常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第十五陣

 リアスの問題が片付いて、暫く。

 駒王学園では球技大会が近づいてきていた。

 

「木場の様子がおかしい?」

「おう、そうなんだよ」

 

 青空の下、弁当を食べ進めていた仁郎は首を傾げた。

 彼と、それから一誠の二人だけで、ここは屋上。

 いつもなら松田と元浜や、アーシア、桐生藍華と昼食を共にする事が多いのだが、今日は前者は不要物持ち込みで生徒指導室にしょっ引かれ、後者は女子会を開くからと二人は追い出されていた。

 

「何時からおかしいんだ?」

「ほら、少し前にさオカ研で俺の家に集まった事が有ったろ?」

「あー……ちょうど、自分が断った時か」

「そうそう。その時にさ、なぁんかおかしかったんだよな。んで、この頃ボーっとしてる事が多いだろ?」

「悩みでもあるんじゃないか?」

 

 多感な年ごろだからな、と自分の事は棚に上げて仁郎は唐揚げを頬張った。

 仁郎からすれば、祐斗は常に一歩引いている立ち位置を崩さないタイプだ。同時に、()()()()()()()()()()()()()

 実は、合宿においてもっとも仁郎へと挑みかかった回数が多いのは、祐斗だった。

 普段の爽やかな様子など微塵もない、鬼気迫る用は雰囲気。その時は、挑まれる側であった仁郎もそこまでリアスの事を思っているんだな、程度にしか考えていなかった。

 そもそも、

 

「不用意に踏み込むものじゃないだろ」

「でもな……」

「イッセー、お前にだって触れられたくないデリケートな部分がある筈だ」

 

 誰かの為に一生懸命なのは、褒められるべき事だ。

 だが、それはそれとして人間だれしも触れられたくない事がある。触れてはならない部分がある。

 いまいち納得できていない様子の一誠。ただ、この場で当事者が居ない状態で議論しても意味のない事であるとは分かっている。

 という訳で、次に問うのは気になっていた事。

 

「そういえば、この前の用事って何だったんだ?」

「うん?……墓参りだけど」

「げっ……すまん」

「いや、いいさ。特に隠してないし、母さんの月命日ってだけだから」

 

 さっきの今で相手のデリケートな部分に触ってしまった。さしもの一誠も頬を引きつらせるが、仁郎自身特に気にしていない。

 

「別に良いって。かれこれ十年以上も前の事だし、自分の中での決着はついてる。近況報告や、後は掃除位しかやる事も無いからな」

 

 因みに、母の月命日には父の墓参りも一緒に済ませている。これは横着ではなく、父からの遺言を守った結果だった。

 話題選択をミスった、と一誠はもそもそ弁当を頬張る。因みに、アーシアのお手製だったりする。

 代わりに、弁当の中身をお茶で飲み込んだ仁郎が口を開いた。

 

「それはそうと、イッセー。お前は、鍛錬の方はどうなんだ?」

「え?あー、ぼちぼち?」

 

 変わった話題に、一誠は頭を掻いた。

 彼の鍛錬は基礎体力の向上と、それからレーティングゲームの最後に発現した疑似的な禁手を足掛かりとした、本格的な禁手に至る方法。

 前者は兎も角、後者は難しい。というより、ほぼ不可能。仮に使えるようになったとしても、その使い勝手は劣悪の一言に尽きる。

 話題に反応したのか、一誠の左腕に真っ赤な籠手が現れた。

 

『アレは、一発限りだ。次は腕の一本は持っていくぞ。それよりも、小僧』

「…………誰だ?」

「俺の神器に封印されてるドラゴン、らしい。つーか、ドライグ。勝手に出てくんなよ」

『気にするな。それよりもだ、小僧』

「自分か?」

『ああ、そうだ。お前の神器は、随分と奇妙だと思ってな』

「神器?」

 

 赤い龍の言葉に、仁郎は首を傾げた。

 チラリと屋上の出入り口へと目向けて意識を集中。誰も近付く気配がない事を確認して、彼は空になった弁当箱を片付けて脇に置くと左手を前に出して虚空を掴んだ。

 環頭大刀。鞘入りであり、その鞘と柄が離れないように負い紐をギッチギチに縛り付けて取れ無くしていた。

 そのギッチギチに縛り上げた負い紐を解いてから柄を引き抜く。

 やはり、刀身は無い。見えない訳でもなく、そもそも存在しない。

 

「……なんつーか、何なんだろうな?いや、神器が使えない状態であそこまで強いジローが頭おかしいと思うけどさ」

「誰が頭おかしいだ。鍛錬の成果だろ」

「いやいやいやいや、やっぱりおかしいって。部長とかも、上級悪魔とフィジカルで張り合ってたら引いてただろ」

「うっせ……それで?ドライグ……さん?は何が気になるんだ」

『さん、は要らん。小僧、お前が神器を扱えないのはお前自身が神器を必要としていないからだ』

「はあ……?」

 

 ドライグの言葉は、仁郎にとっては意味が分からない。

 

「どういう事だよ、ドライグ」

『どうもこうも、神器というのは本来持ち主の想いや願いの強さに呼応するものだ。そしてそこには、大なり小なり神器含めた外的要因への渇望がある』

「………?」

「要は、神頼みだイッセー。でも、成程……何となく分かった」

「ええ!?マジで!?今ので分かったのか!?」

「つまり、自分は強くなりたいとか強くなるとかそういう願望をかなえる時に、神器含めた外からの力を求めてないって事だ」

 

 努力と才能と鍛錬の積み重ねによって強くなってきたのが月島仁郎だ。

 もしも、生まれつき神器を発現させこれを使ってきたのならば、刀身に関しても苦も無く出現させる事が出来たかもしれない。

 だが、現実問題そうはならなかった。よって、仁郎にとって神器とはどこまで行っても、現状外付けの力に過ぎない。精々が壊れない棍棒扱いであり、剣としての機能は正直あまり必要としていない。

 ないない尽くしだ。これでは神器が泣いてしまう。

 

「ええ……ジロー、少しは受け入れてやれよ」

「そう言われてもな………」

 

 物言わぬ環頭大刀が唐突に不憫になったのか、一誠が非難の目を仁郎に向ける。

 鞘へと柄を戻して、仁郎は改めて神器へと目を落とす。

 

 やっぱり、必要性を感じない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自身の力(神器)との向き合い方を考えたその日の夜、仁郎は自宅の縁側に腰を下ろして再び神器を出して眺めていた。

 柄を引き抜き、鞘を脇に置いてから月にかざす様に柄を持ち上げる。

 目を閉じて、意識するのは呼吸。

 腹の底で練り上げた気を全身に回し、活性化。余剰分を、柄を握った右手へと回す。

 

「…………変化なし、か」

 

 気による強化は感じる。だが、その空っぽの刀身が出現するような事は無い。寧ろ、気で強化した柄でぶん殴るだけでもそこらの鈍器より強いかもしれない。

 一応、月島流剣術には柄のみで戦う術がある。しかしこれは、本来は刀身が血糊や刃毀れなどで真面に機能しなくなった際に扱う緊急手段。威力は凄まじいが。

 とりあえず、気を解くと大きく息を吐き出してから仁郎は両手を支えに体を後ろへと傾けた。

 考えるのは、昼休みに言われたドライグの言葉だ。

 

「どうするか……」

 

 仁郎自身、外付けの力を悪としている訳ではない。寧ろ、使えるモノは使っていくべきだとも考えている。

 だが、同時に必要としていない事もまた事実。

 堕天使戦は相手が弱かった。ライザー戦もタイマンでも勝ちの目は十分にあり、尚且つ自分一人で勝つ必要が無かった。

 神器に目覚めてからの二つの戦い。何れも、神器に願うような状況には陥らなかった。

 

「願い。願い、ねぇ……」

 

 父との手合わせの際にも、そして先の二戦においてもその最中に誰かに祈ったり願ったりした事は無い。

 そんな事を考えている暇があれば、一手でも多く勝ちへの道を突き進むべきだと叩き込まれてきたからだ。

 月を見上げて、一息。ふと、気配が近づいてきた。

 

「なーにしてるのかにゃーん」

 

 庭からやって来たのは黒い猫。

 軽い動作で縁側に飛び乗ると、チョイチョイと前足で転がった鞘を突いた。

 

「うにゃ?これって、ジローの神器の鞘?」

「ああ」

 

 黒猫の問いに頷いて、仁郎は右手を持ち上げて軽く振った。

 黒猫は初めて見た鞘から抜かれた神器を見て、その小さな頭を傾げる。

 

「剣よね、ソレ。刃は?」

「無い」

「それって意味ある訳?」

 

 呆れながら、黒猫は何故目の前の少年が鞘入りのままに神器を振るっていたのか理解する。

 刀身が無いのだから、そのまま振るうよりも鞘を付けて振るった方がリーチ十分、威力も出る事だろう。

 

「神器にも不良品ってあるんだ~」

「自分は困っていないがな」

 

 柄を鞘へと戻して、仁郎は神器を消した。

 代わりに、黒猫が彼の太ももの上に飛び乗ってくる。

 

 因みに、未だに小猫にはこの黒猫の事を差し出す事は出来ていなかったりする。

 それとなく話を聞いているのだが、中々どうして根が深い。オマケに、小猫にとっては最早トラウマとも言うべき状態で、黒猫の方も無理矢理に接触しようとはせず敢えて遠くから見守るスタンスを取っていた。

 空を見上げれば、月が雲に隠れようとしている所。

 雨の季節だった。

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