常住戦陣~月島流剣術推して参る~   作:トコヨノオウ

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第十九陣

 未熟だ。仁郎は、自身の行いをそう思い返す。だが同時に、周りからすれば彼の行動はベストアンサーではなくとも間違いではなかっただろう。

 昨日の今日で部室に顔を出す気にもならず、一誠に言伝を頼んで彼は放課後そのまま帰路に就く。

 だが、

 

「やあ、月島君」

「…………よお」

 

 今一番会いたくない相手に、校門で出待ちをされていた。

 自然、並んで帰るような形となる。

 

「部活は良いのか?」

「うん。今日は部長に休む連絡をさせてもらったよ」

「そうか」

 

 沈黙。気まずさが仁郎の口の中に広がってくる。

 一方で、祐斗は祐斗でちゃんと目的を持って彼を待っていた。

 

「月島君」

「ん?」

「昨日はごめんよ」

「…………謝るなら、自分の方だろう。一方的にまくし立て過ぎた」

「それだけ、僕も視野が狭かったことが分かったよ…………残される側の辛さや悔しさはよく分かってたつもりだったんだけど」

 

 苦笑いを浮かべる祐斗。その表情には、昨日までの険しさは感じられない。

 一晩だが時間を置いたおかげだろうか。悪くない変化だ。

 

「聖剣の憎しみは消えてない。でも、復讐を成し遂げるには、僕は余りにも無力だ」

「まあ……な。相性の問題もあるだろ?」

「フォローは、大丈夫だよ。僕自身、剣士としての腕前は君に大きく劣っている自覚はあるんだ。うん、それこそ超えるべき壁だとも思ってるよ」

「成程?……言っておくが、自分もまだまだ修行中の身だぞ?父さんにはまだ劣ってる」

「そうなのかい?」

「ああ。父さんは、自分よりも遥かに強い」

 

 仁郎の脳裏に残る父の姿は、圧倒的な強者だ。

 神器など持っておらず、魔力なども持ち合わせていなかったが、恵まれた体格と凄まじい剛力。更に技のキレを併せ持った正に一人の剣士としての完成形。

 晩年は、肺病を患って衰えていたものの、それでも最後は仁郎に己の全てを叩き込んで天寿を全うした。

 死者を神格化するのは珍しい話ではない。それを差し引いても、仁郎にとって父の存在は大きなものだった。

 

「…………」

 

 祐斗は祐斗で、仁郎よりも遥かに強いという父親の姿を想像すらできずにいた。

 とはいえ、今はそちらは重要ではない。

 

「月島君、僕らは剣士だ」

「そうだな」

「種族は違えども、それでも剣を握り戦場に立つ者だ」

「ああ」

「だからこそ、この迷いを断ち切れるのもまた剣だと思うんだ」

 

 前を見ながら、祐斗は言葉を紡ぐ。同時に、仁郎もまた理解する。

 

「少し離れているが、自分の家の側に父さんとの立ち合いでも使っていた空き地がある。そこに行くとしよう」

「願ったり叶ったりだね」

 

 どちらともなく歩調が速くなり、程なくして徒歩は駆け足へ。

 軽快な足取りで、夕暮れの町を行く二人。そのスピードは、歩行者が思わず二度見をしてしまう程だ。

 そんな周囲の困惑など知った事かと帰路を駆け抜けた二人。

 月島邸の母屋に荷物を預けて、制服の上着だけを脱ぐと向かったのは仁郎の案内する空き地。

 空き地と称したが、所有者は月島家となっている。その用途は、道場内では出来ない本気の乱取りの為の一種の闘技場。

 仁郎は気を通した木刀を。祐斗は両手にそれぞれ創り出した魔剣を。

 それぞれが得物を構え、向かい合う。

 一陣の風が吹き抜けて、そして両者は示し合わせた訳でもないのに、ほぼ同時に前へと飛び出した。

 

「!へぇ……!」

 

 仁郎が眉を上げる。

 交差した形で、祐斗の魔剣が振り下ろされた木刀を受け止めていたのだから。

 合宿の時とは違う。そして昨日の張りつめて、中身の伴わない張りぼてとも違う。

 『魔剣創造(ソード・バース)』は、確かにオリジナルの魔剣には及ばない代物でしかない。基本運用は数を用いて手数で圧倒するという物。

 

 だが、必ずしもそれだけが正解ではない

 

 そもそも、神器の運用に置いてテンプレートはあれどもそれが絶対的な使い方ではない。

 神器は魂に付随する力。持ち主の願いと想いを糧として、その可能性を大いに伸ばしていく。

 

「僕の魔剣は、オリジナルには劣る。でも、だからといって質を疎かにしていい理由にはならない!」

 

 両腕を左右に開くようにして魔剣を振るい、受け止めていた木刀を弾く。

 一から魔剣を創造すれば少なからず、消耗はある。そこに様々な属性を付与すれば更に消耗は増す。

 そこで祐斗は、この創造へと梃子を入れる事にした。

 強くなるために。

 

 三度。それが今、創り出した魔剣で仁郎の振るう気の強化を受けた木刀と打ち合える回数。

 勿論、絶対的な数字ではない。仁郎の力の入れ具合で上下する。それでも、平均的に三回は打ち合えていた。

 この打ち合える魔剣を頭の中に設計図としてインプット。砕かれた次の瞬間には、全く同じ魔剣をその手に握って振るっている。

 頭の中に設計図があるのなら、後はコピー&ペースト。創造にかかる時間を短縮し、且つ思考を別の事にも割く事が出来た。

 

(良いな……!)

 

 自然と笑みを浮かべながら、仁郎は木刀を振るう。

 三度が二度に。二度が一度に。セーブされていた仁郎の力が高揚と共に発揮されていくにつれ、祐斗の魔剣は砕かれ追い込まれていく。

 しかし、

 

「もっと、もっとだ。基本骨子を見直して、強度を上げる。魔剣の、剣としての精度を。今は属性じゃない。剣を、もっと……もっと鋭く、強く、堅牢に……!」

 

 集中状態の祐斗の精度もまた上がっていく。

 創り出される魔剣の見た目は変わらない。変わっているのは、その中身。

 切れ味、鋭さ、強度。只管に剣としての性質を高めながら、同時にその創造の速度も増していく。

 

「器用だな!!」

 

 仁郎が叫ぶ。

 彼の目の前では、目を見開いて一切瞬きする様子の無い祐斗が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 壊れて即創造するだけでは足りない。どれだけ突き詰めても、所詮は紛い物。

 ではどうするか。ここで初心に立ち返る。

 

 魔剣は、その強力な力を有しながら聖剣の様に持ち主に対して特殊な素質を求めない。持ち主が滅ぶ事も厭わずにその強大な力を振りかざす。

 だが、本質はそこではない。

 

「魔剣はね、()()()()()()()()()……!」

 

 僅かに余裕の戻った祐斗が言う。

 彼の言葉に反応してか、宙に浮かぶ魔剣の数振りが回転しながら仁郎を襲う。

 

 祐斗の『魔剣創造』は数多の魔剣を造り出すが、祐斗自身が肝心な部分を見落としていた。

 魔剣は、剣だが炎を吐き出し、冷気で凍てつかせ、風を放ち、雷を纏う。

 大きさも厚みも、その在り方は()()()()()()()()()()

 

 だから、持ち主の手を離れて空を飛び、敵を切り裂く魔剣があっても良い。

 だから、見えず気配も感じない魔剣があっても良い。

 

(厄介だ。面白い)

 

 十数人の剣士に囲まれたような状況で、仁郎は笑みを深める。

 彼は、縦横無尽に飛び回り、剰え透明で気配も追えないような魔剣を相手に小さな傷も負っていない。

 視力で追っているのではない。もっと別。剣士として培われた第六感。

 弾く、叩き落す、へし折る、砕く。

 幾つもの火花が散り、合間合間に飛び込んでくる祐斗も捌く。

 

(やっぱり、彼は強い!!!)

 

 ライザーとはまた違う、剣士としての領域。

 強者という観点では似ていても、元から持つ強さと練り上げられた強さというのは質が異なる。

 同時に、祐斗自身も限界が近い。

 飛び回っていた最後の一本が砕かれ、彼は距離を取る。

 

「ッ、はぁっ……!うっ、っく……」

「辛そうだな」

「ははは……そう、だね。僕の中にあった机上の空論を、ぶっつけ本番で形にしたから、かな……っ、はぁ……次の交差が、限界だと思うよ」

「分かった――――全力で来い」

 

 木刀を正眼に構えた仁郎。

 荒れる息を無理矢理に押さえて、祐斗は前へと駆け出した。

 

魔剣創造(ソード・バース)剣閃輪舞曲(ブレード・シージ)……!!」

 

 荒れ狂う魔剣の群れを従えて、若き剣士は駆け抜ける。

 

「月島流――――」

 

 迫る祐斗を前に、仁郎は木刀を持ち上げた。

 

「――――富嶽鉄槌割りッ!!!」

 

 幕引きの一刀が振り下ろされる。

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