常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第十六陣

 白球が甲高い音と共に大きく空に弧を描く。

 

「またかーーーっ!!!」

 

 叫びながら駆ける一誠は、空を確認しながら走る走る。

 そして、マウンドの上では四つん這いとなってリアスがどんよりと項垂れていた。

 

「まさか、私の必殺魔球(クリムゾンボール)も打たれるなんて……!」

「あー、自分相手に動体視力勝負は意味が無いと思いますけど?」

 

 金属バットで肩を叩きながら、仁郎は肩を竦めた。

 彼にしてみれば、スポーツは基本的に難度が低い。それこそ、プロの投球であろうとも目で追った上でかっ飛ばす事が出来るだろう。接近戦が主体の相手に速度勝負は意味がない。

 球技大会に向けての練習。仁郎はクラスではなく、オカルト研究部のメンバーとして出場する事になっていた。

 因みに、悪魔であるからといって優勝余裕、とはならない。

 そもそも、悪魔に転生を果たしたからといってそのまま体を動かすのが得意になる訳ではないからだ。

 具体的には、元聖女とか。彼女の運動能力は身体能力云々以前に、どんくさい。

 

「…………」

 

 バットを構えなおしながら、仁郎はふと一誠とは反対側の守備に割り振られた祐斗を見やった。

 いつもの彼なら、苦笑いしながらも楽し気にしている事だろう。

 だが、今は違う。棒立ちだ。心ここにあらずと言ってもいい。

 

(自分が手を出しても良い物か)

 

 前を見て、仁郎は考える。というか、この部活の所属者は何かしら抱えていなければいけないのか、とも。

 仁郎はカウンセラーではない。もともと口が上手いとも思っていないため、乗り気にもなれない。

 

「ジロー!もう一球行くわよ!」

「うーっす、バッチコーイ」

 

 今はとりあえず、燃える紅髪のお嬢様の相手に集中するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は流れて放課後。

 オカルト研究部に所属しているとはいえ、人間である仁郎に出来る事も特に無いため本来ならば長居する必要はない。

 だが、今日は違う。

 

「今日は他の悪魔との顔合わせをしましょう。ジロー、貴方も来てちょうだい。眷属じゃなくとも、私の庇護下に居るんだもの。轡を並べて戦う事もあるでしょうから」

「あ、はい。了解です?」

 

 部室に顔を出した仁郎はそんな事を言われて首を傾げた。

 たまたま隣にいた小猫へと己の疑問を問いかける。

 

「悪魔って、まだ居たんだな」

「そうですね。月島先輩も知ってる方だと思いますよ」

「自分も?」

「はい」

 

 小猫の頷きを受けて、仁郎は考える。

 駒王学園は小さな学校ではない。寧ろ、幼稚園から大学まで一貫校でありすべての在籍生を数えればマンモス校と言って良いだろう。

 高等部にだけ限定したとしてもかなりの人数となる。

 仁郎は、探知系を苦手としていた。何となく気配の違いは分かるのだが、しかし明確にハッキリと確証を持てるものでもない。

 

 リアスに先導されて、オカルト研究部の面々が向かうのは生徒会室。

 

「成程?」

 

 首を傾げながらも、仁郎は頷く。確かに一方的とはいえ自分の知っている相手だ、と。

 果たして、開かれた扉。待ち構えていたのは、この駒王学園の生徒会メンバーだ。

 

「今日は時間通りですね、リアス。このまま、貴女の遅刻の回数が減ってくれると良いんですけど」

「う゛っ……んんっ!イッセー、アーシア、ジロー、紹介するわね。彼女は私の幼馴染の、」

「ソーナ・シトリーです。こちら(人間界)では、支取蒼那と名乗っていますからそちらで呼んでくださいね」

 

 そう言って、黒髪のショートカットを揺らして眼鏡の位置を正し、支取蒼那(生徒会長)は微笑んだ。

 怜悧な印象を与える彼女だが、中々どうして人柄には温かみがある。

 

(悪魔って、何だろうな)

 

 少し離れて壁際で腕を組み、仁郎はそんな事を考える。

 リアスも蒼那も優しい印象だ。人柄も悪くはなく、仁郎自身彼女らの性格を好ましく思っている。寧ろ、冷酷非道なトップなどよっぽどのカリスマが無ければ誰もついてこないだろう。

 そんな事を考えていれば、仁郎の前に誰かが立った。

 

「初めまして、月島仁郎君」

「あっと……どうも、えー……支取先輩、で良いですかね?」

「貴方の呼びやすい呼び方で大丈夫ですよ」

 

 綺麗な笑みを浮かべる蒼那。その笑みを見て、仁郎は成程と内心で頷いた。

 これが、“王”を務める悪魔か、と。

 

「じゃあ、支取先輩で。それで、どうしたんですか?自分に何か用事でも?」

「ええ。先の非公式レーティングゲームに置いて、リアスへの勝利を献上した立役者の一人ですから」

「……アレは、自分一人の成果じゃありませんよ。イッセーも居ましたし」

「だとしても、人の身で上級悪魔を相手に善戦したんです。リアスからの話だけですが、それでもあの興奮の度合いを見れば貴方の実力も垣間見えるという物。有能な人材は、常に引く手数多という事です」

「あー、つまり自分を眷属にスカウトしてる、と」

「無理強いはしませんよ。ただ、そういう話がある、というだけです」

 

 現状、リアスも蒼那も眷属には空きがある。その空きを実力のある者で埋めたいと考えるのは当然の思考であると言えるだろう。というか、他の悪魔であろうともそれは変わらない。

 幸いなのは、先の通り彼女らが眷属になる事を無理強いしない点。

 

(悪魔、ねぇ……)

 

 蒼那に言葉を返しながら、仁郎は考える。

 人として生まれたからこそ、人としてその一生を終える。この考えは、今も変わっていない。

 ただ、人というのは変わっていく生き物だ。今日の考えが明日以降もそのまま残っている、なんていう保証は何処にも無い。

 月島仁郎は、人間である。だが、これから先もずっとそれが変わらないかどうかはまた、別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。悪魔の顔合わせを終えて、そのまま解散となった仁郎は帰り道の途中で食材の買い出しを行い家路を歩いていた。

 

「…………ん?」

 

 暗い道。不意に人の気配を覚えて、仁郎は足を止める。同時に頭をよぎったのは、この町で最近起きているという辻斬り事件。放課後に行われた顔合わせの折に、一同に齎された情報。

 狙われたのは、はぐれ悪魔だったり、エクソシストだったり、裏関連の者達。

 僅かに目を細め、仁郎は左手に買い物袋を提げて、右手は背負っていた竹刀袋へと伸ばされる。神器を出さないのは、相手が辻斬りなどではなかった場合に面倒な事態に陥りそうだったから。

 果たして、暗がりの角から現れるのは二人組。

 

「む?強い気配があると思ったんだが……人か」

「ちょ、ゼノヴィア!そう、ずんずん行かないでよ!というか、まずは荷解きが先でしょ?!」

「だがな、イリナ。任務は手早く済ますに尽きるだろう?奴らが何を考えているにしろ素早く行動する必要がある筈だ。後、私の荷物は今持っているものだけだ」

「胸張れる事じゃないんですけどー……」

 

 何やら騒がしい少女が二人。コントのようなやり取りが、夜陰に響く。

 毒気の抜かれた仁郎だが、同時に二人の格好が気になった。

 足まで隠す丈の長い外套。その隙間より覗く、まるでボンテージのような黒い装束。

 明らかに一般人ではない。かといって警戒をしろと言われても気の抜けるやり取りばかりで、いまいち気分が引き締まらないという物。

 とりあえず、話を聞こう。そう決めた仁郎が口を開き、その前に別の音がその言葉を遮った。

 

「…………」

「……腹が減ってるのか?」

 

 仁郎が問えば、腹の虫を慣らした青い髪の少女が僅かに顔を赤くしつつ顔を伏せた。その隣に仁郎が視線を動かせば、同じく茶髪の少女も腹部を擦っている。

 仁郎は頭を掻くと、同時に冷蔵庫の中身を思い出す。今回の買い出しも、卵などのほぼ毎日使うようなモノを買い足すだけだった。

 

「あー、何だ。良ければうちに来ないか?これから、自分も夕飯にするつもりだったんだ」

 

 そんな事を、彼は提案するのだった。

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