉。今の朱乃の内心は、嵐の海のように荒れ狂い、後悔と怒りと不甲斐なさにささくれ立っていた。

 滅私奉公、という言葉がある。私利私欲を捨てて、主への忠義を尽くす事だ。

 リアス自身は望まずとも、彼女の眷属たちにとっては大なり小なり求められる覚悟だった。

 そして、朱乃にはその覚悟が無かった。楽観視していた、ともいえる。

 その結果、ライザーの女王と相打ち。一番最初の脱落者となった。同時に、勝負を決めたのは裏の世界に関わり始めたばかりの後輩二人。

 後悔先に立たずとは言ったものだが、朱乃の精神はとにかく蝕まれていた。

 仁郎としては、困ってしまう。

 ぶっちゃけ、彼は朱乃を責める気は無い。話を聞いても、やはりそんな気は起きなかった。

 確かに、彼女は一番最初に脱落した。しかし、相手の女王も道連れにしたのだ。それだけでもグレモリー側にはプラマイプラス。寧ろ実戦経験豊富な相手の女王を最初に落とせたことは幸運だった。

 とはいえ、慰めの言葉を掛けた所で意味があるとも仁郎は思えなかった。

 

「……まあ、感情の問題は自分で割り切る以外に道は無いと思いますけどね」

「……」

「周りがどうこう言っても、結局人は自分で納得できていないと受け入れられないもんですし」

「……月島君は、納得して戦っているんですね……」

「それが自分の出来る事だと思いますし、何より剣を振るう事を楽しいと思います。強くなることは、楽しい」

 

 それは、仁郎の能力の高さも合わさった感想だった。

 彼の剣士としての技量と才能は、この現代社会にそぐわない物を持つ。そしてそれは、裏の世界の剣客たちと比べたとしても頭一つ抜けて、最強の人間候補の一人に成れるかもしれないもの。

 オマケに、父より叩き込まれた努力を続ける才能にも恵まれた。同時に、努力が実を結ぶ才能にも。

 

「先輩。自分の力が嫌いなんですね」

「……ええ、唾棄するほどに」

「でも、使わなくてはいけない、と」

「…………そう、ですわね」

「ふむ……なら、八つ当たりをするのはどうですか?」

「え……?」

 

 思わぬ言葉だった。朱乃は顔を上げて、隣の少年を見やる。

 仁郎はソファの背もたれに体を預けて木目の天井を見上げていた。

 

「使うのが嫌な力を使わせた相手が悪い!みたいな感じですよ。戦いを神聖視する人も居ますけど、結局勝てば官軍負ければ賊軍、何て言葉もあるんだ。使えるモノは使いましょう?」

 

 思わぬ視点だった、と言わざるを得ない。少なくとも、朱乃には無い視点だった。

 彼女が自身の力を疎むのは、その生まれに原因がある。詳細は省くが、その力を使えていたならばレーティングゲームの結果にも少しは影響を与えていたかもしれない。

 

 それはそれとして、朱乃は改めて自身の後輩(月島仁郎)を見やる。

 合宿の夜に、彼が戦いに臨む心構えを聞いた。そして今、自分には無かった新しい視点をくれた。

 強く、真っ直ぐで、思いやりながらも甘やかさない。

 支えてはくれても、縋りつかせてはくれない。本人が大分自立しているからか、自然と相手にもそういう立ち方を求めるせいだろう。

 

「月島君……いいえ、()()()()()

「はい?っ!」

 

 グイッと近付いてきた朱乃に、仁郎の体がソファの背もたれを滑って落ちた。吐息が擽ったい距離で、まるでキスでもするのではないかと思えるほどに近い距離。

 

「うふふ……戦っている時はあんなにも凛々しいのに、今は可愛らしいのですね」

「いや、えっと……男に可愛らしいは………」

「あら、可愛らしいですわ。それこそ、食べてしまいたいほどに」

「食べ……?」

 

 瞬間湯沸かし器の様に紅くなる少年の頬を撫でて、朱乃は微笑む。

 最早、胸の高鳴りを抑えられない。否、抑える必要性を感じない。

 

(ああ、コレが雄を求める女の本能……!)

 

 理由は知らない。ただ、この少年が欲しい。姫島朱乃は艶のある笑みを浮かべる。

 幸いと言うべきか、オカルト研究部に所属する四人の女性陣の内、二人はスケベドラゴンにご執心だ。残る二人の内、片割れもまだまだ色恋沙汰には疎い。

 つまり、()()()彼女にはライバルがいない。

 悪魔は己の欲望に正直なのだ。そして、姫島朱乃はその欲が一際強かった。

 恋に恋して、愛に飢える。

 ある意味で血筋に縛られた故の帰結なのかもしれない。

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