常住戦陣~月島流剣術推して参る~ 作:トコヨノオウ
「――――はい。これで完治しましたよ」
「ありがとう、アーシアさん」
「悪いな、アルジェント。急に来てもらって」
「いいえ。寧ろ、私はこういう事でしか役に立てませんから」
そう言って微笑むアーシア。仁郎と祐斗は、顔を見合わせた。
ド派手な手合わせを行っていた二人。今回の勝者は、まだまだ底を見せていない仁郎だった。
最後の衝突の瞬間に放たれた富嶽鉄槌割りは、祐斗のすれすれの位置を陥没させて突出していた魔剣を叩き壊して、残りを吹き飛ばす威力があった。
元より限界だった祐斗。余波で吹き飛び、小さくない怪我を負って昏倒。
幸いだったのは、怪我によるダメージ超過ではなくただの疲労による気絶だった点。三十分と掛からずに目を覚まして、気だるい感じは残っていたが、それでも祐斗の表情は晴れやかだった。
何せ、彼は新たなる戦い方の道を見つけ、オマケに合宿の時には使わせる事の出来なかった月島流剣術の技の一つを使わせる事に成功したのだから。
それから、怪我をそのままにするわけにはいかないため、リアスから渡されていた悪魔のチラシを使ってアーシアを召喚。祐斗の怪我を治療していた。
「なあ、アルジェント」
ちょうど良いだろう、と仁郎はとある問いをアーシアへと向ける。
「何でしょうか?」
「お前も先輩から聞いたか?この町に、教会の人間が来てる。そいつらと共同戦線を自分が結ばせようとしてるのを」
その問いは、今回の方針の根幹に関わるもの。
アーシア・アルジェントは、元とは言え聖女だった。持て囃され、持ち上げられ、ある時を境に放り出されて今に至る。
彼女の性格を知る仁郎だが、それはそれとして教会側に思う所はあるだろう、と考える。それこそ、祐斗の様に恨み骨髄に徹す、といった状態でもおかしくはない。
だが、
「はい。私は良いと思いますよ」
彼女は静かに肯定する。両手を胸の前で組んで、僅かに微笑むその様子は成程、聖女そのもの。
「ありがとうございます、ジローさん。私の事を心配していただいて」
「……まあ、な」
「ですが、私は大丈夫です。皆さんと居られる今が十分に幸せですし……何より、後悔はありませんから」
これだ。これこそが、アーシアを聖女足らしめるもの。
種族を問わない分け隔て無い優しさこそが彼女の本質。
『
ただし、神器の特性がそうであるだけで、癒すかどうかは当人次第。そして、アーシアは全てに救いの手を差し伸べた。
もし仮に彼女が神器を持っていなかったとしても、それでもその持ち前の優しさで聖女と呼ばれていた事だろう。
だからこそ、グレモリー眷属は大なり小なり教会の掌返しには思う所がある。そしてそれは、仁郎にも適用される。
懸念していたが、少なくとも表向きは問題は無さそうだ。仁郎は内心で小さく胸をなでおろしていた。
同じく話を聞いていた祐斗は、会話が途切れた所で立ち上がった。
「それじゃあ、僕はそろそろお暇しようかな」
「なんだ、帰るのか?」
「明日も学校だからね。ただ、今後は僕の鍛錬に
「!ああ、良いぞ。お前とやるのは面白いからな。何時でも来いよ、
握手を交わす。
まだまだ実力差はある。だが、差があるという事は伸びしろがあるという事。
そして、時計の針は進む。
*
教会の戦士との会談。それは、駒王学園はオカルト研究部の部室にて行う事になった。
中継ぎ役として、仁郎が両者の間に座る事になりスタート。
互いの自己紹介を済ませて、本題へ。
「ここからは
「そうもいかないわね。相手は堕天使幹部なんでしょう?聖剣の奪還を掠め取るような真似は出来ないと思うけど?」
「無論、障害は切り捨てて進むつもりだ」
「といっても堕天使幹部は、難しいのよね」
「いざとなれば、アレを使えば良いだろう?」
「使うのに、許可が要るじゃない」
溝は深い。
そもそも、悪魔と教会は不俱戴天の間柄。どうしたって歩み寄るには相応のキッカケが必要になる。
平行線をたどりそうな状況で、不意にゼノヴィアの視線がある人物を捉える。
「む、“魔女”のアーシア・アルジェントか?」
「あ、ここに居たんだ。こんばんは、“魔女”さん」
チリッ、と空気が固くなる。
「まさか悪魔になっていたとは、な。癒しの力を与えられながら、ソレを悪魔に使い裏切った魔女。ふむ、裏切者ならば、当然の帰結か」
「心配しなくても大丈夫よ?貴女が悪魔になってる事は、上には報告しないから。聖女って慕っていた人たちも、傷つくと思うし」
二人の言葉は、そのままアーシア・アルジェントの教会での扱いを表している。この点に関しては、宗教の排他的な部分が大きいだろう。
先程までの大事へと当たる為の話し合いから、もっと別の問題が鎌首を擡げてくる。
「しかし、何故君は今も信仰心を持ち続けているんだ?」
「え……」
「私は、そういう事に敏感でね。君の信仰心は、見れば分かる。だからこそ、疑問だ。何故、信仰心を持ち続けられる?主を裏切った君が」
「わ、私は裏切ってなんて――――」
「いや、御託は結構だ…………うむ、そうだな。これは、一つの提案だが――――ッ」
ゼノヴィアが言い切る前に、張りつめた部室の空気に響くのは一つの柏手。
音の出所は、ジッと事の成り行きを見守っていた仁郎だった。
椅子に座って僅かに前へと上体を倒した彼は、ゼノヴィアへと視線を向ける。
「今、アルジェントの現状は関係ないだろう?違うか、ゼノヴィア」
「そうだな。だが、教会の戦士として――――」
「何より、信教は自由だ。どこの誰が、どんな宗教を信仰していたとしてもそれを周りの人間がとやかく言う権利はない」
「だが――――」
「何より、アルジェントの神器は別に人専用じゃないだろ?寧ろ、種族問わずに手を差し伸べるアルジェントを褒めこそすれ、とやかく文句を言うのは違うんじゃないか?」
一誠の『
当然、アーシアの『
グレモリー眷属は機先を制され、ゼノヴィア達も食事の世話を受けた手前強く出られない。
自然と空白が出来、仁郎はそこを突いた。
「さて、グレモリー先輩としては管理してる町でドンパチやられるのは困る。そして、ゼノヴィア達は聖剣を取り戻したい。利害自体は一致してるんじゃないか?」
「それは……うん」
教会側の考える担当のイリナは、頷く。
仁郎は、リアスにも視線を送る。
「ええ、そうね。聖書にも記された堕天使幹部が相手なら、貴方達の隠し玉もどれだけ意味があるかも分からないでしょう?」
アーシアを馬鹿にされて殺気立ちそうになったリアスだったが、どうにか持ち直して静かな言葉を紡ぐ。
堕天使幹部。それも、戦闘を得意とする者ならば、その実力は最上級悪魔にすら届きうるだろう。
上級と最上級の間には、易々とは超えられない壁が存在する。これは、生まれで成る事も可能な上級悪魔と、純粋な実力で至る最上級悪魔を隔てる逆マリアナ海溝。
如何に聖剣が魔を有する者への特効を持ち、且つ通常の剣とは比べ物にならない代物であろうとも、
イリナは同意したも同然。あと残るのは、ゼノヴィアだ。
その目はジッとアーシアを見つめ、やがて逸らされる。
「………轡を並べるというのなら、実力を示してほしい。弱者を庇い立てする気は無いからな」
中々の傲慢発言。だが、要求として見るのなら何も間違ってはいないだろう。
問題は、誰が相手をするのか。
「部長、僕に行かせてください」
「祐斗……」
立候補するのは、復讐を誓う剣士。だが、ここ数日で彼の雰囲気は劇的に変化していた。
背負ったものを下した訳では無い。憎悪を、怨嗟を、忘れた訳ではない。
ただ、明るくなった。同時に研ぎ澄まされた名剣のような雰囲気が見え隠れしている。
その変化のキッカケを与えてくれたであろう少年へと一瞬視線を送ってから、リアスは頷く。
「分かったわ。貴方に任せる。力を示しなさい」
「ええ、勿論。そちらも良いかな?」
「……ああ」
聖剣と魔剣が交差する。