常住戦陣~月島流剣術推して参る~ 作:トコヨノオウ
旧校舎周りの森の中。相対するのは、二人の剣士。
「『
「それは、やってみなくちゃ分からないさ」
意識して笑みを浮かべながら、木場祐斗は両手に魔剣を出現させて一つ息を吐き出した。
胸の奥をチリチリと焦がす黒い炎が、聖剣を視認した瞬間にまるで油を掛けられたかのように燃え出したからだ。
だが同時に、研ぎ澄ました理性がこの黒い炎へと蓋をかぶせる。
あの日、月島仁郎と真っ向からぶつかり合ったあの時から今日までの数日、祐斗は只管に剣を振るい挑み続けていた。
因みに、彼が教会組と出会わなかったのは二人が町を見回った後の深夜にしかやって来なかったから。
挑んで、挑んで、挑んで、挑み続けて。同時に、一振り一振りが洗練されていくのを実感した。
「二人とも、準備は良いかしら?それじゃあ――――始め!!」
リアスの合図と共に、両者駆け出す。
「ッ!」(速い!)
ゼノヴィアが目を剥いた。
祐斗の強みは、再三再四となるが速度と手数の多さ。典型的なテクニックタイプだ。アーシアを除いてパワーよりのグレモリー眷属の中では異質。
最早消えているともいえる速度で、祐斗の姿は影となる。
駆けていた足を止めて、ゼノヴィアは周囲へと視線を走らせた。
彼女は、パワー型だ。追いかけっこをすれば、祐斗に軍配が上がる。であるのなら、待ちの姿勢からのカウンター戦法を取るのは当然の帰結。
「…………そこだ!!」
振り下ろされる聖剣。外れてしまうが、その一撃は容易く地面を粉砕してクレーターを刻む。
尤も、グレモリー眷属側には驚きは無いが。
「『破壊の聖剣』は七本のエクスカリバーの中でも最も破壊力のある剣よ。振り回すには、相応の力が必要だけどね」
「へぇ……そういや、イリナもエクスカリバーを持ってるのか?」
「ええ、そうよ。『
「え?いや、驚いてはいるけど………」
イリナの問いに、一誠が見るのは腕を組んで事の成り行きを見つめる仁郎だ。
『破壊の聖剣』は凄いが、ソレを自力で出来る侍が彼らの身内には居る。寧ろ、破壊力含めたあらゆる面でゼノヴィアは現状劣っている事だろう。
破壊痕を確認して、しかし祐斗は揺らがない。
「ハッ!」
寧ろ、舞い上がった土煙を目晦ましにゼノヴィアへと襲い掛かる。
剣が合わさり、拮抗。
だが、
「ふんっ!」
相性の問題がある。
仁郎の木刀は、気で強化しても結局はただの木刀だ。例え、紛い物でも魔剣を砕いたとしても聖なる力などは持たない棒っ切れ。
一方で、折れたとはいえ『破壊の聖剣』は伝説の聖剣だ。内包した聖なる力は元の七分の一程度でも贋作の魔剣に打ち勝つ程度は造作もない。
ただし、今の祐斗は一々魔剣が砕かれた程度で動きを止める事は無い。
「ッ!」(この男……!止まらない……!)
「まだまだ行くよ!」
打ち合わせる度に、一方的に魔剣は砕かれている。だが、砕けた次の瞬間には祐斗の手には新たな魔剣が握られていた。
創造の速度が半端ではない。事実、武器の性能で勝るゼノヴィアは防戦一方。攻めに転じようとしても、相手の攻撃が激しい以上どうにもならない。
「決まったな」
ポツリと仁郎が呟く。
彼の目で見れば、現状は祐斗に分がある。ゼノヴィアが悪い訳ではなく、単純な相性差だ。
得物こそ利があれども、どういう訳か
速度と手数で押し込まれ、その最中に意識の逸れた足元への足払いの奇襲が行われ、バランスを崩したゼノヴィアの首筋へと魔剣の切っ先が添えられる。
「くっ……」
「僕の勝ちだね」
勝敗は決した。無論、コレは殺し合いではない。どちらも余力を残した状態だ。
それでも、決着は決着。祐斗は剣を消して、ゼノヴィアは剣を下した。
祐斗の目は、その下ろされた剣へと向けられている。そして当然ながら、じっと見つめられればゼノヴィアもその視線に気が付く。
「なんだ?聖剣が気になるのか?」
「気になる……そうだね。僕は、聖剣に恨みがあるから、かな」
語る気は無い。言葉を切って、祐斗はこの勝負を観戦していた者たちの方へと足を向けた。
落ち着いているように見えても、彼の内心は複雑だった。
(やっぱり、相性が悪いね。魔剣の、それも通常の物の劣化品ともなれば、どうしたって力不足が目立つ……ジロー君なら力任せに破壊できそうだ)
自身の力不足を反省しながら、そんな事を考えられるようになったのは余裕を持てるようになったからか。
かくして、異例の悪魔と教会の共同戦線が張られる事になる。
大波が、目前にまで迫っていた。
*
共同戦線が張られ、数日。数人のグループとして夜の駒王町を見回る。
そんな状況で、仁郎は一人帰路についていた。
戦力として見るなら彼はこれ以上ないが、だからこそ万全な状態で待機をしてほしい、というのがリアスたちの言い分。
一応、数日の徹夜で体調を崩す程脆い体はしていないのだが、悪魔とは違って夜間の行動は眠気がある。ゼノヴィア達と違って日中は学校もある事を考えれば消耗を抑える必要があった。
仁郎としては同行しても良いと思っていたのだが、今回は素直に厚意に甘える事にした。
ここ数日は祐斗が共に居た為に、完全に一人は久しぶり。
「…………ん?」
その足が、唐突に止まる。
変化を感じたからだ。まるで、
果たして、彼の前に元凶が現れた。
「――――漸く会えたな、月島仁郎」
中華風の衣装を身に纏った、青年。
スッと仁郎の目は細まった。
(強いな)
目の前の相手の力量が凄まじい。直観的に、仁郎はそう感じとった。
何と言うべきか、身に纏う雰囲気と発する自信の高さが強者のソレだったのだ。この辺りは、仁郎の感覚に因る所が大きい。
とはいえ、相手には敵意が今のところない。警戒を解く訳にはいかないが、それはそれとして戦闘の姿勢を仁郎から取る訳にはいかなかった。
「自分を知っているのか?」
「勿論。俺は、君のファンだからね」
「ファン?」
「人の身で、そして神器も真面に機能しない状態でも人外を相手取れる実力。洗練された剣術の数々。武を身に付けたものとして、惚れ惚れする」
「…………そういうお前も、かなりの使い手に見えるが?」
「フッ……光栄だな。名乗らせてもらおう。俺の名は、曹操。今日この場を作ったのは他でもない、君へのスカウトの為さ」
「スカウトだと?」
「ああ、そうだ。俺は、人の身で何処まで行けるのかを知りたい。その為に、人外へと挑み打破する事を目指している」
「…………」
「月島仁郎。君は英雄と呼ばれるだけの素質がある。一緒に来ないか?」
過去の英雄の名を背負う男、曹操は真っすぐにそう告げた。
彼が月島仁郎に目を付けたのは、神器が発現してから――――
曹操が、
とある親子の、
圧倒された。神器も特別な装備も無しに、人間とはこうも高みへと至れるのか、と感心させられ同時に畏怖も抱いた。
直ぐにスカウトに動かなかったのは、仁郎の実力がまだまだ発展途上で伸びる余地が曹操からも分からなかったから。
結果として、不完全とはいえ仁郎は神器を発動させた。加えて、不完全という事は完全顕現ともなればその力は更に大きく飛躍するという事でもある。
「…………はぁ」
仁郎は頭を掻いた。
警戒は解けないが、その一方で若干の呆れもある。
そもそも、
「自分は、英雄とかそういう物は興味がない」
これに尽きる。
最初から、勧誘が成功する可能性など無かったのだ。曹操の目が細められる。
「……そうか。残念ではあるが、仕方がない」
「割と簡単に引き下がるな」
「俺はあくまでもスカウトとしてこの場に来てるんでね。何より、一度で諦めるつもりはないさ」
曹操という英雄は、武勇よりもその政治的手腕と人材発掘に優れた面が目立つ。
要は、人材マニアなのだ。これは、子孫という血筋の問題が大きいだろう。
不敵な笑みと共に曹操の姿が消えて、仁郎自身も霧に巻かれている様な感覚から解放された。
この邂逅が意味を持つのは、もう少し先の話。
目先の問題が風雲急を告げていた。