常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第十八陣

 リアス・グレモリーは、眉間を揉んだ。その原因は、面倒事を持ってきた後輩にある。

 

「……もう一度言ってもらえるかしら」

「教会に所属している戦士二人がアポイントメントを求めてます。この町に入り込んでる賊を討つ為にすり合わせをしたいとか」

「すーーー……盗まれたのは?」

「エクスカリバーらしいですよ。驚きましたよね。伝説の聖剣が折れて七本に分かれて打ち直されてるとか」

「はぁ……」

 

 頭痛がする。端正な眉間に皺を寄せるリアス。放課後、彼女とそれから様子がおかしいからと残された祐斗以外は居ない部室に投げ込まれた爆弾。

 だが、仁郎とて何も考えずに伝達係を務めた訳ではない。

 

「グレモリー先輩」

「……何よ」

「自分が提案するのは、この教会の戦士との共同戦線です」

「…………出来ると思うの?」

「させます。自分としては、死人が出るの看過できないんで」

 

 うなじを撫でる仁郎に、リアスは目を細めた。

 彼の実力は知っている。それこそ、ライザーとのレーティングゲームで嫌という程見せつけられた。並大抵の相手ならば、それこそ鎧袖一触だろう。

 そんな男が、警戒している。それだけで、リアスはただ事ではないと理解させられた。

 

「……少し、考えさせて頂戴。直ぐにでも顔合わせをしなくちゃいけないのかしら?」

「いや、あっちも少し調査の時間を挟むって話です。そうっすね……球技大会が終わった辺りが妥当じゃないですか?」

 

 数日後に迫ったイベントを目安に、仁郎はそう提言する。

 落としどころとしては悪くないだろう。この間、()()()()()も想定済み。

 リアスとしては、自分一人では少々手に余る案件だ。

 

 三大勢力、或いは聖書陣営と称される彼らは、その名の通り三つの勢力から構成される。

 一つ目は、リアスたち悪魔陣営。冥界を拠点として、人間界にもある程度の力があり契約を持って繋がりを保ち、昨今ではレーティングゲームに用いる悪魔の駒による人数補充を積極的に行っている。これがまた、別の問題を起こしているのだが今は割愛。

 二つ目は、教会含めた天界陣営。聖なる遺物や光の力。悪魔とは対照的であり、同時に信心深さがそのまま苛烈さにも繋がっている面がある。

 三つ目は、堕天使陣営。堕落した天使たちであり、ある意味では上記二つの陣営に対して特効持つ種族の集まりでもある。因みに、神器の研究に関してはこの組織が頭一つ抜けていたり。

 

 過去に起きた大戦によって各陣営が大きく疲弊して、未だに建て直しには四苦八苦している状態。

 結果、大きな戦いは起きていない、が小競り合いはそこかしこで起こっている。歴史が長い分、遺恨の種はそこかしこに埋まっているのだ。

 

「――――月島君」

 

 ここにも、その種が一つ。

 ソファに座っていた仁郎は、首だけを声の方に傾ける。

 そこにいたのは、硬い表情の祐斗だ。

 

「ん?」

「その教会の戦士は、今どこに?」

「知ってどうする?」

「君には、関係のない事だよ」

 

 短く、鋭く。今の祐斗は、張りつめた風船の様だ。

 目を細め、仁郎はソファから立ち上がると、ソレを挟んで張りつめた彼と向き直った。

 

「…………今のお前は、ダメだ」

「問答をする気は無いんだ」

 

 言うなり、祐斗の手には魔剣が握られ、その切っ先が仁郎の首筋に突きつけられる。

 明らかに異常だ。少なくとも、常の祐斗らしくないのは確か。

 この光景を前に思考の海から引き戻されたリアスが止めようとする――――が、その前に仁郎が彼女へと掌を突きつけるようにして押し留めた。

 

「はぁ……()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 仁郎の右手が、魔剣の剣身を掴む。一応、刃そのものには触れないようにしているがそれはそれとしてヒヤリとする光景だ。

 同時に手に力が籠められ、魔剣はまるで飴細工のように砕け散る。

 あまりの光景に、リアスは目を見開き祐斗もまた硬直。

 

「もう一度聞くぞ。お前は、この刃で何を斬るんだ?」

「………僕にとって、エクスカリバーは仇なんだ。復讐の為に、生きてきた……!」

 

 砕けた魔剣を下し、血を吐くように祐斗は言葉を紡ぐ。

 彼は、復讐鬼(生き残り)だった。どれだけ表面を繕っても、その内側にはドロドロと黒い火が燻り続けている。

 祐斗の内心。その一端を垣間見て、仁郎は目を細めた。

 

「――――無理だな」

「ッ!」

「今のお前じゃ、犬死するだけだ」

「~~~~ッ!!!」

 

 怒りのままに、祐斗は仁郎へと掴みかかる。

 ソファ越しに、その胸倉を掴み上げた。

 

「君にいったい何が分かるんだ!?僕は、エクスカリバーを破壊する!その為だけに、生きてきたんだから!!!」

 

 言葉で殴りつける祐斗。そこには溢れんばかりの負の感情が乗っている。

 だが、

 

「ああ、知らない。自分は、お前が抱えてるモノは何一つ知らない」

 

 仁郎もまた引かない。真っすぐに、その目を見つめ返す。

 

「だったら――――!」

「けどな、」

 

 首が動く。胸ぐらを掴まれたまま、僅かに仁郎の体が仰け反った。

 僅かな溜を挟み、鉄槌が下る。

 

「ガッ!?」

 

 祐斗の視界に星が散った。手の力が緩んで胸ぐらを放すと、もんどりうって後ろへと転がり倒れる。

 頭突き。勿論、本気ではない。本気だったら、美丈夫の頭部はザクロ宜しく弾けて割れているのだから。

 倒れた祐斗を追って、仁郎はソファを乗り越えると目を白黒させて倒れる彼の胸ぐらを掴み上げて引き上げた。

 

「ダチを、同士を、死ぬと分かってる場所に放り込む訳ねぇだろうが!!!」

 

 声で殴るとはこういう事。そういわんばかりの怒声が、覇気と共に祐斗を盛大に殴りつける。

 固まった祐斗だが、仁郎の吐き出したい事は終わっていない。

 

「今のお前は、普通じゃねぇ!その頭に駆け上がった血を抜けッ!いつものお前なら、自分の頭突き程度簡単に躱せた筈だ!それすらできない最悪のコンディションで、悪魔に特攻のある聖剣に喧嘩を挑むって?馬鹿も休み休み言え。結果は明らかだ。復讐は果たせず、お前は死ぬ。お前が残された側なら、その時の先輩たちの気持ちも分かるだろうが……!」

「っ……」

 

 何も言えなかった。少なくとも、残された側である祐斗には、言える事は無い。物理的にも血が抜けたお陰か、張りつめていたものが僅かに抜けた気がした。

 言いたい事を吐き出して肩で息をしながら、仁郎は掴んでいた胸ぐらを放して立ち上がる。

 

「…………はぁっ……すみません、グレモリー先輩。ちょっと席外します」

「え、ええ……」

 

 頭を掻いて、部屋を出て行く仁郎。彼は彼で、吐き出し過ぎて少し頭を冷やす時間が必要だった。

 沈黙。リアスは席を立つと、近くの棚を開ける。

 取り出したのは救急箱。その足で、呆然としながらもとりあえず起き上がった祐斗の元へ。

 

「…………部長」

「少し触るわよ………ぱっくり切れてるわね。その上であの子は少し赤くなるだけって、どれだけ頑丈なのかしら」

 

 鼻筋を流れる血を拭って、リアスは呆れながら手際よく祐斗の額を綺麗にしていく。

 アーシアが戻ってくれば直ぐに治せるが、それはそれとして手当てをするに越した事は無い。

 血が拭われ、綺麗になった所でガーゼが宛がわれる。

 ここで、祐斗は随分と久しぶりに、リアスの事をまじまじと見た気がした。同時に、自分の視野が今の今までどれ程狭まっていたのかも理解する。

 

「…………すみません、でした」

「そうね。でも、それはお互い様よ。時間が解決すると、私も楽観視してたもの。きっと、ジローが咆えなかったなら、もっと悪い事になっていたわ」

 

 絶対に大丈夫、何て事はこの世に存在しない。裏の世界ならば、猶の事。

 もし仮に、コンディション最悪の祐斗が一人で、相性最悪の聖剣に挑んでいたら。これまた最悪の結果が待っていてもおかしくは無かった。

 吐き出す場が必要だった。同時に、張り倒してでも離れていく手を掴んで引き戻す誰かが必要だった。

 リアスの立場は、どちらかというと“家”だろうか。一度出たとしても、戻ってくるのなら再び温かく包み込む。

 だが、家は動けない。待つだけの場所では、救いの手は差し伸べられない。

 だからこそ、リアスもまた動き出さなければならない。

 

「祐斗。私は、ジローの持ってきた話を受けようと思うわ。蒼那とも少し相談しなくちゃいけないけど」

「……」

「貴方は、どうしたい?」

「僕は…………」

 

 直ぐには答えは出ない。昇っていた血が抜けたとはいえ、その心に燻る憎悪が消えたわけではないのだから。

 しかし、確かな変化は生まれていた。狭まっていた視界は広がって、そして同時にもう一度見つめ直すチャンスを得た。

 変化は小さく、だが劇的だ。

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